魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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闇夜に散りゆく仇桜

♢クラッシュライト

 

 シキオリ=オリーの死体を枯葉が包み込み、その姿を隠す。先ほど夏の姿から秋の姿へと変わったように、冬の姿へ変わろうとしているのか。

 

 枯葉の中から、一本の刀が天へと伸ばされる。その刀は、風切り音を立てながら振り下ろされ、氷の筋を地面に走らせる。こちらへと迫る氷を避けながら、クラッシュライトは枯葉の山へと光線を放った。

 

「──怒りに囚われし哀れな子羊よ。私が黄泉へと送ってやろう」

 

 しかし、光線は刀によって弾かれる。枯葉を掻き分けるようにして現れたのは、白銀の髪の毛を靡かせる軍服姿の魔法少女。冬のシキオリ=オリーだ。氷のように冷たい表情でこちらを一瞥したシキオリ=オリーは、刀を振り上げ、力いっぱい振り下ろしてくる。

 

残雪冬(スノウレスソード)

 

 放たれるは、冬の冷気を纏った斬撃。だが、冬に終わりを告げるのは暖かな光だ。つまり、光を呑み込み力に変えるクラッシュライトの敵ではない。

 

 冷静に、斬撃に合わせて光線を撃てば、こちらへと氷が届く前に溶けて消えていく。すかさず、追撃のために光を集めようとしたが、シキオリ=オリーがいつの間にか懐へと潜り込んできていた。

 

冬将軍(ウィンターソルジャー)!!」

 

 至近距離でシキオリ=オリーが刀を振るう。これは避けられない。クラッシュライトはとっさに、懐からまだ出していなかったとっておきの武器を取り出した。

 

「なんだそれは。それが貴様の武器か?」

 

「そうだ。お前たち屑を全員叩き壊す、私の怒りの象徴だ!!」

 

 持ち手から繋がる鎖の先には、棘の付いた大きな鉄球。刀の一撃を鎖で受け止めたクラッシュライトは、身体を大きく捻り、その遠心力を使って鉄球をシキオリ=オリーの脳天目掛けぶちかました。

 

冬天柱(トウテムポール)!!」

 

 しかし、鉄球はシキオリ=オリーに当たることはなく、地面から生えてきた氷柱によって防がれてしまう。続けざまに足元から生えてきた氷柱はジャンプでかわし、バク転しながらシキオリ=オリーの顎をつま先で蹴り上げる。

 

 シキオリ=オリーはその蹴りを顔面を氷で覆うことで防御し、刀でカウンターを見舞う。とっさに鉄球部分を打ち合わせることで、シキオリ=オリーは斬撃から身を守った。

 

 鎖も含めればこちらの鉄球の方がリーチは上だが、刀の方が速度が上。さらに、あの凍る斬撃を一度食らってしまえば身動きが封じられ厄介なことになるのは明白だ。

 

 クラッシュライトは鎖をあえて短めに持ち、スピードを優先して刀との撃ち合いに望む。一合、二号。刀と鉄球の激しいぶつかり合い。パワーは鉄球の方が上だが、相手は空気も凍る冬の刀だ。長くぶつかり続ければ、頑丈な鉄球でも凍らされてしまうかもしれない。

 

 だが、シキオリ=オリーの刀が冬の冷気を纏ったモノならば、こちらだって特別な鉄球だ。持ち手の底に掌を押し当て、光を流し込む。すると、鉄球はまるで太陽のような光を放ち始めた。眩しさに目を細めるシキオリ=オリー。その顔面目掛け鉄球を振りぬくも、それしきでは怯まずに刀で防いでくる。しかし、クラッシュライトの怒りは、光は、そんなもので防げはしない。

 

 衝突の瞬間、鉄球が爆ぜる。爆発によってシキオリ=オリーの刀が砕け、破片が喉に突き刺さる。クラッシュライトの方にも破片が飛んできて、太ももに突き刺さった。刺さった箇所から凍り始めてきたが、氷が広がる速度は速くない。全身に氷が回る前に、3度目のとどめを刺す。

 

 爆風を利用し、鉄球を回す。そして、その勢いに腰の捻りも合わせ、クラッシュライトはシキオリ=オリーの横腹を思いっきり鉄球で殴りつけた。バキッと骨の折れる音が聞こえ、シキオリ=オリーは血を吐きながらぶっ飛んでいく。

 

「死ねぇ!!」

 

 飛んで行ったシキオリ=オリーに対し、追い打ちの光線を手から放つ。光線はシキオリ=オリーの首から上を焼き飛ばし、クラッシュライトの腰付近まで伸びていた氷の浸食はそこでようやく止まった。おそらく、これで冬のシキオリ=オリーは死んだだろう。

 

 だが、まだ終わらない。春のシキオリ=オリーが現れるはずだ。本当は変身前にトとどめを刺しに行きたいところだが、凍った足のせいで動けない。クラッシュライトは舌打ちをしながら光の熱で氷を解かした。

 

 そうこうしている間に、どうやらシキオリ=オリーはまた変身を始めたらしい。首から上を失ったシキオリ=オリーの身体が、ぱきぱきと音を立てながら凍っていく。そして、その氷を割りながら飛び出してきたのは、桜色の髪の毛をツインテールに結んだ、巫女服姿の魔法少女であった。これが、シキオリ=オリー春の姿。夏の姿の時に言っていた言葉を信じるならば、この姿のシキオリ=オリーを殺せば、完全にこいつを亡き者にできるはずだ。

 

 所詮は本人が言った言葉。嘘である可能性も考慮し、慎重に立ち回る必要はあるだろう。しかし、元よりシキオリ=オリーが何度復活してこようと関係ない。全てぶっ殺すだけの話だからだ。

 

「⋯⋯そっかぁ。私が出たってことは、皆死んじゃったのかぁ。夏美も、秋葉も、冬野も死んじゃったかぁ。でも大丈夫。また四季が廻れば、皆蘇るもんね。だから、私は絶対生き延びて、皆に会わなきゃね」

 

「何を一人でぶつぶつ喋ってる! お前も死ぬんだよ!!」

 

 虚空を見つめて何やら呟いているシキオリ=オリー目掛けあいさつ代わりの光線をお見舞いしてやると、シキオリ=オリーは避ける様子もなくその光線を顔面で受け止めた。

 

 しかし、光線で焼けたはずの顔面は、たちまち桜の花びらで覆われ、元の整った顔立ちに復元されている。これが春のシキオリ=オリーの能力なのだろうか? 残機持ちな上に回復もできるとか、理不尽極まりない。これだから魔王の手下は全員屑なのだ。

 

青春廻(アオハループ)!! 青い春は何度も廻る! 私が桜の下に埋まるのは、あんたを殺してからだよ、クラッシュちゃん!!」

 

「黙れクソ野郎!! 貴様みたいな屑はどうせ、魔王やクラムベリーのようなろくでなしに決まっている。どうせ罪もない魔法少女を何人も快楽のために殺しているんだろう。ならば、ここで私に殺されておけ!!」

 

 鉄球を頭上でぶん回し、回転の勢いを乗せた一撃をシキオリ=オリーへと放つ。シキオリ=オリーは、鉄球が当たる寸前で掌を頭上にかざし、桜の花びらの道を作ることで鉄球の攻撃を受け流した。そのまま、くるくるとバレエ選手のように回り始める。

 

 いったい何をするつもりなのか。警戒して様子を伺うが、シキオリ=オリーは一向に攻めてくる気配がない。どこか楽し気な様子で回り続けるだけだ。だが、少し前にこの舞台で戦っていた張手山一発がそうだったように、一見意味のない動きだとしても魔法少女にとっては意味のある行為だったりする。ならば、好き勝手にやらせておく必要はない。

 

 光線が受け流されてしまうならば、受け流されないくらいの破壊力をもってごり押す。鉄球を回転、ダッシュで近づき、その身体の中心目掛け渾身の一撃をぶつけた。

 

四季奏(カルテット)円舞(ロンド)!」

 

 鉄球が直撃する寸前、シキオリ=オリーが何かを叫んだ。それを無視して鉄球で思いっきりぶん殴れば、肉が潰れたような嫌な音を立てながら、地面を跳ねてシキオリ=オリーの身体がぶっ飛んでいく。

 

 手ごたえはあった。鉄球に光を込めたうえで、回転も利用した渾身の一撃。まともに受ければ魔法少女でも半身が吹っ飛ぶ威力だ。だが、何かがおかしい。どうにも、これで終わったような感じがしない。

 

 クラッシュライトの視界の先で、シキオリ=オリーが桜の花びらに包まれる。そして、どこからか吹いた風がその桜を吹き飛ばすと、中から見覚えのある小麦色の肌の魔法少女が現れた。

 

「じゃーん!! 再び登場、夏のシキオリ=オリーこと夏美です☆ また会えたね、クラッシュちゃん!!」

 

「⋯⋯どういうこと? 一度倒した姿は復活しないんじゃなかったの?」

 

「ん~、正確には違うんだなぁ、これが。一度死んだ姿も、その季節がくればまた蘇る。さらに付け加えるならば、四季の最後の1人は攻撃を禁止することを代償に、四季を廻らせることができるんだよ。でも凄いよクラッシュちゃん。ここまでうちらを追い詰めたのは、貴女が初めて!!」

 

「ほんと、ふざけた魔法ね。じゃあ実質不死身じゃないの」

 

「あはは、楽しいね、楽しいねぇ!! さあ、うちと一緒に回ろうよ!! くるくる狂う、死期のダンスを!!」

 

 くるくると回りながら、シキオリ=オリーは水鉄砲を両手に構え、水を撃ちだしてくる。その攻撃を光線で受け止めながら、クラッシュライトは怒りで沸騰しそうになる頭を冷静に落ち着かせ、打開策を考える。

 

 シキオリ=オリーの魔法の攻撃力は、正直そこまで脅威ではない。身体能力も並の魔法少女くらいなので、訓練を積んだクラッシュライトなら対処も容易だし、一部の魔法の特殊な効果にさえ注意すれば、問題ないだろう。実際、四季を一巡倒したが、クラッシュライトが負った傷は軽微だ。

 

 だが、問題はあの不死身ともいうべき防御力だ。先ほどのくるくると回転していたのがトリガーならばその実行前に殺せばいいのかもしれないが、相手もそれが分かっている以上こちらに対し何らかの妨害はしてくるだろう。もし、殺しきれず再び四季を廻されれば、先に体力が尽きて倒れるのはこちらの可能性もある。

 

 長期戦はこちらにとって不利。つまり、短期決戦であの四季の残機すべてを消し去る必要がある。そして、幸いこちらにはそれが可能な奥の手がある。

 

 本当は決勝後にTV唱を殺すためにとっておきたかったが、なんか知らないうちに奴は敗北してるし、ここで使っても問題ないはずだ。

 

 クラッシュライトは覚悟を決めると、くるくる回るシキオリ=オリーに対し、右手の掌をゆっくりと向けた。

 

 

♢シキオリ=オリー

 

 視界が黒く染まる。クラッシュライトが掌をこちらに向けていたから、きっと周囲の光を呑み込んで暗闇にしたに違いない。そして、光を呑み込んだということはその呑み込んだ光を光線として放つはずだ。

 

 そう思い身構えるも、一向に光線は放たれない。それどころか、何も見えない。何も感じない。自分の指先さえ見えない真の暗闇の中で、クラッシュライトの声だけが聞こえてくる。

 

「⋯⋯どうだ、何も見えないだろう。私は今、貴様の眼から光を呑み込み、奪い取った」

 

「ふーん、で? 視力を奪われた程度じゃ、うちは倒れないよ?」

 

「それは知っている。貴様は愚かだから、負けは認めないだろう。だが、視力を無くした貴様にならば⋯⋯こうして近づいて触れるのは容易だ」

 

 すぐそばでクラッシュライトの声が聞こえ、同時に、ポンと心臓のあたりを軽く触れられる。とっさに反撃しようと振り上げた腕は、襲い来る深い絶望感により行き場を失った。

 

 ああ、もう駄目だ。何もかもおしまいだ。お先真っ暗だ。こんな自分は、生きている価値はない。このままずっと、暗闇の中にうずくまっていたい。

 

「私が今呑み込んだのは、お前の心の中の”光”だ。希望に喜び、幸福。そういった光の感情を、すべて呑み込んだ。心が闇で染まったら、魔法少女はどうなるか、私は知っているぞ」

 

 誰かの声が聞こえる。でも、自分にはもう関係ない。何も聞きたくない。何も感じたくない。春も、夏も、秋も、冬も。闇に包まれてしまえば全部一緒だ。

 

 いつの間にか、シキオリ=オリーの変身は解けていた。そこに現れたのは、春のシキオリ=オリーによく似た少女。その胸元には、家族写真らしきものが埋め込まれたブローチが飾られている。変身が解けたことで一瞬だけクラッシュライトの魔法の効果から逃れたシキオリ=オリーもとい四季織(しきおり)春日(はるひ)は、その写真を見て思い出す。

 

 夏美に秋葉に冬野。春日も合わせた4つ子の姉妹。春日以外は皆交通事故で死んでしまった。死んでしまったみんなの分の魂は、一つに合わさって、春日はシキオリ=オリーになった。でも、それも今日でおしまい。やっと、皆のところに行ける。

 

 生より死に魅かれた。死んでいく命が羨ましかった。自分もそうなりたいと何度も願った。夏が終わり、秋が終わり、冬が終わり、春になり、桜は散りゆく。

 

 容赦なく振り下ろされた鉄球により、シキオリ=オリーだった少女は地面の染みとなって消える。真っ赤な血しぶきがあたりに飛び散るその様子は、まるで桜の花びらが舞い散るようにも見えたのであった。

 

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