魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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ジュリエッタの一人舞台

♢久光織衣

 

「それでは、試合開始ぃぃ!!」

 

 おっく・ろっくの魔法の力で過去に戻った久光織衣が意識を現実世界に戻したその時、聞き覚えのある司会の声が聞こえてきた。そして、自分が立っている場所と目の前に立つさららの姿を見て、久光織衣は想定外の事態に困惑する。

 

 おっく・ろっくの話では、戻るタイミングはおっく・ろっくの初戦開始の時だったはずだ。しかし、今久光織衣の目の前にさららが居るということは、何故かは分からないが戻る時間がずれてしまっているらしい。他人には時間を守らせるくせに肝心なところでずれてどうすると罵声を浴びせたいが、おっく・ろっくは視界の範囲には居ない。

 

 こちらが仕掛けてくるのを待っているのか、さららから攻めてくる様子はない。その真剣な表情を見ているともう一度戦いたいという欲がふつふつと湧き上がってくるが、今だけは抑える。ここで無駄に消耗する必要はない。元凶さえぶっ倒してしまえば、後からいくらでも戦うことは出来る。

 

 ちらりと司会席に視線を向ければ、そこに居るはずの茶田千代の姿はなく、パミーとかいうTV唱の手下が座っているだけだった。つまり、洒落亭流音とTV唱の戦いはループ前と同様に行われ、洒落亭流音が勝利した後ということだ。茶田千代がいないという差異は少々気になるが、そこまで気にする必要もないだろう。あの魔法少女が居たところで何とかなる問題でもない。ならば、ここは素早く済ませてしまおう。

 

「⋯⋯降参だ。私は負けを認める」

 

 久光織衣はパミーの方を向き、両手を挙げてそう告げた。まさか自分が戦う前に降参を申し出る日が来るとは思っていなかった。自分のプライド的には到底許せない行為であり、正直かなり腹立たしい。しかし、この苛立ちは後でTV唱にぶつけるためのものだ。目的を見失えばすべてが台無しになってしまう。それくらいは、そこまで頭が良くない久光織衣でも理解できることだ。

 

「なんと、まさかの久光織衣選手、降参を申し出たぁ!! これで本日2度目の降参だぞ~!? 試合前の棄権もありましたし、この大会はいったいどうなってしまってるんでしょうか!?」

 

 2度目の降参に試合前の棄権? 1周目のループでは降参を自ら申し出たのはさららと戦ったおっく・ろっくだけだったはずだ。そして、おっく・ろっくがさららと戦ったのはこれより後のタイミングだ。これもまた1周目のループにはなかった差異だ。

 

 自分と同じ選択をしたならば、一人はおそらくときんちゃんだろう。ときんちゃんが超☆Ⅱ凱と戦ったのはひとつ前の試合だったはずだ。だが、そうなるともう一人、降参もしくは棄権を申し出た魔法少女が分からない。

 

「⋯⋯ど、どういうつもりですか? あなた、ボクの正体もう気が付いてますよね? あんなに戦いたがってたのに降参するなんて、何を企んでるんです?」

 

 いつの間にかすぐ近くまで迫っていたさららに問いかけられ、思わず心臓がどくんと高鳴る。それを誤魔化すように舌打ちを鳴らし、有無を言わせずさららの手を引っ張ってステージを後にした。

 

「ちょ、ちょっと、ちゃんと説明してくださいよ。どこに連れていくつもりですか?」

 

「⋯⋯控室だ。そこでちゃんと話してやるよ」

 

 おっく・ろっくはおそらく控室にいるはずだ。なら、そこにさららを連れて行って説明はおっく・ろっくに任せてしまおう。ときんちゃんやナコ、シャドウゲールやジュリエッタなどの他の時間遡行組も集まっていたら話が早くて助かるのだが。

 

 そんなことを考えながら、久光織衣は控室のドアを開けた。すると、そこには記憶にある景色とはだいぶ異なる光景が広がっていた。

 

 まず、部屋の広さがおかしい。明らかに1周目のループで記憶していた控室の大きさよりも数倍広くなっている。しかも、内装が無駄に豪華で煌びやかになっていてとても眩しい。

 

 次に、この控室にいる面子だ。元々ここに居たマリアやガムシャ、張手山一発がいるのはおかしくない。いや、シャンデリアの鎖に絡まって全裸で宙づりになっている変態(マリア)がいるが、あれを気にしたら負けなのでもういい。おっく・ろっくにときんちゃん、シャドウゲールにジュリエッタと、ナコを除いた時間遡行組が揃っているのもわかる。

 

 おかしいのはここからだ。別の控室にいるはずのTV唱を除いた魔王塾卒業生が全員、この控室に集まっている。さらには、解説席に姿がなかった茶田千代と、キューティ☆Eまでいてまさに大集合といった感じだ。

 

 そして、最も謎なのは、この控室をこんな風に変えたであろう元凶がここに居ることだった。

 

「おい、ゴージャス麗麗麗。おまえなんで生きてるんだよ」

 

「勝手にわたくしを殺さないでくださる!?」

 

 思わず口に出した疑問に、声を荒げるゴージャス麗麗麗。1周目のループでは真っ先にクラッシュライトに殺されたはずの彼女が、何故か生きて久光織衣の前に立っている。

 

 もう訳が分からない。久光織衣は、これ以上考えることを放棄することを即決で決めた。

 

 

♢ジュリエッタ

 

 1周目のループでクラッシュライトに殺されたゴージャス麗麗麗が生きていたのは、おっく・ろっくの”愛”によって時間遡行を行った魔法少女たちがそれぞれ異なる時間に戻されてしまったのが原因だった。

 

 おっく・ろっくはなるべく自分が戻るタイミングに近い時間帯に合わせようと意識していたが、時間指定が正しく行われなかった結果、戻るタイミングは魔法少女たちの印象に残った記憶や思いに影響を受けた。

 

 例えば、ときんちゃんと久光織衣。二人は、最も記憶に残った試合が始まるタイミングに戻された。その結果、二人ともTV唱との戦いに影響が残ることを危惧し、降参を選択している。

 

 ナコは、まだ現実世界に戻れていない。時の狭間で何者かの干渉を受け、身体を乗っ取られてしまった。シャドウゲールは、特別記憶に残る出来事がなかったので、おっく・ろっくとほぼ同じタイミングで戻っていた。

 

 最後に残ったジュリエッタは、どうにかして戻るタイミングを変更できないかとずっと考えていた。TV唱の記憶を魔法で共有したことで、ジュリエッタはあの爆発の原因がクラッシュライトにあることを知っていた。そして、クラッシュライトが暴走するのを止めるためには、クラッシュライトに人殺しをさせてはいけない。

 

 そう考えていたおかげで、ジュリエッタだけは大幅に早いタイミングでの時間遡行に成功していた。現実世界に戻ってすぐ時計を確認したジュリエッタは、想定よりもかなり早い時間に戻ったことを理解し、即協力者であるピティ・フレデリカに連絡。1周目のループよりも早く会場内に潜入することに成功していた。

 

 会場に設置されているテレビの音声、そして時間遡行前に聞いていた情報からまだゴージャス麗麗麗が殺されていないと確信したジュリエッタは、全力で走る。その間も、頭だけ高速で回し続ける。

 

 優先順位的に、まずやるべきはゴージャス麗麗麗を説得し、試合開始前に棄権してもらうこと。次に、シャドウゲールとの接触だ。どうやら時間遡行では肉体的な状態は引き継げないようで、改造がなかったことになってしまっている。TV唱の正確な居場所を知るためには、シャドウゲールにもう一度ジュリエッタの目を改造してもらう必要がある。

 

 やることが無駄に多い。しかし、誰かがやらなければあの惨劇は再び起こってしまう。正直ジュリエッタとしてはブルジョワーヌ以外がどうなろうと知ったことではないが、TV唱が一人勝ちするのは嫌だ。だから全力で止める。ついでに奴の息の根も止める。ジュリエッタとブルジョワーヌの愛を引き裂こうとした罪は重い。

 

 ゴージャス麗麗麗の現在地は知らないが、試合が始まっていないのでおそらく控室だろう。時間遡行実施前にあの場に居た全員の記憶はチラ見しているので、洒落亭流音の記憶から控室の場所は特定可能だ。

 

 勢いよくドアを開けば、控室内にいる魔法少女全員から視線が集まってくる。その中に、目的のゴージャス麗麗麗の姿もちゃんとあった。ジュリエッタは、走って乱れた息を整え、ゴージャス麗麗麗の前にずいと歩み寄ると、頬に手を当ててにっこりと笑みを浮かべてみせた。

 

「はじめまして、ゴージャス麗麗麗さん。私、ジュリエッタと申します。この後の試合、棄権してくれませんか?」

 

「⋯⋯何をおっしゃってますの? 意味がまったく分かりませんわ」

 

 ジュリエッタは内心の苛立ちと恐怖を押し隠し、笑みを浮かべ続ける。口調も外見も魔法少女名も、ブルジョワーヌⅢ世と似ている紛い物。存在しているだけで殺したくなるが、ここで殺しては不味い。そもそも、なんの策もなしにジュリエッタでは殺せない。ジュリエッタは、戦う魔法少女ではない。それは、自分自身が一番自覚している。この場にいる全員、その気になればジュリエッタ如きすぐ殺せるような魔法少女たちだ。しかし、それを悟らせてはならない。少なくとも今は、笑みを浮かべ見せかけの余裕を演出する。

 

「⋯⋯魔法少女、ゴージャス麗麗麗。本名は豪徳寺(ごうとくじ)麗子(れいこ)。大企業の財閥の娘ですが数年前に事業が倒産。今は魔法少女業を営みながら借アパートで細々とした生活を送っている」

 

「ど、どうしてそれを知っていますの!? 誰にも話したことありませんのに!!」

 

 戦えば万が一にもジュリエッタに勝ち目はないが、ジュリエッタには魔法がある。視界がゴージャス麗麗麗の視点に置き換わる。そのせいでゴージャス麗麗麗の顔は見ることが出来ないが、問題はない。もっと怪しく笑えジュリエッタ。お前のことはすべてお見通しだという表情で、恐怖を煽れ。見せかけの虚像をさらに大きく演出しろ。

 

 今、舞台の上にはジュリエッタとゴージャス麗麗麗の二人だけ。さしずめ今の自分は魔王で、ゴージャス麗麗麗は恐怖で震える姫といったところだろうか。情報という名の仮面を取ってしまえば本当は何もできないか弱い姫はこちらの方だが、その仮面ひとつがジュリエッタを優位に立たせてくれる。

 

「私の魔法にかかれば、なんでもお見通しなんですぅ。貴女の過去も、現在も、未来も、全部見えちゃいます。だから、忠告してあげているんですよぉ? 貴女、このままだと殺されちゃいますから」

 

「わ、わたくしが殺される!? そんなの嘘に決まっていますわ! わたくしはそこんじょそこらの魔法少女に負けるほど弱くはありませんわよ!」

 

「嘘だと思うならば棄権せず試合に出てみたらどうでしょうか? もっとも、無様に殺されるだけだと思いますけれどぉ」

 

「⋯⋯っ! わたくしを馬鹿にしたこと、後悔させてさしあげますわ!」

 

 ゴージャス麗麗麗が激昂し、金ぴかに装飾された扇子を振りかぶる。ジュリエッタは、それを表情を崩さずにじっと見つめていた。

 

 扇子がジュリエッタに当たる直前、ぴたりと空中で扇子が固定される。その後、ごっと鈍い音が聞こえたかと思えば、ゴージャス麗麗麗は白目を剥いて倒れていた。

 

「⋯⋯皆さん、ありがとうございます」

 

「別に礼なんていらないさぁ。私ぁお前の話に興味を持っただけだからねぇ」

 

「うちも! なんか面白そうだし今殺すのはナシだよね☆」

 

 扇子を止めたのは超☆Ⅱ凱。ゴージャス麗麗麗を気絶させたのはシキオリ=オリーだ。どうやら、ジュリエッタの舞台は観客に興味をもってもらえたようだ。そのことに内心ほっとしつつも顔には出さず、目の前にゆっくりと近づいてきた洒落亭流音に視線を合わせる。

 

「なかなか興味深い話だねぇ、あんた。それが本当なら面白い。なかなか愉快な洒落噺さ。でも、嘘だったら面白くない。こいつはこんなだけれど一応同門、侮辱されたらあたい達も侮辱されたのと同然だからね」

 

 洒落亭流音は、頭のキレる魔法少女だ。生半可なはったりは通用しない。ただ、信じて貰えれば大きな力になる。本体ではないにしろ、洒落亭流音はTV唱に勝っている。彼女の協力は何としてでも取り付けたい。

 

「⋯⋯では、こういうのはどうでしょうか。この後、あなた達のお仲間の1人、久光織衣さんが何試合か後に再び試合に出ることになりますよね? その人、戦う前に棄権を申し出ますよ」

 

「⋯⋯いやぁ、流石にそれはねぇだろ。あの久光屋は棄権なんて絶対しない」

 

「もし、私の言うことが当たったなら私の言うことを信じて協力してください。外れた場合は、私を殺してもらっても構いませんよ?」

 

 これは、賭けだ。ジュリエッタが見て感じた久光織衣の性格、そして記憶からおそらくそうするだろうと予想しているに過ぎない。本当にそうするかどうかは一切分からない。だが、洒落亭流音達を信じさせるには、それくらいの賭けをするしかない。

 

 あの荒っぽい性格の久光織衣は、魔王塾卒業生の中でも好戦的な方だと認識されているだろう。だからこそこの予知が当たれば、ジュリエッタは未来を見る魔法を持っているのだと信じてくれる。本当はそんな魔法ではないのだが、信じざるを得ないはずだ。

 

「信じられねぇ話だが、あんたの瞳は全然ぶれねぇなぁ。その目は嘘を言ってる輩のそれじゃねぇや。いいぜ、あんたの話乗ってやろうじゃねぇか」

 

「ありがとうございます。ああ、でも、久光織衣さんの試合まではまだ時間がありますね。それまで、あなた方と私、この部屋で一緒に待たせて貰いますね♡」

 

 うふふと微笑んでみせながら、ジュリエッタは脳みそを必死で回す。やるべきことはまだたくさんある。シャドウゲールの捜索はおっく・ろっくかナコに頼もう。幸い、魔法の端末の連絡先は全員分記憶している。改造は久光織衣の試合の後でも遅くはない。久光織衣はきっとさららを連れてくるはず。頭がいいという評判の彼女なら、きっと打倒TV唱にもいい作戦を考えてくれるはずだ。

 

 ジュリエッタは、その後洒落亭流音たちの力も借り、気絶から目覚めたゴージャス麗麗麗を再度説得し試合を棄権させることに成功した。それから、一緒に控室でお菓子を食べながら茶田千代を連れ去るおっく・ろっくやおどおどと降参を申し出るときんちゃんを見て他の時間遡行組もちゃんと動いていることを悟る。

 

 そして、画面越しに久光織衣が降参を申し出たのを聞いたジュリエッタは、どよめく魔王塾卒業生達の中で一人、ばれないように小さくガッツポーズをしたのであった。

 

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