♢ゴージャス麗麗麗
目の前に立ち塞がるのは山と見間違うほど大きな巨大ロボット。いくら何でも勝ち目が無さ過ぎて本当なら即逃げ出してしまいたいところだ。
だが、そんなゴージャス麗麗麗の弱気な心を打ち砕くように、張手山一発の最期の言葉が頭に響く。あの思いを背負い生き残ったゴージャス麗麗麗は、戦わなければいけない。そうでなければ、死んでいった同門たちが報われない。
「あはは!! 時間稼いだら和服のお姉さんが面白いもの聞かせてくれるんだね! 私全力で遊んじゃうよ!!」
久光織衣の顔の皮を被った、ギャシュリーと呼ばれていた魔法少女が爆速で駆け、ロボットに攻撃を仕掛ける。しかし、ロボットはその巨体に似合わぬスピードで攻撃を回避すると、カウンターの一撃を繰り出してギャシュリーを吹き飛ばした。
「こちらは何とかTV唱の気を引きます!! 皆さんも足止め作業よろしくお願いしますね!!」
吹き飛ばされたギャシュリーを車椅子でキューティ☆Eが回収し、その背中にしがみつく沙羅がこちらに呼び掛ける。それを受けて真っ先に動いたのは、聖マリア0.01だった。
「皆さん、ここはひとつ、合体しませんか?」
いきなり何を言い出すのだこの変態は。反射的に罵倒しそうになったが、マリアの表情はいたって真剣そのものだ。そして、提案を受けたガムシャは納得した表情でうなずいている。
「⋯⋯成程。それは名案だ。目には目を、歯には歯をということだな」
「別名男の浪漫とも言います。まあ、わたくしたちは魔法少女なので、心の陰茎をペンライトのように振って代用しましょう」
「我は元々オスだぞ?」
「え、噂に聞く男の魔法少女というものですか。その話ちょっと詳しく⋯⋯」
「ちょっと!? 二人で盛り上がらないでわたくしにも理解できるようにおっしゃってくださいませ!?」
勝手に二人で何やら通じ合っているが、こちらは何一つ理解できていない。慌てて会話に割り込むと、二人の視線が同時にこちらを向いた。
「麗麗麗様はいつも通りにお願いしますね」
「貴様は我らに合わせ、魔法を使ってくれるだけでいい」
「ちょ、だからもう少し詳しく⋯⋯」
再度問い詰めようとしたところで、三人の間に割り込むように、巨体ロボが拳を振り下ろしてきた。転がりながら寸前のところで回避するも、足場にしていたマリアの魔法の膜が破壊される。
『”
本来マリアの魔法の膜は誰にも破られない。しかし、TV唱の魔法、『報道の自由を振りかざすよ』の効果で報道された出来事は真実に変わる。司会のパミーの声はいつの間にかTV唱へと変わり、魔法の力を上乗せしたパンチが足場を破壊した。
「わたくしの膜を破るなんて、そんなに生で触れあいたいならば存分で拳で語り合いましょう♡ イキますよ、麗麗麗様、ガムシャ様。
「応!!」
「いや、だからもう少し説明をしてくださいませ~!?」
1人だけ何も理解できていないゴージャス麗麗麗を置いて、マリアとガムシャは空中で大技の用意を始める。
まず、ガムシャが空中で極彩色の鎧を体内から吐き出し再装填。その内側でガムを膨らませ、顔なしの巨大な甲冑を作り出した。
そして、その背中にマリアが黒色に染め上げた魔法の膜で羽根を取り付ける。そして、余った膜で顔のある位置に懐かしい魔王パムの顔を作り出した。
「⋯⋯成程、ようやく理解しましたわよ。あなた達のやりたいことが!!」
ゴージャス麗麗麗は、マリアとガムシャが協力して造りだした魔王パムの姿を模した巨大な甲冑の上に飛び移り、勢いよく両手を触れた。ゴージャス麗麗麗が触った無機物は、『なんでも高価なものに変えちゃうよ』で、ゴージャス麗麗麗のイメージした高価なものに変わる。イメージするのは、あの巨大ロボットに対抗できる兵器。ゴージャス麗麗麗の意思で動く、巨大な魔王パムの姿のロボット。
「「「
三人で声を合わせ、完成したロボットの名前を叫ぶ。技名を叫ぶのは魔王塾卒業生なら当然だ。全長約20mと、TV唱の操る巨大ロボの半分ほどのサイズだが、それでも十分に抵抗できるくらいの大きさはある。
「何これ!! すっごーい!!」
そして、いつの間にか魔王ロボの肩にギャシュリーが乗っている。顔の部分に即席で作った操縦席に座るゴージャス麗麗麗は、間近でギャシュリーが見えるが、顔の皮は久光織衣なのでキラキラと瞳を輝かせる様子は何とも違和感のある姿だ。
ちなみに、マリアは背中の羽根の位置に、ガムシャは胴体の中心部にそれぞれポジショニングし、魔法を使って魔王ロボを動かしている。キューティ☆Eと沙羅、洒落亭流音は足場が崩れたことで地面に落下したようだが、途中で浮遊している姿を見たので問題ないだろう。
ここまでで約30秒。ここから2分半、死ぬ気で時間を稼ぐ。
『何ですかそのロボットは!! そんな魔王のパチモンで、私の巨大ロボに勝てると本気で思っているんですか!?』
さっそく、TV唱が反応して両手を振りかぶって襲ってくる。しかし、魔王ロボはその魔法の膜で作られた羽根を羽ばたかせて飛翔、攻撃を回避して巨大ロボの頭上を取る。
「
ガムシャが技名を叫ぶのに合わせ腕の接合部のガムを膨らませ破裂。その勢いで射出された拳が巨大ロボの肩に直撃する。しかし、質量が違いすぎて大したダメージになっていない。巨大ロボは埃を払うような動作で腕を叩き落とそうとする。
「させませんわぁぁぁ!!!」
頭部の操縦席から飛んで行った腕に意識を移し、魔法を発動。ロボットの腕を観覧車に変化させて回転、巨大ロボの腕を弾く。慣れない巨大な物体への魔法の行使に頭が割れそうだ。鼻血を流しながら、ゴージャス麗麗麗は必死に魔法を行使してさらなる攻勢に移る。
「
残った魔王ロボの腕をドリルに変形。そのまま前に突き出して巨大ロボの装甲を削る。キュイインと甲高い音を立てて少しだけ巨大ロボの胸部を削ったところで、腕の耐久が限界を迎えて崩れ落ちた。
「
わずかに削ったその穴をさらに広げんと、翼を変形させたマリアが膜を手の形に変え、追撃を行う。しかしそれも長くは続かず、巨大ロボが身体を回転させたことで膜も弾け飛んだ。
『いい加減⋯⋯うっとおしい!!』
ぐわっと両腕を広げた巨大ロボが狙うのは、ゴージャス麗麗麗が座る頭部の搭乗席だ。不味い。既に魔王ロボの両腕は失われた。防ぐ手段はない。死が、眼前に迫りくる。
「ねえ、こんなカッコいいロボット壊すのやめてよ。私、貴女のこと、嫌い!!」
頭部を挟んで潰そうとした巨大ロボの両腕を、肩に乗っていたギャシュリーが爆速で2回蹴りを放ち押し飛ばす。凄い力だ。お陰で助かった。
そして、ギャシュリーが巨大ロボの攻撃を弾き飛ばした隙に、マリアが膜を操って鎧の破片を回収。ガムシャがそれをガムにくっつけることで片腕だけ再生した。
「
その再生した片腕で振るうのは、マリアが硬化させた膜で作った巨大な剣だ。全力で振りぬいた一撃は、巨大ロボの片腕を切り落とした。
『その時不思議なことが起こった! 戦場に一筋の閃光が走り、邪魔な魔法少女の肉体を貫いたのだ!!』
ようやく有効な一撃が入った。そう喜んだのも束の間、TV唱のアナウンスが響き渡り、一瞬視界が閃光で包まれる。直後、取り戻した視界に映ったのは、右腕を焼き飛ばされて鮮血を散らして魔王ロボの肩から落ちるギャシュリーだった。
そして、猛烈な痛みがゴージャス麗麗麗を襲う。視線を落とすと、胸のあたりに穴が空き、黒く焼け焦げていた。口から吐き出される大量の血が、これが致命傷であることを告げてくる。どうやら、ギャシュリーと同時に光線で狙撃されたようだ。巨大ロボのちょうど胸のあたりから伸ばされた発射口が、赤く熱を帯びているのが見える。
「⋯⋯やってやろうじゃないですの」
自分は死ぬ。間違いなく死ぬ。それは避けられない。ここにDr.ヤニーが居れば助かったかもしれないが、彼女は張手山一発と一緒に死んだ。
しかし、死ぬべきは今ではない。まだ、約束の3分にはなっていない。もう少し時間を稼がなければ。ここで約束を果たせず死んでしまっては、あの世で張手山一発にどつかれてしまう。
操縦席から這い出たゴージャス麗麗麗は、魔王ロボの装甲の一部を剥ぎ取って魔法を発動。自分用のパワードスーツに変形させて空を飛んだ。
巨大ロボは自分目掛け飛んできたゴージャス麗麗麗を叩き落とそうと両腕を伸ばしてくる。切り落とした腕もいつの間にかくっついて元通りになっていた。だが、その攻撃を右腕は羽根の形をした魔法の膜が、左腕は巨大なガムの風船が防ぐ。
心の中で仲間に感謝を述べながら、ゴージャス麗麗麗は巨大ロボの胸部へと到着した。そして、まだ熱を帯びている光線の発射口に触れる。抵抗は強いが、ギリギリ発射口だけは魔法が効いた。発射口を高級ワインボトルに変えたところで、それを力任せに引っ張る。
一連の攻撃で僅かに穴が空いていた胸部は、発射口を取り除くことでその深部をようやく見ることが出来た。そこに居たのは、無数のチューブを刺され、拘束されているクラッシュライトだった。クラッシュライトがゴージャス麗麗麗に気づき、手を伸ばす。ゴージャス麗麗麗は、僅かに残った力でその手を握り返す。
「助けて⋯⋯!!」
「ええ、必ず、助けますわ」
反射的にそう答えていた。何故だろう。初めて会話したはずなのに、似たようなやり取りをした気がする。偶然だろうか。
ぴかっと何かが光ったのが見えて視線を上に向けると、新たに生えてきた発射口がゴージャス麗麗麗の顔面に狙いを定めていた。間髪入れずに放たれた光線が、ゴージャス麗麗麗の顔面を焼き払う。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
クラッシュライトの悲鳴を聞きながら、ゴージャス麗麗麗は落下していく。わずかに残された意識で、最後に瓦礫を電球に変えた。このメッセージを、誰か受け取ってくれ。どうか、クラッシュライトを助けてくれ。
そして、TV唱を自分の代わりに⋯⋯どうかぶっ飛ばしてくださいまし。
♢神谷沙羅
キューティ☆Eの背中に必死でしがみつきながら、沙羅は戦場をずっと見ていた。だからこそ、ゴージャス麗麗麗が最期に残したメッセージに、唯一気が付くことが出来た。
「⋯⋯電球?」
巨大ロボの胸のあたりから吹き飛ばされたゴージャス麗麗麗の手に電球が現れ、一瞬光ったと思いきやすぐ握りつぶされた。そして、ゴージャス麗麗麗は変身が解けた姿になって落下していく。
ゴージャス麗麗麗の魔法の効果が切れたことでただのガムと膜で出来た張りぼてと化した魔王ロボを、巨大ロボが無慈悲に破壊する。それと共に、マリアとガムシャも凄い勢いで吹き飛ばされていった。
「まずいぞ! 洒落亭流音、あとどれくらい時間は必要だ!?」
「もうちょいだ。あと10秒!!」
10秒は短いようで、魔法少女にとってはとてつもなく長い。残されたわずかな時間を稼ぐべく、キューティ☆Eは車椅子のスピードをさらに上げる。
そんな中で、沙羅は脳を高速で動かしてゴージャス麗麗麗の行動の意味を考えていた。何故ゴージャス麗麗麗は最期にあんなことをしたのか。無意味とは考えにくい。
おそらく、ゴージャス麗麗麗は自分たちに何かを伝えるために瓦礫を電球に変えたのだ。そして、その行動は十中八九ゴージャス麗麗麗があの巨大ロボの胸部に向かったことと関係している。
では、あそこには何があったと考えるべきか。沙羅はずっと疑問に思っていたのだ。いくらTV唱の魔法に凄まじい力があるとしても、あの巨体を動かすエネルギーはいったいどこから産み出しているのかと。もし、ゴージャス麗麗麗が最期に見たのが、あの巨大ロボを動かすエネルギー源だったとするならば、あの行動が意味する答えはひとつだ。
「⋯⋯あそこに、動力源になっているクラッシュライトがいる!!」
その答えにたどり着いた沙羅だったが、思考に夢中になっていたのがよくなかった。ただでさえスピードが上がっている車椅子に、魔法少女に変身していない常人の力でしがみつくのに限界が来てしまったのだ。
気づいた時には沙羅は空中に投げ出されていた。この勢いのまま地面に激突したら死ぬ。思わず目を瞑って衝撃に備える沙羅だったが、いつまでたっても衝撃は襲ってこなかった。
「⋯⋯まったく、何やってんだいこの愚妹は」
「あ、ありがとう、義姉さ⋯⋯」
地面に激突する寸前で沙羅の身体を受け止めた洒落亭流音。沙羅がお礼を言おうとした目の前で、光線が2つ、洒落亭流音の喉と心臓を貫いたのだった。