【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第35局 新羅

 

「今日はよく戦ったな星天。奎宿藩からの出場者で初日を二勝したものは君と鳴良と新羅の三人だな」

 

本戦の初日が終わり白礼堂から出ると周軒が出迎えてくれた。尚間に勝って可楽にも勝って、今日の私の成績は2戦2勝だけど周軒はどうやって知ったのだろう。

 

「なんで結果を知ってるの?」

 

「結果が分かり次第すぐに張り出されるからな。ほら、あそこに掲示される」

 

指された方を見ると壁一面に紙が貼られ、びっしりと文字が書かれていた。上の方に一組、二組という感じで書かれているから組ごとの戦績が貼られているらしい。なんだか合格発表みたいだ。

 

大勢の人が掲示板の前に詰め寄り指差したり話し合ったりしている。『高教室の佩芳(はくほう)は2勝か。白鴉杯で優勝しただけあって強いな』やら『博文(はくぶん)俊宇(しゅんう)に勝ってるな。やっぱり六財商の会は強いぞ』やら『星天って奴が女なのに本戦出てるんだろ?二勝してやがるぞ。本当に強いのかよ』やら聞こえてくる。今、私の話してた人いた?

 

なんか参加者と関係ないっぽい人もうろうろしているし本戦は都の人にとってもお祭り騒ぎなのかもしれない。

 

そんな感じで掲示板を見てたらふらふらした足取りで鳴良が出てきた。なんか顔色悪くて幽霊のようだけど周軒が二勝したと言っていたから鳴良も勝っているはずだ。まったくもってそんなふうには見えないけど。

 

「な、なんとか勝った」

 

「おかえり鳴良。私も二勝したよ」

 

「星天の勝利は全然疑ってなかったけど、よかったよ。他の人達はどうだったんだろう」

 

「星天と鳴良とあと新羅は二勝で、他は一勝やら二敗やらだな。ただ、他の者は相手が悪かった。全員西都の者と対戦している」

 

鳴良の疑問に周軒が答えるのだけど、相手が悪かったとはどういうことだろう。

 

「ここ数年、本戦を突破している者の9割は西都出身だ。白棋士の多くが居住を構え、白虎国で最も囲碁が栄えている場所だからな。藩に住む者も我が子に碁の才能があるとわかれば移住する者が多い。囲碁の強い者は西都に住む」

 

周軒の説明になるほどと相槌を打つ。白棋士の大半も将来有望な若者も皆西都に住む。だから西都の出場者は囲碁が強いのだと。囲碁を強くなる為には強い人と打ったり研究したりするのが1番だから西都の棋士が強いというのには納得だ。確か同じ組の中にも西都出身の人が2、3人はいるらしいから対戦できるのが楽しみだね。

 

明日も対局があるし宿に戻るかと周軒に言われたのだけど、あ、そうだ。戻る前に可楽の件を伝えておかないと。

 

「私の二戦目が可楽って人だったんだけど」

 

「ああ、参宿藩の跡取り息子だろ。面識はあるが本戦に出るほど囲碁が強いとは知らなかった。何か嫌なことを言われたのか?」

 

「立会人を買収して勝敗を覆そうとしてきた」

 

なんだと!と言って周軒が声を荒げる。周軒が激おこだ。そういう卑怯なことはやってはいけないよね。

 

「え、立会人を買収なんてそんなことできるの?」

 

「葉簡っていう参宿藩出身の白棋士の人を『俺の勝ちにしないと家族に危害を加えるぞ』って脅してた。でも葉簡が断ってくれたからまともな裁定を受けることができたよ」

 

「参宿藩は七つの藩の中でも最も栄えていて、息子の可楽にはありとあらゆるものが与えられていた。そのせいか自分の欲しい物が与えられないと癇癪を起こすような奴だったからあまり関わりを持たないようにしていたが、そこまで腐り切っているとは思わなかった」

 

周軒は怒ってる。周軒と可楽って面識があるんだね。まあお隣の藩の藩主の息子同士ともなれば顔を合わせる機会くらいあるのかな。それでもって話を聞いていると可楽は我儘な金持ちボンボンって感じだね。なんでもお金で解決してきたのかもしれないが、勝利はお金で買えるものではないのでちゃんと強くなろう。

 

『もう二度と卑劣な真似ができないように可楽に話をつけてくる』と言って周軒はどこかに行ってしまった。また剣を突き立てて脅すのかな?まあ可楽はちょっと痛い目みた方がいいと思うよ。やっちゃえ周軒。

 

残された私と鳴良は顔を見合わせて、『俺達は宿に戻ろうか』と言われたので同意する。鳴良がどんな碁を打ったのかみたいし戻って今日の碁を検討しよう。

 

周軒が呼んでくれていたのか、行きと同じく車が用意されていたので乗り込む。鳴良は乗らなかったのでやっぱり車は嫌いなのかなと思ったら、『年頃の男女が同じ空間に同席するのは外聞がよくないからやめとこう。星天の礼節に影響するかもしれないし』と言われた。鳴良と同じ車に乗ると外聞が良くないの?よくわからない考え方だが鳴良がそうした方がいいというならば従っておこう。

 

宿に戻ったら早速今日の碁の検討を始める。宿のお姉さんがお茶とお菓子をどうぞと言って持ってきてくれた。お菓子は桃饅だ。やった。

 

ふっくらとあったかい桃饅にかぶりつきながら今日鳴良の打った二局を見せてもらうが、その内容に驚く。

 

「二局とも中押しで勝ったの?」

 

「うん、なんとか。でも2人とも強くてずっとしんどかったよ」

 

ため息混じりにそういうが、鳴良の得意な盤面は終盤だ。この二局はそこに到達する前に決着している。

 

つまり今日対局した二人と鳴良の間にははっきりとした棋力差があったのだ。

 

内容を見ても終始安定して鳴良がいい。相手も隙のない鳴良の碁にひっくり返すことはできないと心折れて投了したのだろう。鳴良は確実に強くなっている。本戦で当たることがないのが残念で仕方ないよ。

 

いつか、お互いに引くことのできない背水の陣で命迸る真剣勝負をしたいな。

 

「星天の二局も中押し勝ちだね。でも、この二局目はなんていうかあんまり意図のわからない手が多い相手だね」

 

「それが可楽と打った碁だよ」

 

「あ、これが不正しようとしてきた人との碁か。うーん、この人の戦いは本当に碁の内容じゃなかったんだろうなって感じだね」

 

歯に物が詰まったような物言いで鳴良がいう。バッサリいうなら碁の内容はズタボロだったということだ。すっごい不完全燃焼になるから次はちゃんとした人と打てるといいな。

 

「それを差し引いてもやっぱり星天は強いよ。相手が緩い手を打ってきたからといって咎められるかどうかは別だから」

 

「鳴良だって強いよ。何人もの白棋士にも勝ってたじゃん」

 

「あれは負けたら星天の出場権がなくなると思って必死だったから。同じこと今やれって言われてもできるかわからないよ。あー、次の試合も勝てるか不安。本戦って何勝したら勝ち抜けられるんだろう」

 

「およそ八勝だな」

 

鳴良の問いに答えが返ってきた。声のする方を見て驚く。藍色の髪に黒縁の眼鏡、かつて予選で戦った男、新羅が立っていた。

 

「混戦になり六戦勝利で勝ち抜けたという年もあったというが基本は八勝、突き抜けて強い者がいれば九戦九勝しなければならない」

 

「え、新羅じゃん。なんでここにいるの?」

 

新羅の登場に鳴良もびっくりしている。というか名前を呼んでいるということは2人は知り合いなのかな?まあ同じ藩で試合に出てたなら対局したことくらいあるのか。

 

「僕の他にも二勝してる者がいると聞いて君達に会いに来たのだが、星天はともかく鳴良が勝つとは思わなかった。そもそも壮家から来るのが我意でも園次でもなく君だというのも驚きだ。本戦で勝ち抜くほど実力だとは感じなかったが」

 

「鳴良は強いよ。新羅は私達に何か用なの?」

 

相変わらず鳴良の評価が低くてむむっとなる。なんで皆鳴良の実力を疑問視するのだろう。めっちゃ強いよ。皆ちゃんと打ったことある?

 

「本戦に出るのが初めてだから知らないだろうが、八勝するのは本当に難しいことなのだ。西都出身の者とはまだ戦ってないのだろ?」

 

「私は戦ってない」

 

「俺も当たってないよ」

 

「西都の人間は対戦相手を研究してくる」

 

真剣な顔で新羅がそういう。研究してくる?藩も違うし戦ったこともない相手を研究するのってどうするのだろう。

 

「予選も含め白棋士試験の碁は全て棋譜が取られているのは知ってるか?」

 

「ううん、知らない」

 

「正規の手続きをすれば誰であろうが棋譜を手に入れることが可能だ。西都の人間は他の藩の本戦へ出場する棋士の棋譜を手に入れ、研究してくるのだ」

 

「え、それってめっちゃ大変じゃない?」

 

本戦出場者は100人もいるのに全部研究するのは無理すぎる。

 

「勿論全員分やっているわけではなく、ある程度は絞っているのだろう。だが逆に言えば目をつけられれば確実に研究されるということだ」

 

そこで新羅がひと呼吸置き口元が一瞬引き締められた。今から話すことは真剣な内容であるようだ。

 

「去年、僕は絶好調だった。五つの大会で優勝し奎宿藩で開催された全ての大会で入賞した。奎宿藩で最も強い棋士だと持て囃され、誰もが僕が白棋士になると期待した。だがここにいることからわかるだろう、僕は白棋士になれなかった」

 

眉間にも皺が寄り新羅が表情が苦々しい物になる。5回も優勝して入賞もたくさんしたのに白棋士になれなかったならそれは落ち込む。

 

「去年僕は七勝で、本戦を突破した奴は八勝だった。僕が負けた二戦は全て西都の奴だ。打たれた布石はどれも打ち慣れていないものだったし、明らかに僕のことを対策していたものだった」

 

「なるほど、それはやりにくそうだね」

 

「ああ、だから今年はなるべく目立たないように出場する大会を減らし、碁の内容も様々な布石を使い伏せるようにした。だが星天には得意な打ち方を伏せて打って負けて、全力を出しても負けてと散々だったがな」

 

むすっとした顔で新羅がいう。なんか『手の内を知られるのは損であるからこの碁はそれなりの力で打たせてもらおう』とか言ってて新羅のこと嫌いだと思ったけどそれなりの事情があったらしい。去年全力を出して戦ったら対策されてあと一歩のところで白棋士を逃したから今年は情報を隠すようになったのだという。

 

新羅は新羅なりに勝負に真剣だったのだ。どんな手段だろうが勝負に真剣なことは良いことだ。あ、でも可楽はダメだよ。あんな舐め腐った不正を私は許しません。

 

「えっと、それで研究されてやばいって話はわかったけど、相手の研究を防ぐなんて無理だよね。どうするの?」

 

「こちらも相手を研究する。向こうは複数人で研究しているようだからこちらも人数がいた方がいいだろう。星天の実力は知っているし二勝したというならば鳴良も問題ないだろう。君達としても利点があるのではないか?」

 

相手に研究されているというならばこちらもやればいい。新羅は一緒に碁の内容を検討する相手を探していたのだろう。研究すること自体が勉強になるのだからやって損はない話だね。

 

「私はいいと思うけど鳴良はどう思う」

 

「星天がいいなら俺もいいよ」

 

「本気で本戦を抜けるつもりなら君達も相手の棋譜を必ず見ておいた方がいい。一組と七組の組割りを見てきたが小嵐(しょうらん)博文(はくぶん)がいる」

 

新羅のいう人に心当たりがなくて首を傾げる。誰だろう、有名な人かな?

 

「この本戦の大本命の二人だ。確実に今年白棋士になると言われていて、特に一組にいる小嵐はおそらく白棋士以外で西都で一番強い棋士だ。君達が白棋士になるにはこの二人を倒さなければならない」

 

新羅は一組と七組にいる西都勢も調べてくれたようだ。そして一組には西都で最も強いと言われている小嵐がいると。

 

それはとんでもなく幸運なことだ。可楽みたいな楽しくない人に当たって残念だと思ったけど一組にはそんなにも強い人がいるんだ。これは当たりだね。西都一強い棋士と戦えるなんてワクワクするよ。

 

「僕と鳴良は7日後の対局で西都の者と当たる。取り敢えずこの一週間はそれを主にやっていこう。今日対局分の棋譜は手に入れたが、藩の者に頼んで今年の棋譜はできる限り手に入れる。今年こそ僕は白棋士になるんだ」

 

新羅がメラメラ燃えている。気合い入っているな。でもいいと思う。私は真剣に囲碁をする人が好きだ。

 

そのまま3人であーだこーだと碁の研究をする。でもところどころ『鳴良にしてはいい意見だ』とか『鳴良も思ったより役に立つな』やら鳴良を見下げた発言が出るのは頂けない。うーん、新羅は鳴良を下に見てるし鳴良は新羅を上に見てるんだよね。これはなんか嫌だからなんとかしたい。

 

しばらくしたら周軒が帰ってきて『可楽が星天に関わることは二度とないから安心してくれ』と言った。何してきたんだろう。まあ可楽よりも大事なことは次の対局だからどうでもいいか。

 

 

 

 






新羅、パーティ参戦!

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