【書籍化】『星天』   作:空兎81

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第67話 選抜戦②

 

※鳴良視点

 

良い話がひとつ。星天は誰とも婚約してなかった。

 

西都への行く道、この1ヶ月どう過ごしていたかという話になって、全員お見合い祭りだったけど星天は誰とも婚約しなかったという。

 

周軒様との婚約話はあったけど、湊花に結婚相手は妥協で選ぶものではないからちゃんと真剣に選べと言われたので考え直したのだという。なんか俺の知らない間に好きな人と妹が仲良くなっているんだけど、取り敢えずありがとう湊花!湊花の尽力のおかけで星天はまだ誰のものにもならずに済んでいるよ!本当に感謝しているから帰ったら湊花の好きな花梨の蜂蜜漬けを買ってきます。

 

だけど、厳しい話もひとつ。星天は自分に勝った相手と結婚するらしい。

 

なんかもう正直そんな気はしていた。生き方の全てを勝負に委ねているのだから婚姻相手もそうやって決めるって言われても納得しかない。わかってはいたけどとてもつらい。序列三位となった星天に勝つの難しすぎない?俺もこの白棋士試験でちょっとは強くなったと思うけど星天はその比ではない。目指すべき壁が高くなり続けるってキツすぎる。

 

幸いなことは星天に勝てる相手はほとんどいないということ。今すぐに星天が嫁いでしまうという可能性は限りなく低いが、だからといって俺が星天と結婚できそうかといえば全くそんなことはありませんね。恋の障害が高すぎて飛び越えられる気がしない。

 

でも諦めはしない。君が好きだ。生涯一度の恋をした。

 

だから人生の全てを賭けて、君の隣にいる権利を手に入れる。

 

 

四神戦に出る。星天は出るのだからこれ以上引き離されるわけにはいかない。

 

その為には選抜戦を勝ち抜かないといけないんだけど、選抜戦は各序列ごとに行われる。下位は序列六位から十位の中から一人ということだから、

 

二百七十人の中からたったひとりだけが資格を得られるということだ。

 

きっつ!あのしんどかった白棋士試験を突破し現役で白棋士として活躍する二百七十の中で勝ち抜いたたった一人にならないと選抜戦には出られないのだ。尋常じゃなくしんどくない?やるけど。何がなんでもやりきってみせる。これを戦い抜かなければ星天の心を掴めないというならばどんな困難だって乗り越えてみせる。

 

勝ち抜き戦で選抜戦を抜けるには九勝必要だった。九勝すれば星天と一緒に四神戦に出られるのだ。

 

初日からいきなり序列六位の人との対局だった。自分のくじ運の無さに泣いた。下位戦において序列六位は最も高い位の白棋士だ。何もこんな序盤で当たらなくても良いじゃないか。

 

だけど俺に運が無いことなんていつものことだ。こんな不運で挫けたりしない。

 

死に物狂いで戦い抜いた。相手は俺より格上だ。一手も一瞬たりとも緩めず戦い抜いた。来生との戦いを経て俺は攻めの技術が格段に上がっていて、相手の攻撃手にも一切引かず戦い切った。

 

初日は俺の辛勝だった。まずは一勝、四神戦に向けてひとつ駒を進めた。

 

帰ったらその日打った碁を検討して、その後は星天と碁を打った。俺の目的は選抜戦を抜けること、そして星天に勝つことだ。

 

その為には時間なんていくらあっても足りない。まだ勝てない。序列三位になった星天はただ力強いだけでなく一手一手が洗練されていた。石の働きが美しく強く破壊的で、また君の碁に魅了される。え、俺本当にこれに勝てる?山は高いほど登りたくなるっていうけど登る前に力尽きたりしない?

 

でも命を賭ける価値はある。俺は死んでも登るよ。星を掴めるように一番高いところまで登り切ってみせる。

 

二日目は序列九位の父上と同じ年代の男性だった。危なげなく勝つことができた。だけど新羅は二日目で序列七位の相手に負けてしまった。新羅は同じ選抜戦に参加するという点では倒さなければならない相手ではあったけどそれでもここまで共に戦ってきた仲間だ。いなくなって寂しい。選抜戦に参加するのも俺ひとりになってしまった。

 

三日目に戦ったのは廉統という人だった。この人も強かったけどなんか説明できないけど好きになれない打ち方だった。じめっとしているというか、すっきりしないというか説明できないけど嫌な気持ちになる打ち手だった。なんとか勝ったけどもうあんまり打ちたくない。

 

四日目はなんと柑斗と当たった。向こうも『はぁ!?今度は鳴良の方かよ!なんでお前らにこんなに縁があんだよ!?』とキレてた。なんかすいません。でも俺も選べるなら違う人がよかったわ。すっごく気まずい。

 

柑斗は鬼のように強かった。『六財商の会がいつまでも負けっぱなしでいると思うなよッ!!!』と叫ぶ向こうにも負けられない理由があった。

 

だけども俺も絶対に負けるわけにはいかなかった。好きな女の子に好きという為に俺は勝たなければならないのだ。

 

接戦だった。向こうも俺も細やかな読み合いを得意としていて一目を削る地合の勝負となる。

 

頭が沸騰するのではないかというくらい集中して考えて、なんとか、本当になんとか勝つことができた。

 

2目半差だった。『ああ、くそ。勝ち切れない。あの人みたいにはなれないのかよ。だから俺は凡人なんだよ』と顔を覆い天を仰いでいた。なんかその姿を見ると胸がギュッと締め付けられる。同じだ。俺だって才能が全然あるとは思えない。敗北に対する悔しさは身に染みている。だけども好きな子の背中を追うのだけは諦められないのだ。

 

選抜戦は順調に勝ち進んだ。五日目も六日目にも七日目も八日目も俺は百戦錬磨の白棋士達をなんとか倒してきた。

 

だけど星天だけは全く勝てない。毎晩、星天と勝負しているのだけど勝てる見込みすらもない。

 

戦えば戦うほど星天も強くなっていっている気がする。初日に通用した戦略が二日目には全く通じなくなる。

 

こちらが真剣であればあるほど星天の目もギラギラと光り、攻め合いの精度が上がっていく。戦いの中で成長していくのは許して欲しい。俺も強くなっているけどそれ以上に星天が強くなっちゃったらどうしたらいいの!?俺絶対勝てないんだけど!?

 

何か手掛かりが欲しい。星天の勝ち方がまるでわからない。なにか、なにか少しでもいい。

 

星天の倒し方が知りたい。

 

だけどもまずは選抜を抜けることだ。最後の九戦目、この選抜が始まった時からこの人が勝ち上がってくることはわかっていた。だけどもいざ目の前にすると身がすくむ。

 

「最後の相手は壮鳴良か。いい加減貴様らにはうんざりしている。ここでこの悪縁は断ち切らせてもらう」

 

眼鏡を軽く押し上げ、そう言い放つのが俺の最後の対戦相手。

 

序列十位まで落ちた元序列三位の上位棋士、財全だ。

 

いや、おかしいでしょ!どう考えても下位戦に出たら駄目な人でしょ!誰だよこの人を下位戦に出させたの!あ、星天か。つらい。

 

そう、下位戦にはあの元序列三位の財全が出ていたのだ。そりゃ今は序列十位だから下位の選抜戦に出てくるのは妥当といえるけど、戦う身としてはたまったものじゃない。序列十位だけど実力は序列三位なんだよ?この国で三番目に強い白棋士なんだよ?そんなのがこの下位層に落ちてこないでください。

 

だけども勝たなければならない。星天は勝った。ならば俺も勝たなければならない。そうでなければ星天に勝つことなんてできるはずもない。

 

去年まで白棋士試験に掠りもしなかった俺がこんなことを言うのは本当に本当に烏滸がましいんだけど。

 

でも倒すよ。貴方に勝つ。元序列三位だろうが倒してみせる。

 

星天と結婚するための障害は全部越えてみせる。

 

「お願いします」

 

「お願いします」

 

選抜戦、最終戦が始まった。

 






星天のおかげで財全を倒さないと鳴良は選抜戦に出れないよ。ふぁいと。


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