【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第49局 激怒

 

急いで一組の部屋に戻る。すると慌てたように白棋士の人が駆け寄ってくる。

 

「何処へ行かれていたのです、星天。もう次の対局は始まって、ってうわあっ!!どうしたんですかその血は!!!」

 

「私の血じゃないから大丈夫」

 

「それはよかったですけど、なんで血まみれなんです!?」

 

「誘拐されそうになって抵抗したらこうなった」

 

はわわわっと言って動揺している白棋士の人は置いといて辺りを見渡す。いた、回恢だ。なんかニヤニヤ笑ってない?え、もしかして不戦勝になるかもしれないと喜んでいる?えー、そんな戦わずに勝利を得ても満足感も達成感もないんだから私とちゃんと真剣勝負しようよ。

 

急いで席に向かう。

 

「待たせて悪かったね。さあ、勝負を始めようか」

 

椅子を引き席に着く。瞬間、回恢の顔からニヤついた表情が消え、ピシリと固まる。

 

「はああああっ!??星天!?なんで、ここにいるんだよ!?」

 

回恢は明らかに動揺しており、不自然なほど狼狽えていた。遅れてきたのは悪かったけどそんなに驚くことある。なんか変な気がする。

 

瞬間、ピンときた。

 

ひょっとして、回恢は私が石真に誘拐されていたのを知っていたのじゃないだろうか?

 

対局者が血塗れで遅れてきたのに第一声が『なんでここにいる?』はおかしいよね。回恢の驚きは私がここにいることへの疑問に重きが置かれている。私が戻ってきたのに驚いたと言うならば石真の行動を知っていた以外理由はないだろう。

 

「知っていたの?」

 

「な、何をだよ」

 

回恢は答えない。だけども私の中ではすでに確信に変わっていた。回恢は私が誘拐されたことを知っていたのだ。対局者がこないと思っていたからこそ私が来たことにあんなにも驚いたのだ。

 

怒りが身体の底から湧き上がった。

 

回恢がこの悪行の考案者なのか、ただ計画を知っていただけの立場の人なのかまではわからないが、知っていたと言うだけで既に許せる物ではない。たぶん、石真は私を殺そうとしていた。つまり回恢は私を見殺しにしたのだ。

 

回恢がどういうつもりだったのかはわからない。ただ勝利が欲しかったのかもしれない。私が憎かったのかもしれない。

 

だけど殺すなら盤上で殺せ。貴方のしたことを私は許しはしない。

 

白棋士が来た。さっき血まみれの格好で来た私に驚いた人だ。

 

『せ、星天は遅れてきたのでその分待ち時間を減らさせてもらいます。あと本当に大丈夫です?』と言われたので頷く。早く対局を始めたくて仕方なかった。

 

ジャラリと石を握って先攻後攻を決める。私が黒、先攻だ。

 

挨拶をする。準備は整った。あとは盤上に全てをぶつけるだけだ。

 

「ねぇ」

 

「な、なんだよ」

 

回恢の声は震えている。悪事がバレたかもしれないと震えているのかもしれない。ひょっとしたら少しくらいは後ろめたい気持ちもあるのかもしれない。

 

でももう遅いよ。許さない。

 

「今から貴方を殺すよ」

 

この盤上で息の根を止めるのだ。

 

そこから全く勝負にはならなかった。回恢は平常ではいられなかったのか終始腰が引けていた。一手に重みがない。これなら棋礼戦の時の方が強かった。

 

だけども容赦をするつもりはなかった。全力で(あなた)を殴り抜く。一切躊躇いもなく命を奪った。

 

可楽のせいで不正に対する私の沸点は低くなっていたと思うけど、それでもこれは本当に許せなかった。私は今怒っている。怒りに任せて囲碁を打っている。

 

激情が身体を突き抜けた。

 

盤上は焦土と化した。白の石は死に絶えず地も僅かな物しかない。ひと目で形勢がわかるほどはっきりとした決着だった。

 

『ま、負けました』と小さな声で回恢が投了する。白棋士が勝負を記録しこの結果は不動の物になった。

 

席を立つ。勝ったけれど身体はカッカしたまんまだった。私の命を奪おうとしたこと、それで勝利を得ようとしたこと、たぶん私はこのことをずっと許せないだろう。

 

「貴方なんて大嫌い」

 

席を立ち廊下を小走りで進み外に出る。鳴良も新羅もいた。2人とももう勝負は終わったらしい。

 

「あ、おかえり星天。星天も勝ったみたいだね、って、ええええーーっ!???えっ、血!?うそ、星天大丈夫!??怪我したの!?」

 

三人の元に行くと血だらけの私を見て鳴良が絶叫する。新羅と周軒も驚いた顔をしている。

 

「な、なんだそれは星天!大丈夫なのか!?」

 

「何があったんだ!?」

 

三人が心配そうな顔でこちらを見てくる。うー、聞いてよ皆。酷い目に遭ったんだ。

 

「怪我はないよ。誘拐されそうになったから対抗して相手の腕に噛みついたらこうなった。服汚れちゃったね」

 

「服などいくら汚れても構わないが、誘拐とはどういうことだ?」

 

取り敢えず三人に事の詳細を話す。六財商の会の石真って人が財全の為に私を排除しようとしたこと。捕まったけど噛み付いて逃げようとしたこと。柑斗が助けてくれたこと。あと多分回恢はこのこと知ってたのに黙っててムカついたこと。などなど。

 

「六財商の会が最悪すぎる。そんな酷いことしてくるんだ」

 

「いや、聞いている限りその石真って奴の独断に思えるな。同じ六財商の会の柑斗って人は助けてくれたのだろう?」

 

「許せん。この件は藩を通して訴えを起こしきちんと処罰されるように働きかけよう。また、このようなことが二度とないように運営側にも話を通して、星天の身に危険が及ばないように安全を確保させる」

 

『河崔、星天達の護衛を頼む。私は行くところがある』と周軒がいう。闇討ちかけるならバレないようにしようね。また、葉簡に怒られるよ。

 

皆が心配してくれてちょっと落ち着いてきた。石真と回恢に対しても何かしらの罰が下るように藩から働きかけてくれるらしい。それならよかった。回恢はボコボコにしたしちょっとは気が晴れたかな。

 

肉体的にも精神的にも疲れただろうと宿に連れてかれる。好物がたくさん出てきた。お風呂も入れてもらった。ほっこりする。

 

落ち着いたので鳴良と新羅の今日の戦績も聞いてみた。鳴良は今日も全勝で七組単独首位らしい。明日の勝負に勝てば何の条件もなく本戦突破となる。

 

新羅は楊丘には勝ったけどもうひとつの試合は負けてしまって、一勝一敗だったらしい。聞くと二目半負けという細かな勝負ですごく悔しがっていた。楊丘も七勝一敗だから二人とも勝てば延長戦となる。『明日だ!明日はこの負けをけして引きずらないぞ!』と新羅がメラメラ燃えていた。頑張ろうね。明日は本戦最終日だ。

 

周軒は外が暗くなってから戻ってきた。『もう星天を脅かす者はいないから安心して明日の対局に望んでくれ』って言われたんだけど、なんか周軒の服が汚れている気がする。またやらかしたのか。まあいいか。

 

なんか今日は色々あり過ぎたけど、いよいよ西都で一番強いという小嵐と戦えるんだよね。楽しみだな。

 

 

 





激おこぷんぷん星天
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