♢TV唱
「ん~? 何やってんですかねあいつら」
洒落亭流音の戦いに負けた悔しさから何とか立ち直ったTV唱は、監視カメラの映像を見て首を傾げた。そこに映っているはずの魔法少女たちの姿が見当たらない。しかも、魔王塾卒業生が全員TV唱の視界に入らないようにしている。これは、何か企んでいると考えない方がおかしいだろう。
「他に姿が見えないのは⋯⋯ああ、さらら達ですか。それと、シャドウゲールに、何故か先ほど姿を確認したジュリエッタ。あの女がどういう目的でここに来ているかは分かりませんが、あの魔法を使われるとちょっと厄介ですねぇ」
1周目のループでは洒落亭流音との敗戦後ジュリエッタと魔法の端末でやり取りをしていたTV唱だが、2周目では何もコンタクトを取っていない。それなのに、本来来るはずのないジュリエッタがこの場にいるという事実は、TV唱に懸念を持たせるには充分だった。
「あの女の魔法は、私の魔法による力の底上げで一度見た相手の記憶や感情を共有できるように進化している。もしその魔法を使われて私の記憶を共有されたら厄介ですね。現に、こうしてひっそり動いているわけですし、もう私の計画に気づいて邪魔しようとしてますか?」
地下室で一人問いかけつつも、TV唱は半ばそうだろうと確信を持って口にしていた。ジュリエッタは賢い魔法少女だ。武力はないが、その知力で持って莫大な財力を持つ魔法少女を手元に縛り付けている。決して侮っていい相手ではない。
「まあ、それならそれで手はあります。私は、使える手札は最後まで隠しておくタイプなんですよ」
ジュリエッタの魔法は情報戦において莫大なアドバンテージを得られる便利な魔法に思えるが、欠点もある。それは、あくまでもジュリエッタの魔法が相手との“共有”をメインにしている点だ。記憶に関してもジュリエッタが探ろうとしたものしか共有できず、感情や思考も共有している間しか感じることが出来ない。最も、これはジュリエッタ最愛のブルジョワーヌⅢ世に関してはそういった制限もなく常に共有しているようだから、後付けで拡張した能力であるゆえの欠点というモノだろう。
それを授けたTV唱だからこそ、今TV唱が行おうとしていることはジュリエッタに悟られていない自信がある。TV唱は、魔法を行使して、とある魔法少女にかけていた洗脳を解いた。それと同時に、魔法の端末でメールを送信する。
『状況が知りたい。連絡求ム』
簡潔な文だが、きっと彼女はこれで分かってくれるだろう。洗脳で別の人格を与えていた間ならまだしも、元々の彼女はかなり優秀だ。
返事がくるのはしばらくかかるだろう。その間にお茶でも飲んで休憩しよう。そう判断して冷蔵庫に向かい、そこに敷き詰められた一面のチルアウトドリンクから1缶だけ手に取り、プルタブを押し開ける。ぷしゅっと炭酸が弾ける音と共に跳ねた飛沫が指にかかり、それをぺろりと舐めてから唇を缶の開け口に当てて一気に飲み干した。
飲み干した缶はゴミ箱目掛けスリーポイントシュートを放つつもりで放物線を描いて投げる。しかし、僅かに逸れてゴミ箱の淵に当たり、床に落ちてしまった。TV唱は舌打ちをして缶に近づくと、乱暴にゴミ箱目掛け空き缶をダンクする。床に零れた液体は靴で踏みつけて掃除した。
そんなことをしていると、魔法の端末から着信を知らせる通知がなる。思ったよりも返事が早い。TV唱は端末を手に取り、そこに書かれた文面を見て、思わず絶句した。
『クラッシュライト爆発の計画は漏れている。ジュリエッタらはおっく・ろっくの魔法で未来から過去に戻り、2周目を始めている。自分も隙をついて何人かは殺すつもりだが、全員の対処は無理だ。奥の手を使うことを進める』
「⋯⋯は? なんだよそれ、ズルだろ」
おっく・ろっくは時間を止められるのではないかという噂があったが、まさか過去に戻ることが出来たとは想定外だ。時間遡行なんてズルすぎる。おっく・ろっくは絶対に殺してやる。そして、自分の計画を止めようとする奴らも皆殺しだ。同じ魔王塾卒業生だからといって慈悲などない。そもそも、1周目でおそらく全員殺しているのだ。過去に戻ったからといってTV唱が躊躇うはずもなかった。
「まあ、忠告されたし奥の手の準備でも始めときますか。あれをお披露目できないのは少し寂しいですしね」
奥の手はその名の通り最終手段なので、使うには準備と調整が必要だ。特に、最終調整にはあの魔法少女の魔法が必要になってくる。まあ、そこらへんはさっき記憶を蘇らせてやった協力者がうまいこと連れてきてくれるだろう。
クラッシュライトはもういい。ネタが割れているショーほどつまらないものはないし、奥の手を使うと決めたならどの道皆殺しだ。せいぜい頑張って魔王塾卒業生を2,3人道連れにしてくれたら上出来。それ以上は望んでいない。
やることはたくさんある。しかし、奴らが動くのはおそらく次にクラッシュライトが試合に出る時だ。それまでは時間はまだある。TV唱は、気持ち急ぎ目に、しかし表情には余裕を携えたまま、奥の手の準備を進めていくのであった。
♢さらら
ジュリエッタとおっく・ろっくの肉体を手に入れたカレンダ・レンダの説明で、状況は理解した。自分が一度死んでしまったというのはショックだが、こうして時間遡行を行いやり直しの機会を手に入れているならば、まだ最悪ではない。ここから挽回は可能だ。
「ま、まずは、クラッシュライトを何とかしないといけませんよね。爆発の危険がある以上、なるべく殺さず拘束する方向性でいきたいのですが⋯⋯」
「それでは、わたくしとガムシャ様、超☆Ⅱ凱様が適任ですわね。あとは、本来の対戦相手であるオリー様の4人。これだけいれば、制圧は可能ですわ」
「是」
「よーし、最高にパンクにロックに騒がしく決めちゃおうかねぇ」
「うちらに任せとけぇ? こちとら一人でも4人力。4人いれば2倍! 楽勝だよ☆」
さららの声に反応したのは、天井から全裸でぶら下がっているマリアだった。何ともふざけた格好だが、どうやら話は真面目に聞いていたらしい。さらに、指定されたメンバーも乗り気なので問題はないだろう。マリアの格好については誰もツッコまないのでさららも無視する。
「TV唱の捜索と会場に仕掛けられた爆弾の撤去は、私とシャドウゲールさんが居れば大丈夫ですぅ。あとは、護衛と足があればよいですね。私たち、か弱いので♡」
「それでは我がシャドウゲールの護衛をしよう。機動力は久光織衣がいれば何とかなるだろう」
「あぁ!? なんでお前が私に指示してんだぁときんこらぁ!!」
「居場所を突き止めたらマスゴミ屋に殴り込みだろぉ? ならあたいも連れてったらお得だよ?」
「えーっと、よろしくお願いします」
ジュリエッタの提案に対し、ときんちゃん、久光織衣、洒落亭流音、シャドウゲールがそれぞれ反応する。さららとしてもその面子で問題ないとは思うが、1周目の記憶持ちが偏りすぎていることは懸念点だ。一応忠告してみることにする。
「あ、あの。そこのメンバーに1周目の記憶持ちが多すぎるのは少し問題があるかもです。最悪を考えて舞台に殴り込みに行くメンバーにも記憶持ちは混ぜておきたいのですが⋯⋯」
「⋯⋯ならば、我が混ざろう。シャドウゲールを爆弾のある位置まで届けたらそちらのメンバーに加わる」
「だからなんでお前が真っ先に答えてんだごらぁ!!」
「織衣さん、反対意見があるなら遠慮なく言ってください⋯⋯」
「は、反対意見なんてないぞおらぁ!! こっち見んなさららてめぇぶっ殺すぞ!!」
どうやら、久光織衣には相変わらず嫌われているようだ。しかし、文句を言っていた割にはそれ以上突っかかることは無かったので、ときんちゃんに動いてもらうことにする。
「それで、わたくしは何をすればよろしくって!?」
「あなた、お話聞いてなかったんですの? 貴女はあたくしと一緒に観客席で大仕事ですの。重要な役目なのですから、もう少し集中しなさいですの」
ゴージャス麗麗麗と張手山一発には、観客席で観客に取り付けられた爆弾を解除してもらう必要がある。そのためにはゴージャス麗麗麗の魔法は必要不可欠なので、是非とも頑張ってほしい。見た目によらずしっかりしている張手山一発がいれば、おそらく大丈夫だろうと信じたい。
「先ほど伝えましたが、私と茶田千代さんはいざという時に備えてとっておきを用意しておきます。期待しておいてください」
「うん、レンダと2人なら私もどんとこいだよぉ!!」
「⋯⋯よろしくお願いします」
レンダと茶田千代の2人に関しては、詳しいことは聞いていないが問題ないだろう。2人のことは信頼している。レンダはおっく・ろっくの身体を手に入れたことで戦闘能力も上がっているし、いざとなれば復活したスケジュール帳がある。
「ボクは、ナコを探した後で、状況を判断して舞台の方かTV唱討伐に加わります⋯⋯」
「私も同じだ。悪いが、ナコの行方が分からないまま作戦を進めることは出来ない」
さららは、キューティ☆Eと2手に分かれて未だ行方の知れないナコを探す。そこからは各自自己判断だ。最悪なのはTV唱に既に捕まってクラッシュライトと同様に洗脳を受けていることだが、洗脳ならばさららが髪の毛を脳に潜り込ませて脳組織をいじればおそらく解除可能だ。早くナコの無事を確認できないとさららとしては作戦に集中できない。だからこそ、我儘を通してもらうことにした。
「あー、さらら。ちょっとお姉さんとお話しないかい? なんだ、時間は取らねぇよ。すぐ終わる。あんたらはもう動き始めてくれや」
「⋯⋯なんですか、義姉さん。あ、皆さん気にせずに行ってください。たぶんすぐ終わるので」
作戦会議がひと段落したタイミングで、洒落亭流音がさららに声をかけてきた。さららは、他のメンバーには先に動き始めうよう頼み、控室に残る。先ほどまで騒がしく煌びやかだった控室の中は、今はさららと洒落亭流音だけ。しばしの間の静寂を破ったのは、洒落亭流音だった。
「あたいの記憶はないが、どうやらあんたは約束通りに試合に出て、しかも決勝まで行ったみたいだからねぇ。教えてやろうと思ってさ。あの事件の黒幕って奴を」
「⋯⋯それ、今じゃないと駄目ですか? TV唱を倒してからでいいでしょうに」
「いやぁ、今の方がいいと思うよ? だってよ、黒幕は現人事部門長、プフレだからね。あいつが海外にいるギャシュリーとマーブルフェイスにチラシを送って日本に2人を呼び寄せたから、あんたのお仲間は死んだんだ。ある意味、あんたとTV唱は同じ復讐相手がいる同士ってわけさ」
一瞬、何を言われたか分からなかった。しかし、それが嘘ではないことは洒落亭流音の瞳を見れば分かった。今、この性格の悪い義姉はさららが動揺する様子を見て愉しんでいる。これが嘘ならば、そこにこちらを馬鹿にするような嘲笑が混じるが、それがない。
「⋯⋯それを、何故、今、言うんですか」
「最高のタイミングだろぉ? あんたがTV唱の方につくなら、それも面白いと思ってさ。久々に姉妹喧嘩しよぉぜ」
「⋯⋯とりあえず、ボクは、ナコを探します。そこからどうするかは、その時に考えます」
そう告げて、さららは逃げるように控室を後にした。決断はすぐには出せない。ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた感情を誤魔化すように、さららは無心で駆け出すのであった。