♢シキオリ=オリー
テレビ画面に映された数多の戦闘模様。魔法少女たちがおりなす激しくも華麗な戦いに魂が震える。自らの出番が近づくごとに高鳴る心臓の鼓動に、やはり自分は戦いが好きなのだと実感した。
「だいじょうぶかぁいオリー嬢。あんたの対戦相手はクラッシュライト。絶対あんたを殺しにかかってくるよぉ」
「そんなこと言ってさ、そわそわしてるの隠せてないよ超☆Ⅱ凱。ホントはあなたが戦いたいんだよね? でもごめんね、うち勝っちゃうから。超☆Ⅱ凱の出番はないよぉ~」
ゴージャス麗麗麗が死に、TV唱が敗退し、そして怪我の治療のため洒落亭流音もいない今、控室は超☆Ⅱ凱とシキオリ=オリーの二人っきりだ。既に戦いを終え興奮が冷めたのか普段通りのおっとりした口調に戻っている超☆Ⅱ凱であったが、その瞳の奥の狂気は隠しきれていない。こちらを心配するような言葉を投げかけながらも、生き死にがかかった試合ができることをうらやましがり、興奮している。でも、興奮しているのは自分も同じだ。
昔から、生よりも死に魅力を感じていた。移り変わる季節。散りゆく桜に、舞い散る木の葉。玄関口で倒れるセミに、水たまりになった雪だるま。日本の四季は、季節は、死と隣り合わせだ。
厄ネタと化してしまった森の音楽家クラムベリーとは、割と仲が良かった。クラムベリーが何をやっていたかも知っていたし、一度そのまねごとをしてみたこともあった。あの時はかなり興奮した。クラムベリーが死んで魔王塾卒業生への風当たりが強くなった現在では、おいそれと同じようなことができなくなってしまったのが残念だ。
もうすぐ戦うことになる相手、クラッシュライトは、本気でこちらを殺しにくるだろう。それならば、こちらも本気で殺しにいっても何も問題ないはずだ。大観衆の前で、大手を振って人殺しができる。これは、シキオリ=オリーにとってとても喜ばしいことであった。
シキオリ=オリーはそう簡単に死ぬことは無い。それは自分が一番よく分かっている。願わくは、すべての四季を乗り越えて、自分に真の意味での死を与えてほしいところだ。その時はたぶん、自分は満足しながら死ねることだろう。
「さあ、いっちょ暴れちゃいますか☆」
シキオリ=オリーは、スキップしながら控室の扉を開ける。開戦の時は、もうすぐそこまで迫っていた。
☆☆☆☆☆
「さあ始まります第十二試合! 第四試合ではゴージャス麗麗麗選手を殺害し波乱を呼んだクラッシュライト選手vs”春夏秋冬”シキオリ=オリー選手の対決です!! これでシード権を含めた全選手が出そろいました!!」
「え、まだ全員出てなかったんですか? すっごく長い⋯⋯。体感3か月くらいやってませんかこの大会」
「茶田千代さん!?」
「あ。え、えーっと、それくらい長く感じるほど白熱した試合の連続だったという意味です!!」
「そうですよね! さあ、この試合も白熱した試合になることでしょう。できれば死人は出てほしくないですが果たしてどうなるか。それでは、試合開始です!!」
試合開始の合図と同時に、クラッシュライトが仕掛ける。ゴージャス麗麗麗を仕留めた時と同様に、心臓目掛け放たれた光線。しかし、その攻撃を読んでいたシキオリ=オリーは危なげなく回避に成功する。
「避けるな!! さっさと死ね!! 魔王の下僕!!」
「いやいや、そんなすぐ死ぬのはもったいないでしょ。折角ならもっと楽しもうよ!!」
連続で放たれる光線を軽快なステップで避けながら、シキオリ=オリーはポケットからメイク道具一式を取り出す。夏はギラギラ、陽キャ抜群ギャルメイク。だが、まだ夏感が足りていない。だから、もっと、この舞台を夏色に塗り替える。
「
技名を叫びながら舞台にメイクを施せば、夏真っ盛り、太陽が照り付ける砂浜へと変化する。砂浜といえば当然海。小麦色に焼けた肌を一瞬で水着に包んだシキオリ=オリーは、大きな波の上にサーフボードで乗ると、クラッシュライト目掛け突っ込んでいく。
「ふざけるな。死ね!!」
しかし、対するクラッシュライトもさすがの火力。怒りの声と共に光線を放てば、その熱で波は消え去り、シキオリ=オリーは空中に投げ出される。
「うっひょー、豪快!! でも、光線ならうちだって撃てるんだからね。
海も真夏の太陽も、シキオリ=オリーの魔法で作り上げた仮想の物体。でも、波に飲木揉まれれば溺れるし、太陽は触れると火傷では済まされない。そんな太陽をぎゅっと掌で包んで、野球選手のように腕を大きく振りかぶって放り投げた。
クラッシュライトは、迫りくる太陽をじっと睨みつける。そして、直撃する寸前に、右腕を前に突き出した。
ぐわっと大きく広がった真っ黒な右手が、まるで生き物のように太陽を呑み込む。その瞬間、クラッシュライトを中心としたあたり一帯が暗闇に包まれた。そして、その暗闇にシキオリ=オリーも吞み込まれる。
視界を奪われたシキオリ=オリーだったが、動揺することはなく、ひとまず身の安全を守るために腕を体の前で交差させて防御態勢に入る。しかし、そんな小細工など無意味だと笑うように、暗闇の中を一筋の光が走った。
シキオリ=オリーの放った太陽も、周辺の光も丸ごと呑み込んで撃ちだされた極太の光線が、シキオリ=オリーの腕を砕き、胸元に大きな風穴を空ける。観客も、まるでスポットライトの如く照らしだされたシキオリ=オリーとその傷を見て、再び起こった悲劇に悲鳴を上げる。血を吐きながら、地面へ落下していくシキオリ=オリー。
しかしながら、即死の一撃を食らったはずのシキオリ=オリーは、何故か余裕の笑みを浮かべていたのであった。
♢クラッシュライト
やってやった。また一人、愚かな魔王の手下を殺すことができた。いきなり海と太陽が出てきた時は少し驚いたが、蓋を開けてみればあっけない幕引きだった。
クラッシュライトの魔法、『光を吞み込んじゃうよ』ならば、太陽すらも呑み込んで力に変えられる。魔法少女とて生き物だ。生物は皆、暗闇を恐れる。暗闇の中では前に進めない。その暗闇を照らすことができるのはただ一つ、ランタンの灯だけであり、それはすなわちクラッシュライトが呑み込み貯めこんで放つ光線である。
さあ、愚かな魔王の手下の死に顔を拝んでやろう。その死体を蹴り上げて、クラッシュライトの怒りを思い知らせてやろう。
胸の中に広がるどす黒い怒りを抱えたまま、クラッシュライトはシキオリ=オリーの死体へと近づいていく。胸にぽっかりと穴が空いたシキオリ=オリーの瞳は虚空を見つめており、明らかに死人の顔をしていた。
しかし、その顔を見たことによってクラッシュライトはある違和感を抱く。何故、既に死んでいるのに変身が解けていない? その違和感が、クラッシュライトの足を止め、そして結果的にクラッシュライトの命を救う結果となった。
メキメキと音を立て、クラッシュライトの目の前でシキオリ=オリーの背中が開く。その中から、ぬっと青白い腕が飛び出してきた。
慌てて回避するクラッシュライトの髪の毛を、腕が掠めていく。その掠めた箇所が、枯葉のように萎れ、地面に落下した。もし、この腕が直接身体に触れていたとしたらと思うとぞっとする。
「⋯⋯
先ほどまでシキオリ=オリーだったはずの、小麦色に焼けたギャルの身体から這い出てきたのは、眼鏡をかけた文学風の魔法少女。まるで蝉の抜け殻のようになった元の身体を、その手で触れることで萎れさせ、砂へと変えると、くいっと眼鏡の位置をあげて、クラッシュライトへ正面から向き合う。
「初めまして。私、秋のシキオリ=オリーです。本来私が出てくるには秋を待たなければならないのですが⋯⋯夏が死んでしまった今、私の番になったというわけです。四季は移り変わるもの。当然の理屈ですよね?」
「⋯⋯魔王の手下なだけあって、随分と気味の悪い魔法だ。ただ、私にとっては関係ないな。お前が何度生まれ変わろうとも、その度に殺せばいいだけのことだ」
「ああ、安心してください。さすがにこの魔法にも限界はあります。一度死んだ季節はもう二度と蘇ることはありません。夏は私たちの中で最も明るい性格だったので、かなり残念ですね⋯⋯。柄ではないですが、かたき討ちさせて貰いましょうか」
そう言って、ばっとシキオリ=オリーは両腕を広げる。すると、どこからか風が巻き起こり、無数の枯葉がその突風に乗ってクラッシュライトへと襲い掛かってきた。
「
クラッシュライトは、ちっと舌を鳴らし、枯葉に対処すべく光線を放つ。見た目的にはあまりダメージがありそうには思えないが、秋の姿になったシキオリ=オリーはあの触れた相手を枯らす能力がある。この枯葉にその効果が乗っている恐れがある以上は、直接触れないようにするのが賢明だろう。
しかし、数が多すぎる。本当に千枚以上はあるのではないかと思われる枯葉の嵐に、光線が追い付かない。撃ち漏らして数枚が身体に当たる。枯葉が当たった箇所は萎びることは無かったが、力が吸い取られるような感覚があった。
脱力感に襲われ、思わず膝をつく。そこに容赦なくシキオリ=オリーが追い打ちをかける。いつの間にか取り出していた分厚い本で、クラッシュライトの頭部を思いっきり殴りつけてきた。
「
痛い。くそが、ふざけやがって。
怒りを込めてシキオリ=オリーを睨みつけると、頬を上気させ、愉し気に笑っている。ここまで近づけば直接触れることだってできたはずなのにそうしなかったのは、おそらくこいつがそういう性格なのだろう。こちらを痛めつけて楽しんでいる。やはり、魔王の手下にはろくな奴が居ない。燃え上がる怒りが、痛みを忘れさせる。怒りと共に、光があふれ出してくる。
溢れ出す光を掌のみに集め、シキオリ=オリーの頭を掴む。反撃とばかりにシキオリ=オリーはこちらの腕を掴んでくるが、光の熱量に焼かれて燃え尽きた。わずかに触れられたことで指が数本萎びて枯れ落ちたが、問題ない。
クラッシュライトはシキオリ=オリーの頭を掴んだまま、地面に思いっきり叩きつけた。衝撃と同時に掌に集めていた光を放ち、シキオリ=オリーの頭部を爆発させる。
これで、秋のシキオリ=オリーも殺した。しかし、まだ戦いは終わらない。シキオリ=オリーの言葉が本当ならば、冬と春のシキオリ=オリーも出てくるはずだ。
クラッシュライトは油断することなくシキオリ=オリーの死体を見つめ、そこから新たなシキオリ=オリーが産まれだすのをじっと待つのであった。
残機性なシキオリ=オリーのせいで長くなりました。次の投稿は土日に間に合わせます。