「え゛、四神戦初戦で棋礼戦するの?しかも負けたら玄武国に移籍して、蠱毒劫っていう負けたら指切られる恐ろしいところに行かないといけないの?」
「そうだよ」
凛刹に割り当てられた建物まで送ってもらって、周軒と鳴良に明日の棋礼戦について話す。条件については今まで一番厳しいけどだからこそやりがいがあるよね。今までにない一局が打てる気がしてわくわくするね。
「残句は玄武国出身だったのか。異質な感性を持つ棋士だとは思ったが死線上を歩くことが当たり前の日々を送っていたのだな」
周軒が静かに呟く。残句は私と周軒が出会うきっかけとなった思い出深い相手だ。
命を賭けた戦いだった。誰よりも分かり合えた相手だった。残句みたいな相手がたくさん出てくるなら蠱毒劫は素晴らしいシステムなのだろうけど、残句も出て行ったみたいだし常弱みたいなのが量産されるならやっぱりよくないね。潰れてしまった方が良いだろう。
凛刹と暁闇が承諾したのでこの棋礼戦は必ず行われる。『星天なら大丈夫と思うけど、絶対に負けないで。俺、星天をそんな恐ろしいところに行かせたくない』と鳴良に真剣な顔で言われる。うん、勝つよ。勝って蠱毒劫が間違っていることを証明する。私の勝利はいつだって私の意思でもたらされる。囲碁って自分が打ちたいから打つものなんだよ。人に強制されてやるものではけしてない。
コンコンと扉がノックされた。方淡が開けると物腰の柔らかい初老の男性が立っていた。誰だろう。
「失礼致します。わたくし、凛刹様の使いで参りました
やってきたのは凛刹の遣いらしい。离口は一礼すると後ろに控えていた男達に中に荷物を運び込むように合図を出す。ひとり、ふたり、……まだいる?
「多くない?」
「それはもう、凛刹様は星天様の正しき行いに感激されまして、勝負が始まればこちらでできることはないのだから、せめて明日の勝負は万全の状態で臨めるようにと仰せでございます」
『こちらは白虎国最高の羽毛布団です。最近寒くなりましたので星天様がお風邪を召されないようにお使いください』やら『紅華茶でございます。とても希少な物で、見た目が華やかなため目を楽しませ、さらに気の昂りを抑えることができるという効能もございます』などなどひとつひとつプレゼントの説明をすると离口は去っていった。部屋の一角が贈り物の箱で埋め尽くされている。サンタクロースが来たクリスマスツリーの下みたいになってるよ。
「どうしよう周軒」
「貰っておいて問題ないだろう。皇太子から下賜された物を断ればそれはそれで失礼に当たるからな」
それはびっくり。貰ったプレゼントをいらないって突き返すのも良くないんだ。じゃあいいか、もらおう。この羽毛布団ふかふかだな。朱雀国が用意してたものも別に不満はなかったけど掛け布団が二つあって困ることもないからね。両方使おう。
「せっかくだから紅華茶を飲もうか」
方淡にお湯を持って来させて周軒がガラスのポットとカップを温める。温まると一度お湯を捨てて中にコロンと乾燥している蕾を入れた。
「周軒が淹れてくれるんだ」
「母が入れるのを何度も見ていたからやり方はわかる。明日勝負が始まれば何もできないのだから、せめてお茶くらいは私に淹れさせてくれ」
周軒がポットにお湯を注ぐ。瞬間、お湯が紅色に染まりゆっくりと中の蕾が花開いた。
ポットの中に紅い華が咲いたのだ。
「わぁ、きれい」
「ああ、だから紅華茶という。貴重な物で市場に出回ることはほぼはないだろう。君は凛刹殿に本当に気に入られたようだな」
周軒のいう言葉に首を傾げる。凛刹に気に入られたのは本当になんでだろうね。正義の心だの正しい行いだの言っていたけどなんのことだろう?もしかして凛刹も命を振り絞った戦場の一局に心躍らせるタイプなのだろうか?そうだとしたら仲良くできるね。是非凛刹ともそんな棋礼戦がしたいよ。
周軒が注いでくれた紅華茶をひと口飲む。口当たりの良い温かさが身体を巡り指先にほんのり熱が灯る。
勝負は自分ごとだけど応援されるのは嬉しいことだね。身体は元気だ。心も満たされた。
さあ、明日は常弱との棋礼戦だ。