♢キューティ☆E
クラッシュライト捕縛作戦が始まるのは試合開始と同時。まだそれまでに時間はあるので、早くナコを見つけ出して作戦に加わりたいところだ。信じられない話だが、自分は1周目の世界だと爆発に巻き込まれたが死なず、超☆Ⅱ凱と合体して生き残ったらしい。その悲劇を止めるためにも、この作戦は成功させなければならない。
⋯⋯ところで、それは流石に死んでいないとおかしくないか? 自分でもちょっと生命力にドン引きしてしまう。思えば、ギャシュリー達と戦った時も何度か三途の川を渡りかけたが結局生き延びた。自分は果たしていつ死ぬことができるのだろうか。
少なくとも、今がその時ではないことは確かだ。キューティ☆Eは、決して頭がよくはない。だからこそ、自分の役目は全力で果たす。
車椅子の速度をMAXまで上げ、廊下を爆走するキューティ☆Eは、曲がり角に差し掛かったところで何者かの気配を感じてスピードを緩めた。探しているナコかと期待したが、キューティ☆Eの目の前に現れたのは見知らぬ魔法少女だった。
「──運命の
その魔法少女は、開口一番わけのわからない言葉を呟いた。黒色の包帯で全身を覆い、羽根付き帽子を深くかぶっているせいで顔はよく見えないが、少なくともこのようなコスチュームの魔法少女に見覚えはない。今日の武闘大会の参加者にも居なかったはずだ。
「あー、貴殿が誰かは知らないが、私は今人を探していてな。少し急いでいるんだ。大きな消しゴムを持った髪の白い魔法少女を見なかっただろうか?」
「──幕開けの
「⋯⋯? すまない、どういう意味だろうか?」
「──
なんだろうかこの魔法少女は。先ほどから会話が全くできない。しかし、ここで折れてはいけない。さららとナコの昔の仲間にも同じように独特の喋り方をする魔法少女が居たらしく、さららの前のリーダーだった魔法少女は、その独特の喋り方を理解するべくノートに会話の内容を書き記して会話の内容を理解するべく努めていたことがあったという。大事なのは相手を理解しようとする心なのだ。
「あー、こほん。もう一度尋ねる。白い魔法少女を見なかったか? 見たら頷いてくれると助かる」
「──沈黙の
相変わらず言っていることは分からないが、その魔法少女は小さく頷く動作をした。どうやら、こちらの言葉は通じているようだ。
「そうか! なら、次はどこで見たかを教えてもらえると⋯⋯」
「おやおや、知らない人にあまり情報をぺらぺらと喋っちゃダメじゃないですか、トラちゃん。すみませんキューティ☆Eさん。それは貴女には教えられません」
不意に、背後から別の声が聞こえてきた。とっさに振り向いたキューティ☆Eは、思わず目を見開く。会話が通じるというだけで先ほどトラちゃんと呼ばれていた魔法少女よりもまともかと思ったが、そんなことはない。見た目は新たにやって来たこの魔法少女の方が数倍ヤバかった。
着ている服は比較的まともだ。上下共に黒のぴっちりとした女性もののスーツを模したコスチューム。これはいい。しかし、顔がヤバい。
まず、髪の毛が一本も生えていない。その代わりと言わんばかりに、まち針が大量に頭に突き刺さっている。さらに、閉じられた両目は上から下に針で縫い付けられていて、絶えず血の涙を流している。見ているだけでとても痛々しくぞっとする外見だった。
「──
「はいはい、正式名称はそれですよね。でも、トラちゃんの方が可愛くていいじゃないですか。すみません、申し遅れました。私の名前はRB・フィッシュと申します。短い間ですが、どうぞよしなに」
そう名乗りを上げてお辞儀をする動作こそ美しかったが、外見のインパクトが全てを台無しにしている。トラちゃんに関しては、外見はまともだが相変わらず会話ができない。いきなりよく分からない怪しい魔法少女2人に囲まれ、キューティ☆Eは一気に警戒心を高めた。
「何者だ貴様ら。その口ぶりからしてチームだな。リーダーは誰だ? 何の目的でここに来た?」
「──童謡の
「落ち着いてトラちゃん。キューティ☆Eさん、そんなに警戒しないでください。私たちは、貴女を勧誘するためにここにいるんです」
「悪いが私には既に所属しているチームがある。勧誘なら他を当たってくれ」
冷静に返事をしながら、キューティ☆Eはいつでも戦えるようそっと車椅子に設置してあるスイッチに手を伸ばす。ここを押せば即座に音楽が流れ、QTEを送り込める。
対する魔法少女2人は、まだどちらもこちらと戦おうとする姿勢は見せていない。トラちゃんは帽子のせいで表情がよく見えないし、瞳が縫い付けられているRB・フィッシュに関しても表情が分かりにくい。キューティ☆Eが提案を断った今も、怒りの感情は現さずに、困ったように首を傾げるだけであった。
「おやおや。いいんですか? 貴女の探しているナコちゃんとやらは、既に私たちのチームの一員になっていますよ?」
「な!? おい、それはどういうことだ! ナコがさららの元を去るはずがないだろう!! 私の仲間を侮辱するつもりなら容赦はしないぞ!!」
「──落日の
「貴様は黙れ! さっきからずっと何を言っているか分からない!!」
「──水笛の
何故かそっぽを向いてしまったトラちゃんは無視して、キューティ☆EはRB・フィッシュを睨みつけた。相手はこちらを見えているかは定かではないが関係ない。こいつは今、キューティ☆Eを完全に怒らせた。
「どうやら貴様らはナコの居場所を知っているようだからな! 力づくで居場所を聞き出してやるぞ。レッツ、Q・T・E!!」
「トラちゃん、耳栓」
先制で動きを縛り付けるべく車椅子からQTE用の音楽を流したキューティ☆Eであったが、何故か初対面のはずの相手に完璧に対策をされていた。耳栓をして音楽を聞かなかった2人は、QTEに縛られること無く動き、反撃を始める。
「──雷帝の
トラちゃんが呟くと同時に、突然落雷がキューティ☆Eを襲う。咄嗟に義手を盾にして直撃を防いだが、車椅子に使われている機械部分が今の雷撃でおそらくショートした。
「攻撃してくるなら仕方ないですね。ちょっとおとなしくしてもらいますよ?」
続けざまに、RB・フィッシュも攻撃を仕掛けてくる。なんと頭に刺さっていたまち針を抜いて、血が滴るそれをキューティ☆E目掛けて突き刺そうとしてきた。キューティ☆Eはその攻撃を腕の力で車椅子の車輪を回し、遠心力で内臓してある刃を飛び出させて対応した。
「ほう、その身体でこの機動力。流石ですね。惚れ惚れしちゃいます」
「これでも昔は警備隊長をしていたのでな。貴様らのような賊の対処に手間取るようでは言語道断。この身体でも変わらぬパフォーマンスができるよう鍛えている。⋯⋯ところで、貴様は何故頬を赤らめている?」
「こちらの問題です。お気になさらず」
「──戦慄の
口ではああ言ったが、実際このままではかなり不味い。音声がなくともQTE魔法の発動はできるが、おそらくこちらが見えていないであろうRB・フィッシュに対してはなかなかに発動のトリガーを与えるのが難しいし、先ほどの雷撃で車椅子の機能の一部が故障しているのも厄介だ。
だが、ここで逃げる選択肢は取れない。少なくとも、この2人がナコの居場所を知っているのは確かである。たとえここで敗れることになったとしても、せめて情報だけは手に入れてさららに伝えなければならない。
そう覚悟を決め直し再度攻めかかろうとしたその時、どこかで聞いたことのあるアニメのテーマソングのような曲が流れ始めた。もしや相手の魔法に関係しているのかと慌てて耳を塞いだキューティ☆Eだったがどうやらそんなことは無く、トラちゃんが胸に巻いた包帯から取り出した魔法の端末が音の出どころだった。すぐに魔法の端末を耳に当てて小声で話し始めた様子から見るに、あれはただの着信音らしい。
「──頭領の
「あら、本当ですか。思っていたより早かったですね。では、我らのリーダーの元に戻りましょうか」
そう言って、RB・フィッシュはくるりと踵を返す。今のはこの2人のリーダーからの連絡だったのか。どうやら帰還の指示があったようだが、このまま逃がすわけにはいかない。
「待て!! せめてナコの居場所を吐いてから行け!!」
「そうですね。たぶん、お仲間のさららさんならもう知っていると思いますよ?」
「──消失の
「おい、それはいったいどういうことなんだ!?」
さららの名前まで出たことでさらに声を荒げ問い詰めるキューティ☆Eだったが、黒い渦のようなものが現れたかと思いきや、その中に入っていった2人は一瞬で姿を消してしまった。
しばらく消えた2人がさっきまでいた場所を茫然と眺めていたキューティ☆Eだったが、気を取り直し車椅子を走らせる。ただでさえTV唱の起こす爆発事故への対処で大変なのに、また厄介な魔法少女が現れてしまった。兎に角、先ほどのRB・フィッシュの言葉の真偽を確かめるべくさららと合流しなければ。
さららならば並の魔法少女相手にやられることは無いと思っているが、どうも不穏だ。何も起きていないことを祈りながら、キューティ☆Eは別方向を探しているはずのさららの元へ向かうのであった。