魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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裏で蠢くメディアの影

♢レイニー・ブルー

 

 決勝が開始したのとほぼ同時刻。会場の外に、二人の魔法少女が到着していた。そのうちの1人、レイニー・ブルーは、会場から聞こえてくる微かな歓声に耳を澄ましながら、プフレへと報告を行う。

 

「こちらレイニー・ブルー。先ほど会場前に到着しました。ただいまより突入作戦を決行いたします」

 

 臨時の上司であるプフレにそれだけ伝え、レイニーは魔法の端末をポケットにしまう。入口には警備兵などの姿はない。結界が張られているのが厄介だが、それさえ突破できれば突入はそこまで難しくはないだろう。

 

 ちらりと、隣に立つTierドロップへと視線を向ける。今回チームを組むことになったこの魔法少女、出会ってからずっと様子がおかしい。今も、あらぬ方向に視線を向け、よだれを垂らしながら何事か呟いている。正直あまり関わりたいタイプではないので、さっさと仕事を終わらせて帰りたいところだ。

 

「さて、早速仕事に取り掛かりましょう。幸い、結界は張られていますが、どうも入り口付近のモノは他に比べてやや強度が弱い様子。あそこを叩けば無理やり突破可能かもしれないです。速やかに、美しく任務を遂行しましょう」

 

「⋯⋯あはは! そうっすねぇ!! 茶田千代さんに会って褒めてもらわないといけませんもんねぇ!! でもでも、どうやらそう簡単にはいかないみたいっすよ!?」

 

 そう言って、ドロップは会場の入り口を指さす。そこから出てきたのは、複数人の魔法少女たちだ。しかも、その顔は見覚えがある。事前に書類に目を通した際に確認していた、大会の参加者たちだ。皆一様に上の空といった様子で、どう見ても正気ではない。しかし、悲しいことに最も近くにさらにヤバい状態の魔法少女が居るので、あれが誰かの魔法によるものなのかの判断が難しい。

 

「カミーラにフー・フーリン。その他の魔法少女も皆、大会の参加者ですね。無事逃げ出すことができたのならばよいのですが⋯⋯どうも、そうは見えませんね」

 

「明らかに様子おかしいっすもんねあはははは!! ねえレイニーさん、こういう時どうすればいいか、ドロップちゃん知ってるっすよ!?」

 

「え、どうするんですか?」

 

「それはねぇ⋯⋯こうするんすよぉ!!」

 

 様子がおかしいのはお前だろというツッコミを抑えて尋ねてみたところ、ドロップは先頭に立つカミーラの頭を思いっきりハンマーで殴りつけた。突然の蛮行に止める暇もなかった。やっぱり一番頭がおかしいのはこいつだ。早く帰りたい。

 

「ちょっと!? いきなり暴力はダメですよ!!」

 

「愛を知らない愚か者は暴力で言うこと聞かせるのが一番いいんすよ。それにぃ、この人らもやる気満々みたいっすよぉ?」

 

 ドロップの言葉通り、それまでただぼーっと立っていただけの魔法少女たちが、急に視線を鋭くして戦闘態勢を取り始めている。しかも、ドロップのハンマーの攻撃も、頭に当たる直前でカミーラが折り紙でできた兜で防いでいた。

 

「「「「ただいまからTV唱プレゼンツ、虐殺ショーの開演です。邪魔する奴は全員、皆殺し。目標は人事部門本拠地。私たちは止まらない!!」」」」

 

 大勢いる魔法少女は、一斉に声をそろえてそう言うと、レイニーとドロップへと襲い掛かってきた。なるほど、どうやらこの状況は、大会を開いたTV唱が起こしたもののようだ。TV唱の魔法ならば、洗脳も容易いだろう。もとより、メディアは大衆を動かす洗脳装置だ。

 

「とりあえず、おとなしくしてもらいますね!!」

 

 レイニーは、ここ最近あったムカつく出来事を脳内に想起させる。昨日の星座占いは最下位衣。ラッキーアイテムの雨合羽を新調しようと買い物に行ったら、欲しい柄が売り切れていた。ムカつく!!

 

 レイニーの魔法は、『気分次第で天気が変わるよ』だ。感情に合わせて様々な天候を操ることができる。怒りの感情ならば、レイニーの天気予報では雷だ。

 

 頭上にできた黒雲を手元に手繰りよせ、風鈴を付けた槍を構えて向かってきたフー・フーリンにそのままぶつける。ちりんと風鈴が鳴る音で一瞬眠気に襲われたが、それよりも黒雲がヒットしてフー・フーリンが痺れる方が早かった。

 

 雷に焼かれて黒焦げになったフー・フーリンを後方に放り投げ、次に襲い掛かる相手に備える。ちらりと戦いの音が聞こえる方に目を向けると、そこではドロップがカミーラ相手に一方的に殴り勝っていた。

 

「あははは!! ほらほらどうしたんすかぁ!? ドロップちゃんはまだ魔法使ってないっすよぉ!?」

 

 ドロップが握る先端にやや赤い汚れの付いたハンマーは、魔法のアイテムでもない市販品のハンマーだ。それをぶん回し、カミーラの顔面をボコボコに殴っている。とどめとばかりに顎をハンマーで打ち上げたところで、ドロップはふぅと満足そうに一息ついた。

 

「やっぱり、暴力(あい)を叩き込むのは快感っすねぇ!! こいつら、洗脳されてるからかあんま大したことないっすね。でも、ちょっとばかし数が多いのは厄介っすかね?」

 

「そうですね⋯⋯。ただ、大技を決めれば一網打尽にできる自信はあります。少し足止めをお願いしてもいいですか?」

 

「仕方ないっすねぇ~~~!!」

 

 素早く二人を倒せたとはいえ、まだ魔法少女は複数人いる。これらを一人ひとり相手するのはなかなか骨が折れるところだ。そこで、時間稼ぎはドロップに任せ、レイニーは激しい感情を想起させる。怒りの感情ならば⋯⋯最も強い怒りは、あの時。上司が殺されたあの日のことを、脳内で思い起こす。

 

 一方、時間稼ぎを任されたドロップは、まったくもって危機感など感じていない狂った笑顔のまま、魔法少女たちに向けて一礼する。そして、両手をすっと上にあげ、天を仰ぎ見た。そのポーズはまるで、オーケストラの前に立つ指揮者のようであった。

 

「ドロップちゃんの魔法、『涙の数だけ強くなれるよ』。ドロップちゃん、あんま泣かない良い子なんすけれど、頭の中にずーーーーーーーっと鳴り響いているこの曲を口ずさむと、何だか自然と、泣けてくるんすよ。なんでなんすかねぇ? たぶんきっと、愛の力なんすかねぇ!?」

 

 らーぶらーぶらーぶと歌いながら、ドロップはその瞳から涙を流し続ける。その涙はドロップの胸へと吸い込まれ、涙の跡は星の形となって光り輝く。

 

 その星が5つ光り輝くと同時に、ドロップが両手を勢いよく振り上げると、胸元から涙の粒が大きな塊となって、魔法少女たちへと飛び出していく。そして、びしょぬれになった魔法少女たちへと、弾丸のような速度でドロップは突っ込んでいく。

 

「あははははは!!! らーぶらーぶらーぶらーぶ!!!!」

 

 ドロップが殴る蹴るなどの暴行を行うたびに、胸元の星はひとつずつ消えていく。しかし、その間も絶え間なく流れ続ける涙が、ドロップのパワーを補充し、もはや誰にも止められない勢いでドロップは暴れまわる。

 

 そして、そこへとどめの一撃が投げ込まれる。

 

「おりゃあああああああ!!!!」

 

 怒りの感情を解き放ち、レイニーはこの空間に小さな台風を作り出した。その暴風によって、上空へと打ち上げられる魔法少女たち。当然、ドロップもそこに含まれているが、楽しそうに笑っているので問題はないのだろう。

 

 レイニーは、風で乱れた髪の毛とコスチュームを整え、ドロップの元へと向かう。地面に頭から激突し突き刺さったドロップを引き抜いてやると、あはははと笑いながらハンマーで殴りかかってきた。

 

「うわ!? 危ないな。何するんですか!」

 

「あはははは!! いや、それはこっちの台詞っすよぉ。楽しかったけれど普通に痛かったっすからね? もうちょい考えてやってほしいっす」

 

「あー、それは⋯⋯ごめんなさい」

 

 これは流石にこちらが悪い。素直に謝ると、ドロップは「許すのも愛っすね!」と言って許してくれた。思ったよりもいい人なのかもしれない。

 

「さあ、邪魔な奴らもやっつけたことっすし、さっさと会場に入るっすよ!!」

 

「そうですね。⋯⋯って、あれ? 何か聞こえませんか?」

 

 レイニーの耳に聞こえたのは、微かなノイズ音。その音の発信源は、倒れ伏す魔法少女たちだ。そして、信じがたいことに、そのノイズ音が途切れると同時に、先ほど倒したばかりの魔法少女全員が起き上がってきた。しかも、その傷もほとんどすべて元通りになっている。

 

「これは⋯⋯TV唱が何かしたとみて間違いなさそうですね。面倒だなぁ」

 

「そんなにドロップちゃんを茶田千代さんに会わせたくないんすか!? これが愛の試練!?」

 

 どうやら、まだ突入はできないらしい。再び向かってきた魔法少女の対処を余儀なくされ、レイニーは内心ため息をつく。天気は、いつの間にかどんよりとした曇り空へと変わっていた。

 

 

 

 

♢プフレ

 

 レイニー・ブルーから作戦開始が伝えられてから数分経ったが、まだ突入完了の報告はない。レイニーは腕利きの魔法少女だし、ドロップも性格にこそ難ありだが、実力は十分。どうやら、予期せぬアクシデントが起きて作戦がうまくいっていないようだ。

 

 プフレは小さくため息をつく。ここまで厄介なことになるとは正直予想外だった。対処するべきことは多く、時間は足りない。そういえば、人事部門内に設置されたテレビの改造作業はうまくいっただろうか。

 

 魔法の端末をいじり、連絡帳の一番上にある名前に通話をかける。しばらく待ち、ようやく相手が通話に出てきた。

 

「護、作業は順調かい?」

 

『一応終わりましたよ。もう、結構大変だったんですからね』

 

 自分不機嫌ですよ感を隠そうともしていないシャドウゲールの返事に、つい口角が上がる。しかし、続け様に放たれた言葉で、プフレの緊張は一気に高まることとなった。

 

『そもそも、お嬢がテレビ放送受信するよう改造しろって言ってきたじゃないですか。それに、会場にもなんか変なモノ設置させたりとか⋯⋯。人使いが荒いですよ』

 

「⋯⋯待った。護、私はそんな指示を出した覚えはない。その指示は、いつ受けたんだ?」

 

『結構前のことですよ。もう、自分の言ったことも覚えていないんですか? 次は会場の撤去作業ですよね。もう会場には着いてますよ。今から作業に入るんで、一旦通話切りますね』

 

「待った、護⋯⋯!!」

 

 慌てて引き止めるも、通話は既に切られてしまっていた。もう一度かけなおそうとしたが、今度は妨害電波でも飛ばされているのか、まったく繋がらなくなってしまった。

 

 こんなことをするのは、一人しかいない。TV唱の仕業だ。いったい、シャドウゲールを使って会場に何を設置したのか。嫌な予感がする。しかし、プフレには今からではどうすることもできない。

 

 レイニーとドロップが何とか突入してTV唱を確保してくれることを祈りつつも、プフレの不安は晴れることはなかったのであった。

 

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