起きた。おはよー。今日はついに四神戦初戦だね。負けたら玄武国に行って飼い殺しの人生が始まるわけだけどやることは変わらない、全力で戦い抜くだけだ。常弱はどんな碁を打つのだろう。すごく楽しみだね。
支度をして周軒と鳴良と泊まっていた建物から出る。試合会場は開会式をした建物の奥にあるらしい。会場に着くと凛刹が声をかけてきた。
「やあ、星天。気分はどうだい?」
「ばっちり。やる気に満ち溢れているよ」
早く打ちたくてうずうずしている。
「それはよかった。今日は四神戦初戦というだけでなく棋礼戦も行われる。立会人として僕も同行しよう」
どうやら凛刹がついてきてくれるらしい。周軒と鳴良と別れて凛刹と共に奥に進む。
対局場につき扉を開けると目の前に広がるのは赤と金だった。
赤を基調として金色の装飾品が部屋を飾り立てている。壁には朱雀の絵が掛けられていて部屋の中央には木製の碁盤が置かれていた。紅服を着た時計係の人もいる。これが四神戦の対局場所になるらしい。
私が扉を開けたのと中に入るのとほぼ同時に反対側の扉も開いた。
入ってきたのは常弱だ。後ろに暁闇もいる。
常弱が碁盤の前に座ったので、私も席についた。
「ふふふ、本日は棋礼戦になります。内容は今更確認しなくとも大丈夫ですね?」
「ああ、星天も白虎国も承知している」
「ああっ、楽しみです。あの星天が私の蠱毒劫に入るなんて、こんな素晴らしいことがあろうとは。貴方はきっと私の最高作品になりますよ」
口調は柔らかいが暁闇の笑みは何処かゆがんでいびつだ。この狂気のシステムは関わる者をどこかおかしくするのかもしれない。
やはり蠱毒劫なんてものは存在してはならないのだろう。
「蠱毒劫はなくなるからそれはできないね」
「自信満々のようですが、私の常弱に勝てるといいですね」
準備は整った。背筋を伸ばして碁盤に向き合う。いよいよ勝負が始まる。
碁盤の上には白と緑の碁笥が置かれていた。碁笥ってだいたい木製で茶色のイメージだけどこの四神戦の為にわざわざそれぞれの国の色の碁笥を作ったのかな。おしゃれだね。
「双方とも準備が整ったようなので四神戦、一回戦を開始します。玄武国常弱が石をニギってください」
紅服のお兄さんがそういう。碁笥を碁盤から下ろしてふたを開く。中に入っているのは白石だ。
「私の碁笥に白石が入っているよ。常弱がニギルなら碁笥を交換しないといけないね」
ニギリは先攻後攻を決める物だ。白を持ったプレイヤーが碁石をひと掴みし黒を持ったプレイヤーがその個数が奇数か偶数かを当てる。当てればそのままで外せば碁笥を交換する。白を持ったプレイヤーが“ニギル”ことで先攻か後攻か決まる。
ニギルのは基本的に目上の人や棋力が上とされる人なので、私より年上で序列一位の常弱がニギルことに違和感はないけど、ニギルなら白石を持たないとね。
そういうと何故か微妙な空気が流れた。紅服の人もなんだか困った顔をしている。なんでだ。
「そうか、星天は他国の者と対局するのは初めてなのか。これは僕が説明しよう」
首を傾げていると凛刹が隣にやってきた。どうやらこの微妙な空気を解説してくれるらしい。
「星天、白虎国では白と黒の碁石を使うが他国では自国の国色となる色の碁石を使うのだ。朱雀国なら赤、玄武国では緑というようにな」
『同じ国同士の者同士で戦う時には同じ色を使えないから黒石を使うことになる』と凛刹が説明する。え、そうなんだ。元の世界でも囲碁を打つときは白と黒の石を使っていたからここでもそうだと思っていたけど、それは白虎国だからだったらしい。朱雀国だったら碁石は赤と黒を使うのか。じゃあ朱雀国だと白黒つけるとかも赤黒つけるっていうのかな?
色の違いには驚いたけど、別に碁石の色で勝負に優劣はつかない。『うん、わかった』と言えば『君の勝利を心から望んでいる。力を出し切ってきてくれ』と言って凛刹は下がった。さて、常弱がニギルのだったね。碁笥から白石をひとつ取り出し碁盤の上に置いた。
「2、4、5。奇数ですね。当たりになりますので白虎国星天の先番から勝負が始まります」
『コミは六目半になります』と紅服のお兄さんがいう。白だけど先番になった。うーん、やっぱりちょっと違和感あるな。まあでも昔は白が先に打つ時代もあったらしいしどっちの色が先に打つかなんて些細なことだ。
勝負は全て石の絡み合いで決まるのだ。
準備は整った。背筋を伸ばして頭を下げる。まずはあいさつだ。
「お願いします」
「……お願いします」
常弱の声を初めて聞いた。
それは暗く濁っていて単調な音だった。
朱雀国:赤石(あかいし)
青龍国:青石(あおいし)
白虎国:白石(しろいし)
玄武国:緑石(みどりいし)
この世界では碁石は五色あって、同じ国同士で戦う時は黒石を使います。