【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第31話 道場破り

 

それから3日経った。毎日ひとつ、六財商の会の息のかかった碁会所に行き棋礼戦をした。

 

来生はいないけど団体戦が楽しかったので鳴良と2人で戦う。『私か鳴良、どちらか負ければ私達の負けでいい』という条件を提示すると『え゛』と鳴良は濁音を漏らしていた。真剣勝負をしに来たのだから別に問題はないよね?限度いっぱい行くところまでいこう。

 

六財商の会の棋士には『奪った白神石と本戦の出場権を賭けろ』と言われたのでそれに了承する。別に奪ったわけではないのだけど、欲しければ勝てばいいのだ。私が負けたら全てを差し出すよ。

 

その代わり全力で戦い抜いてね。

 

石の数は互いに同数、本戦の出場権の分何か欲しい物はないかと言われたけど、特に欲しいものはなかったので西都のオススメ食べ歩きスポットを教えて欲しいと伝える。

 

え、それでいいのかと3回くらい念を押されたけど現地人のおいしい店情報は大事だよ。私はすごく知りたいです。

 

そんな感じで勝負は始まった。鳴良も打つ前はあわあわした感じなのに、いざ対局が始まると静寂になる。周りから全ての音が消え去り、衣擦れの音も呼吸音すら聞こえなくなる。そしていつもの感情豊かな表情が消え失せて、無になる。

 

聞こえてくるのはジャラリと碁笥から碁石を取る音とパチンと碁盤に碁石が打たれた音だけ。囲碁を打つ以外の物をすべてこそげ落としたような、そんな感じ。盤上に溶け込んでしまっていて、この時の鳴良は本当に強くてかっこいいから安心して背中を任せられる。勝ってね鳴良。私も必ず勝つから。

 

そんなわけで3日、3つの六財商の会の碁会所を巡ったわけなのだけど私も鳴良も全勝した。知らない布石に見たことない一手、工夫した手がいくつも打たれたのだけれども、あれが研究してきた手だったのかな?新しい手を打たれると全然知らない盤面に行くことができるからわくわくするね。全部最終的には殴り勝って息の根止めたのだけれども。

 

たくさん勝ったから白神石もいっぱい貰った。鳴良が16個で私が25個かな?正直今の私達に使い道はないんだけど、たくさん賭けると皆真剣に打ってくれるからあって困る物ではないね。

 

負けた白棋士達が『嘘だろ。これでまた序列10位からやり直しになるのか』やら『財全様がこの布石なら勝てると言っていたのに、なんで』と絶望した顔で嘆いてたけど、真剣に戦ってくれるのなら別に賭ける個数は同じでなくていいよ。というか賭ける物などなくてもいい。自分の力の全てを振り絞った、それこそこれが人生最後の一局になったとしても後悔しないと言い切れるだけの熱量で望んだ碁を打ってくれるのならば賭ける物などいらない。

 

私は真剣勝負をしたいだけなのだ。

 

そういうと『い、いや。いい。序列10位からやり直すよ』やら『ひっ、命は勘弁して下さい』やら引き気味に言われ、『お願いですから帰って下さい』と碁会所を追い出された。残念、ここではもう打たせてもらえないみたいだ。だけど柑斗に教えてもらった碁会所の情報はまだあるからね。明日はどこへ行こうかな。

 

「明日は白棋士の本戦が行われるぞ」

 

碁会所からの帰り道、棋礼戦の報酬で教えてもらったナツメ餅というお菓子を食べながら明日はどこへ行こうかと相談すると周軒にそういわれた。ちなみにナツメ餅は何層も餅米や赤インゲン豆や棗などか積み重さなっていて、もちもちしていておいしい。色んな味があるから飽きないおいしさだ。

 

で、明日は白棋士の本戦が行われる?もうそんな時期になったんだ。六財商の会と団体戦で勝負するのが楽しくてすっかり忘れていたね。

 

「どんな形式で戦うの?」

 

「出場者は10人ひと組に分けられ、その10人で総当たりをする。その中で最も勝利数の多かった1人だけが本戦を抜けられるというものだ。同勝利数の者がいれば再度試合を行う」

 

「へー、10人と戦って一番勝ったひとりだけが勝ち抜けっていう感じなんだ。鳴良と戦えるといいね」

 

「え、1人しか勝ち抜けられないんだよね?星天と当たると確実に俺達2人のどっちかは白棋士になれないんだけど」

 

「残念ながら同じ藩の者は当たらないようになっている。西都出身の者だけ出場数が多いため、例外で当たることもあるが星天と鳴良が対戦することはないな」

 

周軒が本戦のルールについて説明してくれる。つまり10人ひと枠のリーグ戦をするってことだね。10人全員と戦って一番勝った人が本戦を抜けることができる。こういう後がない感じのところで鳴良と戦ってみたかったんだけど同じ藩の人同士は戦うことはできないらしい。残念。

 

「明日は本戦なのだから、今日は宿に戻って休んだらどうだ?」

 

「ん。んーん」

 

せっかくの周軒の提案であるがすぐには同意できない。いつもは六財商の会の碁会所に行った後は碁の内容を鳴良と検討したり、他の碁会所に行って全然関係ない人と打ったりしている。とても元気なので打てるなら誰かと打ちたい気分ではある。

 

「戻るなら今日は宿屋の主人が風呂を沸かしてくれるそうだぞ。星天は湯に浸かるのが好きなのだろ?」

 

「お風呂!」

 

パァと目の前が明るくなる。この世界の人達はどうもお湯につかる習慣がないらしく、皆濡れた布で身体を拭いたり桶に水を張って髪を洗ったりする。周軒の家にはお風呂があったが、皆身体は清めるけど湯船に入ることはなかった。

 

だけど私はお風呂に入りたい。今まではお湯に浸かりすぎると体調が悪くなるから長湯できなかったし、そもそもベッドから出れない日が多かったのでお風呂自体にもあまり行けなかった。でも今は健康だ。ゆっくりお湯に浸かったってどこも具合は悪くならない。お風呂に入れる機会が少ないこの世界でその貴重なチャンスを逃したくない。

 

「なら帰る」

 

「そうだな。明日は本戦なのだからゆっくり休むといい」

 

るんるん気分で宿屋に戻る。残ったナツメ餅を食べてゆっくりお湯に浸かって、お風呂に入るとなんだか疲れたからちょっと早めに横になる。

 

明日は本戦か。強い人とたくさん戦えるのが楽しみだな。

 

 

 

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