【書籍化】『星天』   作:空兎81

32 / 76
白棋士本戦 前編
第32話 財全


 

ついに本戦の日がきた。天気は快晴、気温はちょっと高めだけど不快には感じないね。いよいよ本戦が始まると思うとわくわくする。

 

今日この日のために琳華様からもらった一張羅を取っておいたので早速着ようと思う。

 

装飾品もあって1人で着るのは難しいから宿屋のお姉さんに手伝ってもらって服を着る。紺色を基調とした服で、フチは金色、中地は白のヒラヒラしたスカートをオレンジ色の模様の入った帯で留める。頭にも丸玉の飾りを付けてもらった。素敵な衣装を着せてもらうと気分も上がる。

 

「準備できたよ」

 

「あ、可愛い。似合っているよ星天」

 

「よく似合っている。気合いは充分だな」

 

2人に褒めてもらえてとても嬉しい。靴も衣装に合わせた紺の生地に金糸で刺繍したものだ。よし、ばっちり。さあ、本戦へ向かおう。

 

周軒と鳴良と、あと新羅と玲樂と奎宿藩の選定を突破した者達と一緒に宿を出る。本戦の場所までそこまで遠いわけではないらしいが、『せっかくの衣が汚れては良くないだろ?』と周軒が車を呼んでくれた。車は全員が乗れる分あったが鳴良は歩くと言って乗らなかった。鳴良は乗り物酔いが酷いもんね。せっかくの勝負事だというのに体調が悪くなったら勿体無いからその方がいいよ。

 

車は4隅を人が持ち上げて動かす人力車だ。御神輿みたいな感じだね。馬車と違って持ち上げられると地面のデコボコ具合を感じないから快適だった。

 

窓から顔を出して横を歩く鳴良に手を振る。鳴良はちょっと驚いた顔で『綺麗な衣装を着て車に乗っていると本当に良家のご令嬢みたいだ』と言った。

 

ご令嬢ってお姫様のことだよね。んー、お姫様か。憧れないわけではないけど望んではない。

 

私がなりたいのは白棋士だ。

 

やがて車は大きな門構えの建物の前についた。真っ白で大きな虎の絵が描かれている。ここが西都の白礼堂かな。奎宿藩のとは比べ物にならないほど大きいね。

 

「ここから入れるのは本戦の出場者だけだ。奎宿藩から白棋士が誕生することを期待している。健闘を祈る」

 

入り口のところで周軒が立ち止まり車から降りてきた奎宿藩の棋士達にそう告げる。そっか、周軒は入ってこれないんだ。じゃあ、行ってくるね。

 

中に入ると開けた場所に大勢の人がひしめいていた。この人達は全員本戦の出場者かな?ガヤガヤと騒がしい中、しばらくすると壇上に人が上がってくる。

 

白棋士の服よりだいぶ豪華な、だけど同じように白を基調として金糸で模様を刺繍した服を着たその人は銀色でウェーブがかかった髪質で眼鏡をかけていた。

 

そしてなんか人相が悪かった。

 

「静粛に。本来であれば序列1位の凛刹が取り仕切るべきところだが、序列1位と2位が2人揃って今期の四神戦の打ち合わせのため朱雀国に行っている。よって今回の白棋士の試験は序列3位の俺、財全が全て預からせてもらう」

 

淡々とそれでいて通る声で壇上の人が話し出す。そしてその名前に驚く。

 

財全?それって六財商の会の一番偉い人のお名前だよね。私がずっと戦いたいと思って探していた人の名前だ。そっか、あのヤクザの若頭みたいな人が財全か。やっと会えたね。

 

「今からこの本戦の規定について説明する。一度しか言わないので聞き逃さぬように。今からお前達を10人ひと組に分け、その中で総当たりをしてもらう。勝利数の最も多かった1人のみが本戦を突破する。勝ち数同数の者がいた場合は再戦だ。ここまでは問題ないな」

 

淡々と財全がルール説明をする。周軒に聞いていたルールと違いはないので特に問題はない。

 

「組み分けはこちらで行っており、同じ藩の者はなるべく当たらないようにしている。後ほど張り出しを行うので各自で確認しろ。試合は7日に一度行われ、一日二試合してもらう。五週後には全ての試合が完結する予定だ。今日がその初日で二試合終わるまではこの白礼堂から出るな。出れば不正行為とみなし失格とする。説明は以上だ」

 

財全の話には知らなかったルールもあったのでしっかり聞いておいて良かった。そっか、今日打つのは2局だけなんだ。確かに1日で9局打つのは大変だろうし妥当な配分だと思う。

 

9試合終わるまでにかかる時間は1ヶ月ちょい。長い戦いになりそうだ。

 

ルール説明も終わったしこれから本戦が始まるのかなと思った瞬間、財全の顔がこちらを向く。目が合った。それなりに距離があるのに今、財全が見ているのは私だとはっきりと感じた。

 

「最後に一つだけ言っておく。俺は俺の邪魔をする奴が嫌いだ。どうせ俺より弱いのに囀るな。鬱陶しい、目障りだ。俺は俺の邪魔をする奴を必ず排除する」

 

それだけ言うと財全は顔をそらし、壇上を降りて行った。胸がドクンドクンと鼓動するのがわかる。

 

今のは私に向けての言葉だった。

 

「こわぁ。あれって間違いなく俺達に向かって言ってたよね。星天大丈夫?結構怖いこと言ってたけど」

 

「大丈夫じゃない」

 

全くもって大丈夫ではなかった。心臓はドクドク煩いしかぁーと顔が熱くなった体温が上がる。こんな感覚になるのは初めてだ。

 

『え、大丈夫じゃないの!?』と鳴良があわあわする。大丈夫じゃないよ。今すぐ飛び跳ねてしまいそうだ。

 

向こうも私のことを知っていたなんてこんなに嬉しいことはない。

 

恋なんかしたことないけど片思いが報われるってこんな感じかな。あの感じだと本気だ。本気で私のことを考えていてくれている。一切手を緩めず全力で私と戦いたいと思ってくれている。序列3位のこの国でもトップクラスに強い人に心から求めてもらっているのだ。

 

こんなに棋士冥利に尽きることはない。

 

『財全が本気で戦ってくれるのが嬉しすぎてどうにかなりそうだ』といえば、『あ、うん。いつも通りでよかったよ』と鳴良に言われた。いつも通りじゃないよ。スキップし始めそうな身体を一生懸命抑えているのだ。

 

皆が移動を始めたからそれに続いて歩き出す。張り出された紙には私は一組で鳴良は七組と書かれていた。あー、やっぱり分かれちゃったか。ばいばい、鳴良。お互い頑張ろうね。

 

 

 





これが、恋!


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。