魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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裏返る歩兵

♢神谷沙羅

 

『さあ始まります第十二試合! ここまで複数の魔王塾卒業生が試合を辞退する波乱の展開が続いていますが、今回はようやく試合が実現しました! クラッシュライト選手vs”春夏秋冬”シキオリ=オリー選手の対決です!! これでシード権を含めた全選手が出そろいました!!』

 

 会場内に響くアナウンスが、試合開始の合図を告げる。とうとうクラッシュライトが試合に出る順番になってしまった。作戦通りに事が運べばいいが、既に裏でいろいろと起こっている現状、楽観視することは出来ない。変身できない自分にできることは少ないが、キューティ☆Eと洒落亭流音をステージ上に向かわせるだけでも作戦の成功率は上がるはずだ。

 

「⋯⋯とうとう始まってしまいましたね。すみませんキューティさん。もう少し車椅子のスピード上げてください。ボクの身体のことは気にしないでいいですから」

 

「おっと。諦めな愚妹。どうやらそう簡単にはステージには上がらせてくれないようだぜ?」

 

 キューティ☆Eの膝の上に抱きかかえられる形で相乗りしている沙羅がキューティ☆Eを見上げてそう頼んだタイミングで、先を走っていた洒落亭流音が曲がり角の手前で足を止め、こちらを振り返ってそう言った。この先に何があるのか、普段ならば髪の毛で偵察できるだけに情報が手に入らないことがひどくもどかしい。戦闘態勢を整えたキューティ☆Eの膝の上で、沙羅もまた緊張で身体を強張らせた。

 

「はぁ、はぁ。ああ、よかったです。こっちに走ってきて正解でした。じゃあ、後はよろしくお願いしますね」

 

 曲がり角から息を切らしながら現れたのは、ジュリエッタだ。その言葉の真意を問いただす前に、複数の足音がこちらに近づいてくる気配を感じた。

 

「これは⋯⋯! いったん下がるぞ!! 私のQTEで足止めする!!」

 

 キューティ☆Eが車椅子を逆走させて元来た道を戻り、洒落亭流音がジュリエッタを回収しそれに続く。直後、曲がり角を曲がってこちらに向かってきたのは、これまで闘技場で戦ってきた魔法少女たちだ。魔王塾卒業生とクラッシュライト、ときんちゃんを除いた参加者全員が、どこか虚ろな表情を浮かべながら襲い掛かってくる。

 

「クソ、なんでこいつらがここに居るんだ。いったん全員止まれ! QTEだ!!」

 

 キューティ☆Eが車椅子の手すりのスイッチを押し、小型スピーカーを射出。同時に4つ放たれたスピーカーが壁にくっつき、軽快なミュージックを奏で始める。しかし、魔法少女たちは止まらない。おそらく、あの様子から察するにTV唱からの洗脳を受けているせいで外部からの情報がシャットアウトされてしまっているのだろう。あれでは、キューティ☆EのQTEが通じない。そう判断し、沙羅は自ら車椅子から飛び降りた。

 

「ボクは安全な場所に避難します! なので、気にせず暴れてください!!」

 

 QTEが通用しない以上、あの大人数相手に拘束は困難。しかし、洒落亭流音とキューティ☆Eの2人がいれば、邪魔な自分を気にしなければ負けることは無いはずだ。沙羅の言動の意図を察してか、背後では激しい戦闘音が聞こえ始めた。早く、巻き込まれて怪我をしないよう離れなければ。

 

 車椅子から飛び降りた時打った箇所を擦りながら立ち上がろうとしたその時、ひょいっと身体を担ぎあげられた。驚いて下を向くと、ちょうどこちらを見上げていたジュリエッタのハイライトのない瞳と目が合った。

 

「何が起こったかかは知りませんけれど、その口調から察するにあなた、さららさんですよねぇ? 私も戦えないので逃げますけれど、貴女を運ぶくらいならしてあげます」

 

「あ、ありがとうございます⋯⋯」

 

 正直、何を考えているか全く分からないジュリエッタのことは苦手だ。しかし、この状況で突然裏切るようなことは考えにくいだろう。裏切者がもしいるとすれば誰なのか、既に検討はついている。

 

「⋯⋯ジュリエッタさん。シャドウゲールさんがTV唱に連れ去られた件、貴女はどう考えていますか?」

 

「確認しましたが、会場内の爆弾はすべて取り除かれていました。連れ去られたのはおそらくその後です。そして、そのタイミングでシャドウゲールさんを連れ去ってTV唱のところに運べるのは一人しかいない。⋯⋯ふふっ、わざわざ私に聞かなくても、さららさんならとっくに分かっていますよねぇ?」

 

 くすくすと怪しく微笑むジュリエッタの答えを聞いて、沙羅の中の疑念が確信に変わった。裏切者は、ときんちゃんだ。いつから裏切っていたかは定かではない。しかし、少なくとも今は間違いなくTV唱の指示で動いている。

 

 だとすれば、こちらの作戦を全て聞いているときんちゃんが次に取る行動は想像できる。ときんちゃんが使う魔法、『アウェーだと強くなれるよ』が沙羅の考える最悪の効果を発揮するならば、一刻も早くステージ上に上がって阻止しなければならない。

 

 そんなことを考えていた沙羅だったが、突然ジュリエッタが足を止めたことで、思考が現実へと呼び起こされた。何があったのかと尋ねようとして、顔を上げる途中で視線が止まる。

 

「あは! さっきぶりだね、さらら!!」

 

 そこには、久光織衣の顔の皮を被ったギャシュリーが、満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

 

 

♢シキオリ=オリー

 

「⋯⋯なあ、お前たちどういうつもりだ? なんで全員揃いも揃って降参するんだよ。そんなに私に殺されるのが怖いのか?」

 

 クラッシュライトはそう言ってこちらを睨みつけている。その表情は、怒り半分、困惑半分といった様子だ。まあ、無理もないことだと思う。正直、シキオリ=オリーもこの状況を正しく理解できているわけではない。頭を使うのは苦手だ。だから、作戦のことはあまり気にせずに、シキオリ=オリーはとりあえずこの戦いを楽しもうと決めている。

 

「さあ、なんだろーね☆ でもでも、うちは降参するつもりないからさ。思いっきり楽しんじゃおーよ!!」

 

「そうか。ならさっさと死ね!!」

 

 予備動作なく放たれた光線を、間一髪のところでかわす。続けざまに放たれた光線はスキップでかわしながら、ポケットからメイク道具を取り出し、技を放つ。

 

夏化粧(サマーバケーション)!!」

 

 舞台上をメイクアップして夏の景色に変える。何故だろう。クラッシュライトとは初めて戦うはずなのに、この光景に妙な既視感を感じる。1周目の自分も、もしかしてこの技を使ってクラッシュライトと戦っていたのだろうか。

 

 次々と放たれる光線を、メイクで夏色に染めた舞台から出現させた波に乗って、ノリノリで回避する。気分はぶち上げぷちょハンズアップ。うっかり作戦のことを忘れそうになってしまう。

 

 だが、シキオリ=オリーはいい子なので、約束はちゃんと守る。クラッシュライトとの戦いを楽しみながらも、あらかじめ指定された場所にクラッシュライトを誘導していった。

 

「くそ、ちょこまか逃げるな!! 真面目に戦え!!」

 

「あはは☆ ごめんね~。でもでも、君に殺されるわけにはいかないんだ。君のためにもね☆ ってことで⋯⋯超☆Ⅱ凱、やっちゃって~!!」

 

「おっしゃああああああああ!!!!」

 

 合図と同時に絶叫しながら地面から飛び出してきた超☆Ⅱ凱が、クラッシュライトの足を掴む。予想だにしない位置からの奇襲になすすべなく、クラッシュライトの足は蝶番によって地面に固定された。

 

「ど、どういうことだこれは!! クソ、こうなったら2人まとめて殺してやる!!」

 

「“魔法鏡膜・業(マジックミラー・ゴー)”♡ ふふ、光線を撃てばあなたと私の痴態をお互い曝け出してしまうことになりますわよ?」

 

「貴様は四六時中痴態を晒しているぞ」

 

 まだ自由の効く腕でクラッシュライトが光線を放とうとしたのを咎めたのは、聖マリア0.01がクラッシュライトの周囲に張った鏡の性質を持った膜だ。隣で冷静にツッコミを入れるガムシャも、既にガムによってクラッシュライトの身体の動きを封じていた。

 

「おーっと、これはどういうことだぁ!? ステージ上に現れた魔王塾卒業生たちが、揃ってクラッシュライト選手の動きを封じているぅ!?」

 

 司会が動揺した様子で状況を会場に伝える。何か叫ぼうとしたクラッシュライトの口はガムで封じられ、完全にクラッシュライトは無力化された。その様子を見ながら、シキオリ=オリーは隣に立つ超☆Ⅱ凱に話しかけた。

 

「⋯⋯んで、この後はどうすればいいんだっけ?」

 

「こいつの身柄は安全なところに放置して、全員でTV唱のところにカチコミに行くんじゃないかぁ? とりあえず俺らの仕事はここで終いだろぉ」

 

「はあ、クラッシュライト様の視線、ゾクゾクしますわね。なんだか濡れてきましたわ♡」

 

「⋯⋯臭う」

 

 ひとまず、目的は達成した。あとは、残りのメンバーの様子も確認しながらTV唱を追い詰めていけばよいだろう。戦いの決着をつけられなかったのは残念だが、仕方ない。死ぬのは怖くないが、TV唱の思惑通りに事が進むのは嫌だ。本当の殺し合いはこの後、TV唱と行うことにしよう。

 

 観客席にいるはずのゴージャス麗麗麗と張手山一発の姿を探して視線をきょろきょろと動かす。すると、こちらに向かって手を振るゴージャス麗麗麗の姿が見えた。張手山一発はその隣で何やら煙草を持って自分の足を触っている。

 

 シキオリ=オリーはゴージャス麗麗麗に手を振り返し、その途中でこちらに近づいてくる人影を視界にとらえた。あれは確か、作戦会議に一緒に居たときんちゃんという魔法少女だったはずだ。確か、自分の仕事が終わったらこちらに混ざると言っていたはずだ。思ったよりこちらが早く終わったせいで、助けを借りる必要は無くなった。そのことは伝えておいた方がいいだろう。

 

「こっちの仕事は終わったよ! だから、君はもうこっち手伝わなくてもOKだよ☆」

 

「⋯⋯優勢に傾いた瞬間、裏返る。ピンチはチャンス。我は、逆境を好む者なり」

 

「え、なんて言ったの?」

 

 シキオリ=オリーは、ときんちゃんの声をよく聞くために、一歩ときんちゃんの元へと歩み寄った。その瞬間、ときんちゃんが懐から取り出した金色に輝くバットで、殴りかかってくる。

 

 とっさに腕をクロスして防御の姿勢を取る。しかし、バットが腕に触れた瞬間、金色の光が全身を包み、シキオリ=オリーの変身は解除された。

 

 腕が折れ、血しぶきが舞う。迫りくる金色のバットが視界いっぱいを埋め尽くし、シキオリ=オリーの世界は暗転した。

 

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