選抜戦、鳴良の最後の相手は財全だった。序列十位となったから下位戦に出ていたらしい。
いーなー、選抜戦。鳴良や新羅だけじゃなくて財全とも戦えるんだ。私ももう一回財全と戦いたい。
繰り出される技の一つ一つが研ぎ澄まされていて、あんなに濃厚で充実した戦いは他にはない。碁を味わい尽くせる相手だった。また是非とも勝負したいな。
選抜戦九日目、勝者は鳴良だった。『勝ったよ、これで星天と一緒に四神戦に出れるね』と本当に嬉しそうだった。やったね、鳴良。これで一緒に戦えるね。
そんなわけで出発の日まで私達は西都に滞在するのだが、新羅は奎宿藩に帰るらしい。
『白棋士になったくらいで浮かれていた自分が恥ずかしい。同期の君達は二人とも四神戦に出ると言うのに僕はあまりに不甲斐ない。きちんと自分を見つめ直す為にも一度藩に戻るよ。来年は僕も共に四神戦に出られるように努力する』
そう言って去って行った。新羅がいなくなるのは寂しいけど強くなる為に研鑽するというならば止める理由はない。来年は一緒に四神戦に行こうね。
鳴良と研究会でもしようかと話していたのだけど、周軒に『そういえば花院楼の者が西都で店を始めたそうだぞ』と言われる。
華樂街は黒獣に襲われて立ち入り禁止になっているらしい。黒点もそのままで穴が空いているからまたいつ黒獣が現れるとも限らない。
なので故郷に帰った人もいるけど華樂街の人達はほとんど西都に移っているそうだ。なら早速ご挨拶に行こうか。ひょっとしたら碁を打てるかもしれないし。
そんなわけで西都の妓楼街に車で向かう。乗り物酔いが酷い鳴良も車に乗った。『昼間から妓楼に堂々と行けるほど俺精神力は強くないです』とのことだけど、何が恥ずかしいんだろう。碁を打ちに行くだけなんだから堂々としてて良いと思うよ。
しばらくすると華やかな門構えの店に到着した。中からは音楽が聞こえてきて人々が出入りしている姿が見える。繁盛しているようだ。周軒と鳴良と共に中に入った瞬間、奥に人だかりができていた。
「貴方の桃色の髪に合うように服を新調したのよ。ほら、私達ひと番の花のようでしょ?」
「貴方の好きだと言っていた比翼の鳥を弾けるようになったの。今夜貴方の耳元で奏でさせて下さいな」
「いつも姉様方ばかり相手されていて狡いわ。鈴々も大人になりましてよ?今日は私と共に過ごしましょう?」
よく見ると一人の男に複数人の女の人が迫っているようだ。派手な化粧と露出の多い衣を着た美人さん達の中心で男が楽しそうに笑っていた。よく見ると知っている顔だ。
「快燕」
「あ、星天ちゃん。久しぶり〜、こんなところで会うなんて奇遇だね」
『知り合いがいるからちょっと行ってくるね』といって手を振り快燕がこちらにやってくる。お姉さん方がむぅとした顔で『あとで絶対に戻ってきて下さいね』と言って下がっていった。
「君達も選抜戦突破したんだろ?おめでとう。四神戦ではよろしくね」
「快燕も出るの?」
「ああ。序列四位で出るのは俺だぜ」
君達もと言うくらいだから快燕も四神戦に出るのかと思えばやはりそうだったらしい。序列四位の選抜戦を突破したのは快燕だったのか。これで出場は凛刹と万雹って人と私と快燕と鳴良かな。あと、序列五位の人が決まってないのか。誰だろう。怕蓮かな?
意外な人と会ったけどこれはこれで好都合。ここで会ったなら百年目、約束覚えているよね。私は上位棋士になったよ。
「私は序列三位になったよ。勝負しよう、快燕!」
「いいよ〜。一局打とうか」
あっさりと快燕は了承した。え、いいんだ。前はめっちゃ渋っていたから今回も嫌がられるのかと思った。
『婆ちゃん部屋ひとつね』といって快燕が何やら木札を受け取る。みんなで快燕の後についていくと碁盤がひとつ中央に置かれた華やかな内装の部屋に通された。
「さて、打とうか」
「真剣勝負だよね?」
前に打とうとした時は置き碁だったからちゃんと確認する。
「勿論。今回は俺にも戦う理由があるからね」
「どんな理由?」
「んー、敵討ち」
軽い口調なのに内容は重い。んん?敵討ち?私、何か敵討ちされるようなことしたかな?心当たりはないこともないけど、快燕からそう言われるのは意外だ。
「穏やかな会話ではないな。敵討ちとは何のことだ?」
周軒が話に入り込んでくる。うんうん、誰の敵討ちをしたいのかは知りたいな。
「大したことじゃないぜ?向こうもそんなことになっているだろうとは思ってないだろうし、まあ勝手な俺の思い入れだよ」
「誰のこと?」
「財全のこと。星天ちゃん、財全を倒しただろ?そのことがずっと心のしこりになっている。だから、決着をつけたいと思ったんだよ」
え、財全?予想外の人の名前が出てきた。てっきり花院楼のお姉さんに勝ったことを怒られるかと思ったのに意外だ。二人は仲が良かったの?
「俺って碁が得意で、あんまり勉強しなくても誰にでも勝てた。白棋士になるのも順調で、九歳の時に最年少棋士になった。勝つのは簡単だった。盤上でキラキラ輝いている場所が見えてそこに置けばいいだけだ。俺は碁で苦労したことなどまるでなかった」
快燕がすごいことを言う。努力しなくても勝てる、それが本当ならば快燕はとんでもない天才なのではないだろうか。
「だけど俺が序列五位の時、財全が入替戦を挑んできた。まるで手応えはなかった。俺はいつも通り調子良く打っていたし財全の仕掛けは全て見抜けてた。形勢も有利だった。だけど勝てない。引き離した筈なのに気付けば近くにいる。勝利に指は掛かっているのに掴むことができない。
息ができない碁だった。もがいてももがいても水面に顔を出すことが出来ない。財全は無表情だったけど圧があった。何が何でも勝つという気迫を盤上から感じた。さけてよけて逃げて、それでも追いかけてくる。俺の人生であんなにも碁が怖いと思ったことはなかった。俺は負けた。完敗だった。
だけど心奪われた。あんなにも深く盤上に入り込んだ対局は他にはない。俺の人生を根本から一新する碁だった。
俺、財全の碁が好きなの。あのドロドロしてて執念深い碁がすっげえ好き。いつか俺が倒したいと思っていたけど星天ちゃんに取られちゃったから敵討ちしようと思ったの」
そういう快燕は笑顔だが空気がピリッとする。本気で戦うつもりなのだと伝わってくる。財全を倒して快燕から勝負を挑まれるのはびっくりだけど嬉しいことだね。本気の貴方と戦いたいとずっと思ってたんだ。
快燕の向かい側に座る。石をニギル。快燕が黒で私が白だ。
「お願いします」
「お願いします」
対局が始まった。
【財全に対する好意表】
凛刹→財全 好き
財全→凛刹 嫌い
快燕→財全 大好き
財全→快燕 嫌い
星天→財全 好き
財全→星天 普通に嫌い
鳴良→財全 苦手
財全→鳴良 ちょっと好き