斜め下に抜きゲー悪役TS転生   作:神谷涼

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22:吸血鬼

 

 はぁ……。

 なんかこの組織、情緒不安定なヤツばっかだな。

 ハメゴイ将軍もカベジリ長官も、泣き出す時はろくでもない話ばっかだし……参謀(こいつ)の過去もけっこうな地雷なんだろなー。

 しかも、明らかにこの体(おれ)の過去も関係してるし。

 

 特殊能力が人格由来で、かつ当人の人格でしか発動できんのだとすれば。

 

 こんなチート能力を使う才能が、俺にあったってことか?

 隠された才能的なもの?

 そんなのあるかぁ?

 ないだろ……あったら、前世で上司を職場ごと消去してるわ。

 

 こういう時、ゲームや小説なら当人の日記がどっかにあって、読むといろいろわかるもんだが。

 記憶から見る限り、そんなもんつけてないんだよな。

 参謀はこの体(おれ)が記憶を消したとか言ってたけど……そんな日記の記憶だけピンポイントで消したりせんだろ……ここ最近の記憶はちゃんとあるんだし。

 何より、消してしまうようなキツイ記憶なら書き残さないだろ。

 

「あーーそろそろ、泣き止んだか?」

 

「うぅ……」

 

「悪いが、私には貴様の言葉の意味が理解できておらん。私と貴様の出会いを聞きたかったのだが……」

 

「……!」

 

 えっ、何その反応。

 びくんってして腕の中から飛び出し、床に座り込んじゃったぞ。

 

 お前、さっき俺に顔面騎乗してたから全裸だろ。

 俺もだけど!

 

「申し訳ありません! どうか、どうかお許しを!」

 

 すごいマジな全裸土下座はじめたけど……。

 許すって何をだよ!

 お前、ずっと主語が抜けてんだよ!

 

「何をだ? 私が同じようにした時、頭を踏みつけてきたことか?」

 

「い、いえ、あれはプレイでして」

 

「嘘つけ、貴様マジだっただろうが!」

 

「ぐげっ!」

 

 つい踏みつけてしまった。

 

 ……衝動的な暴力はまずいな。

 何か硬いものがパキッってなる感触があったぞ……コイツだから生きてるし再生してるけど、普通の人間にやってたら頭蓋骨陥没で()っちゃうじゃん……。

 

「さっきから貴様の言葉は要領をえん。具体的に言え。何を謝る。私が消した記憶とは何だ。何より、貴様は私の何なのだ」

 

「それは……その……」

 

「貴様、上目遣いで顔色伺うフリして、また股間を見てるな」

 

「ソンナコトナイデスヨ」

 

 はぁ……。

 中途半端に軽いノリだが。

 いつもより、なーんかわざとらしいんだよな。

 

「はぐらかすな。私を奴隷にしようとしたクセに、何をいまさらためらう」

 

「いえ、あれは奴隷っていうかプレイ的な上下関係でして、SはサービスのS、MはマスターのMという感じの……」

 

「今はそういう質問をしておらん。私の疑問に答えろ」

 

「……あのようなプレイは控えますし、この組織をデスアクメ様のハーレムにするなら協力しますから。これについては忘れてくださるか……それこそ、能力でご自身の記憶を消去していただけませんか?」

 

 真顔ではある、が。

 視線は俺の顔じゃなくて股間にピタっと止めてるあたり、軽いノリの関係でいたいってことか?

 お前の軽いノリは、俺にかなりの負担を強いるんだが。

 

「ハメゴイ将軍、カベジリ長官の事情を、貴様は知っていたのだろう」

 

「知っていました」

 

「私にも、ああいった忌まわしい過去があるということか?」

 

「直接は知りませんが……おそらくは」

 

「はぁ…………」

 

 ここに転生してから、俺は何回ため息ついてるんだ。

 クソみたいなネーミングなのに、地雷多すぎだろ……。

 いや、雑に作られた組織、雑に強い能力、雑にゲスいエロシーンをリアルに落とし込んで整合性つけるとこうなるのか?

 

「私が質問する。私に偽るな。私に真実を答えろ。さもなくば、私は貴様の前から消える」

 

「……わ、わかりました。わかりましたから、消えないでください」

 

 えっ、ガタガタ震えてるけど、なんで?

 俺が消えると問題あるのか?

 あっ、俺が能力で自殺すると思ってるとか?

 なんか俺の消滅がトラウマになってる?

 ストーカーとしての単なる依存心という可能性もあるが……。

 

 とにかく質問だ。

 今なら事実を教えてくれる、だろ。たぶん。

 

「貴様は吸血鬼だ。それは間違いないな?」

 

「はい」

 

「貴様は何百年だか生きている。それも間違いないな?」

 

「…………私の記憶は断片的ながら800年近くあります」

 

 なんか覚悟したような顔になったな。

 

「体は違うのか?」

 

「肉体は、せいぜい数十年といったところですね」

 

「憑依したりして体を取り換えているということか?」

 

「いえ……その……体を取り換えたことは、ありません」

 

 んんん????

 

「……そうか。いつから私につきまとっていた?」

 

「つきまとってなんて……私は、デスアクメ様のものです!」

 

 俺のモノなら、俺がいやがることしてんじゃねぇ!

 

「答えろ。いつから私を知っている」

 

「ずっと……ずっとです」

 

 えええ。どういうことだ。この体はこの体で前世持ちなのか?

 俺は“転生”要素なく憑依してるだけなのか?

 

「体ができた数十年間か?」

 

「いえ……その………………800年近く前から」

 

「つまり、私の前世を知っていると?」

 

「デスアクメ様自身を」

 

「待て待て。私が800年も生きているというのか!」

 

「…………あるいは、さらに長いかもしれません」

 

「バカな! この手で消したが、私には親もいたし、昔は……んん?」

 

 子供時代の記憶がない!

 親は能力でうっかり殺した! これは間違いない!

 引きこもってて無職で三十路! これも間違いない!

 いつから、なんで引きこもったんだ?

 能力発動で便器消滅させたのはコンビニ。

 初オナでエログッズ消滅させてたのは自宅。

 

 学校はどうしたんだ?

 子供時代は?

 義務教育は?

 友達は……いなさそうだが、同世代はいただろ?

 興味なくても学校生活とかの記憶が何かあるはずだろ?

 そうだ、マンションで隣に同世代の女がいて、やたらベタベタと……いやそれ参謀(コイツ)じゃん!

 

 おかしいぞ。

 よく考えたら、秘密結社作る前のこの体(おれ)が知ってる人間って……殺した親と、目の前の参謀しかいない!

 自宅から出ないニートだったけど、生まれてからずっと引きこもりなんて監禁虐待案件だろ!

 

「吸血鬼には暗示能力があります。私はご両親役の二人を操作し、デスアクメ様の生活を常にサポートしていました」

 

「ベランダで私の下着を嗅いだり、ゴミ箱のティッシュを盗んだり、部屋に忍び込んで人のベッドで自慰をしていたのがサポート……?」

 

「いえ、それは私の個人的活動です」

 

 こいつについては記憶通りで間違いないんだな……。

 なぜかこの体(おれ)は気にしてなかったが、むしろこの記憶が消えててほしかったぞ。

 

「私は800年もこの能力で老いず、生きてきたのか? そして過去の記憶を消した……?」

 

 なんで中途半端にニートの記憶だけ残してるんだ?

 カバーストーリー作って生活してたなら、せめて今の人生分くらい残せよ。

 何より、能力で消去したんだと戻せねーじゃん。

 部屋中に自分の写真貼ってポージングしてるような、自分大好き人間だったクセによ。

 

「……能力はここ十数年で発現しました」

 

「なんだその時間差は。私が若い姿でいるのは能力と関係ないのか?」

 

「わかりました。デスアクメ様自身が望むなら、もう隠しません」

 

 マジな顔で参謀が立ち上がった……全裸だが。

 今まではやっぱいろいろ隠してたのかよ。

 

「ですが。約束してください。何を聞いても、今度は記憶を消したりしないと」

 

 本当に真面目な顔で顔を突き合わせ、目を見つめてくる。

 お前、頼むから普段からこのノリでいてくれ。

 

「……わかった。約束しよう」

 

「最も古く偉大にして真なる吸血鬼“死の頂点(デスアクメ)(Death-Acme)”。

 人間の伝説に残るまがいものではない、完全なる不死者。

 血すら必要とせず、ただ大いなる力のために血を求めし御方」

 

「……デスアクメって本名なの?」

 

「そう名乗る以前を、私は記憶として与えられていません。

 ただ、古き名を捨て、デスアクメとのみ名乗る誓いを立てました。

 デスアクメ様は800年にわたり世界中を震撼させてきた恐怖の象徴。

 私たちがその名を名乗り、先日はデスアクメ様自らが出陣したのです。

 世界中の諜報機関、裏組織がその名にかつての恐怖を蘇らせるでしょう」

 

 何してくれてんだこいつ(おれ)ぇぇぇ!!!!

 

 吸血鬼だったとかいうのは別にいいよ!

 

 確かに、能力の応用にしても、この体めちゃくちゃパワーあると思ったよ!

 こないだ参謀(こいつ)と吸血プレイした時も、自然と牙でてくるなーって思ったし!

 一時的に吸血鬼になっちゃったかな気持ちいいからいいかーって思ってたよ!

 

 でも、おま!

 その名前はアカンやろ!

 しかも、堂々と名乗って触れ回るなや!

 

 むしろその名前に決めた過去こそ抹消しろよ!

 で、ソウルネームだからあっさり組織名も、首領名もデスアクメにしたってわけかよ……気軽に改名議案出してたらサイコレズがややこしいことになってたな……絶対。

 しかも、既に世界の裏ではこの恥さらしな名前が認知されてるだと……。

 

「すまん。参考までに聞くが……私の人間として生活中の名前を教えてくれ。なぜか記憶に残っておらん」

 

 親の名前も記憶にない……。

 

「その記憶まで消してしまったのですか……私が一般的な名前を勧めた時、あれほど固執していたのに」

 

 なんだか猛烈にイヤな予感がするなぁ。

 

「デスアクメ様の通俗名は泥舟(でいしゅう) 阿久女(あくめ)です。当初は死悪(ですあく) (めい)を希望されていましたが、暗示でフォローするにも限度があり――」

 

「あ、もういいです」

 

 苦労かけたな……サイコレズ。

 この体(おれ)のネーミングセンス最低すぎる……。

 重い過去を想定して身構えてたのに、思わぬところでダメージを受けたぞ。

 

「では、サイコレズ参謀。貴様の名前と……私との関係を教えてくれ」

 

「能力で抹消……したんですよね。思い出してほしかったです」

 

「すまん」

 

 これはまあ、確かに申し訳ない。

 

 でも、お前も俺にしてきたこと全般、もうちょっと申し訳なく思ってもらいたい。

 

「私は“超自然の痕跡(サイ・トレース)(Psi-Trace)”。

 吸血鬼としての能力、そして過去の記憶を譲り受けたデスアクメ様の分身です。

 一人の人間として生き直す上で、今の私が持つものはむしろ邪魔だったのでしょう。

 かつて隣人に身をやつし暮らしていた時の名は、西東(さいとう) (れい)でした」

 

 俺もそっちのネーミングの方がよかったなぁ。

 組織にする時にサイコレズって名前にしたの、俺かぁ。

 つくづくすまんな……。

 いやまてよ、普通に暮らしてた時から日頃の行動がアレだから、コイツのことサイコレズって呼んでたな。

 ならいいか。

 

「分身とはどういうことだ?」

 

 クローンとかか?

 

「昨日も見せた通りです……こんな風に」

 

 うおっ、急に目の前で二人になるな!

 あの地下で二人がかりで攻めてきたやつか!

 

「何? その分身は永続できるものなのか!?」

 

「いえ。デスアクメ様の一部に過ぎない私では、一時的に作れるだけですよ。無理に永続すれば、能力の大半を失った私が二人になるだけです」

 

「……そうか」

 

 よかった……二人に増えたコイツに攻められたらヤバいからな。

 

「実際、デスアクメ様も多くの能力や記憶を割いて私と言う存在を生み出しました」

 

「力を持て余したということか?」

 

「力よりも……記憶を抱えて生きるのがつらいと言っていました。過去にも、記憶や能力の一部を割いて、分身を作っていたのだと聞いています」

 

 ええ……なにそれ。

 俺、チートすぎね?

 ラスボスを通り越して裏ボスじゃん。

 なんでそんなヤツが悪の秘密結社で世界征服とかしてんの?

 

 それにしても生み出しはしても……性格設定はできないんだろな。

 もう少しマトモな人格にできなかったんだろか。

 

「では、私の中に戻ったりもできるのか?」

 

「いえ、既に私は別の人格を与えられました……近年のフィクション風に言えば、デスアクメ様の眷属に近い存在です。吸血で一時的に変えたり、死体を操ったものではなく。完全に、すべてをデスアクメ様に生み出された、デスアクメ様のための存在です」

 

「…………私を盗撮したり、椅子を舐めたり、下着を食べたり、奴隷にしようとしたのも私のためか?」

 

「そこは私、デスアクメ様の分身、かつてのデスアクメ様そのものですので、本能レベルで本体に戻りたい、一体化したいという衝動が常にあり、ことあるごと逆らえぬほどに高まり、いえ常に高まり続けているので、常にデスアクメ様に触れ、一体化しようと激しい欲望の羆嵐による殺戮で滅亡寸前、思考回路もショート寸前、適度な欲求解消こそ暴発を抑制する唯一の手段、すべては愛情と奉仕と忠誠の証、見苦しく鼻血を出していたのも吸血鬼の力を一時的に弱体化させてデスアクメ様を襲わぬようにという苦肉の策、とはいえもちろん自ら私を求めていただけるのでしたらお応えすることやぶさかでなく、願ったり叶ったり、据え膳食わぬは淑女の恥と13世紀ヨーロッパ流行語にもありました通り、生み出されて以来抑えてきた欲望をぶつけ貪り、御身の体を堪能する一方で私情に流されずデスアクメ様にも至上の快楽を味わせんとしましたが、さらに吸血鬼として根源プレイであるところの吸血行為まで許していただき、私の強固な理性の鎖も消失、野獣と化した私は気づけばデスアクメ様の白い首筋に牙を突き立て血を吸い、またさらにはデスアクメ様にも私如き劣化体の血を吸っていただき、吸血鬼にのみ許されるマスター&スレイブな血流交姦の中で欲望の濁流もまた巡り、私は己の分を超えた禁断の背徳を求め、またこれをデスアクメ様ご自身の望みと確信し、過去の問題を顧みるにデスアクメ様が再び苦しみ嘆かれたりしないよう、私の手の中で永劫の快楽に浸っていただくべく、心を鬼にして下僕の身ながら敢えて主として振る舞い、まだ見ぬ敵への影武者となり、他の女どもを退け、私自身のごくごくささやかな願望を満たし、ついにはデスアクメ様に地上の何者も感じたことのない深淵なる全身全霊の快楽じご――快楽奉仕を以て忠誠の証とし、未来永劫たとえ地球が崩壊しようとも一つになったまま宇宙を彷徨い続ける希望の未来を目指さんとしたわけで、決してよこしまな野心、下劣な欲望、愚かな独占欲ゆえの所業ではありません! 私の全存在はデスアクメ様のためにあります!」

 

 ……めちゃくちゃ早口で何言ってんのかよくわからんが。

 

 とりあえず、いつものが別に演技でもなく、コイツはいつものコイツってことはわかった。

 

 しかし、俺は吸血鬼だったのかぁ。

 

 このすごい肉体能力も、不老も、吸血鬼だったからかぁ……。

 能力発動しなくても生理ないしトイレいかなくていいし、食事も別に必須じゃねぇじゃん。

 いや、そうでもないか。

 同じく吸血鬼の参謀(こいつ)、この前ふつうにゲロ吐いてたし。

 最中に失禁して顔にかけてくれやがったこともあったもんな。

 

「なら、私は望んで過去を忘れ、引きこもりニート生活を始めたわけか」

 

「いえ、それが……当初はアニメの影響で学生生活に憧れ、女子高生だったのですが」

 

 えっ、あ、ああ……外見は17だっけ。

 元の記憶では30だから、きっつってイメージしかわかんが。

 

「十数年前に……突如、行方不明になって。私も見つけられませんでした」

 

「何?」

 

「そして一週間後に発見されてからデスアクメ様は登校拒否になり、さらに一か月後に能力を発現しています」

 

 待てや。

 それ、つい最近聞いた二人と同じパターンじゃねぇか!

 

 えぇぇ……つまり地雷はサイコレズじゃなくて俺ってこと!?

 





雑に組み込まれた吸血鬼幹部と、雑に強い総帥を、現実に落とし込んだ結果の設定。
たぶん原作でこんな設定は明らかにならず、開発者も知りません。

吸血鬼の分身作成は、己の能力値とかスキルとか記憶とかを別の体に渡してるような形。
サイコレズ参謀の肉体能力は十分人間離れしてますが、それでもデスアクメ様には勝てません。
任意のレベルを別キャラに分けてリビルドしてるような感じ。

今のデスアクメ様は分身スキル自体をサイコレズ参謀に渡してるので、分身作成できません。



今回の“死の頂点(デスアクメ)”という意味付けは翠脈さんが感想に書いてくださったアイデアを拝借させていただきました!

皆様、いつも感想ありがとうございます!

あと誤字報告くださる皆様にも、たいへん助けられています!
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