【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第41局 快燕

 

「それでお前達はお客様か?それとも何か別の用で来たのか?」

 

片手を腰に当て、緩い姿勢で快燕が尋ねてくる。用件はひとつしかないね。勝負をしに来たのだ。

 

「碁を打ちに来たの」

 

「花院楼は碁が打てることを売りにした妓楼だからそれなら客だが、君が打ちに来たのか?」

 

「そうだよ」

 

「もしかして、君は星天か?」

 

名前を言われて驚く。快燕とは初対面なのにどうして私の名前を知っているのだろう。

 

「なんでわかったの?」

 

「そりゃ今西都は君の話題で持ちきりだからね。白髪で黒い瞳の女の子が白棋士本戦全勝して、おまけになんでかわからないけど六財商の会に喧嘩を吹っかけているっていう話は有名だな。財全、怒ってたぜ。『これまで長い時間かけて準備していた計画を意図のわからない奴らに狂わされている』ってね」

 

快燕が楽しそうに教えてくれる。え、私って西都で有名なの?そういえば勝敗が張り出された掲示板前でも私の噂をしてた人がいたね。名前を知られているというのには納得した。

 

でも財全の計画とやらをぶち壊した記憶はない。六財商の会と碁を打ってただけです。そんな計画は知らないですね。

 

「財全の計画って何のこと?」

 

「んー、国の変革かな。あいつは凛刹を下して序列一位になって、政治的実権を握りたいと思っているんだよ」

 

軽い口調で快燕がいうが内容はとっても重い。碁を打ちたいなって話をしてただけなのに政権とか急に大きな話になったね。

 

「財全は今の白棋士のあり方が嫌いなんだよ。だから六財商の会ってのを作ってどんどん西都中の商会取り込んで一大勢力となって、政治的にも無視できない存在を作り上げた。これでさらに凜刹に棋礼戦を仕掛けて首輪でも付けられたら財全はマジで政権を握るだろうな」

 

「そんな壮大な話に関わったことないよ?」

 

「六財商の会を潰しまくっているだろ?あれが効いている。いざという時は六財商の会の白棋士が棋礼戦を受けてくれるのが売りで皆高い上納金を払っているのに、こんな可愛らしい女の子に連戦連敗っていうなら信用ガタ落ちだ。現に六財商の会から商会の脱退が相次ぎ、好意的だった貴族も日和見し始めている。そりゃ財全の血管もブチ切れるぜ」

 

『せっかく凛刹がいない時を狙って仕掛けたっていうのにびっくりするほど財全の計画は上手くいってないな。まあ日頃の行いが悪いんだろう』と快燕がケラケラ笑う。話によると私が六財商の会に勝負を挑んでいたせいで力が落ちているらしい。あちゃー。

 

「まあでも君が気にすることはないさ。六財商の会はヤバいこともしてるっていう噂もあるし喜んでいるやつも多いよ。それで、星天ちゃんの目的はなんなんだ?実は凛刹側の人間だったりする?」

 

「財全と勝負したい」

 

「え?えー、それだけ?それだけの為に六財商の会に勝負を挑んでいるの?」

 

「そうだよ」

 

『それは財全も堪らないだろうな』と快燕が笑う。なんかよくわからないけど私が六財商の会に勝負を挑んだことで財全はちょっと困ったことになっているらしい。うーん、でもたとえ過去に戻れたとしても勝負できるなら戦っちゃうな。勝負は私の生きる糧だ。

 

止めたいなら止めにきてよ。私はずっと待ってるからね。

 

でも今の関心はやはり目の前にいる快燕だ。せっかく序列四位の白棋士が目の前にいるのに戦わないなんて選択肢はないよね。

 

「貴方と戦いたい。勝負しよう快燕」

 

「俺と?わー、こんな可愛い女の子に打ってもらえるなんて嬉しいな。うんうん、じゃあ打とうか」

 

快燕がにこやかに承諾する。今まで強い人と碁を打つには条件がついたりそもそも戦えなかったりしたからこんなにあっさり受けてもらえるのは初めてだ。やった、序列四位の快燕と戦えるね!

 

だけども次に言われたひと言に凍りつく。

 

「置き石は何個がいいかな。2つでも星天ちゃん強そうだし俺負けちゃうかもね。星天ちゃんの(せん)にしようか」

 

言われた言葉に身体が固まる。(せん)とは黒が六目半のコミを払わなくて良い打ち方のことだ。棋力差がある時に行われるハンデのことである。

 

つまり快燕は私のことを対等な相手と見ていないのだ。

 

「私は貴方に真剣に戦って欲しい。白神石を賭けて勝負しよう。私の持っている白神石33個を全て賭けるよ」

 

「えー、ごめん。俺、女の子は殴らない主義だから星天ちゃんと本気で戦えない」

 

困ったように快燕が目尻を下げる。ピシャ!とつむじに雷が落ちたような感覚になる。

 

え、女の子だから真剣に戦ってもらえないの?どうしよう。困った。この世界では『女だから〜』ってさんざん言われてきたけど女で本当に困ったのは初めてかもしれない。

 

「女の子に遊んでもらうのが好きなんだ。だから、星天ちゃんと打てるのは嬉しいんだけど、真剣勝負か。うーん」

 

「だめ?」

 

「うん、たぶん星天ちゃんと同じ熱量を返してあげられない」

 

『ごめんね?』と両手を合わせて謝る快燕にショックを受ける。フラれた。そっか、私フラれたんだ。

 

あまりの衝撃にガックシと肩を落として項垂れていると快燕が焦ったように話しかけてくる。

 

「え、そんなに俺と真剣に勝負したかったの?」

 

「うん」

 

「そっか。じゃあ星天ちゃんが白棋士になったら真剣に戦うよ」

 

いわれた言葉に希望が見えて思わず顔を上がる。え、私と真剣に勝負してくれるの?

 

「君が上位棋士、序列五位になったら序列戦をしよう。その時は俺も真剣に戦うよ」

 

「私が白棋士になって序列五位になったら真剣勝負してくれるの?」

 

「もちろん」

 

その時ギラリと快燕の目の奥が光る。笑顔は変わらず穏やかなのに目の奥に燃え盛るような炎色が見える。緩い感じのお兄さんだと思ったけどこの人は序列四位の白棋士だ。強者の中で勝ち抜いてきた人なのだ。

 

「白棋士として君を迎え討つ」

 

背中が粟立つ。込められた闘気に身体が射抜かれゾクゾクとした感覚が身体中を伝う。

 

そうだよね。戦う舞台は整っていた方がいいよね。白棋士になって同じ立場になってから勝負を挑むよ。

 

その時になったら逃がさないから。

 

「納得した?」

 

「うん、した」

 

「じゃあ、俺は別の店のお姉さんに遊んでもらうからもう行くねー!あ、この店の()達もいい子だからお兄さん達は是非遊んであげてねー!」

 

『またね!』と行って快燕は行ってしまった。軽い感じの人だったな。でも囲碁はきっと強いのだろう。快燕が教えたお姉さんが新羅に勝っているのだから。

 

取り敢えず花院楼のお姉さんに遊んでもらおう。皆碁が打てて強いんだよね?楽しみだな。

 

 

 





星天、失恋するの巻

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