♢クラッシュライト
挨拶代わりに放った光線は全員に対処された。腹立たしいが、これは予想していたことだ。クラッシュライトは既にこれまで3度戦い、その様子を見られている。ある程度戦闘のできる魔法少女なら事前に対策を練っているのは当然のことだろう。
狭い舞台の上に魔法少女が4人。誰から攻めていくか。やはり、一番目障りで消しておきたいのは魔王パムの姿を模した聖マリア0.01だ。心の奥底から湧き上がる怒りに任せ、モーニングスターを振り回し、光を貯めてぶちかます。
「死ねぇ!!!」
渾身の一撃は、しかしながらマリアが黒い羽根のような膜を張ったことで防がれてしまった。そのまま、マリアは残りの羽根をこちらに飛ばして攻撃してくる。
「もう少し言葉遣いは丁寧にした方がいいですわよ? “
膜による挟み込み攻撃を、寸前で身をよじって回避する。しかし、膜同士の衝突の勢いは激しく、押し出された空気によって身体が吹き飛ばされる。
「──
その隙を見逃さずに噛みついてきたのは、鎧の形状を鮫に変化させたガムシャだった。とっさに身体をひねり、回転の勢いを乗せて鎧をモーニングスターで叩くが、手ごたえがない。ぱぁんというガムが弾けた音と共に鎧が散弾銃のように飛んできて、クラッシュライトの脇腹を抉っていく。そのうえ、モーニングスターは鎧の中に入っていたガムにくっついて離れない。追撃を避けるためにも、クラッシュライトは武器を手放す他なかった。
「我、頂を目指す者なり。ゆえに、邪魔する者は誰であろうと悉く嚙み砕く!!」
「どんな高尚な言葉を並べようと所詮貴様も魔王の下僕だ!! とっとと死ね!!」
武器は失ったが、クラッシュライトはこれしきのことでは折れない。追撃を試みて飛び掛かってきたガムシャを、極太の光線で迎撃した。
ぷすぷすと煙を上げるガムシャ。その隣を、青い影が走る。あれは、この場にいる最後の1人、さららか。反射的に放った光線は、手に持った剣でさらりと斬りはらわれた。斬られた光線はまるで髪の毛のような細い線状に分かたれ、近場に居たマリアとガムシャに向かっていく。
「あはぁん♡ 一手でわたくしたちに同時攻撃とは、なかなかに疼く芸当をされますのね!! 貴女から対処した方がよいでしょうか?」
「これしきの攻撃は問題なし。しかし、貴様もやはり強い。警戒、必須」
「あ、いや、えっと。ボクのことはあまり気にせず、できればクラッシュライトさんを先にどうにかしてほしいんですけれど⋯⋯」
マリアとガムシャは問題なく光線を対処したものの、敵の攻撃を利用し他人を巻き込んださららに対する警戒心を一気に高めている。さららは、迷惑そうな表情を受けべながら、二人を無視してまっすぐにクラッシュライトへと向かってきた。
「お前、私の邪魔をするならお前も殺すぞ!!」
「あ、それは嫌なんで、なるべく早く負けてください⋯⋯」
さららは、クラッシュライトの憎む魔王塾卒業生ではない。しかし、そのどこか余裕のある態度は、無性にクラッシュライトの心を苛立たせた。
前方の光を魔法で呑み込む。これで、さららの視界は失われたはずだ。そして同時に、呑み込んだ光を右手にため込み、それを光線にして解き放った。
「く、暗いのは少し怖いですけれど、その光線ならば、怖くはありません」
さららは、視界を奪われても一切動じる様子を見せずに、刀を振り下ろした。青くキラキラと輝くその刀身を、クラッシュライトは間近で見たことでようやくその正体に気が付いた。刀身だと思っていたのは、太く束ねられた髪の毛であった。その髪の毛によって切り裂かれた光線が、先ほどと同じように乱反射し、周囲を切り刻む。
さらには、ぐっと伸ばされた髪の毛の刃は、クラッシュライトの元まで届いた。急所を守るべく身体の前で両腕をクロスさせて防御すると、皮膚の上を切り刻むように無数の傷跡が付けられた。比較的ダメージは浅い。しかし、髪の毛を扱う魔法がここまで厄介なのは予想外だ。
先にさららを始末してしまうか? いや、やはり一番先に殺すのは魔王もどきがいい。クラッシュライトは手元で光を破裂。閃光で姿をくらました隙に、マリアの背後へと全速力で移動する。
「“
黒い膜で目元を多い、サングラスのようにして視界を確保していたマリアは、クラッシュライトの急襲にも素早く反応した。羽根をハンマーのような形に変えると、思いっきりクラッシュライトを地面に叩きつける。ガードも間に合わず、衝撃をもろに食らったクラッシュライトはたまらず口から血を吐く。馬鹿げた威力だ。ふざけてる。やはり、魔王の手下にろくな奴はいない。
地面に叩きつけられ、下半身が埋まってしまった。早く脱出しなければ、追撃を食らってしまう。現に、ガムシャが鎧をガシャガシャ言わせながら、走って向かってきている。
しかし、その足は途中でピタリと止まる。ぐるんと、人間の可動域ではありえない角度に回った兜の視線が捉えるのは、苦々し気な表情を浮かべるさららだ。その頭髪からは、ガムシャに向かって髪の毛が伸ばされ、鎧の隙間に入り込んでいる。
「⋯⋯何故止める」
「貴女は勢い余ってクラッシュライトさんも殺しそうなので⋯⋯ボク、目の前で人が死ぬところは見たくないんですよね。でも、今はちょっぴりあなたに髪を伸ばしたこと、後悔してます」
「そのようだな。どうやら、我のガムは貴様の髪の毛に対して相性がよいらしい」
さららが伸ばした髪の毛は、鎧の隙間からガムシャ本体へ届くことはなく、ガムにくっついて止められてしまっていた。ぐいっと、ガムシャが力任せに髪の毛を引っ張ったところで、さららは冷静に髪の毛を切り離し離脱する。
その様子を見ながら、クラッシュライトもまた地面からの脱出を試みていた。足元から光線を発射。地面を破壊しながら片足を地上に出したところで、何故かいきなりがくんと体勢が崩れる。突然、地面に埋まっている方の膝が折れ曲がったのだ。何があったのかと足元に視線を向ければ、そこには予想していなかった存在がいた。
「あっははぁ!! さっきぶりだなぁ、クラッシュライトさんよぉ!?」
ギラギラした笑みを浮かべるのは、先ほどクラッシュライトが殺したはずの超☆Ⅱ凱だ。何故か二回りほど小さくなった身体で、クラッシュライトの膝に蝶番を取り付けている。いったいどういうことだ。死んだふりをして今までずっと舞台の下の地中に隠れていたとでもいうのか。いったい何のために?
分からない。分かるのは、魔王の下僕にはやはりろくな魔法少女が居ないということ。そして、先ほどクラッシュライトを地中に埋めたマリアが、再び攻撃の準備を始めているということだけだ。
「
マリアは、羽根を臼のような形に変えると、それを雨のように舞台上に降り注がせていく。さららは髪の毛で、ガムシャは膨らませたガムで防御するが、地面に埋まり、膝に蝶番を取り付けられたクラッシュライトには防御の手段がほぼない。真上に降り注いできたものだけは口から光線を吐いて迎撃したが、他は回避できずに、押しつぶされてしまう。
「やっぱあんたいいなぁ!! オレと
クラッシュライトが押しつぶされたのとは対称的に、空中に飛び出していったのは超☆Ⅱ凱だ。空中に蝶番を取り付け、空気を固定。それを足場にマリアへと突撃していく。そして、なんの因果かその取り付けた蝶番のお陰で、クラッシュライトは押しつぶされつつも意識を失うほどのダメージは受けずに済んだ。
「超☆Ⅱ凱様、貴女生きていたんですね!! 嬉しすぎて子宮から涙が出ちゃいそうですわ!!」
「俺もビンビンだよぉ!! 一緒に奏でようぜ、死の円舞をよぉ!!」
超☆Ⅱ凱はマリアが広げている羽根に蝶番を取り付け、強制的に折り曲げて防御を突破。腕に蝶番を複数取り付けることで関節を増やし、マリアの顔面をぶん殴った。初めてダメージらしいダメージをまともに食らったマリアは、鼻から血を噴き出しながら地面に堕ちていく。
落ちたマリアに対し、チャンスとばかりに噛みつきに行くガムシャ。その横をすり抜け、さららは超☆Ⅱ凱の元へ走る。
マリアが羽を広げて鎧を弾き、負けじとガムシャは鎧をガムで内側から膨らませて対抗する。超☆Ⅱ凱は、さららの髪の毛によって空中でぐるぐる巻きの簀巻きにされ、地面へと振り落とされた。
そんな一瞬の攻防を、クラッシュライトは最早ただ見ることしかできなかった。連戦によるダメージの蓄積と疲労、それに先ほどのマリアの攻撃によって、今は意識を保つのがやっとの状態だ。
それでも、クラッシュライトは立ち上がった。その口から漏れるのは、ずっと吐き続けている、怨嗟の言葉。
「貴様ら、魔王の下僕は、私が殺す⋯⋯っ!! お前たちは、全員死ね!!」
白目を剥きながら、激しい怒りの意志を燃やし立ち上がったクラッシュライトの姿を見て、全員の動きが止まる。唯一クラッシュライトに襲い掛かろうとした超☆Ⅱ凱をさらに強く髪の毛で縛り上げたさららは、直接戦いの場に立つことで、クラッシュライトに対して抱いた違和感を口に出した。
「クラッシュライトさん、貴女、それ、ずっと同じこと言ってますよね? ボクには、貴女の台詞が、まるで誰かに言わされているように感じるんです」
「なにを、言ってるんだ? ふざけたことを言うな。お前も殺すぞ!!」
「じゃあ、教えてください。魔王パムは、貴女に何をしたんですか?」
「私じゃ、ない。私の、大切な人が、魔王に殺されて⋯⋯」
そこまで無意識に答えたところで、クラッシュライトの頭にずきりと痛みが走る。そして、同時に茫然とした。魔王パムに殺された大切な人の名前が、思い出せない。いや、違う。姿は記憶している。しかし、クラッシュライトには
どういうことだ。戦いのショックで記憶が飛んだ? いや、あり得ない。それに、記憶ははっきりとしている。おかしいのは、自分の認識の方だ。この記憶を、どうしても自分の記憶とは思えない。なんだこれは。魔王に殺された光線使いは誰だ。その魔法少女に恋い焦がれるこの気持ちは、いったい誰のものだ。
気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
頭がパニックになったクラッシュライトの目線の先で、ぶぅんと何かが起動する音が聞こえてきた。その音に気付いた他の4人も、一斉にそちらに視線を向ける。
闘技場の中に設置された巨大テレビ。先ほどまで戦いの舞台を映していたそれに、今は別の映像が映っている。新聞紙を模したマントに、肩から提げたラジオ。そして⋯⋯テレビのマークのシールを頬に貼り付けた、中性的な容姿の魔法少女。
『やあどうも皆さんお久しぶりです!! 笑顔と元気を届けるエンターテイナー、TV唱のご尊顔、最期に焼き付けていってくださいね!!』
胡散臭い笑みと共にそう告げたのは、姿をくらましていたはずのTV唱。決勝の舞台で、最悪のショーが開かれようとしていた。