♢TV唱
「ちっ、しぶとい奴らですね」
観客ごと巻き込んで闘技場の中で閉じ込め潰そうとしたが、張手山一発が予想以上の底力を見せたせいで魔法の結界は破られ、想定以上の人数が外に出てしまった。
しかし、観客は2000人弱。そのすべてがTV唱の魔法によって変身や魔法を使うことを封じられた一般人たちだ。外に出たとしても遥か上空。あれら全てを助ける手段はない。
「やはりニュースはショッキングな方が視聴率が取れますからねぇ。さぁ、私のために派手に死んでください」
今、外に飛び出た観客たちの様子は闘技場に外付けされたカメラで撮影し、魔法の国のほぼ全土で同時上映している。TV唱の魔法は、大勢に視聴され、注目される方がより力を発揮できる。この世紀の大事件、否が応でも世間の注目度は高まる。
当然、リスクもある。注目されればその分警戒もされるし、最悪現身が直接出てくる事態になるかもしれない。だから先ほどまでは人事部のオフィスの一部のみの放送にとどめていた。しかし、既に奥の手を発動しようとしている現状、もう後には引けない。それに、メディアであること無いこと自由に報道してしまえば、TV唱は無敵だ。現身にだって勝てる自信はあった。
『さあ、食虫植物のようにその口を閉ざした闘技場から脱出した観客たちですが、このままでは全員落下して死んでしまうぞ~? さあ、魔王塾卒業生たちは果たして観客たちを守ることはできるのか~?』
唯一潰れないよう保護していた観客席で、司会のパミーが先ほどまでの試合と同様に状況を分かりやすく伝える。所詮過去に魔王パムが作り出した分身をモデルに作ったホムンクルス。死んでも心は痛まないが、場を盛り上げるために生かしておいて正解だった。
『あーっと!? あれはいったいなんだ~!?』
そのパミーがわざとらしく驚いたリアクションを取った。いったい何事かとモニターを見てみると、空中に飛び出した観客が全員、突然発生した小さなつむじ風に運ばれているではないか。
天気予報では一日中晴れだというのに局所的に曇った空。そして、風でレインコートをたなびかせながら宙に浮く魔法少女の姿をカメラがアップで捉え、TV唱は誰がこの状況を作り出したかを理解した。
「レイニー・ブルー!? 監査部門の魔法少女が何故ここに!? ええい、1カメから2カメに切り替えろ!! 奴に注目が集まってしまうじゃないか!!」
怒りに任せ机をたたくが、もうTV唱の傍には指示を受けて動いてくれる魔法少女はいない。しかたなく自分でモニターを操作してカメラを切り替えると、乱暴に椅子に座りなおした。
「くそ、どいつもこいつも私のエンターテインメントの邪魔をする!! ⋯⋯まあいいさ。本番はここからですよ」
TV唱は魔法の端末でシャドウゲールに合図を送る。現在シャドウゲールがいる場所は、闘技場の頂点に近い位置にある特等席。そこに座るシャドウゲールがレバーを引けば、この闘技場は真の姿に変身する。
「さあ、いよいよお披露目です!! 私の最高傑作、”
♢神谷沙羅
何とか無事、観客全員を救うことができた。レンダがスケジュール帳に書きこんだことで、ちょうど結界が破れ全員が外に出たタイミングで現場に駆け付けたレイニー・ブルーが、魔法でつむじ風を起こし受け止めてくれたのだ。
「何故か無性にここに来なければいけない気がしてやって来たはいいですけれど、これってどういう状況ですか!? 誰か簡潔に教えてください!!」
「てぃ、TV唱が暴走してほぼ全員人質にされていたところを先ほど救出したところです! とりあえずレイニーさんは魔法少女以外を全員安全な場所に運んであげてください!!」
「分かりました! とりあえず人命救助しろってことですね!! 少し雨で濡れますが、後で乾かすので問題なしです。さあ、行きます!!」
さすが監査部門のエリートだけあって話が早い。沙羅の指示を受けてすぐに行動してくれた。観客2000人余りを繊細に風を操り運ぶさまは実に見事だ。魔法を取り戻したら髪で同じことが出来ないか試してみたい。
ちなみに、沙羅は今キューティ☆Eにしがみついて空に留まっている。キューティ☆Eの車椅子は短時間なら飛行できるよう改造されているので、それで安全に着地する見込みだ。他の面々も、聖マリア0.01は空中に膜を張って空を歩き、ガムシャはガムを巨大な風船代わりにしてぷかぷか浮いている。ゴージャス麗麗麗は高級そうなドローンを複数台出して飛行し、洒落亭流音は布団を駄洒落で吹っ飛ばしてその上に乗っている。
そこまで見て、ジュリエッタとギャシュリーの姿が見えないことに気が付いた。慌てて辺りを見渡したところで、ジュリエッタは何食わぬ顔で観客たちに紛れてつむじ風で運ばれているのを見つけた。ほっと一息ついたのも束の間、ギャシュリーが観客たちの肩を足場に跳ねながら、レイニー・ブルーへと近づいていくのを見つけ、慌てて叫んだ。
「ギャシュリー!! その人を殺してはダメです!!」
沙羅の声に反応したレイニー・ブルーが笑顔を浮かべながら近づいてくるギャシュリーを見て、目を丸くする。あれでは反応は間に合わない。
しかし、ギャシュリーレイニー・ブルーに襲い掛かることは無く、それまで足場にしていた観客と同様に肩を借り、さらに上へと大きく飛び跳ねた。
つられて視線は上へと動き、そこで沙羅は今まさに観客たちを叩き落とそうとしている、巨大な腕を視界に収めた。
その腕は、先ほど沙羅たちが抜け出してきたばかりの闘技場から生えていた。2本の腕と大きな足、そして巨大なモニターに映し出された、TV唱の顔が、球場の闘技場からにょきっと飛び出ている。いつの間にか、闘技場が巨大なロボットに変形していた。
「あはははは!! 何これ!! めちゃくちゃおっきい!! 私こんなの初めて見たぁ!!」
誰よりも早くロボットの襲撃に気づいたギャシュリーは、目を輝かせながら迎撃に向かっていた。それを沙羅がレイニー・ブルーを襲うつもりと早とちりしてしまったらしい。ギャシュリーの蹴りとロボットの振り下ろす腕の衝撃は相殺し、観客は無事守られた。
「だ、誰か分かりませんが助かりました。ありがとうございます」
「お姉さん何言ってるの? 私はこのおっきい変なのと遊びたかっただけだよ?」
レイニーとギャシュリーの会話を聞く限り、どうやら観客を助けたつもりではなかったようだが、結果としてギャシュリーの行動で観客が助かったのは事実だ。⋯⋯やはり、敵に回すと恐ろしいが、あのけた外れの力は頼もしい。
「ぎゃー!? なんですのあれ!? 闘技場がクソでかロボットになってますわ~!?」
「⋯⋯驚愕。我の理解を超えている」
「ロボットにも穴はあるのでしょうか?」
沙羅と同様に、ロボットに変形した闘技場を前にして魔王塾卒業生の面々も思い思いの反応を口にする。その声が聞こえていたのか、特大のモニターに表示されたTV唱の顔が、高笑いをしながら大音量で叫んだ
『どうだぁ!! これがお前たちを殺すために用意した私の奥の手!! 圧倒的な質量と破壊力、そして私の魔法で、お前たちを全員地獄に送ってやるぅ!!』
TV唱と連動するように腰に手を当てて胸を逸らすロボットの全長は、軽く50メートルは超えているだろうか。しかも、先ほどの観客たちを叩き落とそうとした動きから察するに、身体能力は魔法少女並の可能性が高い。さらに、その上TV唱の魔法も厄介だ。TV唱が奥の手と称するだけに、とてつもない破壊兵器だ。
「⋯⋯沙羅、この状況、お前ならばどう対処する?」
しかし、このような状況でも、キューティ☆EはTV唱をまっすぐ見据えたままそう尋ねてくる。こんな絶望的な状況でも、キューティ☆Eは諦めていない。沙羅が最善の策を思いつくことを信じ、戦おうとしている。
それは、他の面々も同様だ。先ほど巨大ロボに蹴りを入れたギャシュリーはいつの間にか沙羅の隣に降りてにこにことこちらを見つめている。
ゴージャス麗麗麗は、震えながらもTV唱を睨みつけているし、ガムシャはぷくーっとガムを口で膨らませながら鎧を再装着し戦闘態勢に入っている。聖マリア0.01は太ももの裏に張手山一発の名を刻み、痛みで震えながら全裸になっていた。そのついでに膜を空中に張って全員が空中で戦える即席の足場を作っている。
戦力は揃っている。大丈夫だ。十分戦える。そして、勝利の鍵を握るのは⋯⋯洒落亭流音だ。
「⋯⋯義姉さん。よろしくお願いします」
「3分稼ぎな、愚妹ども。そうすりゃ、あんなつまらんテレビ番組、あたいが全部塗り替えてやるよ」
そう笑って洒落亭流音はぱぁんと音を立てて扇子を開く。1周目の試合の再現のために、命がけの前座3分が幕を開けた。