【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第24局 星天対回恢 

 

 

「回恢が勝てば福々堂は500両を支払う。星天が勝てば六財商の会は二度と福々堂に棋礼戦を仕掛けず、また肉まんの品質に対して疑いを持ったことを謝罪する。それで両者問題はありませんね」

 

「ねえな」

 

「ないよ」

 

「福々堂の主人も星天が代打ちとなることに問題はありませんか?」

 

「私が打つよりも、本戦の出場者だというお嬢さんの方が勝ち目があるでしょう。何も問題ありません。受けていただきありがとうございます」

 

ペコリと福々堂の主人が私に向けて頭を下げる。こちらこそ貴重な機会をありがとう。おかげで六財商の会と戦うことができるよ。

 

『それでは始めて下さい』と怕蓮がいうのでニギって勝負を始める。隣には砂時計を持った白棋士の人がついた。今回も時間制限はあるらしい。

 

「はぁ、マジでわかんねえ。財全様を敵に回すなんて何考えてるんだよ。序列1と2位は1人ずつしかいない、つまり序列3位ってことはこの国で3番目に強いってことなんだぜ?」

 

「めっちゃ凄い」

 

「だろ?」

 

「なおさら戦いたいね」

 

「なんでだよ。財全様は強いし金稼ぐのも上手いし敵に回すなんて馬鹿のすることだぜ。奎宿藩なんて田舎者にはわかんねえのかもしれねえけどよぉ」

 

ブツブツいいながら回恢が右上下の小目に打つ。私は星に打つ。

 

回恢の5手目は小目にしまりか。黒地を確定させた地に辛い打ち方だ。

 

右下の小目にかかる。下から付けられて隅の地を黒地にした。どうやら回恢は固く自分の地を稼いでいく棋風のようだ。

 

それなら左辺は白地にしよう、と白模様を作った瞬間打ち込んできた。どうやらすんなりとはいかせてくれないらしい。

 

「左上辺と下辺は俺の地だが、右辺はお前の物じゃないんだよ。弱いと奪われるのは人生も碁も同じなんだぜ?」

 

左辺に入り込んだ黒が白地を荒らしていく。自分の地を作った上で相手の地を削る。なるほど、回恢は地に拘る棋風なのだろう。

 

私が白模様を作る度に回恢が打ち込んで白地を消しにくる。黒には明確に右上下に地があるのに白にはこれといった陣地はない。単純な目数だけでいえば負けている計算になる。

 

「へっ、弱いくせに歯向かうからこうなるんだよ。この店だってそうさ。ちっせえただの飲茶店が財全様の申し出を断るからこんな目に遭うんだ。弱い奴は強者に媚びろ。そうでなきゃ潰されるんだよ」

 

回恢が肉まん屋の主人に向かって吠える。主人は俯いて『た、確かに。こんなことになるくらいなら』と小さな声で呟いた。

 

うーん、その考えには同意も反対もないかな。福々堂の主人が六財商の会に入ってみかじめ料を払おうが懸命に抗おうが、どちらにも良いことはあっただろうし悪いこともある。だから重要なことはどちらを選んだかじゃない。

 

大事なことは真剣であることだ。生きるために六財商の会に入るも断るもそれが肉まん屋の主人が考えに考え抜いて選んだことなら良かったと思うよ。人生はいつ終わるかわからないものなのだから後悔は残さない方がいい。一生懸命生きようよ。

 

私も覚悟を持って生きるから。

 

「お前もそうだぜ?啖呵きって挑んできた癖に全然弱いじゃねえか。盤上にお前の地はろくにねえ。お前みたいなのが選定に通るなんて奎宿藩には強い棋士いねえんだな」

 

「でも、今弱いのは回恢だよ」

 

「はあ!?俺の何処が弱いんだ!負けてるのはお前だろ!!」

 

ダンッと膝を叩いて威圧的に回恢がいう。単純な地の広さなら回恢の方が勝っていると言えるだろう。

 

だけど盤上には白模様に入り込んだ目のない黒が点々とある。それは全て命のない弱い石だ。

 

「弱い黒石が多いよねってことだよ」

 

「はぁ?何処が弱いんだよ。別に死ぬわけでもないしこれくらい普通だろ」

 

イラついたように回恢がいう。えー、そうかな。弱いと思うけど。

 

まあ今からそれを証明すればいいだけか。

 

黒の目を奪う。煽る。追い詰める。

 

黒も必死で逃げようとするが逃げた先にいるのも弱い黒石だ。両方の石を攻められ黒の息が切れていく。

 

白の地に侵入していた黒は次々と死に絶え白の領土の一部となっていった。黒石が入り込んだ分だけ白地が増えて得したね。いえーい。

 

「っ、嘘だろ。あそこから俺の石が全部死ぬなんて」

 

「言った通り弱かったでしょ」

 

強い人と戦うのを避けてきたから殴り合いになれてなかったのかな。こっちの地をゴリゴリ削りにいく姿勢は良かったと思うから次は戦いに強くなっておいてね。

 

「負けました」

 

「ありがとうございました」

 

投了した瞬間、回恢が勢いよく立ち上がる。ギリリと歯を食いしばり悔しさの滲んだ表情だ。

 

「くっ、福々亭の主人に謝罪する。そちらに落ち度はなかった。だが、これで終わりじゃねえぞ星天!この借りは必ず本戦で返すからな!!!!」

 

そう吠えると勢いよく回恢は出て行った。ジッとそれを見届けると怕蓮が話し出す。

 

「回恢も認めたことですし、棋礼戦は星天の勝利ですね。このことは記録に残しますので六財商の会が福々堂に棋礼戦を仕掛けることはありませんよ」

 

「あ、ありがとうございます!星天様、本当にありがとうございます」

 

福々堂の主人が涙を流しながら感極まった様子で頭を下げる。店が助かってよかったね。ということは西都一おいしい肉まん食べられるのかな?

 

「それにしても本当に六財商の会を敵に回して良かったのですか?」

 

「まずかったのですか?」

 

「財全は蛇のように執念深い男というので有名です。貴方のことは勿論、貴方の出身の奎宿藩にも恨みを持つかもしれません。下手すれば藩にも影響が及ぶかもしれませんね」

 

「周軒、まずかった?」

 

怕蓮の話を聞いて周軒に話しかける。これはやってしまったかもしれない。私は好きなように生きるけど周軒に迷惑をかけるのは本意ではない。衣食住全部面倒見てもらってるのに恩を仇で返すのはよくないよ。

 

「藩主の息子として答えるならよくはないな。藩として強い白棋士をあまり敵に回したくはない」

 

「あちゃー」

 

「だがな、星天。これは怕蓮殿がいる前であまりいうことではないかもしれないが、実は私は君がこの世界で一番強いんじゃないかと思っているんだよ」

 

周軒が柔らかな笑みを浮かべ驚くことをいう。え、私がこの世界で一番強い?勿論誰にも負けるつもりはなかったけど周軒にそう思われていたことを意外に思う。

 

「そうなの?」

 

「前に君の中に白虎神がいるのを見たといっただろ?あれは比喩でもなんでもない。私は君が神様に見えたんだよ。だからいいさ、星天。好きに打ってくれ。君は私にとって神様なんだ。君が碁に全てを打ち込めるように私も全力を尽くす」

 

『残句に負けていたら奎宿藩は終わっていたのだから藩だって文句はないさ』と周軒がいう。

 

いつも私が真剣に碁を打てるように周軒が場を整えてくれるなーと思っていたけど神様と思われていたのには驚いた。神様?私って神様なの?白虎神っていうのもよくわからないな。

 

でも碁の神様って言われるくらい強くはなりたいって思うよ。

 

 

 

 

 

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