ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
もしよろしければ是非次回作もお付き合いください。
♢ジュリエッタ
「ブルジョワーヌ様、ただいま戻りました」
TV唱を地下へと突き落とした後、ジュリエッタは自分とブルジョワーヌⅢ世との愛の巣に速攻で帰宅していた。当然、TV唱を刺した際にコスチュームに付いた血は綺麗に洗い流してある。いつものように声色を変えてブルジョワーヌにただいまを告げ、リビングに入ろうとした直前で違和感に気が付いた。ブルジョワーヌ以外の魔法少女の匂いがする。
TV唱は確実に始末した。それでは、ここに居るのは誰だ。魔法を使い、ブルジョワーヌと感覚を共有する。すると、ブルジョワーヌの目の前に魔法少女が2人立っているのが見えた。
1人は、黒色の包帯で全身を覆い、羽根付きの帽子をかぶった魔法少女。もう一人は、頭頂部に大量のまち針を毛髪がわりに刺し、瞳も針で縫い付けたおぞましい見た目の魔法少女だ。
先ほどブルジョワーヌに声をかけたことでこちらが玄関から入ってきたことには気づいているはずだが、侵入者の存在をジュリエッタが気づいていることは悟られていないはず。ならば、不意打ちで2人を襲い、ブルジョワーヌを運んで即窓から逃げる。これが最善だろう。
ジュリエッタは何気ない雰囲気を装いながら、包丁を構えた状態で、リビングへと続くドアを開けた。それと同時に包丁を侵入者目掛け突き出しながら駆ける。
「きゃーーーーー!!!?」
リビングに響いた悲鳴は、ブルジョワーヌのものだ。ブルジョワーヌは、ジュリエッタを見て悲鳴をあげている。ジュリエッタはこの時ようやく、ブルジョワーヌと感覚を共有しても本来何も見えないことに気が付いた。何故ならば、ブルジョワーヌの両目は昔、ジュリエッタが潰したから。しかし、潰したはずのブルジョワーヌの瞳は、今確かに見開かれ、恐怖を帯びた瞳でジュリエッタを見ていた。
「ぶ、ブルジョワーヌ様⋯⋯」
動揺で、普段は完璧にできる声帯模写が中途半端に崩れる。その声を聞いてすべてを理解したブルジョワーヌの瞳に、怒りが混じった。
「貴女は、私の両目を刺した魔法少女! 確か名前は⋯⋯ジュリエッタ!! 今までずっと、わたくしのことを騙していたのね!! 本物のモルジャーナはどこへやったの!!」
ジュリエッタがずっと偽りの姿としてブルジョワーヌの前で演じてきた、本当のブルジョワーヌの従者であるモルジャーナ。彼女はもうこの世には存在しない。ジュリエッタが殺したわけではないが、何も答えないジュリエッタを見たブルジョワーヌは、どうやらジュリエッタがモルジャーナを殺したと思ったのか、その瞳の怒りの色がさらに濃くなった。
「この人殺し!! 返しなさい、本物のモルジャーナを返しなさいよ!!」
「まあまあ、落ち着いてくださいブルジョワーヌ嬢。長年騙されていた貴女の心中、察するに余りあります。しかし、あまり時間はないのです。早くリーダーの元に帰らなければ、私たちが怒られてしまいます故」
頭髪に針を刺した魔法少女がブルジョワーヌを宥めたことで、侵入者の存在を再認識したジュリエッタだったが、最早侵入者などどうでもよかった。もう一度、ブルジョワーヌの両目を潰して、愛を取り戻さなければ。
反射的に振り上げた包丁を、黒い包帯で身を包んだ魔法少女が叩き落とした。そして、流れるような動作で鳩尾に拳を突き入れられ、ジュリエッタは壁に激突する。
「トラちゃん、あんまり乱暴はよしなさい。死体の処理が面倒くさいでしょう? それよりも、早くブルジョワーヌ嬢をリーダーの元にお連れしましょう」
「──了解の
トラちゃんと呼ばれた魔法少女は頷くと、包帯を解いてブルジョワーヌ含めた3人の魔法少女をジュリエッタの目の前で包み込む。痛みを抑え必死に手を伸ばしたジュリエッタの目の前で、
♢プフレ
「⋯⋯まだ、見つからないのかい?」
「すいません、瓦礫はすべて撤去し、依頼通りに捜索対象も広げたのですが、何も見つからず⋯⋯」
「いや、大丈夫だ。君が探していないのならば、ここにシャドウゲールはいないのだろう」
TV唱が起こした前代未聞の事件から数日が経った。瓦礫の撤去作業を中心になって行っているレイニー・ブルーの手を借りてシャドウゲールの捜索を行っているが、いまだに見つかっていない。
⋯⋯最悪の可能性も考えて、人間の遺体にまで捜索対象を広げたが、護の遺体は見つからなかった。そのことにほっと安心すると同時に、とてつもない不安が胸をよぎる。
シャドウゲールは、TV唱の洗脳下にあった。その状態では、ギャシュリーに助けられたクラッシュライトのように、自力での脱出は困難だろう。では、いったい誰がシャドウゲールを助け出したのか。その目的はいったい何なのか。
シャドウゲールの魔法は強力だ。今回のTV唱のように、利用しようと企む悪人はたくさんいる。いまだなんの連絡もない魔法の端末を握りしめ、プフレは何としてでも護を取り戻すと決意を固めた。
♢シャドウゲール
シャドウゲールの目の前に立つのは、自分を崩れ始めた巨大ロボの操縦席から助け出してくれた魔法少女。真っ白な髪に、真っ白なコスチューム。名前は確か、ナコだったはずだ。しかし、以前話した時とどことなく雰囲気が違う。それに、その隣に立つ1つの身体に2つの頭を持つ魔法少女の見た目が何とも不気味だ。
「あのー、助けてくれてありがとうございます。ところで、ここって一体どこなんです? たぶん、お嬢が探していると思うので帰りたいんですけれど」
「慌てないでください、シャドウゲールさん。貴女と同じく、私たちの協力者がもう一人ここに連れてこられる予定です。詳しい話はその時にしましょう」
口調は丁寧だが、シャドウゲールの疑問には一切答えてくれなかった。しかし、文句を言おうにも、まだ名前も分からないあの双頭の魔法少女の視線が怖い。
「「私たちイニミニマニ・モニカ!! よろしくネ!!」」
「あ、どうも⋯⋯」
シャドウゲールの視線に気づいたのか、モニカは声を揃えて笑顔で自己紹介してくれたが、やはり怖いものは怖いのでそっけない返事になってしまった。
それから数時間が経過した。その間にようやくモニカの見た目にも慣れ、暇なのでアルプス一万尺をしたりして時間を潰していたが、突然視界の隅の方で空間が歪み、そこから魔法少女が3人姿を現した。
「遅いですよ。黄昏の
「──特大の
「いやあ、悪人に騙されていた可憐なお嬢様を救おうとしたら時間がかかってしまいまして。罰は針千本一気飲みで勘弁してください」
RB・フィッシュと呼ばれた魔法少女は頭に無数に針を刺しており、モニカと同様一見してまともではないことが分かる魔法少女だった。他2人はまだまともな見た目をしているが、ここまで不気味な魔法少女が一か所に揃うと、流石に不安になってくる。自分は何のためにここに連れてこられたのだろうか。
「さて、予定よりは少し遅れてしまいましたが、全員揃ったところでこれからのことを簡単に話しましょう。まずは改めて自己紹介から。私の名前はジェーン・ホワイト。この世界に変革をもたらす者です」
いきなりとんでもないことを言いだした。やっぱりというか当然というべきか、どうやらヤバい魔法少女の集団に拉致されてしまったみたいだ。逃げ出そうにも確実に捕まるし、魔法の端末は手元にない。シャドウゲールにはおとなしく話を聞く以外の選択肢はなかった。
「かつての私も今の私と同様の志を抱き、変革を試みましたが、3賢人によって止められ、そして次元の狭間に封印されました。しかし、こうして蘇った今、私には止まる理由はない。再びこの世界に変革をもたらすべく動く日が来たのです!!」
ジェーンが拳を高々と上げると、拍手が沸き起こる。まるでタチの悪いカルト教団のようだ。唯一まともに見えたブルジョワな見た目をした魔法少女も、すべてを憎んでいるような表情を浮かべながら、やけくそになったように拍手を送っていた。その中で一人だけ拍手をしなければ悪目立ちしてしまうと思ったので、とりあえず拍手をしておく。
「私の目指す世界、私の掲げる変革とは何か。それは、“皆が平等な世界”です。しかし、その実現は非常に難しい。同じ魔法少女でも実力差は存在し、そして魔法少女と普通の人間とでは、さらに大きな差が存在します。そこで⋯⋯手始めに、私は、全世界の人間を魔法少女に変える。私の魔法、『魔法の本を創って与えるよ』ならば、それが可能です!!」
ジェーンが両手を広げると、無数の本が宙に浮かんで辺りに舞い始める。そのうちの数冊がシャドウゲールたちの前で止まり、そして胸の中へとすうっと入り込んでいった。その瞬間、シャドウゲールは自分の中で新たな力が芽生えたのを感じ取った。
これは、魔法だ。既に魔法を使えるシャドウゲールが、新たな魔法の力を手に入れた。つまり、魔法の力を持たない人間に同様のことを行えば、誰でも魔法を使う、魔法少女になれる。もしそうなれば、世界はいったいどうなってしまうのか。考えるだけでも恐ろしい。
一人恐怖するシャドウゲールをよそに、周りの魔法少女たちは歓喜で震えている。そんな魔法少女たちを一瞥し、ジェーンは話を締めくくった。
「それでは、この世界を変えるための計画を始めましょう。人類を皆魔法少女へと育てる計画、“魔法少女育成計画”を!!」
~~魔法少女育成計画LastPageへと続く~~