魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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一発だけだから

♢さらら

 

「ちょ、ちょっと待ってください!!」

 

 試合終了後、さららは医療室へと向かおうとしていたおっく・ろっくを呼び止めた。先ほどキューティー☆Eと通信して現状は把握している。おそらく、今医務室に行っても治療を受けることはできない。それに、さららはどうしてもおっく・ろっくに伝えるべきことがあった。

 

 おっく・ろっくと戦い、さららは理解した。彼女の魔法ならば、さららの想定する最悪の状況を何とかできるかもしれない。勿論、そうならないよう努力するつもりではあるが、何が起きるかは分からない。ならば、可能な限り対策の手は打っておくべきだ。

 

「どうしたんだ、さらら。私は負けたんだ。今さら貴女と話すことなどは⋯⋯おい、どうしたんだそれは!!」

 

 驚いて目を丸くするおっく・ろっくに対し、さららは無言で近づく。その腕には、肩から下でばっさりと切り落としたばかりの、大量の髪の毛の束が抱えられていた。

 

「こ、この髪の毛を、貴女に託します。ボクの髪の毛は切り落とした後でも操ることができるから、いざという時はこれが貴女を守ってくれるはずです。そして、もし、ボクが想定する最悪の事態が起きた場合、その時は⋯⋯」

 

 さららは、考えられる限り最悪の事態に関して、おっく・ろっくにその想定を告げた。最初は信じられないといった様子のおっく・ろっくだったが、さららと戦ったことで、さららが並外れた洞察力の持ち主であるということは理解していた。そのため、やや戸惑いつつも、髪の毛を受け取り、もしもの時に備えて行動を開始することにしたのであった。

 

 そんなおっく・ろっくの後姿を見送り、さららは控室へと戻っていく。廊下に取り付けられたスピーカーからは、第十四試合目の開始の合図がちょうど告げられているところであった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

♢張手山一発

 

 先ほど、司会が試合開始の合図を告げたが、舞台の上の二人はお互いに動かない。なぜならば、今日の対戦相手の中で誰よりも互いのことをよく知っている分、決着は一瞬であるということを理解しているからだ。

 

 目の前に立つ聖マリア0.01をじっと見つめる。今のマリアは、一応ちゃんとシスター服のようなモノを纏っているように見える格好だ。まあ、あれも『絶対に破れない膜を張れるよ』という魔法で身体の上に貼り付けた膜に着色しているだけだろうが。

 

「⋯⋯なんとも、感無量ですの。このような舞台で、貴女と戦うことになるなんて思っておりませんでしたの。これが、あのクソTV野郎の主催の大会じゃなければ、もっとよかったでしょうに」

 

「そうですね。わたくしも、貴女と交わる機会に恵まれたこと、大変興奮しております。最も、たとえ貴女が相手でも、負けるつもりはありません。お師匠様の後継者の座は、このわたくしがいただきますわ♡」

 

 にっこりと慈愛の笑みを浮かべるマリアの言葉は、想像通りのモノだ。おそらく、この大会に参加している魔王塾卒業生の中で最も魔王パムのことを尊敬しているのがマリアだろう。次点で、ガムシャとかそこあたりだろうか。あの魔法少女は何を考えているかよく分からないところがあるから、何とも言えない。

 

「あたくしが貴女に提供できる誠意は、この一発だけですの。勝負は一発、それで決まる。あたくしは全力でいきますの。だから貴女も、全力で受け止めてくださいまし」

 

「ええ、もちろんですわ!! あなたのすべて、わたくしの全身全霊でもって抱きしめてあげます!! 昇天しちゃうくらい気持ちいい一発、期待しておりますね♡」

 

 いつも通りの変態的な返しに、つい笑みが浮かぶ。このマリアとかいう魔法少女は、絶対に嘘をつかない。いつでも自分の欲望に忠実で、隠すことなく全てを露わにしてくる。そんなマリアだからこそ、こちらも全力をぶつけることができるのだ。

 

 力強い動作で、四股踏みを開始する。拍手一発、手を前に突き出し、力強く叫ぶ。

 

「どすこーい!!」

 

 魔法発動のための一連の動作が始まった。しかし、張手山一発の魔法を知っているはずのマリアは、それを止めることはしない。先ほどかわした約束を守るべく、最大火力を受け止める準備を始める。

 

「”聖衣変態(セ・クロス・チェンジ)”!!」

 

 マリアの全身を眩い光が包む。その光が消え、再度現れたマリアは、鎧を身に纏った騎士のような姿をしていた。

 

「”騎乗衣(ライダー・クロス)”!!」

 

 マリアは、その手に顕現させた、膜で作った槍を地面に突き刺し、衝撃に備える。そして、反対側の手で持つ盾を張手山一発の方に向け、最強の一発を受け止める姿勢を見せた。

 

 マリアが防御の準備を着々と進める中、もちろん張手山一発も準備を進めていた。既に、足元に広がる土俵は、ソリマチを下した時よりも大きくなっている。しかし、まだ止めない。もっと強く。より研ぎ澄まされた、最強の一発を。

 

 四股踏みを続けながら、張手山一発が思い返すのは過去のことだ。魔法少女になってからまだ日が浅く、最強と浪漫を追い求め魔王パムの門下を叩いた。その時、同時期に魔王パムの元に弟子入り希望をしに来た聖マリア0.01と初めて出会ったのだ。

 

「あ、あの。わ、わたし、聖マリア0.01と言います。よ、よろしくお願いします!」

 

 この時のマリアは、今とはまるで別人のようであった。ひざ下まできっちり伸ばされたスカートに、胸元のリボンもしっかり絞められたセーラー服。髪の毛のおさげと眼鏡も相まって、真面目な優等生といった風貌をしていた。

 

 さらには、動きも鈍くさく、魔法も何故か使おうとしない。次第に周りの魔法少女に置いて行かれる同期を見て苛立った張手山一発は、その苛立ちを隠すことなく声をかけたのだった。

 

「貴女、どうして魔王パムの下で教えを請おうと思ったんですの。正直、貴女のような足手まといがいると迷惑ですの。向上心がないなら、さっさとリタイアした方がよろしくってよ」

 

「⋯⋯張手山さんは、凄いですよね。魔法少女になった時期も同じくらいらしいのに、そんなに堂々としていて。どうしたら、そんなに強くなれるんですか?」

 

「あたくしの質問に答えていませんの。質問を質問で返さないでくださいませんの?」

 

「私、強くなりたかったんです。弱くて、変な自分が嫌いで⋯⋯。だから、最強と名高い魔王パムの下で鍛えて貰えれば何か変わるんじゃないかって思って。でも、ダメですね。私、まだ弱いままです⋯⋯」

 

 そう言って俯いてしまったマリアに、張手山一発は軽く舌打ちする。面倒な奴に突っかかってしまった。まあいい。こんな弱弱しい精神の奴ならば、どうせここを辞めても大成することはないだろう。そう思い興味を無くした張手山一発はその場を去ろうとしたが、その行く手を遮るように、頭上から黒い物体が飛来してきた。

 

「すまないが、話は聞かせてもらった。聖マリア0.01。お前は何を悩んでいるんだ?」

 

 驚くべきことに、現れたのは魔王パムその人だった。突然の魔王の来襲に、あわあわするマリアと、答えをじっと待つ魔王パム。⋯⋯なんだかおもしろいことになりそうだったので、張手山一発は足を止めて二人の様子を見守ることにした。

 

「わ、私、変なんです。いつも、頭の中は変態的なことばかり考えちゃって。こんなの、いけないことなのに。駄目だってわかっているのに止められなくて⋯⋯」

 

「なるほど。お前が魔法を使わないのを不思議に思っていたが、その悩みが理由か。⋯⋯私に言わせれば、そんなことは気にする必要はない。魔法少女は、大あれ小あれ変人の集まりだ。それに、思いを封じ込めていては強くはなれない。そこに居る張手山一発がいい例だろう。こいつも中々に我が強いが、その分非常に優れた戦闘力の持ち主だ」

 

「あら、魔王様、急に振らないでほしいですの。あたくしはただ、自分の浪漫を追い求める求道者。自分の欲望にまっすぐなことは悪いことではありませんの。あたくしは、この欲望を糧に、いつか魔王を打ち破ることを夢見て鍛錬を続けるだけですの」

 

 張手山一発は、ただ自分の思いを隠さず述べただけだったが、マリアには響いたようだった。魔王パムと張手山一発の顔を交互に見た後、憑き物が落ちたように目を輝かせていた。

 

「なるほど⋯⋯!! それでは、この溢れんばかりの衝動は隠す必要はないんですね!! ありがとうございます、お師匠様、張手山さん!! 私、明日から生まれ変わってみせます!!」

 

 そう言った翌日から、マリアは全裸で訓練の場に出ると、それまでの落ちこぼれ具合が嘘のように、メキメキと魔王塾の中でも頭角を現し始めたのであった。

 

 その様子を見て、どこか複雑そうな表情を浮かべる魔王パムとは対照的に、張手山一発ははっちゃけたマリアの姿を見て大笑いしていた。どうやら、自分の同期は想像していたよりも遥かに頭がおかしくて、競いがいのあるライバルだったようだ。

 

「⋯⋯ところで貴女、その口調はなんですの?」

 

「わたくしの口調ですか? 尊敬する貴女を真似てみましたわ。これで、貴女のような魔法少女に近づけましたでしょうか?」

 

「口調の真似とかキモイですの。いっぺん、くたばってくださる?」

 

「ああ、その罵倒、いいですね!! 今ので軽く絶頂してしまいました♡」

 

「もう駄目ですのこの変態」

 

 

──あの日、もし。張手山一発がマリアに声をかけていなかったら、目の前の魔法少女はここまで強くなっていなかったかもしれない。そう思うと、何とも感慨深いものがある。

 

 足元の土俵は、既に会場全体を埋め尽くすまでに広がっている。その規模に、観客席からはどよめきが起きるが、そんなの張手山一発には知ったことではない。今、この土俵の上に立つのは、自分とマリアの二人っきり。この神聖なる勝負の場所で、最強の一発を、親愛なる同期にお見舞いするだけだ。

 

「準備は整いましたの。あたくしの一発、受け止める準備はいいですの?」

 

「はい、もちろんです。ゴムもばっちり装着して、準備万端。今日は安全日ですから、万が一もありません。好きなだけぶち込んでください♡」

 

「そうですの。じゃあk、お言葉に甘えて⋯⋯その膜ぶち破って、子宮までこの一撃届けさせてやりますの!! “極限一発(アルティメット・インパクト)”!!!」

 

 だぁんと一際強く足を踏み下ろすと、土俵が一気に縮まる。本来はその縮小でもって張手の射程範囲に強制的に移動させるのだが、マリアは最初から正面ですべて受け止める覚悟で待ち構えているので、そこは問題ない。あとは、思いっきりぶちかますだけだ。

 

 気合の雄たけびと共に放った一発に対し、マリアが盾で正面から受け止める。その盾に張手山一発の放った衝撃派が届く前に、その前方に無数に張られた膜が、抑え込まんと震える。

 

 本来決して破れないはずの膜が、張手山一発の常識はずれな威力の一発で1枚、2枚と少しずつ破れ、ついにはマリアが直接手で持つ盾まで届いた。衝撃派の余波によって、マリアの後方の観客席は吹き飛ばされ、観客が数名巻き添えになっている。

 

 地面に刺した槍はずるずると少しずつ後退して溝を作り、巨大な盾も原型がなくなるまで破壊されている。盾と槍を完全に破壊し、マリアの纏う鎧まで衝撃派が届いたところで、その一撃は止まった。

 

「ふぅ⋯⋯。快感、ですわ♡」

 

 マリアは、耐えてみせた。盾と槍は破壊されたが、鎧はまだ一部が残って大事なところだけを隠している。張手山一発は、今出せる全力を叩き込んだ。つまり、それを受けて立っていられるマリアは、自分よりも強いということだ。

 

 それは、シンプルで、覆りようのない事実。そして、張手山一発にはもう同じ一発は撃てない。ぷらんと力なく揺れる腕は、先ほどの全力で骨が粉々に砕け散ってしまっていた。

 

「あたくしの一発を受け止めたんですの。貴女は、絶対に優勝して、魔王の名を継ぎなさい。そうじゃないと、許しませんの」

 

「ええ、もちろんです。⋯⋯分かってますよ、張手山さん」

 

 懐かしい呼び方に、思わず口元がほころぶ。マリアももしかしたら、戦いの最中にあの日のことを思い出していたのかもしれない。そんなことを考えながら、張手山一発は爽やかな表情で自分の敗北を宣言したのであった。

 

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