【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第38局 生き方

 

白棋士本戦2日目、今日の勝負も私は2戦とも勝利した。沈金も半前もとても強くて倒しがいのある相手だった。棋譜の研究をしていったのはよかったよ。相手のことを知った状態で打つと、互いの手が噛み合ってより充実した内容の碁が打てるんだね。

 

特に半前との戦いは最後まで粘りに粘った白熱した勝負だった。互いに一手の失着がそのまま敗北に繋がるような複雑な内容で、相手からも緩めてたまるかという気迫が伝わってきてゾクゾクした。最後は相手の大石を殺し切って私が勝ったのだけれども。

 

ひとつの黒星がそのまま合否を別つ。本戦で戦う人は誰も彼もが真剣だ。ここは本気で本当の勝負ができる良い場所だね。この場所に来れて私は幸せだ。

 

半前との勝負は結構時間がかかった。皆はどうだったのかな〜と思って表に出ると新羅が鳴良に飛びついているところだった。

 

「鳴良!勝ったよ、西都の奴に僕は勝ったんだ!」

 

「よかったね新羅。俺も勝てたよ」

 

「鳴良も勝ったのか!これで僕らは2日目も全勝だな」

 

楽しそうな2人の話し声を聞いていると今日の勝負は勝ったらしい。私も勝ったよ。仲間にいれて。

 

「鳴良、新羅」

 

「ああ、星天。僕らは今日の試合も全勝したよ。君は?」

 

「私も全部勝った」

 

「やったな。これで僕らは3人とも全勝中だ」

 

嬉しそうに新羅が言う。皆で棋譜を研究したかいがあってよかったね。私も勝てて嬉しいよ。

 

今日の対局内容を見せ合おうという話になったので皆で宿に戻る。他の人の碁を検討すると自分では思いつかなかったような手を知れるからとても勉強になる。新羅の守りの強さや鳴良の繊細で細やかなうち回しは私にはないものだ。碁の打ち方は人それぞれで個性がある。だから面白いよね。

 

「星天の碁はとんでもなく激しいな。最後の一手まで殴り合っていて息つく間もない。この黒の大石を取れなければ君が負けている。相変わらず生きるか死ぬかの刹那的な打ち方をしてるな」

 

「鳴良の碁は細やかな打ち回しが綺麗だ。中盤まで差はないのに気付いたらヨセで10目以上得している。外から見ていてもいつの間に差が開いたのかわからない、魔法みたいな碁だね」

 

「新羅の打ち方は堅いね。相手に攻める隙を与えないことで、相手の厚みを無駄にさせている。この左辺のコスミは見事だと思う。これで凌げているなんて気付かなかった。防御は最大の攻撃っていう感じの碁だよ」

 

お互いの碁を並べて感想を言って、この手は良いだの悪いだの、この手の方が良いじゃないだの検討をする。検討してご飯食べてまた検討して、結構良い時間になった。6局もあると検討も時間がかかる。

 

「そろそろ休むか」

 

「明日はまた七日後の対局者の碁を検討したいな」

 

「あと、それからまた六財商の会の碁会所に行きたいね」

 

検討も大事だけど、でもやっぱり勝負はしたい。強くなる為に検討して勉強はするが、勝負こそが全てだ。戦わずして生きているとはいえない。

 

そういうと鳴良と新羅がピシリと固まった。なんでだろう?明日は一日中勉強したかった?それなら明後日にすることも考慮はするよ。

 

「星天、六財商の会の碁会所に行くということはこの間みたいな棋礼戦をしにいくということか?」

 

「そうだよ」

 

「何故そんなことをするのだ。勝っても得られるのは今の僕らには必要のない白神石だけだろ?その為に本戦の出場権を賭けるのか理解できない。君にとって白棋士になることはそれほどまでに軽いことなのか?」

 

ちょっと怒ったように新羅がいう。白棋士になることを夢見る新羅にとって本戦の出場権を賭けることは白棋士になることを軽んじているように思えるのかもしれない。

 

でもそんなことはない。むしろたったひと枠の上戦への権利を勝ち取る為に、皆が歯が欠ける程食いしばり目が血走るほど盤上を凝視するこの本戦を私は今何よりも楽しみにしている。誰もが真剣で全力だ。これほどの熱量の勝負は今現時点で何処にもないだろう。

 

「私にとってこの本戦は何よりも大切だよ」

 

「ならば何故そんなに簡単に賭けることができるのだ。僕は前回の本戦のことを今でも夢に見る。あと、一勝、たった一勝で白棋士になれたのだ。今年は絶対に白棋士になる。本戦の権利は僕にとって何物にも代え難い大切なものだ。軽んじていないというならば何故それを賭けるのだ?」

 

「大切だからこそ賭けるんだ」

 

絶対に失えない物だからこそ天秤に載せる。そうすればその勝負は何がなんでも負けられないものになる。自分の全てを振り絞った、命の限りを燃やし尽くした最高の一局が打てる。

 

それが私にとって生きるということなのだ。

 

「退路がないから前だけを向いて戦える」

 

『自分の全て賭して戦えるなんてこんな幸せなことはないよ』というと『生き方も刹那的なのか』と唖然とした顔で新羅がいう。未来なんてわからないものだからね。今を生きられればそれでいいんだ。

 

取り敢えずその場は納得してもらえたようだが新羅と鳴良と周軒はその後も何やら話し合っていた。皆がどう生きるのかは知らないが私の生き方は変わらないだろう。

 

死に方は選べないかもしれない。だから精一杯生きていたいのだ。

 

 

 





次回から新しい章始まります。
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