♢キューティー☆E
時間は、爆発の10秒ほど前に遡る。
それは、あまりに突然の出来事だった。ジュリエッタと名乗ったややヤバめの雰囲気の魔法少女が、シャドウゲールの助力を借りてTV唱の居場所を探し始めてから少し経った時、ぼそりとこう呟いたのだ。
「あ、これ不味いですね」
周りに立つ魔法少女たちがその言葉の真意を問いただす前に、ジュリエッタは魔法の端末を取り出して素早く誰かにメッセージを送る。すると、何もない場所から急に腕が現れたかと思えば、ジュリエッタの身体をおもむろに掴んだ。
「え!? な、何この手! どこから出てきたの!?」
「僅かな間ですが一緒に行動した縁で忠告します。もうすぐこの闘技場は爆破されます。今すぐ逃げるか、どうにかして防ぐ方法を考えた方がいいでしょうね。それでは、私は一足先に失礼します。生きていたら、またお会いしましょう」
驚くナコの声に対してそれだけ告げると、ジュリエッタはナイフでおっく・ろっくの持っていたさららの髪をひと房だけ切り取り、手に引きずりこまれてどこかに消えて行ってしまった。あれは誰かの魔法なのだろうか。ジュリエッタの魔法ではないはずだ。それよりも、ここが爆破されるとは一体どういうことなのだろうか。
キューティー☆Eはジュリエッタの忠告の意味を脳みそを回して考える。しかし、その答えが出るよりも先に、ときんちゃんの慌てた叫び声が聞こえてきて思考を中断した。
「わわわわわわわ!? こ、これはやばい!! めちゃ大ピンチだぁぁぁぁ!?」
ときんちゃんの魔法である『アウェーだと強くなれるよ』は、逆境に陥るほど、つまり自らにピンチが訪れるほどその力を増す。そして、その魔法が今、かつてないほどに機能している。ときんちゃんは感じた。これは間違いなくヤバい。ジュリエッタの言う爆破がどのくらいの規模かは知らないが、確実に数秒後にときんちゃんの命を脅かすほどのピンチが襲ってくる。
ときんちゃんの声に真っ先に反応したのは久光織衣だ。先ほどのジュリエッタの忠告と合わせてこれから起こる事態を察した久光織衣は、逃走よりも防御を選択した。一人だけなら逃げきれる自信はあるが、この場にいる魔法少女たちを置いていって死なれてしまうのは後味が悪い。素早くレールを敷き、球場のドームを生成する。心なしかいつもより体が軽く感じるのは、ときんちゃんの魔法の影響を無意識に受けていたせいであったが、久光織衣はそれに気づく余裕はなく、爆速で即興のシェルターを完成させた。
そして、久光織衣が作ったドームに重なるように、おっく・ろっくの持っていたさららの髪の毛がひとりでに動いてそのドームを覆い隠した。これは、遠隔で髪の毛のある位置を察することが出来るさららがステージの上から最悪の事態を避けるべく魔法を行使した結果であった。そして、その際にさららの髪の毛が体内に埋め込まれていた久光織衣とときんちゃんは強制的に髪の毛の中に連れ込まれる。
レールと髪の毛で作成された即席のシェルターには今、おっく・ろっくと久光織衣、そしてときんちゃんが入っている。スペース的にはまだ余裕があるそこに、キューティー☆Eは自分の安全よりもナコの安全を優先してナコを投げ込んだ。
「キューティーさんも早く!!」
まだシェルターの中には一人くらいは入るスペースがある。先にシェルターに投げ込まれたナコが手を伸ばすが、キューティー☆Eがその手を取るよりも先に、洒落亭流音がシェルターの中にシャドウゲールの背を蹴り飛ばしてぶち込んだ。
「あたいはさ、常に最高の選択肢を取りたいんだ。こいつが生きのこれば、TV屋は確実に悔しがる。その顔を見れないのは残念だが、そうなれば最高だろう? あんたはここであたいと死んでくれや、キューティー屋」
「なるほど、実に合理的。貴殿がさららの姉というのはどうやら本当らしいな。しかし、言われずとも私は残るつもりだった。ナコが助かるならば、私はそれでいい!」
「そんな!? キューティーさんも一緒に⋯⋯」
「時間もスペースももうない! 閉じるぞ!!」
久光織衣がナコの声を遮り、僅かに空いたスペースをレールで埋める。そして、それを覆い隠すようにさららの髪の毛もシェルターの隙間を埋めた。
その直後、閃光が残ったキューティー☆Eと洒落亭流音の目を焼く。さらに、爆音が耳を貫く。これがジュリエッタの言っていた爆破だと察し、爆破に巻き込まれるまでのコンマ数秒の間に、2人は残るメンバーを生存させるために最後の行動を取った。
「穴をホール!!」
洒落亭流音が洒落で地面に穴を空け、シェルターを地中に埋める。キューティー☆Eは、それを見て穴と洒落亭流音を隠すように覆いかぶさった。
そして、閃光に続いて巻き起こった爆発が、2人を襲う。その熱量と衝撃に引き飛ばされそうになりながらも、キューティー☆Eは必死で洒落亭流音を庇い続け、洒落亭流音もなるべく魔法を発動し続けてシェルターを地中深くへと送る。少しでもシェルターの中の魔法少女たちの生存確率を上げるために。
「ああああああああああああ!!!!!」
キューティー☆Eは全身が燃えるような痛みを感じながらも、意識だけは手放さないように必死に叫んだ。既に義手と義足は溶け、肌は半分炭と化しているが、ここで死んでしまえば最悪全員が死んでしまうかもしれない。キューティー☆Eひとりで防げる熱と衝撃など大したことではないかもしれないが、だからといって何もせずに諦めるのは言語道断であった。
そして、必死で自分自身にQTEをかけて耐え続けるキューティー☆Eは、爆風の中でこちらに飛んでくる蝶番の群れを見た。その蝶番には、僅かな肉片のようなものが取りついており、口のパーツをした肉片が動き、聞きなれた声で呼びかける。
「合体だぁ、キューティー☆E!!」
キューティー☆Eは、その意味を理解すると同時に、超☆Ⅱ凱の提案を受け入れた。QTEを発動させて肉片の進路を変更。自分の身体にくっつけ、何とか内臓が焼け落ちるのだけは阻止できた。
時間としてはたった数秒の僅かな時間。その時間で、爆発はすべてを破壊し尽くした。闘技場は跡形もなく吹き飛び、あたりには瓦礫と焼け焦げた地面しか残っていない。そして⋯⋯キューティー☆Eが上から覆いかぶさるようにして守っていた洒落亭流音も、爆発の熱で焼け焦げて死んでいた。
しかし、キューティー☆Eは生き残った。途中で超☆Ⅱ凱が飛んできて合体しなければ死んでいたかもしれないが、偶然にも助けられて何とか生き残った。どうして助かったのかは自分でも分からない。超☆Ⅱ凱のものも混ざり混濁する意識の中で、キューティー☆Eはただナコ達の無事を案じた。
身体を動かそうとすると体組織がポロリとこげ落ちてしまったので、超☆Ⅱ凱の魔法で無理やり接合、補強して何とか穴の中へと入っていく。穴はかなりの深さだ。洒落亭流音も最期まで自分の役割を果たしてくれた。
そして、穴の奥で見つけたシェルターを覆う髪の毛は、表面は焦げているものの原型を保っている。とりあえず、シェルターごと爆破で破壊されることは無かったようだ。キューティー☆Eは祈るような気持ちで、シェルターに蝶番を取り付け、外からシェルターを開いた。
「あっつーー!!! 死ぬかと思ったわボケこらぁ!!」
その瞬間、罵声と共に久光織衣がシェルターから飛び出してきた。初対面の時とまるで変わらない言動に、他の面子の無事も確信したキューティー☆Eは、思わず安堵の涙を浮かべたのであった。