【書籍化】『星天』   作:空兎81

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うわあああっ!!!投稿先間違えてごめんなさい!


第33局 本戦初日 一戦目

 

部屋を移動し一組と書かれた案内板の置かれた部屋に入る。茶色の服を着た人に『名前は?』と聞かれたので『星天』と答えると席に案内された。

 

対面にはすでに人が座っていた。私が席に着くとびっくりした顔をした。

 

「え、女の子?君も白棋士試験を受けるの?」

 

「うん、そう」

 

「俺、もう5回も白棋士試験受けてるけど女の子の受験者は初めてみたよ。えっと、俺は尚間(しょうかん)、胃宿藩からきたんだ」

 

尚間と名乗った黒髪で両頬にソバカスがある男性がニコッと笑いかけてくる。なんとなく穏やかそうな感じがする人だ。

 

「白棋士試験は初めて?」

 

「うん」

 

「じゃあ今年は凛刹様を見れなかったから残念だったね」

 

対局が始まるまではまだ時間があるらしく尚間が話しかけてくる。それで、凛刹様を見れなくて残念と言われたのだけど確か財全の話にあった序列1位の人だよね。どうして見れないと残念なのだろう。

 

「なんで?」

 

「なんでって、え、凛刹様だよ?」

 

「序列1位の人だよね。見れるといいことあるの?」

 

「序列1位もそうだけど凛刹様は皇太子、つまりは将来の皇帝陛下だ。俺みたいな庶民が拝顔できる機会なんて他に絶対にないからね。今年もお顔を見られるかと思ったのに残念だよ」

 

尚間が悲しそうに息を吐く。へー、序列1位の白棋士は皇太子でもあるんだ。つまり王子様でプロ棋士だ。尚間の様子を見るに凛刹様にはアイドル的な人気があるかもしれない。

 

でも別に今会えなくてもいいや。ただ遠くから凛刹様のお顔を見るということには興味ない。皇太子だとかアイドルだとかいうところは重要でないのだ。

 

序列1位の白棋士、凛刹。つまりはこの国で一番強い白棋士だ。そんなの戦いたいに決まってる。

 

顔を合わせるなら碁盤を挟んでだ。

 

「定刻になりました。これより本戦の対局を始めますので、互いに握って下さい」

 

話をしている間に試合の始まる時間になったらしく白棋士の人が開始の合図を出す。財全も凛刹もいずれは戦いたい相手だけど今は目の前の相手が全てだ。負けたら上になんて辿り着かない。だからよそ見などしない。勝つ。この一戦に全力を注ぐのだ。

 

『お願いします』と頭を下げて打ち始める。私は星と星、相手は星と小目に打つ。

 

小目にかかる。挟まれたのでケイマにかかる。瞬間、出切られた。急戦、まだ10手も打っていないにも関わらず、互いに切り結ぶ戦いが始まった。

 

周りの布石はもはや意味を成さず左下隅の戦いが肥大していく。この戦いを制した者がそのまま勝敗すらも決めそうな程の激しさだ。

 

尚間が仕掛けてきたのは一手のミスすら許さない緊張感漂う複雑な攻め合い。少し顔を上げて見れば、尚間は目を見開き口を真一文字に結んでいる。さっきまでのミーハーな軽い感じで話しかけてきた面影は全くない。

 

そうだよね。白棋士とはこの世界の頂点の棋士達、私の世界でいうプロ棋士と同じすべて碁打ちの憧れの存在だ。一万人の受験者がいて受かるのは10名に満たない。皆必死にそれこそ命を削る勢いで一手一手に力を込めているのだろう。

 

私はとても幸運だ。一度は命尽きた身だった。だけれども健康な身体を得てこんな誰もが全てを賭けて挑む戦場に来ることができた。

 

相手が全てを出し尽くすというのなら私も命を賭ける。命懸けで貴方を倒す。この左隅の攻防に全てをつぎ込む。

 

互いの石が千切れ千切れになり、別れた先でも戦闘が始まる。お互いにわかっている。緩められる分岐点はとうに過ぎた。この戦いは行くところまで行くのだろう。

 

深く、深く、碁盤に入り込む。汗が血が盤上に染み込んでいくような感覚がある。碁盤が脈打つ。今、私の命は盤上にある。

 

分断された白の中央に黒石を打ち込む。そう、これで。

 

「怖くなかった?」

 

尚間が話しかけてきた。顔を上げるとその顔には覇気がなく最初に話しかけてきたような穏やかさがあった。

 

「怖い?」

 

「うん。初めての本戦の初戦でいきなり勝負を決めるような複雑な石のせめぎ合いが始まったんだ。一手の失着がそのまま敗北に繋がる。怖くなかった?」

 

尚間が優しく語りかけてくる。怖い、怖いか。複雑な盤面になったら最善手はなんだろうとかこの手で本当に大丈夫だろうかと悩んだりはする。間違えた手を打てばそのまま負けるのだから頭の中をぐるぐる思考が回ったりもする。だけれどもそれは怖いという感情ではないのだ。

 

私にとって怖いとは世界がモノクロになることだ。色も音も味も全て失い自分の中に湧き上がる感情すらない無味無臭の世界、私はかつてそこで生きていた。そこに戻ることを恐れている。だけど、

 

「囲碁を打つことに怖いことなんてひとつもないよ」

 

そこに私の全てがあるのだから。

 

「君はすごいな。俺は怖かった。初めての本戦で石の攻め合いになって、でも読み間違えたら負けるかもと思ったら怖くて逃げてしまった。戦いを避けてそれで負けてしまった。今でも後悔してるから本戦の初戦は必ず戦いを仕掛けるようにしてるんだ。でも今回も勝てなかったね」

 

尚間が頭を下げる。下辺の白には目がない。激しい攻防の末、下辺の白は命尽きたのだ。この盤上にこれだけの損失をひっくり返せる場所は残っていない。

 

「負けました。凄いな星天は。まだそんなに幼くて女の子なのに、堂々として強い精神力を持っている。君は本当に凄かったよ」

 

対局は終わった。すると白棋士の人が席に来てずっと隣で何やらメモを取っていた茶色の服を着た人と時計を持っていた人を見て頷く。

 

「終局しましたね。勝利したのは白、星天ですか」

 

「うん、そう」

 

「記録しました。他の対局が終わりましたら二戦目を始めますのでしばらくお待ち下さい」

 

3人は盤上を確認すると何か手元にメモをし去っていった。片付けをし『ありがとうございます』と終局の挨拶をする。白棋士本戦の初戦は火花散るような激しい接近戦だった。次も楽しみだ。

 

 

 

 

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