今回は結構バトル多めのお祭り作品になりそうな予感です。
朗読劇第三段に脳が焼かれたので、ややその要素も入れる予定です。お楽しみください。
開催宣言
♢TV唱
人生は、エンターテインメントだ。
どんなに平凡な人間でも、必ずどこかでイベントに遭遇する。その結果産み出されるものが悲劇であれ喜劇であれ、その人生は誰にも真似できないオリジナリティを持った一つの作品となる。
TV唱は、エンターテインメントが大好きだ。だから、他人の人生を観測するのが大好きだ。そして、他人の人生を観測するにあたって、新聞・ラジオ・テレビといったメディア媒体は、欠かせない存在である。
人々は何故、有名人のスキャンダルに夢中になるのか。それは、他人の人生を安全圏から眺めることのできる、最高のエンターテインメントだからだ。面白おかしくテレビで流れるスキャンダルやニュースは、誇張と嘘で飾られ、極上のエンターテインメントとして人々に提供される。
嘘つきは犯罪者呼ばわりされるが、マスメディアはどれだけ嘘を報道しても逮捕されることはない。何故なら、そこにどれだけ嘘があったとしても、電波や文字を通して伝わったそれは、真実に変わるからだ。『ペンは剣よりも強し』という格言があるが、まさにその通りだと思う。どれほど誠実な人間でも、一度スキャンダルを報じられれば、人々から嫌悪される存在へとなり下がる。
その点、TV唱の魔法はとても強力だ。『報道の自由を振りかざすよ』という、一見どんなことができるか分からない魔法ではある。どんな魔法かというと、まあ、言ってしまえばたいていのことは何でもできる。
TV唱がテレビやラジオ、新聞などのメディア媒体で報じた内容は、すべて真実へと変わる。それが、この魔法の力。ただし、メディアで報じた内容が真実に変わるのは、その報道内容を伝えた相手とTV唱の間でのみという制約はある。しかし、それで十分だ。
少なくとも今、この場においては、TV唱がテレビ越しに伝える言葉が聞こえない人物は、存在しない。
『皆さま、今日はようこそおいでくださいました! 私、本日開催される魔法少女による武闘大会の司会進行を努めます、TV唱と申します!!』
広報部門に所属しているTV唱が、今回のために様々なコネを駆使して建設させた、ローマのコロッセオを模した会場。その会場の最も目立つ場所に置かれた巨大テレビに、TV唱の姿が映る。
新聞の柄のマントをはためかせ、肩から提げたラジオには、キュートな唇のシールが貼られ、TV唱の声に合わせてその形を変える。ややノイズ交じりな声は、ご愛敬。ラジオ越しの声は時にテレビ以上に相手にダイレクトに情報を伝えてくれる。
そして、TV唱お気に入りの有機EL4K対応薄型テレビに映し出されるのは、TV唱の朝のニュースで爽やかな気分にさせてくれるであろうこと間違いなしの爽やかな善人フェイスだ。本来頭があるはずの場所に置かれたテレビに映し出される顔は、ラジオの声色に合わせて表情をコロコロと変えてくれる。
『いやあ、急遽開催を決めた割には、お客さんが満員で、主催としても嬉しい限りです』
総勢2000人は収納可能な会場は、既に満席。本場のコロッセオは収容人数5万人らしいが、さすがにあそこまで巨大な施設を作る資金は無かった。
テレビ越しに客席を眺めると、魔法少女に魔法使い、そして妖精やマスコットまで。多種多様な魔法の国の住人たちが一堂に会している。あらゆる媒体で宣伝したかいがあったというものだ。
これだけの人数がいれば、TV唱の目的は達成できる。あの協力者も、きっと満足してくれることだろう。
『さあ、さっそく試合開始!⋯⋯といきたいところではありますが、その前に、何故この大会を開くのか。その理由をお話しなければいけないでしょう』
それはそれとして、司会の仕事もしっかりこなす。TV唱は仕事ができる魔法少女だ。エンターテインメントに妥協はしない。
『──魔王パムの死。そのニュースは、魔法の国に住む多くの人々に衝撃を与えました。特に、私も所属していた魔王塾出身者は、誰もがその死を惜しみ、涙を流した⋯⋯』
これは嘘だ。TV唱は、魔王パムが死んだというニュースを聞き、これは特ダネになると目を輝かせた。恩義は多少感じているが、あんな機械音痴に対して情が湧くことはない。
でも、テレビの画面上でのTV唱は悲しそうに涙を流してみせている。誰もが、TV唱は恩師パムの死を悲しんでいると感じていることだろう。嗚呼、なんて素晴らしいテレビなんだ!!
『けれど、悲しんでばかりはいられない。涙をぬぐい、私はこう決意しました。”魔王パム”、その名前を、意志を、後世に残したいと。魔法パムは、”最強”の象徴だった。ならば、その後を継ぐものがいるとすれば、同じように最強の存在でなければならないのではないかと!!』
TV唱は、ぐっと拳に力をこめ、熱弁する。そして、観客の視線が一番集まるタイミングを見計らって、ばっと両手を広げ、画面いっぱいに魔法少女たちの顔と名前を表示した。
『総勢20名!! 魔王パムの後継者を決めるため開かれたこの武闘大会には、20名もの魔法少女が参加します。そのうち、なんと半数が魔王塾出身者!! あ、もちろん私も参戦いたします』
あまり有名ではない魔法少女もいるが、"
『あの忌まわしき『森の音楽家』事件のせいで、我々魔王塾出身者にあまりよくない感情をお持ちの方もいるかもしれません。でも、そんな皆様にも今日で知ってもらいたい!! 我々はあくまで純粋に戦闘を楽しみ、鍛錬をたしなむ魔法少女であって、危険な存在ではないのだと!!』
ここでこういうアピールをしておくことは大事だ。テレビ上で伝えることで、TV唱の魔法の力もあり、説得力は増す。ここで帰られたらたまったものではない。ぜひとも、彼女の出番が来るまでは全員がここに居てもらわなければ。
『──あ、試合開始前に注意事項を一つ。今回、武闘大会参加者、およびスタッフ以外の魔法の使用は固く禁じられておりますので、ご注意を。なお、飛び入り参加も認めませんので、途中で魔法少女に変身するのも禁止とさせてもらいます』
ここで、魔法を使う。これで、余計な邪魔が入る心配はなくなった。試合を楽しむためのただの注意事項。観客はそう思っていることだろう。しかし、この瞬間、観客は全員魔法が使えなくなった。なぜならば、TV唱がテレビでそう報じたのを聞いてしまったからだ。
スタッフの魔法を許可しているのは、さすがにTV唱1人ではこの大会の進行が困難だからだ。ただ、魔法の国の住人ではなく、フリーランスで活動している魔法少女集団に依頼したので、そこまで脅威ではないだろう。唯一脅威になりそうだったその集団のリーダーは、何故か変身していない状態でこの場にいる。
メインとなる武闘大会、そしてその影で進行する、裏の目的。その両方に関わるTV唱はかなりの重労働だが、問題ない。これも、上質なエンターテインメントを提供するためだ。どちらも完ぺきにやり遂げ、そして、最高のエンターテインメントを完成させてみせる。
『さあ、魔王の後継者を決める、魔法少女だらけの武闘大会!! 今、ここに開催の宣言をいたします!!!』
TV唱が高らかにそう宣言すると、観客席から歓声が上がる。TV唱は手を振ってその歓声に応えつつ、ラジオに貼られた唇のシールの端を、ひそかに吊り上げるのであった。