【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第37局 葉簡

 

張教室で棋礼戦をしてからさらに三日経ち、本戦二日目となった。私達は本戦が行われる白礼堂へとやってきた。

 

私の今日の相手は婁宿藩の沈金と昴宿藩の半前だ。この1週間、2人の棋譜も研究したが沈金はとにかく地を稼ぐ棋風で半前は模様を重視する棋風だ。二人とも強そうだから対局するのが楽しみだね。

 

鳴良と新羅は今日は西都の人間と当たる。この白棋士試験を突破できるかどうかの重要な一戦となるだろう。

 

この三日間ずっと鳴良と新羅は『鳴良、次の二日目は西都の奴らと当たる。互いに頑張ろうな!』やら『その手は僕には思い付かなかったよ。流石鳴良だ!』やら『え、周軒様も星天の無茶振りを止めないの?鳴良、本当に大変だったんだな。これからは僕が力になるから』やら互いを励まし合っていた。なんか私よりも仲良くなってない?先に鳴良と仲良くなったのは私なのに。しっと。

 

鳴良と新羅の相手は私も一緒に検討したから知ってるが、かなり打てる二人だ。検討した碁はどれも激しい鍔迫り合いが行われていて一目を削り合う緻密な内容だった。絶対戦ったら楽しい相手なのに私は七組でも新羅のいる三組でもないから戦えない。つらい。こんな強い人が同じ会場内にいるのに戦えないなんてあんまりだ。なんで100人全員と戦わせてくれないんだろうね。私は全ての碁を味わい尽くしたいのに。

 

おそらく鳴良は勝つだろうけど新羅はかなり実力が拮抗している。どっちが勝つかわからない。

 

でも最近の新羅は落ち着いているから精神的な動揺で負けることはないんじゃないかな?『世の中にはどうしようもない理不尽があるのだから相手に研究されているかどうかなんて気にしてられない』って憂いを帯びた表情で言ってたからね、いい心構えだと思う。ところでいつの間にそんな酷い目に遭ってたの?

 

白礼堂に鳴良と新羅と入り、それぞれの自分の会場に向かう為に別れる。真っ白な石造の通路を歩いていると向こうから知っている人が歩いてきた。

 

「あ、葉簡」

 

「どうも星天。先日は不愉快な思いをさせて申し訳なかったですね。可楽様は失格となり参宿藩に帰ったのでもうご迷惑をかけることはないと思いますよ」

 

名前を呼ぶと向こうから話しかけてくれた。どうやら可楽はもう西都にいないらしい。それはよかったけど参宿藩に戻ったのも良くないよね?

 

「葉簡の家族に危害を加えると脅していたけど、可楽が藩に戻ったらまずいんじゃない?」

 

可楽は試合中、自分の勝利にしないと葉簡に酷いことをすると脅していた。藩に戻ったら報復をするのではないだろうか。西都で締め上げておいた方が良かったんじゃないかな。

 

「それなら大丈夫、というよりそれは星天のおかげで問題がなくなっていたというのが正しいですね」

 

にっこりと葉簡が笑う。私のおかげで問題がなくなったというのはなんのことだろう。心当たりが全くないのだけれど。あ、待って。もしかして周軒が何かしたのかな。『もうこのようなことがないように可楽にいい含めてくる』と言って目を吊り上げて何処かに行ってたもんな。たぶん周軒がこれ以上悪さしないように懲らしめてくれたのだろう。

 

「星天が参宿藩との棋礼戦に勝利して下さったおかげです。あまり大きな声では言えないですけど、おそらく倚楽様は参宿藩の藩主を罷免されることになりますね。元柑夫妻の件で派遣された検士が様々な不正の証拠を入手したらしく、皇帝もお怒りです。元々倚楽様には悪い噂がいくつもあったのですが、中々立ち入る口実がなく朝廷もやきもきしていたところに元柑夫妻の件ですからね。これで倚楽様の悪事も全て表沙汰になるでしょう」

 

『私の一族に手出しする余力などないと思いますよ』と葉簡がいう。違ったわ。なんと、まさかの残句との棋礼戦がきっかけで倚楽が藩主を首になるっぽい。派遣された役人の人が取り調べの最中に別の不正の証拠も見つけたからそれでお役御免になるらしい。あの戦いは奎宿藩の存続だけでなく参宿藩の命運までかかっていたんだね。でも検士が派遣されたのは周軒が命を賭けたおかげだから葉簡が救われたというならばやっぱりそれは周軒のおかげだよ。

 

「参宿藩はとても裕福な藩でした。藩内に金山がありそれを加工し倚楽様の人脈で売り捌く、人の往来が絶えず物の流通が盛んでした。幼い頃から全てを与えられた可楽様はあのような全てが自分の思い通りになると思い込むような性格になってしまったのです。星天には本当にご迷惑をおかけしましたね。でもおそらくあの人達が表舞台に出てくることはもうないでしょう」

 

静かに葉簡がそういう。うん、勝ちたいと言う気持ちは大事だけど不正はよくないから次は実力で勝ち上がってきてね。盤上の真剣勝負なら喜んで戦うよ。

 

そろそろ時間だから一組に向かった方がいいと言われたので葉簡にもう一度お礼を言ってその場を離れようとする。瞬間、声をかけられ引き止められた。

 

「あ、そういえば周軒様に剣技を使うなら往来はやめた方が良いと伝えておいて下さい」

 

『奎宿藩の藩主の息子が参宿藩の藩主の息子をズタボロにして泣かせていると言うのはあまり外聞がよくないですよ』といって葉簡が去っていく。ああ、うん。

 

しっかり周軒もやらかしているな。

 

 

 






周軒もやばい枠

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