【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第63局 お茶会   

 

暇だ。禍旋亭の皆が打ってくれないとなるとすることがない。西都から大量の上位棋士の棋譜と碁の本を持って帰ってきてるからできることはあるんだけど、三日で飽きてしまった。棋譜の研究は好きなんだけど、これだけをずっと続けるのはしんどい。やっぱり碁を打ちたいよ。誰か打ってくれないかな。

 

「最近は家にいることが多いのですね、星天」

 

「あ、琳華様」

 

書庫に行こうと思って屋敷内を歩いていたら琳華に会った。何処かに出かけるのかな?

 

「ちょうど貴方に会いに行くところだったのですよ。時間があるならお茶でもいかがかしら?」

 

と思ったらお茶に誘われた。新しいお洋服の相談だろうか?特に予定もないし了承し付いて行く。

 

部屋に入り席に着くとお茶と茶菓子が出て来た。許可を取って茶菓子に手をつける。うまうま。

 

「西都から帰って来てあまり話せてなかったわね」

 

「そうですね」

 

「貴方が成し遂げたことは本当に凄いことだわ。この国が始まって以来誰にも出来なかったことを貴方はやり切ったのです」

 

琳華様が静かに話し始める。服の話ではなかったね。なんか凄い褒めてくれてるけどどれのこと?一気に序列三位になったこと?

 

「なんのことです?」

 

「女性の社会進出ですよ。女は父に仕え夫に仕え息子に仕え、政治には口を出さず家を守るというのが一般的でした。ですが白棋士になったということは貴方自身が権力を持ち、政治的な要因に参加するということです。それはこの国では誰にもできなかったことです」

 

話を続ける琳華様に首を傾ける。なんか急に難しい話が始まった。なんか私は政治に参加できるようになるらしい。全然ピンとこない。

 

「私は碁を打っているだけですよ?」

 

「ええ、それでいいのです。今している話もすぐに何かが変わるということではありません。女性の生き方も慣例もそう簡単に変化しないでしょう。しかし、前例ができました。これは将来この国を変える大きな一歩になります」

 

琳華様の言葉を続けるけども私の首は傾いたままだ。なんか私は凄いことをしたっぽいけど全然実感がない。うーん、政治的なことはわからないけど、私が白棋士になったことで他の女の人も白棋士になれたらいいな。囲碁人口が増えるのはとても嬉しい話だ。

 

琳華様がお茶を飲む。ひと呼吸挟みそれからまた口を開いた。

 

「今の話は一旦置いておきましょう。それよりも差し迫って考えなければならない問題があります」

 

「なんです?」

 

「貴方に大量の縁談が来ています」

 

言われた言葉に思考が停止する。え、え?縁談?どっからそんな話が湧いて来たの?

 

「白棋士になるということは貴族と同等の権力を持つことになります。その上貴方は上位棋士、見る人によれば歩く金塊のように思えるでしょうね」

 

「わー」

 

白棋士になったらたくさん碁が打てるなと思っていたけど、なんか別の付加価値もついているのか。歩く金塊ってめっちゃ価値高そう。

 

「貴方と縁を結びたい者は大勢います。そしてそのために最も効果的な手段が婚姻でしょう。嫁として迎えれば貴方の白棋士としての権威を家族として振るうことができますからね」

 

「なんと」

 

そういう考え方もあるのか。白棋士の特権を得るため嫁にもらってしまえばいいって感じなんだね。意味はわかるけどそんなとこに嫁ぐのはやだな。

 

「星天は周軒のことをどう思ってますか?」

 

「え」

 

「結婚のことは避けられない問題です。それならば気の合う者と婚約するのが良いでしょう。周軒は貴方のことを憎からず思っていますよ」

 

『星天が望むなら喜んで婚姻を結びたい』と周軒も言ってましたよと琳華様がいう。あれ、事前確認が終わっている。準備万端だな。琳華様最初からこの話をするために来たのではなかろうか。

 

何にせよ聞かれたからには答えなければならない。えっと、周軒のことをどう思っているかだよね?優しくて強くてかっこよくて時々頭のリミッター外れてて、敵と認識したら容赦なくて定期的に闇討ちしに行く人だよね。なんか周軒もちょいやばい人だな。

 

でも嫌なことは絶対にしなくて、おいしいものを食べさせてくれて私の意思を尊重してくれる。

 

私は周軒が好きだ。華樂街で嫁にもらってくれるって言ってもらえたのも嬉しかった。でもあれは何年も後の話であり、今日いきなり婚約しようと言われてもどうすればいいかわからない。

 

「周軒のことは好きだけど結婚となるとわからない」

 

囲碁に関することなら即決できるんだけど、こればっかりは考えたことがないから答えられない。

 

「そうですね、早急に進めすぎたかもしれませんね。星天にとっては急な話なのですから、時間が必要でしょう」

 

そう言って琳華様がお茶を飲む。私も喉が渇いたからお茶で潤した。なんか命懸けの真剣勝負するよりも緊張したかも。

 

「とはいえ、貴方に対して降るように縁談が来ているのは事実です。この藩の有権者達に理由なく断り続けるのは中々骨が折れる仕事なのですよ」

 

『顔合わせだけでもしませんか?もちろん、気に入らない相手と無理に結婚はさせません』という琳華様に対して、どうするか迷う。

 

あんまり琳華様に迷惑はかけたくないもんなー。どうせ今は暇だしちょっと顔見てお茶するくらいならいいか。琳華様に私宛に届いているお手紙を見せてもらったけど、中には『美味しいお菓子を食べて一緒に碁を打ちましょう』なんていうのもあった。案外楽しい時間になるかもしれない。と思い頷く。

 

しかし、この判断は間違いだった。

 

 

 

「うー、もうお茶会行きたくない」

 

「だからってここで屯するんじゃねえ」

 

羅間に怒られる。お茶会が嫌で私は禍旋亭に来ていた。お屋敷にいると暇とみなされ次のお茶の予定を組まれてしまうので逃げて来たのである。羅間は口ではあんなこと言っているけど私の好物の饅頭とお茶を出してくれた。やっぱり実家が一番だ。

 

「なんだよ、星天。藩中の貴族様とお見合いしてるんだろ?なんでそんなに嫌がるんだよ」

 

「男前で家柄もいい男達の中から選び放題って話じゃねえか。年頃の女が皆うらやましがっているぜ」

 

禍旋亭のチンピラ達が話に入ってくる。確かにこれ以上ないってほどモテているけど、だからといって嬉しいかというと全くもってそんなことはない。

 

相手の男の人の話が面白くなさ過ぎるのだ。

 

『うちは百年以上も続く名家で、公家とも繋がりがあって』

 

大概のお相手は自分の家のことを話し続ける。自分の家は何処と繋がりがあって、どれだけ凄いのかって話ばかりされる。偉い人の家なんか誰も知らないから聞いていても全然理解できないし、面白くもない。ただひたすらお菓子をむしゃむしゃしていた。

 

囲碁を打とうといって言ってくる人もいて対局したんだけど、ぜんっぜん強くないし、『さすが星天様、お強いですね。尊敬します』とニコニコ笑いかけてきて、負けても悔しそうでもない。この人囲碁に真剣じゃないよ。こんな碁なら打ちたくない。

 

あとはなんかひたすら偉そうな人がいた。『囲碁を打つ変わり者の娘であるが、白棋士だから特別に娶ってやろう』って言って来た。これはムカついたから琳華様にチクったら笑みが深くなっていたから何かしてくれたと思う。こういうとこ周軒と似ているから親子だと思うな。『もう二度とあの者に会うことはありませんよ』と言われたので、取り敢えず良かったと思う。

 

そんなわけでお見合いに嫌気がさしたので『碁を打ってきます』と言って屋敷から逃げてきたのだ。あ、一人じゃないよ。お目付役として方淡が付いてきている。禍旋亭の辺りは治安が悪いから一人で行くと怒られるからね。

 

「うー」

 

「あー、まあ人には得手不得手があるもんな。取り敢えず一局打つか?」

 

「うーん、それもなー」

 

今禍旋亭で打つ碁というのは置き碁のことだ。互先でも打ったんだけどあまりにも棋力差があり過ぎて誰も受けてくれなくなったのだ。ここにきた頃はここまで一方的じゃなかったのになあ。白棋士試験を経て私も強くなったらしい。

 

というわけで三つか四つ石を置いて勝負するようにしている。これはこれで勉強になるんだけど今日の気分ではない。どちらかといえば今日は強い相手とガチガチの真剣勝負をしたい気分だ。そんな相手はこの奎宿藩に二人しかいない。

 

「いいや。今日は鳴良のところに行ってくるよ」

 

「そうかよ。あんまり遅くまで出歩くんじゃねえぞ」

 

ぶっきらぼうにいう羅間に手を振って禍旋亭を後にする。方淡が車を呼んでくれたから車に乗って移動だ。鳴良に会うの久しぶりだな。元気にしてたかな。

 

しばらくすると鳴良の家に着いたので、鳴良を呼んで欲しいと使用人の人に言付けをする。そのまま待っているとひょこっと女の子が出てきた。

 

「申し訳ございません。兄は留守にしておりまして」

 

パチンと女の子と目が合う。なんかやたら凝視されている気がする。どこかおかしいところでもあるのだろうか。

 

「もしかして、星天さんですか?」

 

「そうだよ」

 

「わあ!いつも兄がお世話になってます!私、鳴良の妹の湊花(そうか)です!いつも兄から星天さんの話は聞いてます!」

 

パァと輝く笑顔でそう言われる。鳴良の妹?鳴良って妹がいたんだ。確かに面倒見良いしお兄ちゃんっぽいよね。

 

「兄は出かけているのですが、良かったらお茶でも飲んでいきませんか?」

 

湊花からお誘いを受ける。最近はよくお茶会に呼ばれるな。でもこれは大丈夫だろう。

 

鳴良の妹なら話してみたい。

 

「うん、是非。ご馳走になります」

 

「よかったです!ではこちらに」

 

湊花の後に続いて屋敷に入る。鳴良には会えなかったけど、なんだか楽しそうなお茶会だ。

 

 

 

 

 

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