第45局 後半戦
馬車に揺られて1日かけて西都に戻ると西都も華樂街に黒獣が現れた話で騒めいていた。『華樂街に黒獣が現れたらしいぜ』『華樂街って言えば西都からすぐ近くじゃないか』『西都にも黒獣が現れるかもしれない』と言う声が飛び交う。
宿に戻っても『あの、お客様方は華樂街に行っておられたのですよね?黒獣が出たのは本当なのですか?』と女将さんが聞いてくる。
『本当だ』と周軒が答え、ズタボロの方淡が登場すると『この国はどうなってしまうのでしょう』と青ざめていた。黒獣が現れてからとんでもないことになってる気がする。
取り敢えず黒獣に襲われたのと馬車に揺られて疲れ果てたので私も鳴良も新羅も泥のように眠った。周軒だけは『西都の軍部に詳細を話してくる』と言って出かけて行った。周軒は働き者だね。
寝て起きてご飯を食べて疲れを癒してたら、本戦3日目が始まる日になっていた。新羅と鳴良が話し合っている。
「下手したら今年の白棋士試験はなくなるかもしれないな」
「なんか荷造りしている人もいるし西都から出ていこうとしている人達も結構いるよね。やっぱり黒獣が近くに出たってかなり怖いよなあ」
2人の話を聞いて驚く。え、白棋士試験が中止されるかもしれないの?確かに近隣の街に人を襲う獣が大量に現れたら逃げたくなるのもわかる。でも白棋士試験がなくなるの?えー。
もしそうなったらどうしよう。しょうがないから六財商の会の碁会所巡りする?あ、でも人がいなくなったら碁会所もなくなっちゃうのかな。え、つらい。明日から私はどうやって生きていけばいいのだろう。
「取り敢えず、いつも通り白礼堂に行こう。対局があるにしてもないにしてもそこで告知が行われるだろう」
「そうだね。星天も行こうか」
「うん」
新羅と鳴良と周軒とあと護衛の皆と白礼堂に向かう。いつもは人がごった返している白礼堂の前が今日は閑散としていた。やっぱりあの人混みのほとんどは野次馬で関係ない人達だったんだ。今日は必要な人がここにいるって感じがする。
鳴良と新羅と中に入る。いつもはいきなり一組の部屋に行くように言われるのだけど今日は広間に集まるように言われた。最初にルール説明を聞いた部屋だ。
ガヤガヤと周りの人の話し声がする。やはり話題は黒獣のことだ。皆ずっとそのことを気にしている。
やがて時間になったのか、後ろの扉が閉められ壇上に銀色の髪に眼鏡をかけた男性が上がった。財全だ。財全はゆっくりと話し始めた。
「静粛に。これから白棋士試験についての正式な対応を述べる。一度しか言わぬので聞き逃さないように」
よく通る声で財全が話をすると周りの騒めきが止んだ。皆財全の話に耳をそば立てている。
「まず、多くの者が知っているだろうが華樂街に黒獣が現れた。そのことで白棋士試験がどうなるか様々な憶測が飛び交っているようだが、単刀直入にいう。白棋士試験は継続する」
瞬間、広間がザワッと動揺が走った。『え、白棋士試験なくならないの』『中止かと思ってた』と声が聞こえてくる。意外とみんななくなると思っていたっぽい。
「静粛に。騒ぐな。鬱陶しい。二度は言わんと言ってあるだろうが。聞き逃しても知らんぞ」
財全がそういうとピタリと喧騒がやんだ。話を聞き逃さないようにと言うよりは財全が怖くて黙ったって感じがする。皆顔が強張っているし。
「私にしてみれば試験が無くなると思っている奴らがいること自体が心外だ。本戦をしようがしまいが黒獣は出る時は出る。止めてどうするのだ。我々の行動はそのことに何の影響もない」
淡々と財全がいう。すっごく合理的な意見だ。白棋士試験の存在は黒獣の出現に関係ないのだからそれならやった方がいいだろうといっている。私も碁が打ちたいから賛成だね。是非とも試験は継続しよう!
「この中には黒獣が出たこの土地から、出来るだけ遠くに離れたいと考えている者もいるかもしれない。だが、お前達が逃げた先の土地に黒獣が出ないという保証もない。無駄な考えは捨ててお前らはお前らの仕事をしろ。仕事とはつまり勝つことだ」
棋士の仕事は勝負に勝つことだ。黒獣のことをどうこう考えても確かに私達には何もできないし財全のいうことはもっともな気がする。
「黒獣のことは国軍がなんとかする。おそらく今年も四国合同で黒天元に対する共同戦線が張られるだろう。その時の四軍を束ねる総師を決めるのは四神戦、つまりは我が国の白棋士の力だ。お前達が弱いと他国に主導権を握られるぞ」
なんか大きな話が始まった。えっと、黒天元っていうのはなんかおっきな黒地点だって前に周軒が言っていた気がする。つまりは黒獣がたくさんいるところか。そこに四つ国で戦いを仕掛けるんだけど、何処が主導権を握るのかを四神戦で決めるのだと。四神戦ってすごく大事な戦いなんだね。
「黒獣のことは軍の脳筋どもに任せておいてお前達は碁を強くなれ。それが国の為になる」
はっきりとした口調で財全が言い切る。周りを見てももう不安そうな顔をしている人はひとりもいない。皆が今自分のすべきことを自覚したのだ。試験を突破し白棋士になってこの国の為に戦う。それが白棋士の役割なのだ。
「だが、我々も今の状況が平時とは違うことを理解している。長々といつまでもこの試験に時間をかけるつもりもない。よって、予定を繰り上げ本戦は三日で終わらす。今日、明日、明後日の三日間で全ての試合を消化するのだ。同勝利数による再戦があった場合には四日目に執り行う。文句はないだろうな。あったとしても聞くつもりはない」
ばっさりと財全が言い切る。急にハードスケジュールになったね。一日二戦、三日で六戦も魂が削るような真剣勝負を行わなければならない。だけども文句などあるはずがない。毎日こんな真剣勝負ができるなんて喜び以外の感情が湧いてこないな。財全ありがとう。私全部真剣に戦い抜いてくるね。
『時間が無駄だからさっさとそれぞれの対局部屋に行け』と財全に広間から追い出される。さあ、これからが本番だ。誰もが財全の激で気合いが入っていることだろう。
そんな相手と戦えるなんてやる気が出てくるね。