第51局 上戦
「勝負は星天の勝利で記録しました。本戦突破おめでとうございます」
『では行きましょうか』と言って私についてくるように怕蓮が促す。何処へ行くつもりなのだろう。まあでも怕蓮なら私を建物の奥に連れて行って、『お前を白棋士にするわけにはいかん!』とかなんとか言って襲いかかったりしないよね。信用はしているけど単純にどこに行くのかは知りたいから行き先は聞いておこう。
「どこに行くの?」
「最初の広間ですよ。本戦を突破したのでいよいよ最後の試験、上戦の内容について説明がなされます」
怕蓮は普通に教えてくれた。そうか、白棋士試験は選定、本戦、上戦の三段階あるんだったね。これから最後の試験、上戦が始まるからその説明をしてもらえるらしい。
怕蓮に連れられ広間に向かう。そこには数人の人間が立っていて見知った顔もあった。
「あ、鳴良と新羅」
「星天!ここにいるってことは星天も本戦を突破したんだ」
「まあ、お前は勝ち上がると思っていたがな」
名前を呼ぶと二人も答えてくれる。そうか、ここにいるってことは二人も本戦を勝ち上がったということなんだ。
「二人とも勝ったんだね」
「うん、なんとか」
「僕が勝って楊丘は負けたから本戦突破となった。君達みたいに全勝で突破できなかったのは悔しいが、去年の雪辱を果たすことができて良かったよ」
満足そうに新羅が言う。去年はあと一歩というところで本戦を抜けられなくて悔しい思いをしたのだから、今年は勝ててよかったね。
しばらくすると扉が閉まり壇上に人が上がる。財全だ。最初の頃から比べると随分と減ってしまった棋士達を前に財全が話し出す。
「数多くの強敵を倒しよくぞここまで来たな。まずは祝意を示そう。だが、お前達の試練は終わってはいない。最後の上戦は合格者が一人も出なかった年もある程の難関だ。お前達に気を抜いている暇などない」
財全がそういうとピシャリと空気が引き締まった。それまで『本戦突破できて良かった』みたいな緩んだ雰囲気がちょっとあったのに、一切合切綺麗になくなった。
「上戦の規定について話す。一度しか言わないので聞き逃さぬように。上戦では現白棋士と戦うことが試験内容となる。勝てば晴れて白棋士だ。これから白棋士になろうとするお前達は、当然白棋士に勝てる力を持っていなくてはならない」
淡々と財全がそういう。これはびっくり。上戦の試験内容は白棋士の誰かと戦うことらしい。確かに白棋士になるなら白棋士に勝てる実力がないとダメよね。
「相手はこちらで選定する。明日、掲示板に貼り出すので各自確認するように。対局が行われるのは三日後だ。相手が手心を加えてくれるとは思うなよ。お前達が仮に白棋士になった時、最初に手にする三つの白神石は対戦相手の白棋士から支払われる。相手も当然本気でお前達に向き合ってくるだろう」
財全の言葉に対戦相手の白棋士も真剣にならざるを得ない仕組みになっているんだな、と感心する。白神石は白棋士にとって大切な物だ。それがこの上戦に負けたら三つも奪われるとなれば向こうも必死になって勝ちにくるだろう。勿論、一万人近い参加者の中からやっとの思いで勝ち抜いてきた受験者達だって死に物狂いだ。上戦は一戦だけのようだが、他にはない濃密な一局が打てそうだ。
ルールはわかったしもう説明は終わりかな?と思って壇上を見ると財全と目が合った。人数が少ないからよりはっきりと財全が私を見ているのだと確信が持てた。
「いい加減けりをつけるぞ。俺の手を煩わせ続ける鬱陶しい
それだけいうと財全は壇上を降りて出て行った。ちらりと皆がこちらを見てくるのを感じる。うん、私の対戦相手は明日にならなくてもわかったね。やっと、やっとだ。待ち望んでいた戦いができるのだ。
私の上戦の相手は財全だ。
「出ましょうか。お話がありますが、ここでは話しにくいですね」
怕蓮がそう言うので皆で外へ向かう。白礼堂を出ると周軒が笑顔で出迎えてくれた。
「おめでとう、星天、鳴良、新羅。奎宿藩の者で本戦を突破したのは十年振りのことになる。藩を代表して礼を言おう」
「おめでとうございます、周軒殿。申し訳ありませんが、星天のことでお話がありますので、お時間頂けますか?」
「また何か事件に巻き込まれたのですか?」
「そうですね、次の上戦のことでお伝えしなければいけないことがあります」
こんな人の往来で立ち話もなんだしということで、近くの茶屋に入ることになった。周軒パワーか怕蓮権力か私達が通された部屋は個室だった。偉い人とお店に入ると良い席が用意されるんだね。
皆でお茶を頼む。ついでに小腹が空いたからお菓子食べたいな。あ、月餅がある。これにしよ。
注文したものはすぐに届けられた。お茶をひと口飲み落ち着くと怕蓮が話を切り出す。
「単刀直入にいいましょう。星天の上戦の相手は財全です」
話されたのは予想していた内容だった。やっぱり私の対戦相手は財全なんだ。そうだと思っていたけどこうして確定すると嬉しいね。わーい、財全と戦えるよ。
「上戦の相手は序列十位の白棋士ではないのですか?」
「慣例ではそうですし、序列三位が上戦に出たという事例もありません。しかし、財全は『上戦に出場する白棋士は序列十位でなければならないなんて文言はどこにもないぞ。それに向こうが売ってきた喧嘩を買ってやっただけだ。文句なら本人に言え』と全く取り合いません。このままでは星天の相手は本当に財全となるでしょう」
深刻そうな顔で怕蓮がいう。んん?今の話のどこに問題があった?財全と戦えてハッピーエンドなんだけど。
「星天、貴方がこの組み合わせを不当だと思うのであれば私は力を貸しましょう。本来の慣例である序列十位の誰かと対戦するように取り計います」
「え、財全と戦いたいからこのままがいい」
序列十位の誰かと戦いたくないことはないが、それでも選べるなら当然戦いたいのは財全だ。西都来てからずっと、ずーっと戦いたかったのだ。ここまで来るのはすごく大変だった。この貴重な機会を逃したくない。
「本当に良いのですか、星天。貴方の実力は知っていますが、それでも財全に勝つのは難しいでしょう。せっかく白棋士になれるだけの実力があるのにその機会を失うのは惜しくないのですか?」
「大切なのは強い人と戦うということ、それだけが私の願う事だ。財全と戦えるこの貴重な機会を手放したりしないよ」
強い人と戦いたいから白棋士になるのであって、白棋士になる為に戦うのではないのだ。
白棋士でないと戦えない人もいる。序列四位の快燕は上位棋士相手じゃないと真剣勝負はできないと言っていた。
序列一位の凛刹や他の白棋士だって、白棋士同士でないと戦ってくれないかもしれない。強い人と真剣に勝負をする為に上を目指し続けている。だから、
「怕蓮、貴方とだって戦いたいと思っている」
序列五位である貴方と本気で戦いたいと思ってるよ。
怕蓮は一瞬呆気に取られたようで、唖然とした様子で固まる。だけども少しずつ表情がほぐれて仕方なさそうに笑った。
「そうでしたね、貴方は囲碁の為に生きているんですものね」
『財全にも了承が取れた旨を伝えておきます』と怕蓮がいう。うん、是非とも言っておいてね。あと、怕蓮と戦いたいのも本当だから白棋士になったら絶対に序列戦をしようね。
『伝えるべきことを伝えたので私は失礼します』と怕蓮がいう。私達はどうしようか。あ、待って。このお品書きの絶品杏仁豆腐って食べてみたい。これ食べてから出ようよ。
「そういえば鳴良の上戦の相手はうちの来生になりますので、よろしくお願いしますね」
「えっ、ちょっ、俺の上戦の相手来生なの!?あの新進来生?まじで?嘘でしょ!!??」
「うちのって?」
「来生は私の弟子です。来生が星天に棋礼戦を挑んだのは私が貴方のことを話したからなんですよね。無用な戦いを招いて申し訳ありませんでした」
「来生と戦えて楽しかったから別にいいよ」
『それでは失礼します』と言って怕蓮は出て行った。鳴良は『無理無理無理。あの来生を倒すとか絶対に無理でしょ。え、俺来生に勝たないと白棋士になれないの?俺の白棋士試験おわた』と頭を抱えている。新羅は『僕の上戦の相手は教えてもらえないのか』と悲しそうな顔をしている。
私は店員さんを呼んで杏仁豆腐を注文した。とにかく財全と戦えるようで良かったよ。明後日が楽しみだな。
星天vs財全
鳴良vs来生
⚑︎(งᐛ )ง⚐︎ファイトーーーー!!!