魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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お待たせしました。最新話投稿です。


"噺家" vs "孤高のマスメディア"

♢洒落亭流音

 

 控室に設置されたテレビ画面では、舞台上で暴れまわる変態が映し出されている。その暴れっぷりに、先ほどまでゴージャス麗麗麗の死亡によってやや重苦しい空気だった控室はやや熱気を取り戻していた。

 

 洒落亭流音は、目線だけはテレビ画面に向けつつ、周囲に気を張り巡らせる。きっと、そろそろあの心配性の妹がこちらに連絡を入れてくるころだと思ったからだ。

 

 その予想通り、入り口の方から何かが近づいてくる気配を感じ、ちらりと視線を向ける。すると、青い一本の髪の毛がこちらへ伸びてきていたので、それを人差し指で巻き取ると、耳元へとそっと近づけた。

 

「⋯⋯義姉さん、初戦の対戦相手、TV唱ですよね? 大丈夫ですか? クラッシュライトと組んでいる様子でしたし、下手したら殺されますよ」

 

 相変わらず陰気な声だ。洒落亭流音は、控室に他の魔法少女がいるのにも関わらずつい鼻で笑いそうになってしまった。自分も、今別の控室で試合に出る準備をしているはずなのに、わざわざ意地悪な姉にこんな連絡をよこしてくるなんて、よっぽど暇なのだろうか。⋯⋯腹立たしい。妹に心配されるほど、落ちぶれたつもりはない。

 

「誰を心配してんだい? あたいの心配している暇あったら、あたいと戦う時のことシミュレーションしておきなこの愚妹」

 

 洒落亭流音は、耳に近づけていた髪の毛を口に近づけ、周りに聞こえないくらいの音量でそう伝えると、ぶちっと髪の毛を切り離した。切り離した髪の毛は、コスチュームの帯に挟んでおく。

 

「⋯⋯ま、お守り代わりに貰っといてやるよ。みっともないところは見せらんないからね」

 

 テレビの音声は、聖マリア0.01が勝利したことを宣言している。洒落亭流音は、その声を背に、控室を出ていくのであった。

 

 

♢TV唱

 

『さあ、先ほどは大変見苦しい試合になってしまいましたが、次の試合は楽しんでいただけるはずです! まず、左手から入場するのは、”噺家”洒落亭流音!! 魔法少女落語家という異色の職歴を持つ魔法少女が、堂々の入場です!!』

 

 入場のアナウンスと共に、洒落亭流音が舞台左手から現れる。その表情に緊張や不安の色は見えず、派手な羽織も、すっと細められた瞳も普段通りだ。今からあのすまし顔を滅茶苦茶にしてやれると思うと、興奮してくる。最終目的はあくまで人事部門の長を引きずり下ろすことだが、TV唱はその過程であるこの武闘大会も思いっきり楽しむつもりであった。

 

『さあ、そして~? 対戦相手はこの私! “孤高のマスメディア”TV唱でございま~す!! 皆さん、盛大な拍手で迎えてください!! そして、称えてください!! 私の勝利の舞台を!!』

 

 TV唱は、自分で会場を盛り上げ、そのまま司会席から舞台右側へと飛び降りる。ここから先は、解説はあの茶田千代に任せることになる。やや不安はあるが、そこはTV唱が盛り上がる試合を魅せることでカバーすることにしよう。

 

 観客席からの声援は、想定していたよりは少ない。まあ、先ほど観客が人質だと伝えたばかりだ。それは仕方ないことなのかもしれない。だが、イラつく。このエンターテイナーがわざわざ舞台に上がったのだから、もっと盛り上がってもらわねば困る。なので、ここで観客に向けて甘美な嘘をプレゼントする。

 

『もし、私が勝った暁には、ここに居る観客の皆様のうちの数名は、ここから逃がすことを約束しましょう! なので皆さん、応援よろしくお願いします! このTV唱に歓声を! もっとこの舞台を盛り上げていきましょう!!』

 

 もちろん、誰も逃がすつもりはない。だが、別にこれは嘘ではない。もし、TV生姜勝てば⋯⋯つまり、優勝すればこの約束は果たしてみせる。まあ、クラッシュライトと当たった際は降参すると決めているのでこの約束が守られることはないのだが。

 

 そして、TV唱の約束が守られないことを知らない観客は、この状況から逃げ出せる希望を見たことで、TV唱に声援を送り始めた。そうだ、これでいい。もっともっと盛り上げて、勝手に絶望してくれ。

 

「⋯⋯はぁ。あんた、相変わらず口がうまいねぇ。TV屋。観客たちを騙して、そんなに楽しいかい? このペテン師が」

 

『私は嘘で世論を躍らすエンターテイナー! しかし、それはあなたも同じではないですか? 噺家さん。あなたも、嘘で観客を楽しませることが仕事でしょう?』

 

「あたいのは嘘ではなくて洒落っていうんだよ。それに、あんたみたいに人を傷つける嘘は、身内以外にはついたことはない。あたいは、観客へのリスペクトは忘れない。それがどんな奴でもね。あんたも、あたいの観客になるってんなら、楽しませてやるよ」

 

『それは私の台詞ですねぇ! あなたとの戦い、せいぜい面白いニュースになるように祈っていますよ!』

 

 お互いにジャブの代わりに舌戦を繰り広げる。口達者同士、喋りは止まることは無い。この舌戦に終わりを告げたのは、心細げに震える茶田千代の声であった。

 

「え、え~っと⋯⋯それでは、第七試合、開始です!!」

 

 開始の合図とほぼ同時に、洒落亭流音がTV唱の持つラジオに蹴りかかってくる。その一撃でラジオは破壊され、破片が宙を舞う。しかし、TV唱は慌てない。すかさず、顔面のテレビから訂正報道を流す。

 

『先ほどあなたが破壊したと思わしきラジオですが、実は破壊されていなかったことが判明いたしました。こちらが、新しいラジオになっております!』

 

 じゃーんと効果音付きで懐から新しいラジオを取り出す。メディアの力は偉大だ。到底3分では作れない料理でもたった一言で作り出せるし、こうして訂正してしまえば事実もなかったことにできる。

 

『ニュース速報。洒落亭流音選手は突如巻き起こったかまいたちによって全身を切り刻まれてしまいました!! これは重症です!!』

 

 さらに、こうして報道してしまえば、目の前でその報道が真実になる。どこからか巻き起こったかまいたちが一瞬にして洒落亭流音の全身に傷をつけた。しかし、傷を負った洒落亭流音は動揺した様子はない。懐から扇子を取り出すと、ぱんっと乾いた音を立てて手のひらに打ち付け、洒落(・・)を口にする。

 

「この怪我、毛ガニに移そうかに?」

 

 すると、どこからか取り出した毛ガニが一瞬でズタボロになり、それと同時に洒落亭流音の怪我はすっかりと消えてなくなった。

 

 『駄洒落を言うのが得意だよ』。それが洒落亭流音の魔法だ。主催を務めるTV唱は、もちろん参加者全員の魔法を把握している。駄洒落を言えば、それを実現できる魔法。TV唱の『報道の自由を振りかざすよ』と似た、かなり自由度の高い強力な魔法だ。しかし、自由度ならば、こちらの方が勝っている。

 

 ずたずたになった毛ガニを投げてきたのをかわし、新聞で出来たマントを広げ、視界を封じる。そのまま蹴りを放てば、洒落亭流音は爆発と共に吹き飛んでいった。

 

『皆さん、私が何をしたか分かりましたでしょうか!? 私は、蹴りと同時に魔法を発動したことで、爆撃も同時に洒落亭流音選手にお見舞いしたのです!!』

 

 会場の特大テレビに自分の姿を映し、先ほど起こった事象を報道する。これが、『後出しの報道の自由(チート・レポート)』。思い描いた事象を先出しし、それを数秒以内に報道すれば、真実にすることが可能になる。

 

 吹き飛んだ先は土煙に覆われたままだが、むくりと起き上がる影が見えた。さすが魔王塾出身者。あれだけで倒れることはないようだ。それでこそ盛り上がる。

 

 しかし、洒落亭流音の魔法。あれはいただけない。先ほどのようにダメージを無効化されてしまえば、流石にきつい。なので、先んじて先手を打つことで、魔法の効果を封じさせてもらう。

 

『皆さん、先ほどの洒落亭流音選手の駄洒落を聞きましたか? あんなセンスのかけらもないおやじギャグ、まったく笑えない! あんなものは駄洒落とは呼べない! そうは思いませんか!?』

 

 テレビを通して観客に呼び掛けてやれば、ざわざわとした喧騒の中に、「確かに⋯⋯」という同意の声が混じり始めた。

 

 『世論操作(ワールドイズマイン)』。報道次第で、簡単に世論は操れる。世論は、世界の声だ。大多数が同意してしまえば、この世界においてはそれが真実として肯定される。土煙の中から出てきた洒落亭流音の身体には傷が残っている。ちっと舌打ちの声が聞こえたことからも、魔法がうまく使えなくなっているのだろう。

 

 しかし、この魔法にも欠点はある。魔法とはかなりの力を持ったものなので、完全になかったことにするのは不可能だ。こうして洒落亭流音の魔法を封じ込める報道をしている間は、他の報道はできない。⋯⋯まあ、あくまで、それはテレビに限った話だが。

 

 洒落亭流音が、ふっと息を吐き、拳を叩き込んでくる。その殴打を腕で受け止め、真四角の頭の角で頭突きをお見舞いするが、洒落亭流音は頭突きを回避し、こちらの足元をすくうように蹴りを放つ。

 

『その時、不思議なことが起こった!! 突如巻き起こった突風が、洒落亭流音を吹き飛ばしたのです!!』

 

 その蹴りが当たる寸前に、TV唱はラジオから演技がかった声でそう報道する。テレビは魔法を封じる『世論操作』に使用しているため使えないが、それ以外のメディア媒体なら自由に扱える。なにも、テレビだけが報道の手段ではないのだ。

 

 報道通りに吹き飛んだ洒落亭流音に、TV唱はマントをちぎり、紙飛行機の形にして飛ばす。その紙飛行機は、洒落亭流音に当たった瞬間にぶわっと広がり、その一面にでかでかと書かれた見出しを、洒落亭流音の眼前いっぱいに見せつける。

 

『洒落亭流音、紙飛行機にぶつかり爆発!! 全治一か月の大怪我!!』

 

 どごぉんという爆音が、会場全体に響き渡る。その爆音の中、TV唱は久々の戦闘による快感に酔いしれていた。

 

『やはりメディアこそ最強!! 落語なんて時代遅れの娯楽が、私に勝てるはずがないのですよ!!』

 

 TV唱の魔法は最強だ。それは、決して自慢ではなく、客観的に見た周知の事実。この魔法さえあれば、TV唱は魔法の国でトップに立つことも決して夢ではないだろう。

 

 だが、その前に。まずは、プフレに地獄をみせる。彼女が、森の音楽家クラムベリーの試験で殺したとされる100人の魔法少女たち。その中に、TV唱の妹がいた。妹の死の真相を追い求め続け、たどり着いたこの真実。クラムベリーの試験を受けた魔法少女たちは被害者だという声も多いことは知っている。だからどうした? そんな詭弁で遺族の気持ちは晴れない。

 

 森の音楽家を野放しにしてきた魔法の国も、彼女を育てた魔王パムも、TV唱は嫌いだ。だから、魔王塾出身者は自分の手でも容赦なく殺すし、他の面子もクラッシュライトに殺されてしまえばいい。そして、その先に真の目的であるプフレへの復讐を果たす。

 

 そのためにも、まずはここで洒落亭流音を殺す。ゴージャス麗麗麗に匹敵する有名人。こいつをここで殺すことは、魔法の国にも衝撃を与えることだろう。

 

 爆発を受けてもなお、洒落亭流音は立ち上がっている。しかし、その身体はかなりボロボロ。もう一押しすれば、倒せるだろう。TV唱はとどめを刺すべくラジオへ手を伸ばしたところで、違和感を覚え、ピタリとその手を止めた。

 

 洒落亭流音が、笑っている。追い詰められてボロボロだというのに、その表情は余裕で満ち溢れていた。

 

『⋯⋯何を笑っているんでしょうか。死を前にして、頭がおかしくなりましたか?』

 

「いやぁね。あんたがダラダラパフォーマンスしてくれたおかげで、あたいの準備も整ったから、礼を言おうと思ってね。⋯⋯前座3分。その時間が稼げれば、ここからはあたいの独壇場さ」

 

 どこからか取り出した座布団に座り、洒落亭流音は扇子でぱぁんと地面を叩く。その瞬間、コロッセオを模して造られた舞台が、その様相を変える。洒落亭流音が座った箇所は高く盛り上がり、TV唱は観客席のような場所に座らされていた。いったい、何が始まったのか。洒落亭流音の魔法は、駄洒落を実現させるだけではなかったのか。

 

「あんたがさっき言った言葉はその通りさ。つまんない洒落を聞かせちまって悪かったね。そのお詫びに、こっからはホントの洒落ってもんを聞かせてやるよ。⋯⋯『洒落亭流音落とし噺(ショー・マスト・ゴーオン)』」

 

 洒落亭流音の特別演目が、始まろうとしていた。

 

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