魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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"時の管理人"

♢さらら

 

「さあ、大会もいよいよ終盤戦に差し掛かってまいりました。この戦いに勝てば最終戦への進出が決定します!! それでは、選手紹介です。左手から入場するのは、先ほど見事魔王塾卒業生の久光織衣選手を倒した、クリアスカイ選手!! 一部ではさららという魔法少女じゃないかという噂もあるようですが、そこのところどうなんですか? 茶田千代さん」

 

「の、ノーコメントです!!」

 

「ノーコメント頂きました。さて、真偽のほどはいったん置いておきまして、続いて右手から登場するのは、最初の戦いでは不戦勝で勝ち上がり、いまだその全容を見せていない”時の管理人”おっく・ろっく選手です!! この二人の戦い、どちらが勝ち、決勝の舞台に上がることができるのでしょうか!!」

 

 すっかり聞きなじんだ司会と解説の声を聞きながら、さららは舞台へと上がっていく。先ほどの久光織衣との戦いで名前を連呼されたせいで正体はおそらく相手にバレてしまっている。さららは、一応魔法少女チームのリーダーとして名を売っている。そのため、どんな魔法を使うかは既に知られていると考えて臨んだ方がいいだろう。

 

 魔法少女にとって、いや、魔法少女ではなくとも戦う前に自分の手札を知られているのは大きなハンデになる。情報というものは戦いにおいて何よりも大切だ。情報戦を制した時点で、戦いは9割勝ったも同然と言っても過言ではない。

 

 だからこそ、さららは観察する。『さらさらの髪の毛を自由にアレンジできるよ』という魔法は、そのアレンジの幅がかなり広い。魔法少女は思いが全て。思い込めば、たとえ無理難題でもアレンジの中に納め、魔法の効果を拡張することができる。

 

 試合開始前から、既に会場全体に届く範囲で細い髪の毛を張り巡らせている。その髪の毛の先端に視覚を持たせるアレンジを施すことで、さららは対戦相手のおっく・ろっくの姿を観察していた。

 

 特徴的なのは、コスチュームの至る所に付けられた腕時計だ。カチカチと時を刻む秒針は、すべてが同じ時を刻んでいるように一見思えるが、よく見ると腕時計が指す時刻は微妙に異なる。しかも、その中のいくつかは止まっているものもあった。

 

 名前とコスチュームの時計からして、時間に関係する魔法を使うのだろうか。時間を操ると仮定して、どこまでできるのか。時間を止めたり巻き戻したりできるとするならば、その脅威度は高まる。止まった腕時計は何か魔法に関係しているのか。関係していないと考えるのは論外だが、決めつけるのもよくない。最悪を想定し、その対処を考えなければ。

 

 あと、気になるのはおっく・ろっくの外見だ。燕尾服のような衣装といい、その中性的な容姿といい、さららの知る魔法少女にそっくりである。魔法少女は変身前の姿の特徴を残していることが多い。もしや、そういうことなのだろうか。

 

 ある程度観察を終えたところで、さららは舞台の上でおっく・ろっくと直接向き合う。今回は身代わりを作って隠れることはしない。一度見せた戦法を再び使うほど、さららは愚かではないし、相手もそれを警戒しない馬鹿ではないだろう。

 

「⋯⋯ひとつ、お願いしたいことがある。貴女は、お茶たちょ茶田千代さんの上司と聞いた。それは、間違いないだろうか?」

 

 唐突に、おっく・ろっくが話しかけてきた。何故、急に茶田千代の名前が出てきたのか。少し困惑しつつも、さららは無言でうなずく。もはや偽名は意味を持たないことは分かっている。すると、さららがうなずいたのを見たおっく・ろっくは、真剣な表情で告げる。

 

「では、私が勝ったら、お茶たちょ茶田千代さんに結婚を前提としたお付き合いを申し込みたい」

 

 この瞬間、さららは確信した。目の前の魔法少女は、間違いなくカレンダ・レンダの血縁だ。

 

「それでは、試合開始~!!」

 

 そして、ほどなくして試合開始の合図が告げられ、ほぼ同時におっく・ろっくがさららの懐に飛び込んでくる。突然の茶田千代への告白で一瞬動揺したさららだったが、冷静に髪の毛を盾にして攻撃を防ぐ。

 

 おっく・ろっくが握っているのは、先端が鋭く尖った棒だ。根元で二又に分かれ、一方がやや短いその武器は、時計の長針と短針のように見える。その武器を手元でくるりと回転させ、おっく・ろっくはさららの髪の毛を切り裂こうとしてくる。

 

 だが、この程度の攻撃ならば問題ない。人間の髪の毛の本数は平均で約10万本ほどと言われるが、さららの髪の毛の本数は約1億本。その一部を盾に使っても、攻撃に回す本数にはかなりの余裕がある。

 

 おっく・ろっくの攻撃を受け止めている間に背後に回していた髪の毛を硬質化させ、無数の針をおっく・ろっくの急所を避けた位置に突き刺す。髪の毛がおっく・ろっくに触れた瞬間、おっく・ろっくが軽く舌打ちした音が聞こえた。同時に、カチッと何かが鳴る音が聞こえる。

 

「──どうやら出し惜しみしていては勝てない相手のようだ。さすがは茶田千代さんの上司だな。敬意を表する」

 

 気が付くと、おっく・ろっくはさららの背後に回り込み、長針をさららの脇腹に突き刺していた。痛みに泣きそうになるのを堪えながら、さららは素早く髪の毛で傷口を修復する。

 

 時を止められた。最悪を想定し、目に見えない細さで張り巡らせていた髪の毛が全て同時に切れていた。これは、時止めでもしなければ不可能なことだ。事前に想定していた最悪の一つが当たってしまったらしい。

 

 他に何か変わった点はないか。さららは、試合開始前に髪の毛で見た記録を脳内に呼び起こすために、視覚を持たせ髪の毛に保存していた情報を脳に直接差し込み、現在数万本の髪の毛で360°全方向から確認している情報と比較する。その際にも、並行して脳内に髪の毛で思考領域を作成し、おっく・ろっくへの攻撃の対処を忘れない。

 

 間違い探しのように映像を比較すると、一点の差異を見つけた。無数に取り付けられた腕時計。そのうちの一つにさららの顔がプリントされ、その時計だけ針の動きが止まっている。

 

 もしや、腕時計を止めることが魔法を発動するためのトリガーなのだろうか。仮に違うとしても、何かしらの関りはあるはずだ。さららは、髪の毛で作成したハンマーでおっく・ろっくの針を受け止めつつ、針に斬り飛ばされ地面に落ちた髪の毛に対し意識を飛ばす。

 

 切り離された髪の毛に対しても、魔法の効果は適用できる。地面から髪の毛を飛ばし、おっく・ろっくの腕時計のベルトの箇所を切り落とした。2,3個の腕時計が地面に落ち、それを見たおっく・ろっくが一瞬顔を顰めたのをさららは見逃さなかった。⋯⋯当たりだ。

 

 狙いをおっく・ろっくから腕時計に切り替え、髪の毛を伸ばす。おっく・ろっくもさららの狙いが腕時計に向かっていることに気が付いたのか、攻めの姿勢から一転、守りの姿勢へと変わるが、さららの髪の毛の本数はそう簡単に防げる数ではない。新たに3つほど腕時計が地面に落ちたその時、さららは再びカチッと音が鳴るのを聞いた。

 

 時止めがまた来る。そう思った時には、既にさららの腹部は長針と短針、二つの針で貫かれていた。そして、針を広げる動作によって、さららの身体は上半身と下半身に両断される。

 

 しかし、問題ない。既に、殺すつもりの攻撃が来ることを読んで痛覚は髪の毛を脳に突き刺して麻痺させていた。痛みを感じなければ、修復は容易だ。身体を髪の毛に変化させ、すぐさま上半身と下半身を縫い合わせ、反撃におっく・ろっくの武器の継ぎ目に髪の毛を滑り込ませる。接続部を破壊したことで、短針が吹き飛んでいく。

 

「恐ろしい人だ、貴女は。私の魔法を既に理解しているな? この強さならもっと有名になっていてもおかしくはないだろうに」

 

「あ、あまり目立つのは好きではないですから⋯⋯。それに、今の名前になったのはつい最近ですので⋯⋯」

 

 おっく・ろっくはこちらを賞賛してくるが、彼女もかなり賢い魔法少女だ。先ほどの殺すつもりの一撃、こちらが死なないことをおそらく理解したうえでの攻撃だろう。さすがはカレンダ・レンダの血縁というべきか。いや、まだ確定したわけではないが、おそらく間違いないだろう。カレンダ・レンダも、茶田千代のことを抜きにすれば相当賢い魔法少女だ。さららも、たまに魔法の使い方の案出しに協力してもらうことがある。

 

 カレンダ・レンダとおっく・ろっくの関係性は少し気になるところだが、今は戦いに集中しよう。ここで負けてしまっては、あの恐ろしい姉に何を言われるか分かったものではない。それだけは何としても避けなければ。それに、ここで負けてしまえばクラッシュライトを止める機会も失ってしまう。決勝は4人での総力戦と聞いている。ここで勝ち上がれば、クラッシュライトが決勝までやってきた際に直接止めることができる。何としても、ここは勝ち上がらなければならない。

 

 繰り出された長針を、身体を髪の毛に変化させて避け、肉薄する。そのまま一斉に髪の毛を広げれば、おっく・ろっくは苦々しげにこちらの顔を睨みつけてきた。そして、カチッと3度目の時止めの合図が聞こえる。

 

「こ、これは、どういうことだ!?」

 

 おっく・ろっくの動揺した声を聞いて、さららは自分の作戦がうまくいったことを悟った。おっく・ろっくの位置はいつの間にかさららの真横へと移動しているが、そこから一歩も動けない様子でもがいている。

 

「⋯⋯すみません。こちらも負けられない理由があるので、いろいろと細工させて貰いました」

 

 自分が何をしたかは明かさない。まだおっく・ろっくに奥の手がある場合、自らの手を明かすことは悪手だからだ。とはいえ、さららが行った時止めへの対処は至ってシンプルである。

 

 おっく・ろっくの目の前で髪の毛を広げ、視界を遮ったあの時。同時に、さららは自分の周囲に目に見えないほど細い髪の毛の結界を無数に張り巡らせていた。

 

 たとえ細くとも、さららの魔法の効果が乗ったその髪の毛の強度はかなり高い。それこそ、ギャシュリーやマーブルフェイス並の筋力でなければ千切るのは困難だ。おっく・ろっくは、時止めを発動させて移動する間に、さららが張り巡らせていた髪の毛に絡まってしまい、動けなくなったというわけだ。

 

 あまり時間をかけすぎてネタがバレてはいけない。さららは、おっく・ろっくの意識を刈り取るべく髪の毛を伸ばす。その時、ぐるぐると高速で針の回る音を聞いた。

 

「ああ、これだけは使いたくなかった。でも、私も茶田千代さんを諦めきれないんだ!! だから⋯⋯“時間遡行(ワンモア・チャンス)”だ」

 

 まさか。技名を聞いてはっとする。最悪の想定がまたしても当たってしまったというのか。さららは慌てて止めようと腕時計に髪の毛を伸ばし、そして⋯⋯。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「それでは、試合開始~!!」

 

 試合開始の合図が告げられる。しかし、対戦相手のおっく・ろっくの姿が見えない。確か、先ほど茶田千代に結婚を前提としたお付き合いを申し込みたいなどと頭のおかしいことを言われたはずなのだが⋯⋯。

 

 その時だった。ぶすりという鈍い音と共に、さららの胸から針のようなものが突き出される。心臓を刺された。とっさに前に倒れながら針を抜きつつ、髪の毛で傷口を修復するが、少なくない血が流れた。慌てて振り返ると、そこには針の先端を血で濡らしたおっく・ろっくが、腕時計をいじりながらこちらを見つめていた。

 

「さあ、もう一度だ。時間は再び刻み始めた。今度こそは、私が勝って茶田千代さんと結婚してみせる」

 

 いったい何をされた。分からない。考えろ。あらゆる最悪を想定しろ。負けられないのは、こちらだって同じなのだ。

 

 さららは、脳みそを高速で回しながら、時の管理人と対峙する。勝負の時は、再び動き始めた。

 

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