魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

42 / 52
お待たせしました。おそらく今年最後の更新です。来年もよろしくお願いします。


響かせろその歌を

♢キューティ☆E

 

 カミーラが飛ばしてきた折り紙の手裏剣を紙一重で回避し、懐に潜り込んで腹に義手を押し当てる。義手の先端の魔法のスタンガンでカミーラが痺れたのを確認し、後方から突き出された槍は車椅子の背を盾にして受け止めた。

 

 視界の端ではキューティ☆Eと同様に襲い掛かってくる大会参加者たちの対処に追われる洒落亭流音が見える。今のところお互いそこまでダメージを負ってはいないが、数が多い。洗脳状態で攻め方が単調なので対処は割と容易だが、これがずっと続けば疲労は溜まっていく。

 

 車椅子をドラフトさせて集団の中へと突っ込む。2,3人を轢き飛ばしたところで、車輪を掴まれて体勢を崩した。倒れたところに、上から覆いかぶさってくる。不味い。そう思った瞬間、目の前で魔法少女の身体が弾けた。

 

「あはっ! おいしそうなイチゴジャムだね!!」

 

 真っ赤な鮮血を飛び散らせながら目の前に現れたのは、久光織衣の顔の皮を被った何かだった。しかし、いくら顔が見えずとも、この声とおぞましい雰囲気を忘れるはずがない。

 

「⋯⋯貴様は、ギャシュリー!? 何故貴様がここに居る!?」

 

「あれ、お姉さんに会ったことあったっけ? あ、車椅子ってことは貴女がさららの仲間ね。ここは私に任せて先に行っちゃって!!」

 

 さららの名前が出たことで、キューティ☆Eははっと我に返った。そういえば、さららがギャシュリーと遭遇したと話していた。もしや、逃げたさららがまたギャシュリーに遭遇したのか? そうだとして、何故ギャシュリーがこちらに味方するような発言をしているのか。何も分からない。ただ、感じるのは強烈な怒りと殺意だ。

 

「おお!? ギャシュリー、お前さんなんで生きてるんだい? あたいはお前さんは死んだもんだと聞いてたんだが」

 

「わぁ、綺麗な服だね! お姉さんもさららに殺すなって言われているからイチゴジャムにはしないであげるね!!」

 

 洒落亭流音とギャシュリーが何か話しているが、キューティ☆Eは自らの感情を落ち着かせるのに必死でそれどころではなかった。本当は、今すぐにでもギャシュリーを殺したい。敬愛する上司と部下の仇を討ってやりたい。しかし、それはおそらくさららが望んでいないことだ。ギャシュリーが何を考えているかは理解できないし、したくもない。だから、キューティ☆Eはさららのことを信じ、自らの殺意を抑え込むことを決めた。

 

「⋯⋯リーダーの指示に従うのは当然のことだ。それがさららの指示だというならば、貴様の言葉でも信じよう。しかし、これだけは覚えておけ。私は、決して貴様を許すことは無い」

 

「初対面なのになんでこんなに嫌われてるんだろ。変なの。⋯⋯ねえお姉さん、お名前、なんて言うの?」

 

 ギャシュリーは絵本の背表紙を手でなぞりながらこちらに問いかけてくる。勿論、キューティ☆Eはその行為の意味は知っている。しかし、既に一度知られている名前だ。教えることにためらいはなかった。

 

「私の名前はキューティ☆Eだ。いつか私が貴様に天誅を下してやる。覚えていろ」

 

 そう言い残し、キューティ☆Eはギャシュリーの横を通り抜け車椅子を爆速で走らせた。無意識に胸に当てた手からは、一定のリズムで刻まれる心臓の音が聞こえてくる。やはり、自分が死ぬのはここではない。

 

 背後からは肉が砕ける湿った音が聞こえてくる。おそらくは、ギャシュリーの言うイチゴジャムが大量に飛び散っているのだろう。この状況下であの大量の魔法少女の相手をするためにギャシュリーの手を借りたさららの策は合理的だ。最悪を避ける最善の手段だ。理解はできるが、その策のせいで関係のない魔法少女が犠牲になってしまった。

 

 ギャシュリーに指示を出したさららも、その言葉を受けてこうして先へと進んでいるキューティ☆Eも、等しく同罪だ。その罪を、罪悪感をさらら一人に背負わせることはしない。キューティ☆Eができることは、彼女たちの犠牲を無駄にしないために、心臓を動かし爆速で走ることだ。

 

 

 

♢ときんちゃん

 

 ときんちゃんがTV唱と出会ったのは、TV唱がまだ魔王塾に所属しているときのことだった。当時のときんちゃんは、とにかく自分を逆境に置きたくて、危ない場所に次々と首を突っ込んでいった。怪しい実験場や紛争地帯、闇カジノ⋯⋯。魔王塾の訓練所もそういった危険な場所の一つとして選択した場所だった。

 

「おやおや、いけませんね。どうやら邪魔な虫が入り込んでしまったみたいです」

 

 そして、侵入して早々にときんちゃんはTV唱に見つかり、戦い、そして敗北した。それなりにいい勝負はしたとは思う。負けそうになるたびにアウェー補正が働いて復活し強くなるときんちゃんに、TV唱もかなり驚いていたのを覚えている。

 

「はぁ、はぁ⋯⋯。な、何とか勝てました。本来ならこのまま我らの魔王に突き出すべき案件ですが⋯⋯。貴女に興味が湧いてきました。何故、このような危険な真似を?」

 

「⋯⋯我の性癖なのだ。ピンチに陥ると興奮する。だからいつもアウェーに身を置いている」

 

 TV唱の問いかけに大真面目に答えたら、何故か爆笑され、そしてこれまた何故か魔王に身柄を突き出されることもなく、それから頻繁にTV唱に依頼を受けて仕事をするようになった。そして今回も、いつもと同じく依頼を受けていた。しかし、いつもとは違う点は、事前にTV唱から洗脳を受けていたことだ。

 

 「何故洗脳が必要なのか」と問いかけると、「洗脳しておかないと勝手に興奮してピンチに巻き込まれにいくから」と答えられ、何も反論することが出来なかった。確かに、今回のようにしっかりと練った計画に自分のような変な奴は入れにくいだろう。それでも奥の手として参加してくれと頼まれたのは正直少しだけ嬉しかった。

 

 そして現在。ときんちゃんはTV唱から受けていた洗脳を解かれ、こうして動き出している。シキオリ=オリーを真っ先に倒したのは、彼女が蘇生可能な魔法を持っているからだ。なるべく一撃で倒しておきたかったが、どうやらうまくいったらしい。

 

 記憶を取り戻した今、ときんちゃんの『アウェーだと強くなれるよ』という魔法は、逆境をひっくり返す力をときんちゃんに与えてくれる。シキオリ=オリーの変身が解けたのは、この力のお陰だ。状態をひっくり返し、変身を解除させた。

 

 シキオリ=オリーが死んだことで、そばに居たクラッシュライト以外の魔法少女が全員動き出す。聖マリアの繰り出す膜に、ガムシャのガムボール、超☆Ⅱ凱の蝶番がときんちゃんに襲い掛かり、それをバットの一振りで吹き飛ばした。

 

 一番近くに立っていたガムシャをその勢いのまま殴ると、極彩色の鎧が音を立ててバラバラに砕け散る。ただ、手ごたえは薄い。本体には当たっていない。追い打ちをかけるべくバットを振りかぶったところで、バットが空中に固められた。超☆Ⅱ凱の魔法の蝶番で、空中にバットを固定されたのだ。

 

(エーミール)標本(スクラップ)!!」

 

 技名を叫びぎらつく視線を向けてくる超☆Ⅱ凱は、完全にこちらを敵として認識している。ああ、とてもいい。この状況、最高に興奮してきた。

 

 ときんちゃんの感情の昂りに比例するように、バットが巨大化し、蝶番の拘束を破壊する。そのままバットを振れば、バットから放たれた光で超☆Ⅱ凱の変身が解除され、パンクな風貌の成人女性が現れる。

 

 その頭目掛け振り下ろしたバットは、直撃する手前で薄い膜に阻まれた。聖マリアの魔法の膜だ。決して破れないお墨付きのこの膜のお陰で超☆Ⅱ凱の頭が破裂することは無かったが、所詮薄い膜。衝撃を完全に殺しきれず、超☆Ⅱ凱は頭から血を流して吹っ飛び、その場に倒れてしまった。

 

 残るは2人。ガムシャが崩れた鎧の下からガムボールを吹き矢のように飛ばしてきたのを避け、バットで押しつぶそうとしたところをまた聖マリアに阻まれる。しかも、バットから出る光を防ぐためか、膜は黒く着色されていて光を通さない。

 

 この2人、特に聖マリアの防御力はかなりのものだ。この場で始末するのは難しい。ならばと、ときんちゃんはこの場で唯一戦闘に参加していないクラッシュライトに視線を向けた。

 

「う、嘘。こ、これって一体どういうこと⋯⋯? な、なんで目の前で人が死んでいるの?」

 

 見るからに動揺しているクラッシュライトの様子から察するに、どうやらTV唱はこのタイミングでクラッシュライトの洗脳を解いたようだ。時間遡行する前は洗脳を解いたことに加え、クラッシュライト自身が魔法少女を殺していたことでショックから精神崩壊を起こし、自爆した。しかし、今のクラッシュライトは動揺こそしているがまだ精神崩壊は起こしていない。ならば、自分の仕事は決まった。

 

 闘技場の床をバットで3回叩く。これは、事前にTV唱に知らされていた合図だ。合図を受け、闘技場の床が開き、クラッシュライトが下へと落ちていく。ときんちゃんは聖マリアとガムシャの攻撃を避けて倒れている超☆Ⅱ凱を回収し、クラッシュライトの後に続いて落ちていく。瀕死の超☆Ⅱ凱を無理やりクラッシュライトに殺させて、一周目の再現をする。それが今ときんちゃんにできる最善の策だ。

 

「起きろ、超☆Ⅱ凱!!」

 

 開いた床が閉じる寸前、遠くで誰かが叫ぶ声が聞こえた。その直後、穴に投げられたのは、小型のスピーカーだ。ロック調の音楽が軽快に奏でられ、超☆Ⅱ凱の名前を何度も呼んでいる。

 

『叫べ! 砕け! 超☆Ⅱ凱!! 世界に轟け騒音少女!! 超! 超! エキサイティン!!』

 

 無駄に大音量で五月蠅い。嫌がらせで投げ込んだならば、成功しているが、特に意味のない行為だ。ときんちゃんはバットを振ってスピーカーを破壊しようとした。

 

「⋯⋯オレのテーマソングだぁ。ありがとなキューティ☆E。おかげさまで、ばっちり目が覚めたぜぇ!!」

 

 それを止めたのは、気絶していたはずの超☆Ⅱ凱だ。いつの間にか意識を取り戻し、しかも変身までしている。想定外の状況。しかし、問題はない。このような逆境でこそ、ときんちゃんは強いのだ。

 

 ピンチを察知して巨大化したバットが、超☆Ⅱ凱の頭を捉えたのと、超☆Ⅱ凱がときんちゃんの身体に触れたのは、ほぼ同時だった。超☆Ⅱ凱の頭がはじけ飛び、ときんちゃんの全身に蝶番が一瞬で取り付けられる。しまったと思った時には遅かった。

 

 首の無くなった超☆Ⅱ凱が、ときんちゃんに中指を立てる。取り付けられた蝶番が解除され、全身がバラバラに切り離される。それを縫い合わせてくれる青い髪の毛のお守りは、もう無い。

 

 2人分の死体が、血をまき散らしながら闘技場の下で爆ぜる。その血を浴びて、クラッシュライトの顔が真っ青に染まる。

 

「いやあああああああああ!!?」

 

 悲鳴が、闘技場の全体に響き渡った。そして、その悲鳴をきっかけに、2度目の地獄が、始まろうとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。