第71話 出立
あれからしばらくして、西都は復興していった。
落ちた瓦を直したり壁にヒビが入ったものを修理したりと、まだまだ手間のかかるところはあるものの、表面上はいつも通りの日常を取り戻している。
私たちがいた宿も地震の余波を受けたが、平屋だったためか比較的軽微な被害で済んだ。今では普通に営業している。
周軒は街の復興支援に参加して、私と鳴良は快燕の碁を研究し尽くしていて、そうしているうちに出発の日になった。朱雀国に行って四神戦に出場する。
最終的なメンバーはこうなったらしい。
序列一位、凛刹
序列二位、万雹
序列三位、星天
序列四位、快燕
序列五位、怕蓮
序列七位、鳴良
これがこの国で一番強い人達か。まだ戦っていない人もいるし四神戦で戦えるといいな。
朱雀国には船で行くらしい。なんでも海には黒獣が出ないので各国の移動は基本的に航路を使うとのことだ。西都から港に向かいそこから船に乗り朱雀国に向かう。長旅になりそうだ。
周軒と奎宿藩の護衛の人達も今回の旅についてきてくれるらしい。『星天は目を離すと何をしでかすかわからないからな』と苦笑気味に周軒に言われる。えー、何もしないよ。ただ囲碁を打つのに全力なだけだ。
あとは国軍もついてくるらしい。皇太子である凛刹がいるからその護衛かな?と思えば『それもあるが四神戦が終われば黒天元に対して四国共同戦線が始まる。その打ち合わせも兼ねているのだろう』と周軒が答える。四神戦は各国が連携をとるために必要なものではあるがあくまで本番は黒獣との戦いだ。各国が一同に揃うこの場で打ち合わせをするのは実に合理的だと思う。
それからなんでかわからないけど鳴良のお爺さんも付いてくるらしい。『え、なんで爺ちゃんがいるの!?』と鳴良は目を白黒させ、『師匠、お久しぶりです』と周軒は頭を下げた。
『昔の伝を使って同行者に加えてもらった。まさかお前が四神戦に出るほどの実力者とはのう、武芸はてんで駄目だったが、まあ、良い。湊花に婿でも取らせれば良いことだ。よくやった、鳴良。道中は心配するな。黒いケダモノが出ても儂が全て倒してやろう』
ということで鳴良のお爺さんの壮源頑が仲間に加わった。小柄で白髭を蓄えた壮年の老人という感じなのに圧が凄い。周軒の師匠っていう話だしめっちゃ強いのだろう。
ピシリと心地よい緊張感を纏った背中を見ると思い出す。囲碁とは深く神聖なもので、礼儀を重んじ相手を尊重した上で自分の全てを盤上に注ぎ込むものだと、そう教えてくれた源爺ちゃん。武道と囲碁、種目は違うが二人の生き方には通じ合うものがある気がする。
『源爺ちゃん』と呟けば『ん?星天か。女子ではあるが国の為に己の果たすべき役割を全うしようとするとは天晴れな心意気だ。お主らが万全で四神戦に臨めるように道中の不安は全て儂が払おう』といってポンと頭を撫でてくれた。なんかほっこりする。昔、源爺ちゃんに頭を撫でられたことを思い出す。私はこの人が好きだ。
西都を出て港で船に乗って朱雀国に向かう。道中は二、三回黒獣に出くわしたけど頑爺ちゃん(源爺ちゃんと呟いた時にそう呼べばいいと言われた)と周軒が倒してくれた。頑爺ちゃん、まじ強い。槍使いなんだけどシュッと槍を振るうと黒獣の二つの目があっさり潰れて一瞬で黒獣は消えていった。周軒も恐ろしく強いけど頑爺ちゃんは人の能力を超えている気がする。道中は何の不安もない快適な旅となった。
港に着いて初めて海を見た。どこまでも広くて大きくて、なんというか感動した。世界ってこんなにも広かったんだ。潮風の匂いが身体に染み込んで爽快感があった。
船旅の間はずっと海を見ていた。キラキラと水面が反射して綺麗だ。星空も好きだけど海も好きになった。こんなにも世界は未知に溢れている。生きているって幸せだ。
だけども船旅は囲碁には向かないらしい。揺れて盤面が崩れるし本を読んでいても気分が悪くなるし散々だ。海は綺麗だけどそれだけでは退屈する。やっぱり私は囲碁が一番だ。
海の上だとすることないなーと思っていると頑爺ちゃんに『ならば星天も身体を鍛えるか?』と声をかけられる。え、それって私も周軒や湊花みたいな超次元的身体能力を身につけようって話?ちょっと興味はあるけどできるかな?周軒とか動きが速すぎてたまに空を走っているようにみえることがあるんだよね。
『棋士も時には体力勝負となる。勝負を決するのは気力と精神力と、そして己の肉体だ。身体は鍛えておいて損はないぞ』と言われる。確かに徹夜で四局、負けたら全てを失う死闘、みたいな戦いがまたまたあるかもしれないよね。健康は大事だ。暇でやることもないし体力作りは良いかもしれないね。
そんなわけで船旅のほとんどは体力作りに費やした。武術の型を習ってそれをひたすら修練する。地味で淡々とした作業だ。でも嫌いじゃないよ。汗をかいて身体を動かすって楽しいね。
潮風をいっぱいに浴びて周軒と頑爺ちゃんと並んで武術を学ぶ。うーん、でも私は武術の才能はなさそうだな。でもこの世界には黒獣といつ命を脅かす獣がいるわけだし身を守るすべを知るのはいいね。私は生きるから。精一杯最後の瞬間まで生き抜く。
だから足掻けることは良いことだ。
肌寒くなり、上着が必要となったくらいに船は朱雀国に到着した。
さあ、ここから世界を相手に戦いが始まる。どんな相手が待ち受けているのか、身体が疼いて仕方ない。
私は戦うよ、戦い抜く。この戦場こそが私の生きる場所だ。どんな相手だろうが命を賭けて戦いなく。
そして、いつか天上の世界に至りたい。
船を降りて朱雀国の地を足で踏み締める。振り返れば頑爺ちゃんに『この軟弱者が』と担がれている鳴良の姿があった。顔には生気がない。
この船旅中、ずっと屍と化してたけど、鳴良大丈夫かな?
四神戦、開幕!