魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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高笑いは計画的に

♢神谷沙羅

 

 キューティ☆Eに言ったことはほとんど強がりだ。ホントは、もう戦いたくないし、早くあの桜の木へと帰りたい。

 

 でも、それはできない。このままだと大勢の魔法使いや魔法少女が死んでしまう。沙羅は、それらを見殺しにして生きていられるほど心が強くはない。ならば、最悪を避けるために自分ができることをやるしかない。

 

「⋯⋯まず、レンダ達と連絡を取りましょう。その後、ボクが変身できないことを他のメンバーにも報告する必要があります」

 

「分かった。ならば他のメンバーへの報告は私が担当しよう。連絡先を交換していない奴らには私が直接行って伝えた方が早いだろうからな」

 

 こういう時にこちらの意図をすぐ理解して動いてくれるキューティ☆Eは本当に助かる。先ほどは少し恥ずかしい姿を見せてしまったが、まだ自分をリーダーと認めてくれているだろうか。⋯⋯ああ、嫌だ。リーダーとして期待されたくはないのに、失望されることは恐れている自分がいる。いつも以上に思考がネガティブな方向に傾いてしまう。

 

「⋯⋯っ! 沙羅、危ない!!」

 

 突然、キューティ☆Eがそう言って沙羅の目の前に立った。変身していない状態では全く感知できなかったが、どうやら何者かが襲ってきたようだ。数秒遅れてその襲撃者の正体に気づき、沙羅は思わず目を丸くした。

 

「義姉さん!? なんでボクたちを襲ってきたんですか!?」

 

「⋯⋯お前の泣き声が聞こえたから駆けつけてきた優しい姉ちゃんにそれはねぇなぁこの愚妹。で、あんたが泣かせたのかよキューティ☆E。あのなぁ、こいつを泣かせていいのはあたいだけなんだ。マスゴミ屋より先にてめぇをぶん殴ってやろうか?」

 

「成程、素晴らしい姉妹愛だ。貴様がもう少しまともな精神をしていたならば沙羅がここまで苦しむこともなかっただろうな。しかし、沙羅の涙には私にも責任があることは事実。私を殴るのは構わない。その代わり私にも一発殴らせろ」

 

「ふ、二人とも落ち着いてください!! 今は仲間同士で争っている場合ではないでしょう!?」

 

 洒落亭流音の傍若無人っぷりはいつものことだが、予想以上に怒った様子のキューティ☆Eも喧嘩を買ってしまった。自分のために怒ってくれているであろうことは正直嬉しい気持ちもあるが、今ここで争っている場合ではない。慌てて二人の間に入って静止し、そのまま洒落亭流音に現在の状況を尋ねることにした。

 

「ところで! 義姉さんはTV唱の元に先に行く予定ではなかったのですか? そちらはどうなりましたか?」

 

「⋯⋯ああ、それね。まあ、場所はあのジュリエッタ屋の魔法で突き止めたんだが、ちいとばかし問題が起こってね。安易に攻め入るわけにはいかなくなったのさ」

 

「その問題とはなんだ? さっさと要点を話せこの屑姉」

 

「ああ!? もっぺん言いなこの芋虫野郎」

 

「いい加減にしてください二人とも! 義姉さんも早く話してください。何か問題が起こったんでしょう?」

 

 キューティ☆Eが洒落亭流音を罵ったことでまたもや一触即発の空気になったが、慌てて止めに入ったことで事なきを得た。ここまでこの2人の相性が悪いのは予想外だ。キューティ☆Eがここまで突っかかるのも珍しい⋯⋯。まあ、主に問題は義姉の性格のせいだろうが。

 

「⋯⋯この件が終わったら覚悟しときな、お前さんよぉ。まあ今はいいさ。それよりもそうだ。問題は起きている。あの黒いナース屋が、いねぇ。たぶん、マスゴミ屋に連れ去られた。ジュリエッタ屋が魔法で居場所を探ったら、あいつと同じ場所に居たらしいからね」

 

「な!?」

 

 沙羅は、告げられた事態に思わず目を見開いた。シャドウゲールがTV唱に連れ去られてしまうのは、非常にまずい。彼女の魔法は強力だし、確かシャドウゲールはあのプフレの従者をしていたはずだ。そんなシャドウゲールを連れ去ったTV唱が何を要求するかは想像に容易い。いや、それよりも問題は、どうやってTV唱がシャドウゲールを連れ去ったかだ。沙羅の予想が正しければ、最悪の事態が起きる可能性がある。

 

「急がないと、いけませんね⋯⋯」

 

 事態の深刻さを理解しているのは沙羅と同じようで、思わず漏れたその言葉に、洒落亭流音とキューティ☆Eも揃って頷いた。まず、向かうべきは闘技場だ。もうすぐで試合が始まる。もしそこに彼女(・・)が乱入するならば、止めないといけない。

 

 今の自分にできることは少ないが、やらなければ多くの命が散る。抱えているもやもやはすべて、TV唱を倒すことで晴らすことを決め、沙羅はキューティ☆Eの車椅子に相乗りして、皆と合流するべく動き出した。

 

 

 

♢ゴージャス麗麗麗

 

「ひぃん!? あ、あなた確か魔王塾の⋯⋯。なんでこんな場所にいるんですか?」

 

「し! 静かになさって。今、爆弾を解除いたしますわ」

 

 弱気そうな見た目の少女に取り付けられている爆弾に、一言断りを入れてから触れる。そして発動するのは、ゴージャス麗麗麗の魔法、『なんでも高価なものに変えちゃうよ』だ。触った無機物を現時点よりも高価な物体に変えることの可能なこの魔法は、形状がある程度似ていればイメージしている物体に変えられる。

 

 そして、イメージ通りに宝石の付いたアクセサリーへ変化した爆弾を見て、ほっと胸を撫でおろす。ゴージャス麗麗麗の一連の動作を固唾を飲んで見守っていた少女は、涙を浮かべながらお礼を言ってくれた。

 

「あ、ありがとうございます! 貴女は私の命の恩人です! これ、通帳と印鑑です。是非受け取ってください!!」

 

「いや、流石にそれは受け取れませんわ!? わ、わたくしが好きでやっていることです。感謝の言葉だけで充分ですわ」

 

 予想外に重めのお礼を渡されそうになったのを慌てて断り、ゴージャス麗麗麗は次の観客の元へ向かう。試合が開始するまでには全員とはいかずとも過半数くらいの観客の爆弾は解除しておきたい。しかしながら、全員が先ほどの少女のように協力的ではなく、魔法少女を敵視している魔法使いの老人などはそもそも触らせようともしてくれないことがあった。

 

「だから、先ほどから言っているではありませんの! わたくしの魔法で爆弾を解除するから触らせてと頼んでいるのです! さっき貴方の隣の子の爆弾をアクセサリーに変えたのを見てたでしょう!?」

 

「ふんっ! どうだかな。儂を油断させるための罠ではない可能性がどこにある? それに、お前はあの野蛮な魔王塾卒業生、なおさら信頼できん。まったく、次期魔王を決めるというから今のうちに弱みを探るために来てみれば、こんな事態に巻き込みおって。これだから魔法少女はろくな奴がいない」

 

 は? こいつだけ爆弾解除しないでやろうか? 思わず殺意が沸き上がったが、深呼吸して抑える。駄目だ駄目だ。こいつだけ死ぬのは全然いいのだが、ここで爆発が起きたら周りの観客も巻き込まれてしまう。何とか説得しなければ。

 

「そ、そんなこと言わないでくださいませ。このままでは貴方、爆発して死んでしまいますよ? さあ、おとなしくわたくしに従って⋯⋯」

 

「どっせい! ですの」

 

 内心の怒りを押し隠しながら老人を説得しようとしていたゴージャス麗麗麗の目の前で、同行している張手山一発が何をとち狂ったか老人の首に思いっきりチョップをかました。当然、チョップされた老人は白目を剥いて倒れてしまう。

 

「なななな、何をしてますの貴女!? ひ、人殺しですわ~!!」

 

「あら、人聞きの悪いこと言わないでほしいですの。このおじい様はただ寝てしまっただけですの。ねえ、おじい様、大丈夫ですよね? ⋯⋯ああ、大丈夫じゃよ。プリチーなお嬢さん」

 

「かんっぜんに貴女がアフレコしているじゃないですか!! だ、大丈夫ですわよね? ほんっとに殺してないですわよね!?」

 

「当然ですの。あたくしが殺すつもりなら首なんて消えてますもの。さあ、早く次に行きますの。こんなところで時間を使っている場合じゃありませんわ」

 

 そう言って、さっさと次の観客の元へと向かう張手山一発の背中を睨みつける。正直言って、ゴージャス麗麗麗は張手山一発のことが苦手だ。同じお嬢様口調ということで何かと彼女とは比較されがちだったが、戦闘では張手山一発の方が上手。模擬戦では一度も勝てた試しがない。お嬢様口調だと聖マリア0.01も同じだが、あれは別枠の変態なのでノーカウントだ。

 

「爆弾を解除しているのはわたくしですのに⋯⋯」

 

 そんな苦手意識があったせいか、ついぽろっと文句の言葉を漏らしてしまう。すると、それが聞こえていたのか、張手山一発がこちらをくるりと振り返った。

 

「な、なんですか!? ホントのことを言ったまでじゃないですか。別にわたくしは悪くないですからね!!」

 

「後ろですの!!」

 

 張手山一発は突然そう言うと、こちらに向かって手を突き出した。その一発の余波で起こった風圧が、ゴージャス麗麗麗のすぐ背後まで迫っていた煙を打ち払った。

 

「──俺の城にまったく患者が運び込まれてこないと思ったら、こんなところでこそこそしてたとはね。まったく、あんたらときたらとんだじゃじゃ馬どもだよ」

 

 ハスキーだが自然と心地よい低い声。慌てて振り返ると、そこには煙草を咥えて紫煙をくゆらせる治療所の主、Dr.ヤニーが立っていた。

 

「あら、治療所の女王がこんなところに何の用ですの? あたくし達、慈善活動で忙しいので、邪魔しないでほしいですの」

 

「ボランティアとはなかなかいい心がけじゃねぇか。褒めてやんよ。ただ、生憎こちらも雇われの身でね。大事な人質を解放されるわけにはいかないんだ。そういうわけで、しばらく眠ってくれ」

 

 そう言って、Dr.ヤニーは口から黒色の煙を大量に吐き出す。ゴージャス麗麗麗はあまり面識がないので彼女がどんな魔法を使うか知らないが、あの色は見るからに身体に悪そうだ。咄嗟に口元を覆い、後ろに下がって小声で張手山一発に尋ねる。

 

「貴女、あの人と知り合いのような口調でしたわよね? 彼女の魔法について何か知っていらして?」

 

「Dr.ヤニーの魔法は、『煙草の煙で処方しちゃうよ』ですの。あの煙は薬にも毒にもなる厄介なもの。決して吸い込んではいけませんの」

 

 魔法の詳細を知れたのは大きい。やはり、あの煙は吸ってはいけないものだったか。しかし、魔法的に毒を扱えるのは厄介だが、あまり戦闘が得意そうには聞こえない。それに対し、こちらは戦闘巧者の魔王塾卒業生二人だ。流石に余裕で制圧可能だろう。

 

 そんなことを考え少し油断していたゴージャス麗麗麗の顔面を、ぴしゃりと鋭い痛みが襲う。ぎゃっと痛みのあまり悲鳴をあげそうになったところを、すっと横から差し出された手が口を塞いだ。

 

「何大きな声出そうとしてますの。そんなことしたら思いっきり煙吸っちゃいますの。あと、油断してるみたいだから忠告しますけれど、Dr.ヤニーは元々名の知れた傭兵魔法少女。かなりの手練れですの」

 

 張手山一発が小声で忠告してくれた通り、どうやら先ほど顔面に走った衝撃はDr.ヤニーの攻撃によるもののようであった。いつの間にかその手には赤い鞭が握られ、パシパシと鋭い音を立てて地面を打っている。

 

「さあ、俺の手で調教してやるよ、野良猫ども。大丈夫さ、怪我しても治してやるからね。少しの間お寝んねしてもらうだけさ」

 

「お生憎様。こちとら血統書付きの可愛い猫ちゃんですの。簡単に言いなりになるとは思わない方がよろしくてよ?」

 

「そ、その通りですわ! わたくし達の力、思い知らせて差し上げますわぁ~!! おーほっほっほ!! げほっ、ごほっ!?」

 

 張手山一発に負けじとゴージャス麗麗麗も高笑いしてDr.ヤニーを挑発する。しかし、その拍子につい煙を吸い込んでしまった。途端に意識が朦朧とし、視界がくらむ。

 

 意識を手放す直前、最後に見たのはこちらを呆れた様子で見つめる張手山一発の顔であった。

 

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