コーディネーターを騙る一般転生娘は生き残りたい 作:ガンオンの亡霊
ヘラクレイトス - 『断片』
アークエンジェルを見つけられたのは幸運だった。
大小様々、大量のデブリが散乱するこの宙域において、ジャマーや熱を持つデブリの影響でほとんどの計器が当てにならなかった。
そんな状況で敵と遭遇せず、無事にアークエンジェルと合流出来たのは幸運と言う他ない。
フレイ・アルスターら避難民を乗せた救命ポッドを抱えたストライクが戻ってきたのは、アストレイがアークエンジェルに帰還してからしばらく経ってからのことだった。
「モビルスーツを動かせたって戦争ができるわけじゃない、か」
「マユラさん!?」
「ごめんね、聞こえちゃった」
メビウス・ゼロの修理に
ストライクのキャットウォークで、そう独り言ちるキラくん。
隣に駐機されたアストレイのコックピットにいた私はその言葉を拾ってしまって、思わず彼の言葉を反芻していた。
たぶん、戦える力があるんだから出来ることをやれと、ムウさんに発破をかけられた後だろう。
「何、してるんですか?」
「整備と調整だよ?
「……すごい、ですね。マユラさんは」
「え、なにが?」
「あんなことがあったのに、もう次の戦いに備えてる。僕らとほとんど変わらないのに、なんていうか……戦う覚悟を持ってるじゃないですか」
目を伏せながら、ぽつりぽつりと漏らすキラくん。
さては、一度は戦うことを選んだけれど、ヘリオポリスが崩壊したことにショックを受けてるな。もしかしたら責任だって感じてるのかもしれない。
「言ったでしょ? やれることがあるのにやらなくて、それで守りたいものを守れなかったら死ぬまで後悔する。だから戦うって」
「それは……」
「あれ? これ言ったときキラくんまだ寝てたっけ」
ペロッと舌を出して、茶目っ気たっぷりに照れ隠しで笑う。
さっきの言葉はキラくんが寝てる隣でトールくん達と話してたときのものだった。
それに、ほんとは死にかけた恐怖が蘇って作業が手につかなくて、アストレイのコックピットで小さくなっていただけなのに、偉そうなことをを宣う自分が恥ずかしくて。自分も彼も誤魔化すために、笑って見せるしかなかったんだ。
「ありがとね?」
「え?」
間が保たなくて、言葉を続ける。
「さっきの戦闘さ、キラくんがいなかったら私は死んでたと思う。だから、ありがと」
「僕は、ただ必死で……」
「避難民の人達だってそう。漂流してた救命艇をキラくんが助けたんでしょ? キラくんのおかげで救われた人は大勢いるんだよ」
だから、その分は胸を張っていいんだ、と。
「守られてるくせに、コーディネーターだからってだけで白い目で見てくる人もいるけどさ。そんなの気にしなくていいよ。私も、お友達のみんなも、キラくんのおかげだってわかってるからさ」
「マユラ、さん……」
顔を上げたキラくんと視線が合う。その瞳には、さっきより少し明るい色が宿っていた。
うん、曇ってるキラくんは曇ってるキラくんでおいしいけど、やっぱり推しには少しでも明るい顔をしていて欲しい。
私の下手な慰めが少しでも役に立ったなら、こんなに嬉しいことはない。
アストレイのコックピットに戻って、今度こそ作業を始める。
なんせ、アークエンジェルの逃避行は始まったばかりなのだ。ここからが本番と言ってもいい。
彼を励ますつもりで言った言葉だったのに、知らず自分も少し前向きになれたような気がして。
つい無意識に、ストライクに視線をやって微笑んでいた。
■ーーーーーーーーー■
「すまない、俺もいながら……」
「くそっ!」
ナスカ級ヴェサリウスのブリーフィングルームにて。
友の、ミゲル・アイマンの死を聞かされた男は、激情のままに壁を殴りつけた。そのまま肩を震わせ、人目も憚らずに嗚咽を漏らす。
戦友の訃報を告げに来たアスラン・ザラは、そんな彼にかける言葉が見つからず、部屋を去っていった。
「なんだよあの
友の死に涙する彼、ラスティ・マッケンジー。
彼もまた、転生者だった。
彼はガノタだった。より正確に言うならば、モビルスーツオタクだった。
数多のロボゲーをプレイしていた彼は、セ〇サターンの戦慄のブルーで初めてガンダムシリーズに触れた珍しいタイプのオタクである。
イフリート改の造形に惚れ込んだ彼が次に選んだのはガンプラで、ガンダムゲーをプレイしては愛機のキットを組むというサイクルで沼に沈んでいった。そんな彼の
そんな彼だから。ガ〇ダムオンラインの
プラント最高評議会議員ジェレミー・マクスウェルの長男として生まれた彼は、
イフリート改が存在する宇宙世紀ではないことが少しだけ残念だったが、彼は狂喜乱舞して、すぐにまた落ち込むこととなった。両親が離婚して母方に引き取られたときよりもショックだった。
なぜなら、モビルスーツはまだこの世界にも誕生していないからだ。
厳密に言えば、ジョージ・グレンが木星探査で用いた宇宙機器モビルスーツはあるのだが、ジョージ・グレンの名前さえ覚えていない彼がそんなことを知っているはずもなかった。
しかし、
いずれ誕生し、戦場を支配することとなるモビルスーツ。
夢にまで見たそのパイロットを目指さないという選択肢は彼の中に存在し得なかった。
幼少期からひたすら鍛錬に励み、大戦が勃発して士官学校入学要件の年齢が引き下げられるや否や入学。
同期のアスラン・ザラやイザーク・ジュールらに出会った時は興奮のあまり挙動不審になりつつ(さすがにメインキャラクターは覚えていた)もなんだかんだ良好な関係を築き、競い合うようにして己を高め合った。
そして成績上位10名のみに与えられ、ザフト兵士達にとっての憧れであり一種の誇りともなっている
彼はまさに人生の絶頂にいた。
待ちに待った配属の日。
彼の心は野望に燃えていた。
それは、己の腕でもって原作で死にゆく人達の
彼は豊満な女性が
そして友人達と共に配属されたクルーゼ隊。
やや蘇る記憶、生まれてくる懸念。
それは、連合の新兵器を奪取する任務を言い渡された瞬間に確信に変わった。
『あかん、これ俺も死ぬ運命や』と。
原作に疎い彼でも覚えている。ヘリオなんたらのガンダム5機を奪うために赤服5人が潜入して、1人が撃たれて死ぬことは。
まさか自分がその役回りを引く
しかし、いつどのようなシチュエーションで死ぬかなど一切わからない彼は、死なないように一層頑張ろうと決心するしかなかった。
転生者は前向きなのだ。
そして、運命の時は近づく。
既にイザーク、ディアッカ、ニコルがそれぞれのモビルスーツを奪取し、ラスティとアスラン、それから数名の兵士が
しかしその2機、特にラスティが奪取する予定の機体を守っている数名が特に手強い。随伴していた兵士が、見る間に数を減らす。
これからの連合にとって重要な、初の連合製モビルスーツを守っているのだ。必死にもなるかと、ラスティは歯噛みする。
ここはあくまで敵の拠点で、数の利は敵にある。時間をかけるだけ不利になると判断したラスティは、遮蔽から飛び出して吶喊すべく覚悟を決めた。
その時だ。ストライクの上に陣取る女性士官の圧倒的な胸部が目に入ったのは。
刹那、目を見開き、動きが止まる。直後に、彼の頭上僅かのところを銃弾が掠めていった。飛び出していたら頭を撃ち抜かれていただろう。
自分を殺しかけた男に銃弾を浴びせて、女性士官にも銃を向ける。
しかし、彼には撃てなかった。あんな立派なものを失うのは世界の損失であり人類への裏切りであると、彼の奥底の部分が引き金を引くのを躊躇わせた。
そうこうしている内にラスティは大腿部に銃弾を受け、女性士官もまた、アスランの放った銃弾を上腕に受ける。
その後、彼はアスランに助け起こされ、イージスに同乗してヴェサリウスに連れ戻されて今に至る。
「整備班、機体の準備は出来るな!」
肯定の返事を聞くや、コンソールを叩き通信を切断する。
となればやることは一つ。仇討ちだ。