♢超☆Ⅱ凱
ゴージャス麗麗麗は死んだ。見栄っ張りな奴だったが、見かけによらず素直でよい奴だった。その分同じ魔王塾卒業生からはからかわれることも多かったが、そんなところも含めて彼女の魅力だった。
シキオリ=オリーも死んだ。季節によって異なる顔を見せてくれる、風流な奴だった。生存能力に特化したオリーの魔法ならば滅多なことでは死なないだろうと思っていたが、画面の向こうで彼女は殺されてしまった。
同じ控室に居た二人の魔法少女は殺され、超☆Ⅱ凱は今一人ぼっちだ。本来ここに居るはずの洒落亭流音はどこかに行ってしまったし、元凶であるTV唱は名前だけ書かれているだけで一度も控室に姿を見せたことはない。すっかり寂しくなってしまった控室の中で、戦いに向けて準備体操を行う。
二人の死を悲しいとは思うが、二人を殺したクラッシュライトに対する恨みはない。ゴージャス麗麗麗が死んだのは不意打ちに近いものであったが、シキオリ=オリーは真正面から戦って死んだ。弱い奴が死に、強い奴が生きのこった。それだけのことだ。
超☆Ⅱ凱は、血沸き肉躍る戦いを求めている。昔から、自分や他人の血を見ては興奮する悪癖があった。その悪癖は今でも治らず、しかしながら日常生活では穏やかな心持ちを意識することで抑え込んでいる。
だが、まあ。相手がこちらを殺すつもりならば、こちらも遠慮する必要はないだろう。自然と上がる口角を手で押さえながら、超☆Ⅱ凱は関節の蝶番に油を差す。
さあ、思いっきり楽しもう。簡単に殺されてやるつもりはないが、大量出血は望むところだ。真っ赤な血をぐちゃぐちゃに混ぜあって、魂まで赤く染め上げたい。その時聞こえる悲鳴はきっと、今まで聞いたどんな音楽よりも素敵なモノになるだろうから。
☆☆☆☆☆
「第十五試合はムシャラ・ガムシャ選手vs洒落亭流音選手の対決の予定でしたが、洒落亭流音選手が棄権したため、ガムシャ選手の不戦勝となります!! そこで、予定を繰り上げてただいまから第十六試合目を開始します!! 対戦カードは、超☆Ⅱ凱選手vsクラッシュライト選手です!!」
「クラッシュライト選手、これまで対戦相手を全員殺しているからすごく不安です。超☆Ⅱ凱選手も棄権した方がいいと思うんですが⋯⋯」
「そうは言いますけれどね、茶田千代さん。超☆Ⅱ凱選手の顔を見てください。すごく楽しそうに笑ってますよ」
「これだから魔王塾卒業生は!! やめましょうよもうこんなこと!! 命がもったいない!!」
解説の魔法少女の声が五月蠅いが、超☆Ⅱ凱の興奮はそれしきの妨害では冷めることはない。対面に立ちこちらを憎悪の籠った瞳で睨みつけるクラッシュライトの視線を、正面から受け止めて笑ってみせる。
「キヒ、キヒヒヒ!! お前、俺を殺したいんだろ!? 俺もそうなんだよぉ!! 仲良くできそうだなぁ!?」
「私と、貴様たち魔王の下僕を一緒にするな!!」
クラッシュライトが怒声と共に手から光線を放つ。相変わらずすぐキレる魔法少女だ。殺し合いができることに興奮しつつも冷静な思考は失っていない超☆Ⅱ凱は、放たれた光線に対し、空中に蝶番を取り付けることで対応する。
「『
技名は大声で叫ぶ。声と、蝶番が軋む音。”騒音少女”の名は伊達ではない。騒音は相手を苛つかせ、集中力を削ぐ効果がある。だから、超☆Ⅱ凱はあえてあふれ出る衝動に身を委ねて叫ぶのだ。
空中に取り付けた蝶番をぎぃぃと音を立てて動かすと、空間ごと折れ曲がり、直進してきた光線はクラッシュライトへと進路を変える。しかし、直撃すると思われた光線はクラッシュライトの身体に吸い込まれるように消えていった。どうやら、光線を返してもダメージにはならないらしい。
ならば、直接叩きに行く。足元に蝶番を取り付け、地面に潜る。そのまま地中を蝶番を利用して軋む音を響かせながら、クラッシュライトの足元へと接近する。勿論、この時既に会場全体に蝶番を取り付け、音による接近の察知はできないように対策済みだ。
超☆Ⅱ凱が鳴らす騒音は、相手に自分の動きを察知されないのと同時に、相手の位置を特定するのにも役立つ。超☆Ⅱ凱の聴力は、並の魔法少女をはるかにしのぐ。その聴力でもって、音を反射させて地中からでも相手の位置を特定することができるのだ。
クラッシュライトは、こちらの接近を警戒してか、空中に跳びあがったようだ。しかし、その位置も音で分かる。真下の位置から、空間に蝶番を取り付け、折り畳む。
「『
蝶番によって折り畳まれた空間によって、空中に居るクラッシュライトと超☆Ⅱ凱の距離が縮まる。魔法で一気に急接近した超☆Ⅱ凱はクラッシュライトに触れようと手を伸ばしたが、その手は鉄球によって跳ねのけられた。
「汚らわしい手で、私に触れるな!!」
「安心しろよぉ、どうせお互い血で汚れんだぁ!!」
反応速度は一流。対処も適切だ。先ほどの鉄球の一撃で折れた腕を蝶番を取り付けて元に戻し、超☆Ⅱ凱はキヒヒと笑う。やはり、強者との戦いは面白い。
クラッシュライトは、ちっと舌打ちをすると、超☆Ⅱ凱の方に掌を向けた。その瞬間、視界が黒く染まる。だが、視界を奪われても超☆Ⅱ凱には並外れた聴力がある。まったく問題ない。
超☆Ⅱ凱の肩を掴まんと伸ばされた手を、身体を折り畳むことで避け、お返しに蹴りを放つ。関節の全てに蝶番を取り付けることでまるで鞭のようにしなる足は、クラッシュライトの脇腹に命中した。
クラッシュライトのうめき声が聞こえ、同時に視界が晴れる。眩しい。そう感じる原因は、クラッシュライトが鉄球に込めた大量の光だった。痛みに耐え、即反撃とは肝が座っている。しかし、甘い。
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光に焼かれながらも鉄球に触れれば、蝶番が取り付けられた鉄球は一瞬でバラバラに分解される。分解されたことで無数に飛び散る光線は、蝶番で空間を折り畳むことで回避した。
バラバラにした鉄球は空中に散らばったままだ。しかし、蝶番の取りついたものならば魔法の影響下にある。破片を全部手元に引き寄せると、一瞬で組み立てた。これで、武器は奪い取った。
「私の武器を奪うな!!」
「そんなに大事なら、ちゃんと持っておくんだなぁ!!」
さっそく、手元で自分用に改造した鉄球を力任せに振り回す。蝶番で成形されたその武器は、クラッシュライトにぶつかる寸前でバラバラに解体、そしてその腕を巻き込んで再び元の鉄球へと戻った。ぐしゃりという湿った音と共に、鮮血が飛ぶ。その血を顔面で受け止め、舌でぺろりと舐め取った。強者の味だ。身体が一気に火照っていく。
⋯⋯いや、違う。これは興奮によるものではない。本当に、身体が燃えるように熱くなっている!!
気づいた時には、身体の中から光線が漏れ出してきていた。おそらく、クラッシュライトの血にも蓄えた光が込められていたのだろう。シンプルにやらかした。
クラッシュライトは、目を丸くして驚いている。どうやら、本人も想定していない攻撃だったのだろう。まさか、血を舐めるような奴がいるとは思わなかったに違いない。本当にやらかした。
しかし、流石というべきか。即座に意識を切り替えて、クラッシュライトは残った手で円を作り、その中心に光を貯めていく。あれを直接食らえば、身体は黒焦げになってしまうだろう。しかし、身体の内側からほとばしる光線が、超☆Ⅱ凱に防御の隙を与えない。
「⋯⋯いやぁ、やらかしたなぁ。参った参った」
迫りくる極大の光線を見ながら、超☆Ⅱ凱は他人事のように呟いた。そして、光線は防がれることなく超☆Ⅱ凱の全身を焼き尽くし、舞台上に巨大な光の柱を建てたのであった。
光が消えた後、舞台に残ったのは炭と化した超☆Ⅱ凱の肉体と、幾つかの蝶番。その炭に向かって唾を吐いたクラッシュライトを見て、司会は慌ててクラッシュライトの勝利を告げたのであった。
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「えー、以上を持ちまして、決勝を除いたすべての試合は終了しました!! 少し時間を取りまして、その後勝ち残った4名の選手たちによる最終決戦を行いたいと思います!!」
「うう、クラッシュライト残っちゃったなぁ。さらら、大丈夫かなぁ」
もはやさららのことを隠す気もない解説の声を聞きながら、超☆Ⅱ凱は舞台の上でゆっくりと自分の肉体をかき集めていた。光線を受ける直前、蝶番を取り付けてバラバラに散らばした自分の肉体。その肉体のほとんどは光線で焼かれて炭と化してしまったが、肝心の脳と心臓は地中に逃がしたので、まだ修復は十分可能だ。
そして、地中で僅かに残った肉体をかき集めた結果、本来の身長の十分の一ほどのサイズの超☆Ⅱ凱がそこに産まれていた。ギィと関節を動かし、問題なく動くことを確かめると、ひとりため息をつく。
「はぁ~、やらかしてしまったなぁ。いやぁ、悪い癖が出てしまったぁ。反省反省」
そう言いつつも、その顔は全く反省した様子はない。むしろ、ギラついた笑みが浮かんでいた。
「結局さぁ、最後に立ってる奴が勝つんだよ。なあ、キューティー☆E、ドリーミィ☆チェルシー。あんたらなら、気持ち、わかってくれるだろぉ?」
クラッシュライトの力量は、先ほどの戦いである程度把握できた。アクシデントが無ければ、もう少し互角に戦えていたはずだが、それでも十分すぎる強さだ。そして、決勝に残った面子は全員、そんなクラッシュライトと同格かそれ以上の力量の持ち主。
「いやぁ、楽しみだねぇ。強い奴らともっとも~っと殺し合いがしたいねぇ」
超☆Ⅱ凱は、おそらくそう遠くはないその瞬間を、地中で待ちわびる。そして、そんなイレギュラーの存在など知る由もなく、決勝の舞台は着々と準備が進められるのであった。