魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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"騒音少女"

♢ときんちゃん

 

 控室の空気は、先ほどから最悪だ。その原因は何を隠そう、自分の隣に座って無言を貫いているクラッシュライトにあるのは間違いない。

 

 できれば、スタッフの魔法少女はもう少し気をきかせてほしかった。何が悲しくて人殺しと同じ空間に居なければならないのか。この会場から出ようとして爆死した参加者が出たせいで、逃亡するという手段も潰された。

 

 静まり返った控室の中で、テレビの音声と、ぼそぼそとした話し声だけが聞こえてくる。その声の主は、クラッシュライトの割とすぐ近くに座っている青い髪の毛の魔法少女だ。かなり小声なので他の魔法少女は気にしていないだろうが、ときんちゃんは気にする。だって、ときんちゃんが聞こえているということは近くにいるクラッシュライトにも聞こえているはずだ。青髪の魔法少女のぼそぼそ声がクラッシュライトの機嫌を損ねないか、ときんちゃんがビクビクする羽目になっているのは何故だろうか。

 

 しかし、そんな気まずい時間もようやく終わる。次の第八試合は、ときんちゃんの出番だからだ。対戦相手は、超☆Ⅱ凱という魔王塾卒業生。これまでの試合結果からしても、ゴージャス麗麗麗以外全勝と、やはり格の違いを見せつけてきている彼女たちだが、ときんちゃんとて戦いには自信がある。

 

 それに、敗北してもそれはそれで嬉しい。何故なら、敗者は控室とは別の部屋に集められるらしい。この地獄のような空間から出られるのならば、それでもいいかもしれないと思うときんちゃんであった。

 

 テレビ画面から歓声が沸き上がる。どうやら、第七試合の決着がついたらしい。ときんちゃんは、さっさとここから出るために、結果を確認することなく立ち上がろうとした。

 

 しかし、そんなときんちゃんを引き止めるかのように、青髪の魔法少女が腕を握ってくる。突然の行為に思わず悲鳴をあげそうになったが、その動揺を押し隠しつつ、ときんちゃんは青髪の魔法少女を見る。

 

「⋯⋯この我に、なんの用だ? 悪いが今から試合だ。手短に頼むぞ」

 

「⋯⋯あ、あの。次の対戦相手、ボクの知人の話によると、戦いになると枷が外れるみたいなので⋯⋯。一応これ、お守りです」

 

 そう言って、青髪の魔法少女がときんちゃんに握らせてきたのは、その髪の毛と同じ青色のミサンガだった。

 

 まさか、このミサンガは髪の毛で作ったのだろうか。いや、そんなヤンデレヒロインのようなことを今日初めて会う魔法少女がするはずない。若干の不気味さは感じたが、断るのもなんだか気まずいので、ときんちゃんは無言でうなずいてミサンガを受け取ることを決めたのであった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「さあ始まります第八試合! 左手から入場、今大会のダークホース枠を狙っている!! ときんちゃん選手の入場だ~~!!」

 

「『アウェーだと強くなれるよ』という魔法を使うそうです。今の会場の雰囲気はときんちゃん選手にとってはアウェーなのでしょうか? 気になるところですね~」

 

 司会と解説は、TV唱がいなくなったことで先ほどまでより和やかなムードになっている。そんな二人の声に迎えられ、ときんちゃんは胸を張って会場へと足を進めた。

 

「ときんちゃん選手、堂々とした入場です。よほど自信があるのでしょうか!!」

 

「なんか、名前の響きが可愛いですよね~。小さいころ見てたアニメに似た名前のキャラいましたよ。好きだったなぁ」

 

「さて、対するは右側から入場!! “騒音少女”超☆Ⅱ凱選手だ~~!!!」

 

 マイク越しの入場のアナウンス。その声を掻き消すように、きぃ、きぃと甲高い金属音が連続で鳴り響き、ときんちゃんはたまらず耳を塞ぐ。二つ名の由来は、すぐに分かった。

 

 そして、目の前に現れた魔法少女の姿は、その騒音に負けず劣らずのインパクト大なものであった。レトロ調なコスチュームのいたる箇所に取り付けられた歯車と蝶番、それに反するような白塗りのメイクはデスメタルバンドのボーカルのようだ。しかも、瞳孔が思いっきり開いている。見るからにヤバい魔法少女であった。

 

「私ぁ、ずっと普通の魔法少女で居られたのにさぁ。なんで、こんなことになってんだよぉ⋯⋯。いいんだよなぁ? もう。我慢しなくてもいいんだよなぁ!? キヒ、キヒヒヒヒヒ!!! おいお前ぇ!! 俺のシャウトで大気圏までぶっ飛ばしてやるよぉぉ!?」

 

 何かをぶつぶつと呟いていると思いきや、急に鼓膜が破けるほどの大音量で叫ぶ超☆Ⅱ凱。絶叫と共に力強く地面を踏みしめた瞬間、大地が、揺れた。

 

「『超☆震撼(バタフライ・エフェクト)』ぉぉぉ!!!」

 

 超☆Ⅱ凱が何をしたのか理解したのは、自分が立っていた場所に蝶番が設置され、がくんと足元が沈み込んだ時だった。舞台中に鳴り響く、金属の軋む音。それは、超☆Ⅱ凱がこの戦いの舞台を蝶番で埋め尽くした結果であった。

 

「すさまじい金属音!! 私の声は聞こえているでしょうか!?」

 

「超☆Ⅱ凱選手の魔法は、『どんなものにも蝶番を取り付けられるよ』だそうです。それにしても、あの一瞬でここまで蝶番を設置するとは驚きです~!!」

 

 司会と解説の声が蝶番の軋む音に交じってわずかに聞こえる。それよりも、ときんちゃんが今気にするべきは超☆Ⅱ凱の現在地だ。地面に足が沈み、視点が下がったことで姿を見失ってしまった。聴覚は全く頼りにならない今、意識を研ぎ澄ませて接近を察知する必要がある。

 

「ここだよぉ~!!」

 

 しかし、そんなときんちゃんの警戒をあざ笑うかの如く、声は下から聞こえてきた。慌てて視線を下げると、そこには地面をドアのように開き、満面の笑みを浮かべる超☆Ⅱ凱が、ぬっと腕を伸ばしてきていた。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

 驚いて情けない悲鳴を上げてしまったが、慌てて飛びのいて超☆Ⅱ凱から離れる。しかし、着地の瞬間、かくんと足首が折れて倒れてしまう。先ほどの一瞬で、足首に触れられていた。関節に蝶番が取り付けられ、うまく立つことができない。

 

「だが⋯⋯この逆境(アウェー)が、我を強くする!!」

 

 これは、明らかに自分にとって不利な状況。それ故に、ときんちゃんの魔法は効果を発揮する。ぐっと力を込めれば、何もない空間から木製のバットが現れる。それを握りしめたときんちゃんは、奇声をあげながら飛び掛かってくる超☆Ⅱ凱を思いっきり殴り飛ばした。

 

「ピンチは、チャンス!!」

 

 バットは、超☆Ⅱ凱の顔面に直撃した。しかし、手ごたえが薄い。超☆Ⅱ凱の首が、90度直角に折れ曲がっている。バットの殴打音よりも響いた蝶番の軋む音が、ときんちゃんの攻撃を回避された事実を告げていた。

 

「『超☆回避(レピダプタラ・ドッジ)』ぃぃ!!」

 

 魔王塾卒業生は技名を叫ぶのは知っているが、それにしても五月蠅い。先ほどから声量が常にマックスな上に、蝶番の軋む音がデフォルトでなっているので、頭が割れそうだ。

 

 だが、こういう自分自身のデバフになるような状況は、ときんちゃんにとってはありがたい。より逆境(アウェー)ポイントがたまったことで、バットが大きくなった。

 

 巨大化したバッドを振り、その勢いで空気を弾丸のように押し出せば、巻き起こった突風が蝶☆Ⅱ凱を吹き飛ばす。同時に、蝶番の軋む音も五月蠅く鳴り響くが、もう気にしない。足首の代わりにバッドを地面に押し立て、超☆Ⅱ凱に接近する。

 

 しかし、ときんちゃんの身体は、超☆Ⅱ凱に近づく最中に空中で押しとどめられてしまう。いったい何をされたのか。視線を巡らせると、空中で留まっている蝶番を見つけた。まさか、空中にも蝶番を設置できるのか。

 

「『超☆圧殺(パピヨン・コンプレッサー)』!!」

 

 ときんちゃんの目の前で、空中に固定されていた蝶番がぎぃっと音を立てて閉まっていく。それと同時に、ときんちゃんの身体を凄まじい圧迫感が襲った。空気に押しつぶされている。あの蝶番が完全に閉まりきる前に抜け出さなければ、このまま圧死されられるかもしれない。

 

「どりゃああああ!!!」

 

 気合の雄たけびと共にバッドを振るえば、輝きを帯び始めたバッドが蝶番を破壊し、ときんちゃんは何とか空気の壁に押しつぶされずに済んだ。逆境ポイントはいい感じに溜まってきている。だが、あまりにもたまるスピードが速すぎる。追い詰められれば追い詰められるほどときんちゃんの魔法は効果を発揮するが、別にダメージが回復するわけではないのだ。倒れる前にどこかで一発逆転を狙う必要がある。

 

 相変わらず蝶番が埋め尽くしているせいで動きにくい足場を、これまた関節が安定しない足首で何とか走る。先ほどよりも動けるのは、逆境に追い込まれてパワーアップしているからだ。

 

 超☆Ⅱ凱の腰目掛けバッドを振るう。なるべく関節のない箇所を狙った一撃は、確かに肉を叩いた感触があった。しかし、超☆Ⅱ凱は痛みに顔を顰めるどころかキヒっと楽し気な笑みを浮かべ、こちらの顔面に腕を伸ばしてくる。あれに触れては終わりだ。

 

 とっさに後方に飛びずさって回避する。そんなときんちゃんを追いかけるかの如く、超☆Ⅱ凱の腕が伸びる。連続した金属音に、不自然に伸ばされた腕。関節に蝶番を取り付けて腕の長さを伸ばしている。避けきれない。

 

「『超☆取羽(アレクサンドラ・トリバネ)』!!」

 

 とっさに顔面を守るためにバッドを盾にした。瞬間、バッドに無数に蝶番が取り付けられ、それが外されたことでバッドはバラバラに分解された。あれがもし自分の身体に触れていたらと思うとぞっとする。

 

 ⋯⋯いや、おかしい。先ほどから、攻撃の殺意が高すぎる。まさか、目の前のこの魔法少女は、自分を殺すつもりなのだろうか?

 

 そんなときんちゃんの疑問を肯定するように、超☆Ⅱ凱はキヒっと不気味な笑みを浮かべる。その目は、純粋な殺意と狂気を映していた。

 

「ちょっとタンマ⋯⋯」

 

「『超☆標本(エーミール・スクラップ)』」

 

 真正面から殺意をぶつけられてビビったときんちゃんは、慌てて休戦を求めるが、その声は届かない。隙を晒したときんちゃんの四肢を、空中に磔にするように蝶番が固定する。そして、身動きできないときんちゃんに近づいた超☆Ⅱ凱は、その顔面にゆっくりと手を当てた。

 

「やめっ⋯⋯」

 

「そうか、君はそんな奴だったんだなぁ。がっかりだよ、もっと楽しませてくれると思ったのにさぁ。せめて血を見せて、俺の渇きを癒してくれよぉ!! 『超☆解体(ロスト・メモリーズ)』!!!」

 

 ときんちゃんの視界を、蝶番が覆いつくす。そして、技名と共に取り外された蝶番は、肉体をバラバラに引き裂いてときんちゃんに死を贈る。ときんちゃんは蝶番の音を聞きその未来を悟り、意識を飛ばした。

 

 しかし、蝶番が外されたその瞬間、ときんちゃんの胸元から伸びてきた髪の毛が、バラバラにされる一歩手前で身体を縫い合わせる。蝶番を軋ませながら高笑いをしていた超☆Ⅱ凱は、その髪の毛を見てはっと我に返った様子で会場を見まわした。

 

「⋯⋯ありゃりゃ。私ぁ、これ、やっちまったかねぇ」

 

 しーんと静まりかえる会場。しかし、舞台の上に立っている者が一人ならば、それは勝者に変わりはない。司会のパミーが勝者の名前を告げたことで、まばらながらに拍手が沸き起こり、超☆Ⅱ凱は恥ずかしそうに顔を隠しながら、気絶したときんちゃんを引きずって会場を後にしたのであった。

 

 

 

♢さらら

 

「⋯⋯お守り、渡しておいてよかったです」

 

 先ほど終わったばかりの試合を見て、さららはほっと息を吐く。キューティー☆Eに聞いていて事前に対策していたのが功を奏した。いくら他人とはいえ、誰かが死ぬところは見たくない。余計な犠牲者を出さずに済んだのは何よりだった。

 

 超☆Ⅱ凱という魔法少女の悪癖。それは、あまりに強い殺人衝動だ。魔王パムにボコボコにされ更生したことで、普段はおとなしく害のない魔法少女なのだが、ひとたび血を見ると殺人衝動を抑えきれず、本来の人格が顔を出してしまう。

 

 クラッシュライトという明らかな地雷が存在している今、あまり関係ないところで暴れてほしくはないのだが⋯⋯こればかりは仕方のないことなのかもしれない。それに、さららとてあまり他人に気を遣える余裕は残っていない。今後、同じようなことが起きる際に守れるかどうか。

 

 テレビ画面に映し出された次の対戦カード。さららが変装している魔法少女と対決する予定のその名前を見て、さららはため息をついた。

 

──第九試合、クリアスカイvs久光織衣。奇しくも、さららに強い憎しみを抱いている久光織衣が、対戦相手だ。どうにか、正体がバレないように試合を勝ち上がりたい。そう祈りながら、さららは戦いの舞台へと向かうのであった。

 

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