第66話 選抜戦①
西都に着いてから数日、ついに選抜戦が始まった。四神戦に出場するメンバーを決める戦いだ。各序列ごとにトーナメント形式で勝ち抜いていき、優勝した一人のみが出場できる。
毎日一試合ずつ行い、九日後には全ての試合の決着が付く。たったひと枠しかない選抜戦の席を争う為にしのぎを削る、白虎国にいる白棋士たちが皆真剣に戦う白熱したイベントなんだけど、
これ、私は参加できないらしい。
選抜戦とは各序列から一人ずつ四神戦の出場者を決める戦いだ。つまり四神戦に出場することが決まっている私は戦うことができないのである。
え、えー。そんな悲しいことある?鳴良と新羅は毎日白棋士同士戦っているのに私はお留守番なんだよ?序列三位になったのに全然良いことないよ。
二人がいない間は暇だから西都の碁会所巡りをしたんだけど、白棋士は皆選抜戦に参加しているわけだから、お休みになっているか開いてても白棋士はいなかった。
あと、ついでに財の文字を掲げる碁会所もなくなっていた。なんでか柑石教室に行った時に聞いたら『いや、お前が財全倒して六財商の会を潰したんだろ!!』って柑斗にめっちゃ怒られた。なんか、六財商の会は無くなっちゃったらしい。なんで財全を倒すと六財商の会がなくなるんだろう?序列がいくつでも財全は強いんだから六財商の会を続けたら良いのにね。そしてまた私と棋礼戦をしようよ。
そんなわけで、西都には私と打ってくれる人が全然いなかった。華樂街は封鎖されてしまったらしくてお姉さん達に打ってもらうこともできない。悲しい。対局できる人がいないよ。
そんなわけで昼は打てる人いなくて駄々をこねているんだけど、でも夜は違う。鳴良と碁を打つ約束をしているのだ。
この選抜戦に出る鳴良はなんだかいつもと様子が違う。棋礼戦や白棋士試験の時はおどおどしていて、『俺なんかが勝てるかなぁ』と常に不安そうな顔をしていた。
だけども選抜戦が始まった日に『俺、四神戦に出るよ。代表選手になる』と覚悟を決めた顔で言ったのだ。こんなはっきりとした鳴良は初めてだった。
鳴良はその言葉の通り真剣に選抜戦に臨んだ。帰ってくると試合の内容を検討して、その後は対局をした。一分一秒無駄にせず、全て囲碁に打ち込んだ。鳴良から発せられる空気がピリピリと緊張感を持つ。
新羅は二日目で負けたが鳴良は三日目も四日目も勝ち進んだ。選抜戦が始まった時は勝負できないことに暴れたい気持ちでいっぱいだったけど、気合の入った鳴良と対局できて今は大満足である。このまま選抜戦を突破できたらいいね。
四神戦も一緒に戦おうよ。
※鳴良視点
昔、憧れたことがある。
春の穏やかな日和の中、老夫婦が桜の木下で長椅子に腰掛け微睡んでいた。
優しい陽射しの中、はらはらと舞い散る桜の花びらを浴びながら、肩を寄せ合い手を繋いでいた。それがなんかいいな、と思った。
恋なんてしたことがなかった。女の子は皆、長子の我意か顔のいい園次に寄って行くから俺に近寄る女の子なんていなかった。だから恋やら愛やらなんてものにはてんで縁がなかったのだけれども、するならそんな恋愛がいい。
好きな人と肩を寄せ合い手を繋ぐだけのあの姿を幸せと呼ぶのではないのだろうか。俺はあんな恋がしたい。ただ側にいるだけで幸せを感じられるような穏やかな恋愛をしてみたい。
だけどもそれはもう無理な話だろう。俺が好きになったのは常に戦火に包まれ激動の中に身を置く、戦う女の子だった。
だけどもそれでもいいんだ。たとえここが矢の飛び交う戦場だとしても君の側に居られたらいい。
だからそれだけは譲らない。君の隣だけは誰にも渡さない。
なりふり構わずがむしゃらに君を追う。星空に手を伸ばすようにけして手に入れられないものを求めているのかもしれない。俺のやっていることは無謀なことなのかもしれない。
それでも諦めない。だって好きなんだ。すっごくすごく好きなんだ。これが初めての恋で、きっとこれ以上の想いを抱く日は来ない。俺の人生の全てを賭けてもいい。
どうしても君の隣に並び立つ権利が欲しいのだ。
白棋士になって奎宿藩に戻ると大歓声の中迎えられた。
父上には満面の笑みで『お前は壮家の宝だ』と肩を叩かれる。家に帰ると宴の準備がされていて、一番中央の席に座らされた。親戚一同揃っていて皆が浴びるように酒を呑み俺を褒め称える。『白棋士になるなんてよくやった』『いきなり序列七位だろ?そんなやつは聞いたことない!』『鳴良は天才だ。儂は前々からわかっていたぞ』とやいのやいのので次々に杯に酒を入れられ褒めちぎられる。
俺がこの宴の中心だ。今まで一度たりともそんなことはなかった。家族の行事で俺はいつもいないもの扱いで、端の方に身を寄せて宴が終わるのをじっと待っていた。
でもみんなが俺に声をかけてくれて、期待してくれる。こんなことは初めてだ。
俺はこの宴の主役だった。
宴は三日三晩続いた。常に酒を飲まされ続けた俺は無事二日酔いで死んだ。頭が痛いし気分も悪い。この世の地獄ってこんな感じなのだろうか。うっ、気持ち悪い。
だけど俺の本当の地獄はここから始まる。
二日酔いもマシになり体調が良くなったあたりで父上からお呼びがかかった。
曰く、俺に縁談が来ているらしい。
文官の家も武官の家もよりどりみどり、山のような良縁が届いているのだと。中には西都の白棋士を輩出している名家からもお声がかかっているらしい。お前の意思も尊重して相手を決めるよう言われたけど、冗談じゃない。こっちはやっと初恋を自覚してそれを持て余しているところなのに、他の縁談なんて考えられるわけがない。
『好きな子がいるから無理!』というと『誰だ?』と聞かれる。
自分の気持ちに気付いたのもついこの間なのに、好きな子の名前を言うのは恥ずかしくて言い淀んでいると『言えぬなら縁談を進めるぞ』と言われ、しぶしぶ『星天』と答える。
『あの娘ならおそらく周軒様に嫁ぐことになるぞ?藩主様と琳華様も乗り気のご様子だし、二人の仲も悪くないと聞く。あの娘も白棋士という身分を除けば平民であろう?断る理由はないだろう』
と言われ、絶望する。確か周軒様は一度星天に求婚してたし、その気あるよね?星天の無茶に周軒様はいつも付き合うし星天も周軒様には気を許しているように見える。序列三位の白棋士と縁を結べるなら藩としても願ったり叶ったりだ。
考えれば考えるほど周軒様と星天が結婚しない理由がない。え゛、星天本当に結婚しちゃうの。うそ、やだ。俺、二人の式に呼ばれても笑顔で祝福なんてできないよ。だってすごく好きなんだ。好きだと気付いたのと同時に失恋なんてあんまりだ。
失意の渦の中にいる俺に追い打ちをかけるように父上が『身分的に我が家より上の家からも話が来ている。顔合わせもせず断るなど無理だぞ』と返される。もはや、生ける屍と化した俺は父上に引きずられてお見合いに行く。
綺麗な良家のお嬢さんとお茶を飲みお話をする。昔の俺が聞いたら手拭い噛んで血走った目で地団駄踏みそうなほど羨ましい光景だろうけど、今の俺には苦痛でしかない。
目の前の女の子はとても可愛い。笑いかけてくれると胸がキュッとして顔が熱くなる。
だけどももっと強い衝動を俺は知っている。世界が煌めいて君のことで頭がいっぱいになって、その闘気を帯びた瞳に魂を射抜かれる。
望んだのは優しい世界だったけど、選んだのは灼熱の業火に身を焼かれる戦場だ。
君以外に選べる人なんていない。
だから申し訳なくて罪悪感でいっぱいになるんだけども、お見合いは断った。全力で頭下げて『貴方は素敵な人なんですけど、俺には好きな人がいるんで勘弁してください』と謝り続けた。なんなら土下座した。
十件もそんな感じで断り続けたら父上も流石に諦めて『時が経てば頭も冷えるだろう』と匙を投げた。頭が冷えることなんてありません。俺は星天にのぼせ上がってます。
気付けば一ヶ月経ち、西都へ向かう日になった。取り敢えず怒涛のお見合い騒乱は一旦終わりましたね。でもここからが本当の戦いになる。
俺は星天と結婚したい。それ以外は考えられない。
西都へは戦いに行く。腹は決まった。敵を蹴散らし俺が星天の旦那様になるために全力を尽くす。できることはなんでもやる。死に物狂いで戦う。だから。
お願い星天、もうすでに周軒様と婚約したとはいわないでぇっ!