「新羅の相手は
「白棋士になったのは十年前、序列九位と十位を行ったり来たりしているようだ。突き抜けた戦績はないようだがこの五年間、毎回上戦に出場し、全て勝利している。通称、上戦殺しの先斛と呼ばれているそうだ」
「うわっ、強そう。なんだか戦いにくそうな相手だね」
「鳴良ほどではないだろう。新進来生だろ?序列戦全勝してて、今いる序列十位の中では断トツで強いぞ」
「だよね!やっぱり俺やばいよね!!だって来生って序列七位の柑斗にも勝ってたんだよ?なんで俺の相手があんな化け物なの???」
「鳴良は本戦全勝してたからな。それを見て強い相手を当てられたのだろう」
「まじか。俺つらい」
しくしくと鳴良が両手で顔を覆っている。来生と戦うのが嫌っぽい。他に誰か戦いたい人がいたのだろうか。もしかして財全?それは駄目だよ。財全は私の相手だ。こればかりはいくら鳴良でも譲ってあげられないね。
本戦が終わった次の日、上戦の相手が貼り出されたので皆で見に行ったのだけど私の相手は言われた通り財全で、鳴良の相手は来生で、新羅の相手は先斛っていう人だった。
この頃には閑散としていた掲示板前も割と賑わっていて皆ざわざわと貼り出された内容を話していた。『おい、この星天って奴の相手財全様だぞ。上戦の相手に序列三位が出てくることあるのかよ』『ほら、星天って六財商の会に棋礼戦を滅多やたらに挑んでた、』『ああ、報復ってこと』など聞こえてくる。大概は私の話題な気がする。
『すげえな。奎宿藩は三人も本戦突破してるのか』『新羅ってのは確か去年本戦突破まであと一歩の所まで行った奴だろ?こいつが実力あるのはわかるが鳴良って誰だ?』『聞いたことねぇぞ。でもこいつ、本戦全勝しているんだよな』って感じで新羅や鳴良も話題になっているみたいだ。なんか皆白棋士試験に興味津々だよね。前の世界で夏になるとおじさん達がテレビにかぶり付いて甲子園を見ていたのと同じような感じなのだろうか。
そんなわけで各自の対戦相手がわかったので二日後の上戦に向けて研究をする。そんなに時間があるわけではないけど相手の棋風を知りたいよね。鳴良には私と来生の棋譜も見せてあげた。『うわあ、化物と怪物の頂上決戦だ。今から俺、ここに参戦するのか』と絶望した顔をしていたけど、来生と鳴良の実力に遜色はないと思うよ。でも相性はあるかもね。
私も財全の棋譜を並べる。いくつか直近の対局を選んで内容を見てみたのだが、なんというか財全の棋風は千差万別、その時その時で全く違うものだった。
攻撃に特化していたり凌ぎを重視していたり厚みを大切にしたりと棋風がバラバラだった。たぶん、相手に合わせて打ち方を変えてきているのだろう。その時その時の状況に合わせて色を変える、まるでカメレオンみたいな打ち手だ。
でも、その中でも快燕との戦いは異彩を放っていた。柑斗が胸が震えるほど熱い碁だったといっていたので周軒に頼んで棋譜を取ってきてもらったんだけど、その内容に唖然とする。
序盤ははっきりと快燕の方が棋力が上だと感じられる物だった。財全に悪手はなかった。だが、快燕の感性が天才的だったのだ。
相手の地に打ち込む時、何処から入り込むのかは結構難しい選択だ。ふわりと被さるのか、いきなり石につけ込んで戦闘を仕掛けるのか、もしくは地を取ることを重視して深く入り込むのか選択肢が多過ぎる。
だけども快燕はよくわからないところに石を置く。相手の地を減らすとも自分の領土を増やすともいえない、意図の見えない一手。だけども盤面が進むとその石は実に絶妙な場所に置かれているのだ。
そういったことが幾度も行われる。おそらく空間把握能力が著しく優れているのだろう。誰にもわからない快燕だけの世界、盤上に置かれるのはそういった天才の一手だった。
派手で独創的で見ているものを惹きつけるような碁が快燕の碁だ。えー、やっぱり快燕強いよ。華樂街の時に打ちたかったな。
それに比べて財全の碁は堅実を敷き詰めたような重厚で丁寧で繊細な打ち方だった。形勢ははっきりと快燕の方が良いというのに焦らず狼狽えず、慎重に目の前の一目を自分の地として確保する。
正直何処で逆転したのかはわからなかった。いつのまにか盤面は細かくなっていた。
それでも快燕の一手は厳しかった。確実に急所を突き財全を追い詰めて行った。それを財全は躱して、守って、耐えて耐えて、耐えた。終局時、財全の地は一目半、快燕を上回っていた。
財全の碁は他にもいくつもあるがこれほどまでに財全の本質を表している碁は他にはないだろう。この何があっても諦めないという強い執念が財全の強さだ。なるほど、楽しみだね。
貴方となら命を燃やし尽くすような最高の一局が打てるだろう。