※財全視点②
白棋士になって生活は落ち着いた。序列十位の白棋士は月に三十両もの給金を貰うことが出来た為、妹を医者に見せることもできた。完治とまではいかないが人並みの健康を得ることが出来た。今までの人生で辛い時間が長かったのだからこれからは楽しい時を過ごして欲しいものだ。
落ち着いた頃を見計らって住居を西都に移す。白棋士のほとんどは西都に住んでおり研究が盛んで最新の棋譜も手に入れやすかった。白棋士試験で西都出身者達に苦しめられたことを顧みても碁の修練を積むのに西都以上の環境はない。
父母も呼び寄せようとしたが住み慣れた故郷を離れたくないと柯端に留まった。だが花琳は西都にいた方が良いだろう。よくなっているとはいえいつまた体調を崩すかわからない。医者のいない柯端にいるよりは西都にいた方がすぐに医者にかかれるだろうと思い花琳を西都に呼び寄せる。
家を借り人を雇い西都での日々を過ごす。慣れないこともあったが穏やかな日々が過ぎて行った。俺は囲碁に集中できる環境に身を置くことができたし花琳も目新しい物の多い西都での生活を楽しんでいるようだった。
一年が過ぎた。俺は序列九位に上がり、花琳は十六になった。
健康を取り戻した花琳は一本の百合の花のように美しく成長した。そろそろ年齢的にも結婚相手を見つけてやるべきだろう。父母が遠く離れているならばそれは兄である俺の役目だ。
心穏やかで花琳を大切にする男が良い。家柄は問わないが良い家に嫁ぐ可能性も考えて持参金は積んだ方が良いだろう。花嫁道具もいる。婚姻には纏まった金が必要だ。
序列九位の給金は充分過ぎるほど貰っているが白棋士の身内となるとそれなりの家から申し出を受けることもあるらしい。花琳には恥ずかしい思いなどさせず望む相手に嫁がせてやりたい。
棋礼戦の申し出を探した。白棋士の仕事は序列戦をすることだけではなく棋礼戦をすることも含まれる。
誰かの代理となって戦いを受ける。受けた白棋士は研鑽と報酬を得ることができ、雇い主は賭け金を相手から得られる。勿論敗北するれば何かしらの不利益を被ることもあり、それを避けて棋礼戦を一切受けない白棋士もいるくらいだ。
中には対局者の命を賭けるような重い代償の勝負もあるらしい。だが、そこまで行くのは国同士や貴族同士の争いで、受けるのも一部の上位棋士だけだろう。
下位棋士が受けるのは利権や金、小規模の揉め事の仲裁が主で報酬も金である事が多い。手っ取り早く金を稼ぐには棋礼戦が最善の手段であろう。
だが、その判断は誤りだった。
『白棋士になるなんて随分と出世したもんだねぇ、財全君』
ねっとりと油分を纏った濁声が耳に流れ込む。語りかけてきたのは胡岩、西都一の豪商人で故郷柯端の流通を独占し搾取し続けた男だった。迂闊だった。棋礼戦で白棋士を必要とするのは貴族とそして金を持つ商人、当然胡岩も白棋士の動向に注視しているだろう。
俺に接触してきた目的はなんだと警戒してるとニタリと胡岩が笑みを浮かべる。身体中に纏わせている装飾品がジャラジャラと揺れた。
『白棋士との伝はいくらあってもいいからねぇ。所縁ある君が白棋士になってくれて嬉しいよぉ。妹さんの結婚準備の為にお金が必要なんだろう?それならば儂が力になってしんぜよう』
欲を纏った声色で胡岩がいう。だがその言葉に嘘はなかった。他の商会との調整や揉め事解決の棋礼戦の棋士に俺を指定してきた。相手は白棋士だったりそうでなかったり報酬も破格であった。
胡岩自身に思うことはあったが、他に伝もない。俺は胡岩の申し出を受けた。
棋礼戦に臨み戦い、そして勝つ。相手の棋力は同等か以下でありあまり労せず勝ちを積み重ねていく。勝利する度に胡岩も金や利権など何かしらの利益を享受し、俺もかなりの額の報酬を稼ぐことができた。
そのうち妹が心通わせているという男を連れてきた。純朴そうな穏やかな青年で街の小さな茶屋の跡取り息子らしい。幸せそうに笑う花琳を見て良かったと思う。苦労ばかりしていた妹がやっと幸福を掴んだらしい。
だけども事はそう上手くは運ばなかった。
『君の妹なんだけど、嫁ぎ先を探しているのだろうぉ?実は、儂の五番目の妻が先日病気で亡くなってしまってね。ちょうど良かったよ、君の妹は美人だし白棋士である君と縁を繋ぐのも悪くないから娶ってあげるよ』
ねちゃねちゃと口を開く度に糸を引かせながら胡岩がそう話す。それは身の毛も弥立つ恐ろしい提案だった。
花琳を妻にするだと?こんな醜悪で金と欲で肥え太った初老間近の男に妹を嫁がせるだと?そんな事を望む兄などいるはずがない。
激昂し、拒絶した。花琳をお前などに嫁がせるつもりはない。妄想は頭の中で完結させ口に出すな。不愉快極まる。
だが、それに対して胡岩は『今年は黒獣のせいで不況でねぇ。柯端には商車がいけないかもしれないなぁ』と出来物だらけの顔をニタリと歪ませる。物流が止まれば冬を前にした柯端では死者が出るかもしれない。両親の、村の者達の顔が頭に思い浮かぶ。だが、それでも花琳をこの男に嫁がせるなどあり得ない話だ。
妹か、故郷か選ぶ事のできない二択を突きつけられ苦悩する俺に胡岩は新しい選択肢を提示した。それならば棋礼戦をしよう、と。
『互いに譲歩出来ない時に結論を出す為に行うのが棋礼戦じゃろぉ?まさしく今の状況にぴったりではないか!白棋士である財全君にとってはこれ以上ない好条件であろう』
俺が勝てば柯端への流通を止めることなく必ず一定数以上の物資の納品をするという。もう柯端の物流は胡岩の気分に左右されないのだ。
だけども負ければ花琳は胡岩に嫁がなければならない。胡岩の巧妙な所は『例え君が負けたとしても妻の実家に不便な思いはさせないよぉ?儂は約束は守るしなんなら契約を巻いても良いさ』と棋礼戦に勝っても負けても柯端に物流が滞らないような条件を設定してきた所だ。つまり、棋礼戦を受けさえすれば柯端は救われる。
だがその為に天秤に乗せるのは花琳の幸福だ。賭けの対象にすることすら烏滸がましい。この話は断ろうとしたところを止めたのは花琳だ。
『私のことで村に迷惑をかけたくないよ。受けて兄様。私がここまで自由に生きられるようになったのは兄様のおかげだよ。どんな結果になっても何も恨まないよ』
真っ直ぐな瞳に見つめられ折れたのは俺だった。この棋礼戦を受けた。これで故郷には何の不都合も起こらない。あとは勝負に勝ち花琳の未来を守るのみ。
胡岩は西都有数の商人、当然俺以外にも白棋士に伝はあるだろうと思っていたが対戦相手としてやってきたのは、序列六位の
俺は負け、花琳は胡岩に嫁ぐことになった。
悔いても悔いても悔やみ切れない。せめて花琳に恥をかかさぬようにと有金全てを叩いて花嫁道具を買い揃えた。それは棋礼戦で胡岩から受け取った報酬でもあった。胡岩から受け取った金が五家へと返っていく。まさか最初からこのつもりで俺に多額の報酬を払っていたというのだろうか。そうであれば全ては胡岩の手の上で踊らされていたと言える。
婚姻式は豪華絢爛であった。だけれども着飾った花嫁は幸福ではない。そして俺の人生の転落もここから始まる。
五家の第五夫人として収まった花琳であったが、胡岩の寵愛を受けた為に他の奥方から激しい嫉妬を買ってしまった。そして、奥内で壮絶な虐めを受ける事となる。
衆人の前で足をかけられ転ばされる。冷水を浴びせられる。食事に異物を混入される。部屋に蜘蛛や百足を放たれる。両親からの手紙を破かれる。聞いただけでもそれだけの仕打ちを受けたという。話していない事はまだ更にあるだろう。
元々が病弱である花琳はやつれ、気鬱の病にかかった。落ち込み起きれなくなった花琳に閨の相手が出来るはずもなく、胡岩の心は離れた。後盾を失った花琳は更に虐げられるという悪循環。こんな所に長くいれば花琳の心と身体が持つ筈がない。
憎かった。花琳をこんな目に遭わせた胡岩を腹の底から憎悪した。他者から奪い取るだけ奪い取り、あっさり不要だと捨てる様に厭忌する。
だが俺に五家内のことを口出しできる筈がない。花琳を窮地に追いやったのが胡岩であるならば救う事のできるのも胡岩でしかない。
熱した鉄に頭を擦り付けるような心持ちで胡岩に頭を下げ懇願した。どうか花琳に目をかけて欲しいと口にする。
胡岩は言った。『財全君、君の頼みを聞いてあげるということは勿論儂の頼みも聞いてもらえるんだよね?』と。
ニタリと笑う胡岩の言葉に頷く以外の選択肢を俺は待ち合わせていなかった。
それから俺は数多の棋礼戦に駆り出される事となった。だが内容は真っ当な物ではない、外道の所業だった。
失えば飢え死ぬという老夫婦から田畑を取り上げた。子供が産まれたばかりという家族から家屋を奪った。新婚である夫婦から新妻を奪い胡岩に捧げた事もある。外道の手先となり人道に外れた事をした。
その対価に花琳は別宅に住むことが許された。他の奥方と接することも無く穏やかな日々を過ごすことができる。だがそれまでに心を擦り減らした花琳は別宅に行っても無気力で無反応、まるで人形の様子であった。あの春のような暖かい笑みは消え失せてしまった。
後悔しかない。花琳を西都に連れて来るべきではなかった。胡岩の申し出など受けるべきではなかった。そもそも俺のような凡人が白棋士などなるべきではなかった。花琳の病は治らなかっただろうが、それでも不幸せにはならなかった。
胡岩の手先となって非道を行い続ける俺は地獄に堕ちるのだろう。だがそれでも胡岩は下劣な畜生以下だ。俺は奴から受けた仕打ちを忘れるつもりもこのまま静観するつもりも一切なかった。
奴の全てを調べ尽くした。交友関係、金の出入り、そして関連のある白棋士が誰かを。
五人の棋譜を集められるだけ集め、研究に費やす。打ち方の癖や得意とすること、不得意とすること、特に負けた碁を重点的に分析した。敗北に理由づけをし、自分の中に落とし込む。徹底的に相手の嫌がることを探した。ただ、勝利の為だけに研鑽した。
それと並行して五家と敵対する商家に接触する。最初は胡岩の狗として名を馳せていた俺に警戒していたが五家の内情に関する情報を差し出すことで信頼を得た。準備を整えていく。
そして、謀反を起こした。
与えた情報で相対する商家に棋礼戦を仕掛けさせる。内情を知っていたから五家にとって避けることの出来ない内容や極端に不利な条件で勝負の場に引き摺り出すことが出来た。
勿論、相対する商家側として出る白棋士は俺だ。勝負の場に敵対する棋士として現れた俺を見て胡岩は激昂した。
『ざ、財全ッ。あれほど目をかけてやったのに貴様ぁ゛ッ!!!』と怒号を上げる胡岩を黒い感情で見つめる。恩義を感じた事などただの一度もなかった。思い返しても湧き上がって来るのは怨恨の気持ちだけだ。最も大切な妹を廃人とし俺の白棋士としての生き方を戻れないほど真っ黒に染め上げた。幼少期の時はこいつのせいで飢えと貧困に喘いだ。
この男は俺の生来の敵だった。
対戦相手は当然のように廉統だった。単純な棋力は相手の方が上だろう。
だが、この数年はこいつらを倒す事だけを考えて生きていたのだ。綺麗で無くて良い。美しくなくていい。ただ勝てばいい。それだけを追求し生きてきた。
コツコツと廉統の泣き所を叩き続ける。地味で面白味もなく華やかさもない。白棋士同士の戦いとは思えないほど盤面に動きがない。だけど良い、これでいい。たった一目相手より上回っていれば勝てる競技なのだ。けして揺らぐ事なく淡々と相手を追い詰め続ける。
首を絞められ息を奪われ続けるような苦しい盤面に廉統は音を上げた。攻めてきた。しかしそれは大きな隙だった。
急所に打ち込み相手の石を殺す。一瞬の出来事だった。絶対に返す事の出来ない圧倒的な盤面となった。
廉統は投了した。俺は棋礼戦に勝った。この勝負で胡岩は大きな販路を失ったがそれだけで済ますつもりはなかった。反旗を翻したことで花琳の身に危険が及ぶだろう。俺自身に対しても荒くれ者を雇い強攻して来るかもしれない。奴のやり口は知り尽くしている。
一気に息の根を止める必要がある。
複数の商会から棋礼戦を仕掛けさせた。胡岩に考えさせる隙など与えず攻め切る。向こうから来る白棋士は誰かわかっていたから勝ち筋は出来ていた。廉統ほどの実力者もいない。棋礼戦は全勝した。
最後の棋礼戦では胡岩から奪った物を全て返す代わりに命を賭けるように条件づけを行った。胡岩から全てを奪い身包みを剥ぎ、そして首を刎ねる。
『財全君っ、わ、儂が悪かった!花琳は君に返す。儂の財産も全て譲る。だから殺さないでくれぇ!』
命乞いをする胡岩を躊躇なく殺した。心底胡岩が憎かった。のうのうと生きていると思うだけで吐き気がして怒りに身体が震えた。
花琳は妊娠していた。花琳だけは戻れるかもしれないという最後の希望をこいつは踏み躙った。だから殺さなければならなかった。
花琳は柯端に返した。どうすれば良いかわからなかったがそれでも西都にいるよりはいいだろう。
白棋士になって五年の月日が経っていた。その間にこの両手は汚れ切っていて未来も希望も失った。だが残った物もある。
憎悪だ。胡岩を殺してもそれは晴れることはなかった。胡岩だけではない、俺は商家というものが心底憎らしかった。この五年間奴らに関わり続けその醜悪さは嫌と言うほど突き付けられた。
胡岩は突き抜けた外道であったが他の商家も清廉潔白であるなど口が裂けても言うことはできないだろう。白棋士を雇い棋礼戦を行い持たざる者から奪うというのは奴らの当然のやり口だ。棋礼戦は棋士の研鑽を積むためのものではない、商家どもが肥え太るだけの道具だ。胡岩と敵対していた商家だって一皮剥けばどちらも変わらない油ぎった欲の塊だ。
これ以上この豚どもが肥え太るための道具になるのは許し難い苦痛だ。他の商会からは自分の所のお抱えの白棋士になって欲しいと請われたが、全て蹴り六財商の会を作り上げた。主導権を握るのは豚どもではない、俺だ。ただ搾取されるだけの立ち位置に甘んじるのはやめたのだ。
上納金を毎月納める代わりに棋礼戦を請け負う制度を作る。入らなくても構わないがその場合六財商の会と敵対することになると言えば五家と相対した商家は皆入った。奴らは俺が五家を潰す様を見ていたから単なる脅しではないと理解したのだろう。
権力や富に翻弄され棋礼戦を行うことに嫌気がさしていた白棋士はそれなりにいたらしい。柑斗とかいう奴が『俺も今の棋礼戦の仕組みは不平等だと思ってたんですよ!白棋士が不当な待遇を受けないように世の中を変えてやりましょう!』と六財商の会に入った。だが俺はこの男が望むように白棋士の地位向上の為に六財商の会を作ったわけでは無い。単に俺が豚どもに使われるのが嫌で商会が嫌いなだけだ。
六財商の会を作ったのは徒党を組んだ方がこちらの意を通しやすいと思ったまでのこと。だが、そう思われた方が好都合ではあるから否定はしなかった。組織を大きくするには人手は必要だ。
金と人が増え六財商の会は勢力を拡大していく。だが、それでも西都ではまだ多くの商会が六財商の会に所属することを是としなかった。理由は様々であるが一番のものとして挙げられたのは上位棋士が一人も所属していないことだった。
棋礼戦を請け負う組織なのだから負ければ元も子もない。上位棋士と戦うには六財商の会は心許ないという見解だった。
ならば俺が上位棋士になれば良い。今いる上位棋士の誰かを取り込むよりそれが最も確実だと言える。
序列戦を行い順位を上げる。そして、三十になった時序列六位に上がり、入替戦を挑む所まで来ることが出来きた。
上位棋士になる為には白神石を五十個得た上で上位棋士に勝たなければならない。そして勝てば上位棋士となり負けた上位棋士が下位棋士に落ちる。これが入替戦だ。
俺の入替戦の相手は快燕であった。それを知らされた時の俺の心中を言い表すことができなかった。
快燕、お前と戦いたかった。快燕に凛刹、お前達は俺が憧れた姿そのものだ。最年少で白棋士となり十代で上位棋士となり歴史に名を残す棋士だ。そんなお前達を努力と研鑽によって打ち倒すのだと信じたかった。凡人でも天才に勝てると証明したかった。
だが、そう思うにはもうこの手はあまりに汚れている。俺の手は何も救えず多くの者を不幸に突き落としてきた。もう純粋に碁にだけ向き合うなど出来なくなっている。
だがそれでも勝たなくてはならない。俺が上位棋士にならなければ六財商の会は立ち行かなくなる。純粋ではなくとも勝利は欲していた。
俺は快燕より圧倒的に劣る。年齢も才能も棋士としてみた時に俺が勝るものなど何もありはしない。快燕は白棋士試験の時から天才の片鱗は見せていたがこの九年でさらにその才能は磨かれたことだろう。どれほどの強さになっているのかは想像もつかない。
だがそれでも俺が快燕に勝っていると言える物がある。この黒き人生は俺から純粋さと清廉さを根こそぎ奪ったがそれでも得た物もある。
相手を討ち滅ぼす為に調べて調べて調べて研究して、寝ても覚めてももそいつの事だけを考えて人生の全てを投げ打って臨んだ。黒き感情は俺を強くもした。
この執念だけは誰にも負けない。
快燕は相変わらずわけのわからない手ばかりを打つ。どうせこれも後に画期的な一手になっているのだろう。天才の思考にはやはり達することはできない。
昔の自分はこれで心が折れた。圧倒的な才能を前に膝を屈した。
でもいい、もういい。俺はお前を理解しない。快燕の打つ手は全て無視し堅実に地だけを取り続けた。
盤面はずっと快燕が良い。だけれども齧り付く。思考を切らさず緩めず地を増やすことだけに固執した。
派手でなくて良い。才覚溢れた一手を打たなくとも良い。ただ勝てば良い。ひたすら勝利だけを追い求めた。
終盤では差は無くなっていた。ほんの僅かな一目にも満たない領分での戦いが始まる。快燕はヨセも強い。それでも。
勝利を、勝利を、勝利をッ!俺は勝ちたい。何がなんでも手に入れたい。
泥水を啜っても地面を這いつくばっても仇敵に頭を踏み躙られようとも家族を奪われようともこれだけは消えることはなかった。全てを失っても俺は勝利を得たい。
お前を、倒したいのだ。
終局した。盤面は細かかったが勝敗はついていた。
俺の一目半勝ちだった。