【書籍化】『星天』   作:空兎81

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更新遅くなってごめんなちゃい。





第46局 本戦三日目

 

鳴良と新羅と別れて一組の部屋に向かう。部屋に入ると茶色の服を着た人に席に案内された。

 

対戦相手はもう先に席についていて私のことを親の仇敵(かたき)のように睨みつけてくる。本日の相手は甲汶(こうぶん)、確か畢宿藩出身でここまでの成績は三勝一敗だ。彼が本戦を抜ける為には全勝の私が何処かで必ず負けなければならない。何処かと言わずここで負けさせたいだろう。つまりこの一局は絶対に負けられない戦いのはずだ。

 

椅子を引いて席に着く。射抜くような鋭い眼光からは殺気すら感じられる。私が女だからとか、そんなことは関係ない。相手を殺そうとする強い意志を感じる。

 

待ち望んでいた勝負だ。だけど何故か落ち着かない。ドキドキして平常でいられない。

 

握って私が先番、黒だ。『お願いします』と互いに挨拶をして一手目を打つ。

 

パチッと石を打った瞬間、身体が痺れる。なんだろう、この感覚。身体の奥から何かが湧き上がり衝動を抑えきれない。

 

気持ちが(はや)る。早く、早く次の一手を打ちたくて堪らない。

 

相手が打つのと同時に次の手を打つ。すると私に釣られて相手も早打ちになる。互いの砂時計の砂はほとんど落ちていない。待ち時間を使い切った終盤のように互いにノータイムで打ち合う。

 

たぶん、私は不安だったんだ。黒獣に出会って死を感じた。国の一大事に囲碁を打つ場がなくなるかもしれないと恐怖した。

 

この盤上に居場所を感じる。やっと私は自分のいるべき場所に帰ってこれたのだ。

 

燃え上がる激情を盤上に叩きつける。相手も必死に喰らい付いてくるが、それでは一手足りない。私の喉元を掻っ切るには一歩及ばない。

 

盤上では黒と白の石が攻め合っていた。一手差、それで黒は攻め合いに勝っていた。

 

甲汶がグッと唇を噛み締める。顔が真っ赤に染まり心なしか瞳が潤んでいるように見えた。

 

ここから逆転の手はない。勝敗はついている。甲汶はこれで三勝二敗、今年本戦を突破する目はほとんどないだろう。

 

甲汶の白棋士試験は終わったのだ。

 

『……ありません』といって甲汶は頭を下げた。片付けをし席を立つ。

 

甲汶は俯き項垂れて身じろぎをしない。雫がポトリと零れ落ちた。

 

背を向け次の対局に向かう。かける言葉はない。だって、お互い全力だった。全てを出し切った勝負だった。

 

骸になるのは私だったかもしれない。だから敗者にかける言葉はないのだ。私が負けた時もそれでいい。

 

その代わり、勝者である限り後ろは振り向かない。

 

 

二戦目の対局も早打ちをしてしまった。とにかく打ちたい。打ち続けたいという衝動を抑えられない。

 

碁を打てなくなるかもしれないという焦燥感がこんなにも私を不安に掻き立てるとは知らなかった。もうたぶん、私は囲碁がない世界では生きていけないな。囲碁のある世界に転生できてよかった。

 

力が入っていたけどいい碁は打てた。右辺の戦いを制し相手は投了した。よし、今日も二勝できたね。明日と明後日の戦いはいよいよ西都の棋士との対決か。楽しみだな。

 

対局が終わったので白礼堂の外に出る。相変わらず人がまばらで今までの混み具合からは考えられないほど、掲示板前は閑散としていた。あ、でも人が少ないから周軒が見つけやすいね。おーい。

 

「やけに早く終わったんだな」

 

「うん。碁が打ちたくて仕方なくて早打ちしちゃった」

 

掲示板を眺める。すると新羅も鳴良も一戦目は勝っていた。あ、鳴良の一戦目って確か西都の人じゃなかったっけ?なんか今年の白棋士候補大本命の博文って人。勝ったんだ。やったね、鳴良。

 

時折掲示板が更新される。あ、新羅勝った。鳴良も勝っている。今日も全員全勝だね。

 

しばらくするとパラパラと出てくる人に紛れて鳴良と新羅の姿があった。

 

「今日もなんとか勝てたよ。星天は?」

 

「勝ったよ。鳴良も新羅も勝ってたね」

 

「普段から突発的な災害に見舞われていると有事にも平常心でいられるな。いつも通りの力を出しきれたよ」

 

満足そうに新羅がいう。突発的な災害って黒獣に襲われたこと?でも普段からってどういうことなんだろう?新羅って日常的に大変な目に遭っているのだろうか。

 

詰め込み日程になったせいで明日の対戦相手を研究する時間はないだろう。でもそれは相手も同条件、ここまできたら自分の力を最大限出し切るしかないだろう。

 

それでも対戦相手は誰か知りたいね。えっと、対戦表も掲示板に貼り出してあるから見ればわかる。

 

明日の相手は觜宿藩の乱鴉(らんう)と西都の、あ。

 

回恢だ。以前、福々堂の件で棋礼戦をした回恢だ。同じ一組だったんだね。えっと、回恢の成績は小嵐って人にだけ負けているけど五勝一敗か。まだまだ本編突破の可能性のある戦績だね。

 

ということは向こうは真剣だ。真剣に全力で私を倒しにくる。前回の福々堂との棋礼戦でのリベンジもあるだろうし、回恢がどんな戦略をとってくるか楽しみだね。

 

鳴良のいる七組では全勝は鳴良だけで首位独走だ。七組を勝ち上がるのは鳴良になりそう。

 

三組は新羅ともう一人全勝がいる。五勝一敗もいるし中々混戦しているな。新羅の明日の相手がその全勝の楊丘だ。新羅が白棋士になれるかは明日が天王山って感じだね。

 

正直、今日は碁が打ちたくて打ちたくて堪らない日だけど、明日も勝負があるから大人しく宿屋に帰る。新羅と鳴良と軽く今日の碁を検討して宿屋の人に用意してもらったお風呂に入って早めに休む。

 

いよいよ白棋士本戦もあと三戦、誰が勝って負けてどうなるか、すごく楽しみだね。

 

 

 

 

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