【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第36局 研究会

 

「ば、馬鹿な。星天はともかく鳴良に負けるだと」

 

研究3日目、ずっと対戦相手の研究ばかりしてるのも飽きてくるので、対局もしようということになり鳴良対新羅で戦ったのだけど、結果は新羅の言葉通り鳴良の勝ちだ。

 

だから鳴良は強いって言ってるじゃないか。失礼なことをいってる。鳴良、怒っていいと思うよ。

 

「え、嘘。俺勝ったの。新羅って奎宿藩で一番強いって言われてるのに」

 

勝った鳴良も呆然としてる。鳴良自身もこの結果に驚いているみたいだ。確かに新羅も強いけど六財商の会に殴り込みに行って白棋士相手に全勝してるんだから鳴良はもっと自信持っていいと思うよ。

 

「あり得ない、前に戦った時とは段違いの強さだ。一体何をしたらここまで強くなれるのだ!」

 

「えっと、切っ掛けなら星天に出会ったからだけど。星天に認められて自分の碁を好きになれたんだ」

 

照れたように鳴良がはにかむ。え、そうなんだ。私と勝負したのが切っ掛けで鳴良は碁にのめり込んだんだ。なんか嬉しいな。私も鳴良に会えてよかったよ。

 

「そんな精神論でどうにかなる程度ではないぞ!何か特別な特訓をしたのだろう!教えろ!何をしたらこれほどまでの力を手に入れるのだ!」

 

「えー、特訓というなら毎日星天と禍旋亭に通っていたけど」

 

『でもあれは』と鳴良が言葉を濁す。予選が終わってから本戦始まるまではずっと一緒に禍旋亭に行っていたね。でも禍旋亭での勝負は鳴良の覚悟を決めるには良かったけど実力は元々あったと思うよ。鳴良は最初から強かった。

 

「禍旋亭?そんな名前の碁会所は聞いたことはないが」

 

「私がずっといた碁会所だよ。本戦行く前に鳴良も来てくれたの」

 

「星天がいた碁会所だと?なるほど、鳴良が強くなった訳も星天の強さの秘密もそこにあるというわけだな」

 

新羅がニヤリと笑う。禍旋亭に興味があるなら藩に戻ったら一緒に行こうよ。羅間もお客さん連れて行ったら喜んでくれるよね。

 

『え、やめた方がいいよ』と鳴良が言うも『ふふん。強さの秘密を独り占めするつもりか?悪いが知ってしまった以上はもう僕を止めることはできないぞ』と新羅が言い返す。というかそんなに真剣勝負をしたいなら別に禍旋亭に行かなくてもできるよ。

 

「禍旋亭でするみたいな勝負をしたいなら西都でもできるよ」

 

「なんだと、本当か!」

 

「うん、なんなら今から行く?」

 

「ああ、是非とも行こう!」

 

意気揚々と出かける準備をする新羅に私も喜ぶ。やっぱり団体戦って三人いた方がそれっぽいもんね。面子が3人揃って嬉しいな。

 

鳴良だけが『え、本当に行くの?』みたいな顔してるけど、行くよ。最近六財商の会と戦ってなかったから楽しみだな。

 

柑斗に教えてもらった六財商の会がやっている碁会所はまだまだたくさんある。その一つに鳴良と新羅と周軒と向かう。周軒は出かける時は必ず付いてきてくれる。『何かあった時に対処できる者がいた方がいいだろう』ということらしい。何かってなんだろう。何故かわからないが鳴良がこっちを見て頷いている。わからないけど周軒が付いてきてくれるのは心強いからまあいいか。

 

そんなわけで『財』の文字を掲げている碁会所のひとつにたどり着いた。よし、じゃあ今日も勝負だ。

 

「たのもー」

 

「いらっしゃませ。って、あーっ!星天だ!星天がきたぞ!」

 

「ついにこの張教室にも来たのか!」

 

「すぐさま張岩様を呼んでこい!」

 

「白棋士の立会人もだ!急げ!」

 

扉を開けるといきなり中が騒がしくなる。どうやら私達が来るかもしれないと事前に六財商の会から通達が行っているらしい。大歓迎で嬉しい限りだ。

 

「な、なんなんだ。明らかに向こうは敵対心を持っているぞ。お前達この碁会所で何かやらかしたのか?」

 

「この碁会所ではやらかしてないけど、六財商の会には盾ついてるからそれが理由じゃないかな」

 

棋礼戦も五回目となると向こうも手慣れているね。

 

「はぁ?六財商の会って序列三位の財全の作った組織だろう。何故、そんなことするんだ」

 

「六財商の会に喧嘩売っていったら財全と戦えるって言われたから」

 

瞬間、新羅が背中に宇宙を背負った顔になる。完全に理解が追いついていないといった様子だ。え、何かおかしいこといった?財全と戦いたいから財全の作り上げた組織に戦いを挑んで親玉を引っ張り出す。当然至極のことですね。

 

「本当にそれだけのことで六財商の会に喧嘩を吹っ掛けたのか?そんな非現実的で非効率なことをやっているのか?」

 

「そうだよ」

 

「新羅、無駄だよ。星天は自分がそうだと思ったら猪突猛進に突き進むんだ。理解しようと思ったら駄目なんだ」

 

鳴良が諦めたように首を横に振る。あれ?今鳴良、私のこと擁護しているようでしてなかったよね。鳴良って実は私のことどう思ってるんだ?

 

「待たせたな。俺がこの張教室の主、序列八位の張岩だ。星天一行が棋礼戦を仕掛けにくるかもしれないとは聞いていたが、まさか本当にこんな幼子だったとは。だが、だからと言って手は抜かんぞ。貴様が女子だろうが物の怪だろうが一切の躊躇なく葬ってくれる」

 

「それは有難いね。お互い死力を尽くしたいい勝負をしよう」

 

「ふむ、肝は据わっているようだな。勝負の内容としては、互いに四つの白神石を賭けること、そしてそちらは本戦の出場権を賭けることで相違ないな?」

 

「問題ないよ」

 

「はぁ!?ちょっと、待ってくれ。本戦の出場権ってどういうことだ!?」

 

「今から始まる団体戦は俺達三人の本戦出場権がかかってるんだよ。ここまできたらどうにもならないから諦めて試合を頑張ろう、新羅」

 

「では本戦への出場権を賭けた分、そちらは何か欲しいものはあるか?」

 

張岩に欲しいものはないかと聞かれる。真剣勝負をすること自体が目的だから特にないんだよね。六財商の会の碁会所の場所もオススメご飯スポットも聞いたもんな。んー、じゃあ後は。

 

「大きなお風呂に入れるところが知りたい」

 

「ふ、風呂?お前が入るのか?」

 

「うん。湯船に浸かってのんびりしたい」

 

宿でお風呂を沸かしてもらえるのもいいんだけど、たまには大きな湯船に浸かってのびのびしたい。温泉とかもいいかもしれない。そんなのは西都にないのだろうか。

 

その時周りの空気がなんとなく気まずいことに気付いた。皆が目線をふわふわと漂わせて誰とも目が合わない。何かまずいことを言ったのだろうか。

 

皆、無言のまま周軒の方に視線を寄せる。『私が言うしかないのか』と周軒が息を吐き出し『その件は後で教えるからなかったことにしてくれ』と言われた。何かやらかしてしまったっぽい。

 

結局報酬は周軒が交渉して、今本戦に出ている六財商の会の棋士の棋譜をあるだけ提供してもらうということになった。おー、確かにそれは欲しいね。最初から交渉ごとは周軒にまかせておけばよかったな。

 

そんなわけで立ち合いの白棋士も来て団体戦が始まった。三戦して二勝した方が勝ち。負けたら白神石と本戦の出場権を失い、勝てば白神石と六財商の会所属の棋士の棋譜が得られる。

 

新羅は最後まで『負けたら本当に本戦に出られなくなるのか!?』と騒いでいたけど出られなくなるよ。だから頑張ろうね。

 

序列八位という張岩は名前の通り、まるで岩みたいな硬くて頑丈な厚みの碁だった。攻めるところが中々見つからなくてだいぶ悩んだけど、端から順に粉砕していって、黒の厚みを役立たずに仕立て上げた。

 

盤上には裸となった黒の厚みがあるのみ。ここからの逆転は難しいと悟ったのか、張岩は大きな身体を丸めて、『負けました。これほどまでの強さだとは』と言って項垂れた。勝った。2人はどうかな?

 

チラリと見ると鳴良が盤面で10目ほど勝っていた。もうヨセだしここから鳴良の負けはないだろう。新羅はどうかなと思ってみるとちょうど『負けました』と言って頭を下げているところだった。あらら、新羅は負けちゃったか。

 

「ま、負けてしまった。これでもう僕は本戦に出れないのか」

 

「私は勝ったよ」

 

「勝ったのか!?相手は序列八位の白棋士だというのにか!?だが、鳴良が勝たねば結局のところ負けになるのだろう」

 

「鳴良も勝ってるよ。ヨセで逆転されることはまずないと思う」

 

その時、鳴良も終局した。鳴良の六目半勝ちのようだ。これで二勝一敗、我々の勝利だ。

 

報酬を受け取り帰路に就く。新羅にも四個分の白神石をあげようとしたのに『負けたのにそんなものは貰えない』と断られてしまう。鳴良もいらないって。仕方ないから取り敢えず私が預かっておくね。

 

帰り道、新羅が『鳴良、今まで君を軽んじた態度をとって本当に悪かった。君は凄いやつだ。あの緊張感の中、白棋士相手に勝ち切り、星天の無茶振りに振り回されながらも耐え凌ぐ君に感銘を受けた。君のことを心から尊敬する』と涙を浮かべていた。鳴良も『俺の苦労をわかってくれる人がいてくれて本当に嬉しいよ』とじんわりした顔持ちで新羅の手を取った。2人が仲良くなれてよかったね。

 

あ、お風呂のことは周軒に『大きな湯船は基本的に妓楼にある。だから、風呂とは妓楼のことを指す場合が多い。妓楼とは男性が女性に会いに行くためのところで星天はこれ以上知るべきではないだろう』と言われた。男性が女性に会いに行くところ?なんかよくわからないがあんまり深掘りして欲しくないんだってことは察したのでまあいいか。取り敢えず大きいお風呂はないんだね。悲しい。

 

 





第36局 研究会
(別名:新羅の受難)

まともなのが鳴良しかいないから新しいいけに…常識枠増やしときますね!



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