【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第27局 団体戦

 

 

「六財商の会と戦うには何処に行ったらいいんだろ」

 

朝。起きて顔洗ってご飯を食べる。お粥に瓜の漬物をパリパリ食べる。鳴良が『この漬物、しょっぱいね』と生気のない顔色で食べているけどそうかな?ちょうどいい漬かり加減だと思うけど。

 

さて、それで今日は六財商の会と戦っていきたいと思うのだけど、何処に行ったらいいのだろう?福々堂が他の棋礼戦の情報持ってきてくれるのを待つ?それとも都を適当に散策して財の文字を掲げている店に適当に勝負吹っ掛ける?でもお店もみかじめ料払わされているだけの店なら意味ないよね。どうしよう。

 

「財の文字を掲げている碁会所を探すのはどうだ?六財商の会の白棋士がいる可能性は高いだろう」

 

「それいいね」

 

悩んでいると周軒が知恵を出してきた。財の文字を掲げている碁会所を探すのはとてもいいアイディアだと思う。六財商の会の息がかかっているわけなんだから、狙い通り六財商の会と戦えるだろう。素晴らしい、今すぐ探しにいこう。

 

というわけで、周軒と鳴良と通りを歩く。さほど時間を置かず目的の場所は見つかった。

 

柑石(かんせき)教室と看板の出されたその店には“碁”と“財”の文字が布に書かれ旗めいていた。間違いなく六財商の会の息がかかった碁会所だろう。結構大きい建物だしこれは期待が待てる。よし、道場破りは『たのもう』だったね。

 

「たのもー」

 

柑斗(かんと)、よくも姉さんのいる製布店に棋礼戦を仕掛けてくれたな!来柯を困らせる奴は僕が許さない!」

 

たのもうと言ってドアを開けたのに中にいたもっと声の大きい人に掻き消される。先客がいたようだ。

 

というか今叫んだ人は知っているぞ。こっちに背中を向けているけど声と後ろ姿で間違い無いと思う。来生だ。

 

「来生だよね?」

 

「来生だな。何をしているのだ?」

 

周軒に確認してみたけどやっぱり来生で間違いないなさそうだ。こんなところで会うなんてすごい偶然だね。

 

「へー、くるんだ来生。お前の姉ちゃんの婚家と棋礼戦したことがそんなに不満だったのか?」

 

「お前の伯父は畢宿(ひっしゅく)藩の役人らしいな。畢宿(ひっしゅく)藩から仕入れた生糸が違法で入手した可能性があると関所で止められた。正規の手続きで調べを行えばひと月はかかってしまうがそれだと得意先の納品に間に合わない。早急に解決するためには棋礼戦をするしかなかったという話を姉から聞いた」

 

ギリギリと来生が拳を握りしめる。表情はわからないがその背中から来生が怒っていることが伝わってくる。

 

「しかもお前は僕が立会人で都を離れている時に棋礼戦を仕掛けてきた。僕が盛家側の棋士として出れないようにする為だ。卑劣な、そうまでして勝ちたいのか」

 

「おいおい、証拠もなく人を疑うのは良くないぜ?そんなのただの偶然さ。たまたまお前がいない時に生糸が届かなくなって、棋礼戦が始まっただけだよ。こんなことはよくあることさ」

 

長い黒髪を三つ編みに纏め金糸で止めている男が頬杖をつきながら返答する。この人が来生に柑斗と呼ばれていた人だろう。後ろには幾人かが直立不動で控えてたからたぶん偉い人なんじゃないかな?

 

「よくあることだと?最近お前達、六財商の会がきな臭いことをしている噂は聞いている。そのことについてどうこう言うつもりはなかったが、お前達は姉さんの婚家にまで手を出してきた。それに関しては絶対に許さない」

 

「へー、許さないね。じゃあどうするんだ?」

 

「仇を取る」

 

空気がピリピリする。来生の身体から闘気が立ち上り来生の怒りが伝わってくる。

 

話を聞いているに六財商の会が来生のお姉さんの嫁ぎ先に陰謀を仕掛けたらしい。姉さんの嫁ぎ先は布屋さんで、その材料の生糸を取り寄せたけど不当な感じに役人に没収されてしまったと。すぐに取り戻す為には棋礼戦で白黒つけるしかないけど、それが白棋士の来生がいない時に行われたと。なるほど、六財商の会ってずるいね。

 

「仇を取る、ね」

 

三つ編みの男が口元に笑みを浮かべる。そして。

 

「いや、負けたの俺だけど!?お前の姉ちゃんにボコボコにされたんだけど!?来生がきた時に備えて序列七位の俺が行ったっていうのに女に負けるとかどういうこと?おかげで俺の立場ないんだけど?なんで女で囲碁が強いんだよ!お前の姉ちゃん何者だよ!」

 

「姉さんは僕より強いよ」

 

「お前より強いのかよ!え、白棋士になってから序列戦全勝しているお前より強いの?マジでお前の姉ちゃんやばいじゃん」

 

柑斗が怒涛の勢いで話す。来生のお姉さんが酷い目に遭わされた話かと思ったら逆に返り討ちにしたらしい。序列七位らしい柑斗に勝つなんて来生のお姉さん強いんだね。

 

「そもそも何の用で来たんだよ。棋礼戦でそっちが勝ったんだから生糸は返したし盛家には二度と手を出せない。もう俺に用はなくね?」

 

「来柯に迷惑をかけたことが許せないからお前をボコボコにしにきた」

 

「俺の死体蹴りしにきたのかよ。まあいいや。俺もむしゃくしゃしていたところだ。相手になってやるさ」

 

身体を起こし三つ編みの男がニヤッと笑う。話は纏まったようだ。今から来生と三つ編みの男の一戦が始まるのだろう。でもちょっと待って欲しい。

 

私も混ぜてよ。

 

「私も打ちたい」

 

2人の間にひょこっと割って入る。先に反応したのは来生だった。

 

「星天じゃないか。何故ここにいる?」

 

「六財商の会の人と戦いたくて」

 

「星天?ひょっとして、福々堂の棋礼戦をした奴か?」

 

私の名前に柑斗が反応する。福々堂の棋礼戦で回恢と戦ったのは私だね。

 

「そうだよ」

 

「奎宿藩の本戦出場予定のガキが六財商の会に舐めた態度を取ったから何がなんでも白棋士になるのを阻止しろっていう回覧が回ってきたが、ははっ、こりゃついているな。お前の本戦出場を阻止したら俺の信用もちっとは回復するだろう。おい、星天。お前の本戦出場権を賭けて棋礼戦をしようぜ」

 

「喜んで」

 

私も棋礼戦をさせてもらえそうだ。やったね。こういう勝負を待っていたんだよ。

 

「おい待て柑斗。それだと僕との戦いはどうなる」

 

「焦んなよ来生。今から立ち合いの白棋士を呼ばせに行く。それまでに勝負の方法と条件を決めようじゃねえか。そっちで打つ奴は来生と星天だけか?」

 

「鳴良もいるよ」

 

「3人か。なら団体戦にしようぜ。四神戦でも毎年選ばれる伝統的な競技なんだから問題はないだろう?難しい話じゃねえ、3人戦って2勝した側が勝ちってだけだ。ようは勝敗を個ではなく3人の合計で考える。自分が負けてても他の2人が勝ってたら勝ちってことだ」

 

柑斗が面白い提案をしてきた。ただ普通に戦うのではなく団体戦をしようと。やったことはないけどつまりはチーム戦だ。来生、私、鳴良の中の3人の中で2人以上勝てば勝ちということだ。

 

うん、すごく楽しそうだ。

 

これまで私はひとりで戦ったことしかなかった。源じいちゃん達は私に碁を教えてくれたけどすぐにいなくなってしまったし、碁を打つ時はいつもひとりで画面の前に座っていた。

 

それをどうこう思ったことはなかった。囲碁は自分と対戦相手の2人だけで行う競技で、戦う時が1人であることは当たり前のことだ。だけど鳴良と2人で通った禍旋亭はいつもより楽しかった。来生と鳴良と肩を並べられるというだけで胸があったかくなる。仲間というのはいるだけで心強いんだ。

 

いいね、団体戦。とても楽しそう。

 

「私は良いよ」

 

「僕も構わない」

 

「え、今さらりと俺の名前が出てきたよね?俺も面子に入ってるの?」

 

鳴良の顔がサッと青ざめたけど勿論メンバーのひとりだよ。そんなに心配しなくとも鳴良だけ仲間外れになんてしないよ。

 

「こっちの面子はこいつらだ。牛正と庄作、2人とも序列10位の白棋士だぜ」

 

柑斗が後ろへちょいちょいと合図すると2人の男が前に出てきた。太っている男と痩せている男で対照的だ。

 

柑斗側のチームは全員白棋士らしい。これは戦いがいがあって腕が鳴るね。

 

「条件を決めよう。こっちの要求は負けたら星天は本戦を辞退しろだ。そっちは何か欲しい物はあるか?」

 

「僕は柑斗と戦えればそれでいい。星天は何かあるか?」

 

「私は真剣勝負をしたい」

 

白棋士の3人と心の底から沸き立つような、気力を一滴を絞り切るようなそんな勝負がしたいな。

 

「それなら白神石を賭ければいい。白棋士にとって序列が決まる白神石ほど価値のある物はないからな」

 

「それはいい考えだね」

 

ゴソゴソと首からぶら下げていた袋を引っ張り出して机の上に置く。来生に勝った時に手に入れた白神石9個がここに入っている。

 

「じゃあ白神石を賭けて勝負しよう」

 

「白棋士でないお前が白神石を持ってんのかよ?」

 

「来生に勝った時にもらった」

 

「はぁ!?お前も来生に勝ったのかよ。最近の女どもはどうなってやがるんだ」

 

柑斗が頭を抱えている。女性陣が囲碁を打ち始めたら囲碁人口が単純に2倍になるからいいことじゃない?私は女の子が囲碁を打つことに賛成です。

 

「じゃあ9個の白神石を賭けるね」

 

「僕も手持ち3個の白神石全て賭けよう」

 

「待て待て待て。序列戦で動く白神石なんて1個か2個だろ?なんで序列がひとつ上がる程の白神石賭けてるんだよ。そんなあり得ない数の白神石賭けて戦うなんて聞いたことねえよ」

 

手持ちの白神石全賭けしたら柑斗がめっちゃ動揺した様子で止めにくる。全賭けするのは普通のことではないらしい。えー、いいじゃん。後がない感じがしてすごくやる気になれるのに。

 

「棋礼戦は両者の合意があれば何を賭けても良いんだから問題はないだろ?それとも僕達相手に2勝できないってことか?」

 

渋る柑斗を来生が煽る。おー、いいぞ来生。柑斗を勝負の場に引っぱってくるのだ。

 

来生の言葉が響いたらしい。後ろの2人に目配せして柑斗が話し出す。

 

「俺は来生に勝つ。お前らのどちらかがあの2人に勝てるんだろうな」

 

「勿論ですよ柑斗さん。いくらなんでも素人に負けたりしませんよ。俺達はあの修羅の道を潜り抜けて白棋士になったこの国の頂点です。格の違いってやつを見せつけてやりますよ」

 

「そうですよ。それにこんなに割のいい勝負ありませんって。白棋士でもなんでもない奴と戦って1人頭4個の白神石、やりましょう」

 

太っちょとノッポはやる気に満ち溢れていた。その言葉に柑斗も気持ちが固まったらしい、力強く頷いた。

 

「そうだな。こんな落ちている金を拾うみたいな勝負、受けない方がおかしいよな。よし、来生。白神石12個勝負やってやるぜ」

 

話が決まったところ眉毛が丸っこくてまろみたいな人を先頭に白い服を着た男達が3人入ってきた。今回の立会人の白棋士だろう。

 

「棋礼戦の依頼を受けて来ました。今すぐ始められるのですか?」

 

「おう、そうだぜ」

 

「条件は決まっておりますか?」

 

「白神石12個を賭けた団体戦だ。2勝した方の勝ち。それから俺達が勝ったら星天は白棋士の本戦に出ないという条件だ」

 

「白神石12個賭けとは随分と大きな勝負ですね。双方が納得しているならそちらは構いませんが、それより柑斗側が賭けている物が白神石だけなのに対して、来生側は白神石と本戦の出場権を賭けているのでは釣り合いが取れてませんね。何か賭ける物を追加しますか?」

 

『まあ、双方が納得しているなら構いませんが』と立会人が続ける。そっか、賭ける物を追加できるのか。それなら、

 

「じゃあ鳴良の出場権も追加で」

 

「え」

 

「いや、そっちじゃなくて柑斗側なんですけど。まあ、納得しているなら別にいいんですけどね」

 

「六財商の会の息がかかった碁会所の場所を教えろでいいんじゃないか。明日からも碁会所巡りするんだろ?」

 

悩んでいると周軒が助け舟を出してくれた。なるほど、確かに他の六財商の会の息がかかった碁会所がどこにあるかは知りたい情報だ。是非ともそれにしよう。さすが周軒、いいこというね。

 

柑斗も『はあ?そんなこと知りたいのかよ。まあいいけどよ』と同意してくれた。これで勝負の準備は整った。

 

勝てば白神石12個と他の六財商の会に関連する碁会所を知ることができるが負ければ全ての白神石を奪われ、私も鳴良も本戦にも出れなくなる。そうなれば財全と戦うこともままならなくなるだろう。絶対に負けたくない一戦が始まる。

 

それぞれの対戦相手に向き合い、『お願いします』と頭を下げる。『え、負けたら俺も本戦に出れないの』という鳴良の呟きが聞こえたが、出れないよ。だから勝てるように頑張ろう。

 

 





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