コーディネーターを騙る一般転生娘は生き残りたい 作:ガンオンの亡霊
ローラン - 『魅せられたる魂』
ザフト艦を捕捉したのは、デブリベルトまであと1時間ほどとなった頃だった。
後方から接近するローラシア級を探知し、艦内が慌ただしくなる。
原作とは違い、こちらを追い抜いていくナスカ級は探知されていない。
ラウ・ル・クルーゼが2隻しかない艦を分けるとも考えられないし、やはり3隻目が存在していたのだろうか。
やたらと多い敵の数のこともあるし、原作よりクルーゼ隊の規模が大きくなっていると見て間違いないかな。
これもジョージ・グレンが尽力したせいか、正史よりもザフトの国力が増しているように感じる。
こちらを追尾しているのはローラシア級が1隻。
原作にないシチュエーションだから相手の戦力は予想がつかないが、クルーゼが乗艦しているはずのヴェサリウスの姿がない。
となれば主力はアルテミス方面で、クルーゼ隊の中核となる
アークエンジェルは熱源探知に引っ掛からないよう、慣性を利用した静粛航行を行っており、この速度ではいずれローラシア級に捕捉されてしまう。
ナスカ級がおらず、ローラシア級のみならばアークエンジェルの速力で振り切れるらしいが、デブリ群では大幅に減速せざるを得ない。
こちらが先にデブリ群へ侵入する都合上、どうやってもローラシア級に距離を詰められてしまう。
デブリ群に侵入した位置や進行方向はなるべく隠したい情報であり、補給に要する時間を稼ぎたい都合上、ここでなるべく時間を稼いでおきたい。
それに、これは主力を欠いた敵戦力を削る好機でもある。
ムウさんやナタルさんがそう主張して、マリューさんも同意する。彼らの言うことは筋が通っており、否定する理由もない。
『ってなわけだから、気を引き締めていけよ
それぞれストライクとアストレイのコックピットで、ムウさん……もといフラガ大尉に返答を返す。
民間人の身分のままで戦闘行為に介入するのは問題があるとして、私達はザフトの襲撃以前から地球連合軍に志願していたことになり、臨時任官されることとなった。
その理屈はわかるし、私達が罪に問われないための措置とはわかっているのだけど……。
「なんかもう逃げられない、って感じだね」
『そう、ですね』
緊張をほぐすために、こっそりストライクに映像通信の回線を開く。
何せ私達はこれから、後方に迫るローラシア級に対して対艦攻撃を仕掛けるのだから。
事前のブリーフィングでムウさん……フラガ大尉から説明された内容はシンプルだった。
アークエンジェルから発艦したモビルスーツ2機とムウさんのメビウス・ゼロで対艦攻撃を仕掛け、ローラシア級の推進系に損害を与えて撤退するというもの。
作戦と呼べるものですらない単純なものだけど、これは正規の訓練なんて受けていない私達への配慮だった。
実際、こちらから攻めていって対艦攻撃を仕掛けるなんて初めてなのだ。複雑な動きを要求されても出来る気がしない。
『ローラシア級に仕掛けるのは俺に任せりゃいい。直掩で出てくるモビルスーツの気を引いてくれるだけで十分だ』
発進シークエンスに入る直前のこと。
私達の緊張を和らげるために、フラガ大尉が声を掛けてくれる。
『ありがとうございます。フラガ大尉』
「了解です、ムウさん」
『フラガ"大尉"だ嬢ちゃん。俺は別に構わんが、規律を乱すとバジルール少尉がうるさいぜ?』
『聞こえていますよ、大尉』
通信機からナタルさんの冷ややかな声。げぇ!っとムウさんがおどけた声を出せば、思わず頬が緩んでしまう。
新兵の緊張をほぐすために、軍隊の士官はこういったトークを心得ているって昔戦争映画で聞いたことがあるけど、ひょっとしてこれがそうなんだろうか。
実際、さっきよりも肩の力が抜けたような気がする。
3機揃って発艦してローラシア級へ向かって移動を始めれば、ザフトの反応は迅速だった。
本当は原作みたいに、電磁式カタパルトで射出された慣性のまま隠密で距離を詰めたかったのだけど、アークエンジェルは後方へのカタパルトを装備していない。
回頭のために推進器を使えば熱源探知に引っかかるから、その案は実現させようがなかった。
『敵、ローラシア級から熱源です。数は……3!』
通信機からミリアリアちゃんの声。
続いて、熱紋照合の結果が告げられる。どうやら、ジンが3機らしい。やはりXナンバーの4機はアルテミス方面へ行っていたみたいだ。
これならなんとかなるかもしれない。やっぱり、ガノタとして原作ネームドが駆るガンダムと戦うのはそれなり以上に恐い。
『これは……せ、先頭の機体は後続機の3倍の速度で接近中!』
『正確な報告をしろ馬鹿者!』
ミリアリアちゃんからの報告に心臓が跳ね上がる。
すぐに1.2倍と訂正が入るが、だとしても通常のジンではないことは確かだった。
『あれは……オレンジ色のジン?』
『あいつは"黄昏の魔弾"のカスタム機だ! 気を抜くなよ!』
先頭のジンの姿をエールストライクの光学カメラが捉え、こちらにも映像が回ってくる。
オレンジ系統のカラーリングに、髑髏の意匠がペイントされたシールド。間違いない。あれはミゲル・アイマン専用のジンだ。
あいつヘリオポリスで死んでないの!?という叫びをなんとか堪えてる。まさかあんなのが出てくるなんて、予想だにしなかった。
M69バルルス改 特火重粒子砲を引っ提げ、後続機を引き離す勢いで吶喊してきたそれは、こちらへ向けたモノアイを光らせる。
まるで、仇敵を見つけた獣のように。
■―――――――――■
「オロールとマシューは支援だけしてくれればいい! こいつらは尋常じゃない!」
僚機からの返答も待たず、ラスティは通信機からの声を意識の外に押しやる。
相手は
原作の記憶はあまりないが、それでもキラ・ヤマトがやたらと強かったことは覚えている。何より、MSパイロットとして尊敬に値する
全力で当たらねば、勝つどころか生き残ることすら難しいことは明白だった。
フットペダルを踏み込み、亡き友から受け継いだ機体を全力稼働させる。
高性能なパーツのみを選りすぐられ、リミッターも緩めてあるこのカスタム機は、ジンよりも遥かに自分のイメージに追従してくれる。
モビルスーツ2機からロックされたことを告げるアラート。
モビルスーツや銃、現実やゲーム、武器やフィールドが違えど、ヒトが攻撃を行いたいタイミングはある程度わかる。相手が強者であれば尚更だ。
数千時間に及ぶ前世の対人ゲーと今世の演習の経験に裏打ちされた己の感覚に従って、機体をバレルロールさせながら断続的にメインスラスターを噴かせる。
モビルスーツが宙域戦闘を考慮した機動兵器である以上、主推進器の他に全身にサブスラスターや姿勢制御用のアポジモーターが設けられている。
ジンはウイングバインダーも兼ね備えたバックパックに主推進器があり、推力の大部分はこれに依存していた。
バレルロールで回転しながら、メインスラスターを全開で、そして断続的に噴かせばどうなるか。
それは三次元的にジグザグな軌道を描いて、短距離を高速で連続移動するマニューバとなる。
奇しくも、対峙するキラ・ヤマトが後年、フリーダムで流れるように戦場を飛び回る機動に酷似していた。
もちろん、それよりもかなり荒く、パイロットにかかるGの負担も相当なものである。その上、並のパイロットが行えば空間失調に陥ることは免れないだろう。
「なんとぉぉおおおお!」
ガンダムのゲームで誰だったか主人公が叫んでいた台詞が口から出る。
最も脆い部品であるパイロットを保護するため、モビルスーツやパイトッロスーツには耐G機構があるが、このマニューバはその限界を超えつつあった。
しかしその常識外のマニューバは、
降り注ぐビームの雨を泳ぐように突破したジンは、2機のちょうど中間点でストライクを照準に収める。
この位置ならば、敵方の2機は同じ射線軸にいる。同士討ちを恐れて反撃を躊躇った様子の敵機に、バルルス改のビームを撃つ。
ストライクはその熱線を回避してのけるが、ラスティもこんな見え透いた射撃で撃墜できるとは思っていない。
脚部のM68パルデュス3連装短距離誘導弾発射筒もストライクを目掛けて放つ。
いくら実弾やミサイルが効かないPS装甲があるといっても、関節部やセンサー類は別な上、何より、被弾前提で受けるのはヒトの心理上難しい。
ストライクにミサイルの対処を強要する僅かな間隙。
パルデュスを放った直後に宙返りの要領で逆さに180度回転したジンは、アストレイを照準に収めていた。
ストライクの支援を絶ち、アストレイの意表をついた射撃。
アストレイはこれをどうにかシールドで凌ぐも、その体勢は大きく崩される。
そのアストレイへ76mm重突撃機銃を向けるオロール機に、メビウス・ゼロから分離したガンバレルが射撃を加える。
完全な包囲攻撃よりもアストレイへの攻撃を牽制すべく行われたその攻撃を、オロール機はかろうじて回避。
マシュー機が接近して取りつく前に、メビウス・ゼロは一度距離を取る。一撃離脱の構えだ。
単純な速力ではMSを上回るが、旋回性能で大きく劣るMAでの格闘戦を嫌ったのだろう。
そうこうしている間に、イーゲルシュテルンでミサイルを撃ち落したストライクがビームサーベルを抜刀し、ジンに迫る。
ジンの重斬刀ではビームサーベルと鍔迫り合いなど出来ず、また、ビーム兵器を想定していないシールドでは受け止めることもできない。
ジンの仮想敵は艦艇や実弾装備のMAであり、ビーム兵器は艦艇の主砲くらいしか存在していなかった。
艦艇の主砲は射角に入らないよう避けるものであり、このシールドは機銃を想定して設計されたものに過ぎないのだ。
ラスティは躊躇なくシールドを投擲し、シールドを斬り払ったストライクにバルルス改を撃ちこみながら距離を取る。
バルルス改のビームはストライクのシールドに受けられたが、追撃の足を止めることは出来た。
そのままストライクに対して同心円状に動きながら射撃を加えようとした刹那、バルルス改を緑色の閃光が貫いて、メインモニタが眩い閃光に包まれる。
ストライクは納刀し、ビームライフルに持ち替えたばかりで射撃に移れていないだろう。
だとしたら、まさか、アストレイがあの崩れた体勢でこちらを照準していたというのか!?
ラスティは歯噛みしつつも、機体を加速させて爆煙を振り払う。
クリアになった彼の視界に映ったのは、ビームライフルをこちらへ向けるストライクの姿だった。
『ラスティ!』
ストライクの下方から、バルルス改の閃光が走る。マシュー機の援護だ。
ストライクは宙返りしながらそれを躱すが、射撃のタイミングは失った。
しかし、こちらの危機を察知して無理な援護をしたのだろう。
直後にガンバレルに包囲されたマシュー機は四方から襲い来る射撃を回避しきれず、背部に被弾してその上半身を四散させた。
通信機から、彼の名を叫ぶオロールの声が響く。
自機はバルルス改を喪失し、同様の装備のマシュー機も大破。
オロール機は76mm重突撃機銃しか装備しておらず、これはストライクへの有効打を喪失したことを意味していた。
セカンダリとして腰部にマウントしていた76mm重突撃機銃を右腕部に装備させるが、形勢の不利は否めない。
しかし、それでもラスティには諦めるという選択肢は無かった。
彼の闘志はまだ、折れるということを知らない。
ストックが尽きたのでゆっくりやります。