魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

30 / 52
"超キューティー☆Ⅱ凱E"

♢TV唱

 

 地中から伸ばされた手に瓦礫の中に引きずり込まれてしまった。当然ながら光は届いておらず、真っ暗だ。本来ならば、コスチューム付属のカメラで視界を確保できるのだが、頭の中を矢印が埋め尽くしているせいか身動きが取れない。

 

 TV唱は、そのまま固い地面に叩きつけられた。しかし、足から着地したというのに衝撃はなく、ぎぃという金属音を立てて視線が一段下に下がる。この音は間違いない、超☆Ⅱ凱の仕業だ。先ほど足を掴まれた際に両膝に蝶番を取り付けられたのか。

 

 そうして思考を巡らす間も、脳内の矢印は止まる気配がない。継続的に鳴り響く蝶番の軋む音は、TV唱以外の誰かがこの場にいることを伝えてくるが、気配的には一人しかいないはずだ。それなのに、何故この矢印が出てくるのか。詳細は知らないが、この魔法は確かさららの部下の1人、キューティ☆Eが使用するQTE魔法のはずだ。これのせいで、先ほどから魔法を発動しようとしてもうまくいかない。今のTV唱は、報道番組を流そうとしているところに無理やりダンスゲームの譜面を流されているようなものだ。放送局ジャックとはなんて卑劣な。

 

『ははは、驚いたかよマスゴミ野郎』「そのQTEは止めないぞ。貴様の魔法は危険すぎる」

 

 違う口調の魔法少女が立て続けに喋る。しかし、その声はどちらも同じだ。若干二重になったような、奇妙な声。TV唱は、暗闇の中自分に話しかけるこの魔法少女に、若干の恐怖を感じた。

 

『おい、これもしかして俺たちのこと見えてないんじゃねぇのか? お前のQTEのせいでこいつ碌に動けねぇだろ!』「ああ、確かにそうだな。では、明かりをつけるとするか」

 

 またしても立て続けに声が聞こえ、同時に、微かな光が灯される。その明かりの源は、腕時計のようだ。針の動きが止まった腕時計に付けられた小さなライトが、目の前にいる魔法少女を照らした。

 

「だ、誰ですかお前は⋯⋯!?」

 

 しかし、その姿を見ても、TV唱には正体が掴めなかった。何故なら、目の前の魔法少女は何故生きているか分からないような状態だったからだ。

 

 髪はすべて焼け落ち、肌は爆発の影響か表面が炭のように真っ黒く変色している。そんなボロボロの身体を無理やり支えているかのように、全身のあちこちに蝶番が取り付けられており、呼吸の僅かな振動でも蝶番が軋み、音を立てている。

 

 そんな死人同然な身体で、唯一無事に残っている瞳は、左右で色が異なっていた。右目が赤で、左目が黄色だ。TV唱の記憶では、超☆Ⅱ凱の瞳は黄色で、キューティ☆Eの瞳は赤色だった。これはつまり、そういうことなのだろうか。

 

「⋯⋯あー、もしかして、死にかけ2人が混ざり合ってなんとか生命活動を維持している感じですか。はは、何とも哀れな姿! 魔法少女とは思えぬ醜さ!! 滑稽ですねぇ」

 

『あっはっは! だいせいかーい!!』「笑いたくば笑え。たとえ醜くとも、生きていればそれでいい。何も成せないまま死ぬのは、言語道断だからな」

 

「その状態で生きているって言えるのかは正直疑問ですけれどねぇ。それで、あなたのことはどっちの名前で呼べばいいですか?」

 

『超』「キューティー」『「☆」』『Ⅱ凱』「E」

 

「お互い自己主張激しいですねぇ⋯⋯。まあ呼び名なんてどうでもいいんですよ。あなた達以外の魔法少女はどうなりました? さっき洒落亭流音らしき死体は見ましたが、他の死体はまだ確認できていないんですよね」

 

 TV唱としては、そこが一番気になるところだ。爆発直前のカメラの映像では、キューティー☆Eはシャドウゲールやおっく・ろっく、久光織衣などと一緒に居たはずだ。シャドウゲールには絶対死んでおいてほしいし、魔王塾卒業生は生き残っていた場合かなり厄介な相手。生死は確認しておく必要がある。

 

『まだ気づいてねぇのかよ。マスコミにしては視野が狭いんじゃねぇのか?』「少なくとも、今ここに貴様が探している死体は存在しないぞ」

 

 死体がない? どういうことだ。まさか、死んでいないのか。あの爆発で? いや、実際目の前にいるこいつは死んでいないのだから、その可能性は十分あり得るのか。しかし、逃げたとは考えにくい。久光織衣のスピードでも、あの爆発から逃げきるのは困難なはずだ。

 

 発言の真意を探るべく、動かせる首だけ動かして、周りに視線を向ける。明かりは相変わらず小さいが、暗闇に目が慣れたことで、この空間がどうやって形成されたのかの全容をようやく視認することができた。

 

 まず、広さが思ったよりも広い。魔法少女数人くらいは入れそうな空間が瓦礫の下に確保されている。そして、その空間を作る壁となっているのは、無数に敷き詰められたレールと、青い髪の毛だ。それらがドームのように弧を描き、空間を確保している。あのレールは久光織衣の魔法で間違いない。そして、あの髪の毛は⋯⋯。おかしい、さららは既に死んでいるはずだ。それに、何故爆発の後でも髪の毛とレールが原型をとどめているんだ?

 

 次に目に入ったのは、地面に散らばる腕時計だ。ライトをつけるために使用した腕時計以外にも、複数の針が止まった腕時計が落ちている。そして、その中には、針が逆時計回りに回転し続けているものがいくつか存在した。

 

 おっく・ろっくの魔法は確か、『正確に時間を計れるよ』だったはずだ。本人は決して魔法の詳細は語ってくれなかったが、間違いなくおっく・ろっくは時間を止めることが出来ていた。同じ魔王塾卒業生。何度か戦っているところを見たことがあるから知っている。その時は秒針が止まった腕時計を身に着けていたはずだ。

 

 しかし、おっく・ろっくがもし時を止める以上のことが出来るとすれば? もし、この逆時計回りに回り続ける針が指す意味が、TV唱の考える通りだとするならば、TV唱の計画は失敗に終わる可能性がある。

 

「おっく・ろっくはどこだ!? 奴はいったい何をしたんですか!?」

 

『お、やっと気づいたか』「どこと問われても、我々にも最早分からない。しいて言うならば、“過去”だろうな」

 

「なんだそれは!! 時間を戻せるとかチートだろ!! 戻ったのは奴だけなのか!? もしかして、他の奴も一緒に戻ったのか!?」

 

『死体がないんだ。それが答えだろぉ?』「貴様の魔法もだいぶ無法だろう。ズル相手にズルをして何が悪い」

 

「くそ、くそ、くそっ!! ⋯⋯いや、まだ大丈夫だ。過去のことは、過去の私が何とかしてくれる。戻っても、お前たちが私の計画を止められるはずがない」

 

 おっく・ろっくが複数の魔法少女を連れて過去に戻ったことを知って冷静さを失ってしまったが、よく考えれば計画は完全に失敗したわけではない。それに、おっく・ろっくの魔法でどこまで戻れるかは知らないが、時を戻すなんてことがリスクなしで出来るはずがない。そう何度も簡単には使えないはずだ。

 

 しかし、そうなると疑問が残る。何故、他の魔法少女は過去に戻ったのに、目の前のこいつは戻らなかったのだろうか。

 

「⋯⋯あなたたちは、一緒に戻らなかったんですか?」

 

『いや、この姿のまま戻るのはないだろ』「ああ、もし私たちが過去に戻れば、仮に貴様の計画を阻止できても姿はこのまま。一生こいつと身体を共有するなんて嫌すぎる。それに、だ」

 

 ぎろり、と左右で色の違う瞳でそれぞれ睨みをきかせ、超キューティー☆Ⅱ凱Eは声を揃えてTV唱に告げた。

 

『「この時間軸のお前を、このまま逃がすわけないだろ」』

 

「な、何を馬鹿なことを。そんな状態で私に何をするって言うんですか!」

 

『まあ、確かにオレ達はお前を殺すことは出来ねぇよ。もうほぼ身体動かねぇしな。さっきお前の足を掴んだので余力はすべて使い切った。でも、動けなくてもできることはあるよなぁ!?』「こいつと混ざったことで私は、蝶番の音だけでQTEを賭けられるようになった。私の身体は今は呼吸するだけで蝶番が軋むからな。意識せずとも生きている限りは無限に貴様の動きを止め続けることができる」

 

『つまりお前は、これからオレ達と一生ここで過ごすんだよぉ!! 仲良くしようなぁ!?』「心配せずとも、私もこいつも忍耐強い方だ。貴様がどうかは知らないがな」

 

「ふざ⋯⋯けるなぁ!!」

 

 TV唱は怒りに任せて身体を動かそうとするが、それは許されない。足は蝶番が付けられたせいで満足に動かせない。足が動かないからQTE通りに動けず、ペナルティで行動を止められる。そのうえ、蝶番がなるたびにQTEが発動するせいで魔法の発動もキャンセルされる。

 

 この状況は、どうにもならない。まさか本当に、このままずっとこの薄暗い瓦礫の下で一生過ごさなければならないのか? 冗談じゃない。TV唱は、復讐を果たし、ふさわしい地位につき、いずれは魔法の国のトップに立つのだ。自分にはそれにふさわしい能力が、カリスマがある。

 

『さあ、我慢比べといこうぜぇ!?』「私の心臓はまだ止まらない。最早これは呪いだな。だが、今は呪いに感謝しよう。こうして貴様を引き止めれらるのだからな。⋯⋯頑張れ、ナコ。君なら、やってくれると信じている」

 

「私は、私はこんなところで終わらない! 過去の私がお前らを全員殺して、同じ未来を必ず作ってみせる!! 最後に勝つのはこの私、TV唱だ!!」

 

 今の状況が詰みに近くても、まだ分からない。過去を変える愚行を、必ず自分は食い止めてくれるはずだ。TV唱は自分を信じ、暗闇の中で罵声を上げ続ける。

 

この時、蝶番と罵声が響く空間で、ある音が止まったことに、誰も気づかなかった。それは、逆回転をし続ける腕時計の針の音。一斉にピタリと動きを止めた時計が指す時刻が意味することを、この場にいる者は誰も知らない。

 

 その時刻は、おっく・ろっくが初めて茶田千代を見た瞬間の時刻。一目惚れ記念に記録していた、思い出の時間。

 

──さあ、絶望の運命を回避するべく、“時間遡行(ワンモア・チャンス)”だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。