魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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地獄の控室

♢キューティー☆E

 

 今向かっている控室に居るメンバー。事前に知らされたその面子は、対面するにはなかなか勇気がいる相手だったが、命のやり取りをするわけではないので、その点は気が楽だ。それに、ナコやさららを行かせるよりは自分が行った方が確実にトラブルが少なくて済む。

 

「おいお前さららの手下だろ? さらら出せよ」

 

 そんなことを、控室前にちょうど戻ってきていた久光織衣に絡まれながら、キューティー☆Eは考えていた。やはり、自分が行って正解だったらしい。

 

「すまない。さららに会わせるわけにはいかない。お前に会わせるとトラブルが起こる未来しか見えないからな。それと、私は別にさららの手下ではない」

 

「はっ! あの野郎の下についてるなら手下も同然だろうが! ここでお前をボコっちまえば、さららを呼び出すことができるかなぁ!?」

 

「⋯⋯やめておけ。せっかく勝ち進んだんだ。ここで途中退場したくはないだろう?」

 

 闘志をむき出しに睨みつけてくる久光織衣に対し、キューティー☆Eは冷静にそう返す。先ほどの試合を見た限りでは、この身体でも負ける要素はない。魔法の相性的には、さららより有利に勝負を進められるはずだ。

 

 車いすの中に潜ませた魔法のアイテムに手を置き、いつでも戦える準備をしておく。にらみ合うこと数秒。久光織衣は、はっと鼻で笑ってキューティー☆Eに背を向けた。

 

「そういう安い挑発には乗らないぜ? こっちも、弱者をいたぶる趣味はねぇんだ。そんな身体で何ができる。強がりはやめて、その手に持った茶菓子をさっさと運びな。部屋のドアは開けといてやるからさ」

 

 あからさまに馬鹿にした態度でキューティー☆Eをおちょくると、中指を立てながら久光織衣は部屋の中に入っていく。そして、その直後、顔を真っ青にして部屋から飛び出してきた。

 

「おい!? なんだこの部屋ぁ!! 面子おかしいだろうが!! こんな場所で待機なんてできるわけねぇだろうがぁ!! 部屋変えろやおらぁぁ!!!!」

 

「ははは、おかしなことを言う。私は君が相手にする価値もない弱者なのだろう? そんな私に君の控室をどうこうする権利があるわけないじゃないか」

 

「うっせぇ! とにかく私はこんな部屋いられねぇから!!」

 

 久光織衣ははそう言うと、レールを敷いて逃げ出そうとする。しかし、選手に控室以外の場所をうろちょろされると困るので、キューティー☆Eは強硬手段に出ることにした。

 

「悪いが、ダメだ。レッツ、QTE!」

 

 キューティー☆Eは、発動の合図と同時に魔法のアイテムをいじり、事前録音させた音声を流す。その音声は、茶田千代に頼んで唱えてもらった高速QTE。それを車いすを媒介にして4種のパターンで同時に流す。左右の手と足を対象としたQTEの指示に対し、それぞれの部位が指示通りの動きをしない場合、ペナルティとして強制的に動きを止める。『動きを指示して強制させちゃうよ』というキューティー☆Eの魔法に対しては、圧倒的なスピードは意味をなさない。

 

「あ⋯⋯? がっ!?」

 

 現に、久光織衣は脳内に流れる4つの矢印の意味すら分からずに、身動きが取れずフリーズしてしまっている。そんな久光織衣をひょいっと右手の義手を伸ばして掴むと、そのまま肩に担いで控室の中に入っていった。

 

「うわぁ⋯⋯」

 

 部屋の中の光景を見たキューティー☆Eは、思わずそんな声を漏らしてしまった。それほどに、部屋の中の光景はなかなかカオスなものであり、久光織衣がすぐ逃げだしたのも納得のものだった。

 

「むしゃむしゃ。むしゃむしゃ。⋯⋯もっと食わせろ」

 

 正面のテーブルに乗せられた、大量の料理。それを無我夢中でむさぼり食うのは、巨大な甲冑だ。極彩色の鎧兜はインパクト抜群で、座っている姿を見てもおそらく2mは優に超えているであろう大柄な体格は、とても魔法少女とは思えない。

 

 このインパクト抜群の魔法少女は、ムシャラ・ガムシャ。二つ名は”貪食(どんしょく)大具足(おおぐそく)”。その二つ名の通り非常に大食漢なことで有名で、今回の大会開催にあたり、ガムシャの食費が経費の半分を持っていっていることはスタッフ間で有名な話だ。

 

「ふん! ふん!!」

 

 そして、ガムシャの座るテーブルの反対側。壁に向かって四股を踏み続ける魔法少女がいる。そのコスチュームは、まるでお姫様が着るようなフリルがふんだんにあしらわれた真っ白なドレス。頭と腰に巻かれた巨大なリボンがアクセントとなり、やや小柄な体格と相まってかなり可愛らしい。⋯⋯ドレスの上から真っ赤なまわしを締めていることを除けばの話だが。

 

 彼女の名は、張手山一発(はりてやまいっぱつ)。”浪漫砲”という二つ名を持つ、魔王パムを超える火力を出せる存在としてその名を知らしめた魔法少女である。

 

「んっ♡ あっ♡ あ~~~~ん♡」

 

 ⋯⋯そろそろ、目を背けるのはやめた方がいいだろう。前者二人もなかなかにインパクトがある魔法少女だったが、正直、部屋に入った瞬間から目に飛び込んできたこの魔法少女に比べれば、まだマシだ。

 

 部屋の中央、入り口のドアの真正面で、天井からぶら下げられたソレ。全身をチェーンで縛り、目隠しをして口に黒いボールのようなものを咥えている。その魔法少女は、コスチュームを一切纏っていなかった。大事なところだけチェーンで隠し、全裸で縛られ悶絶する魔法少女。そんな存在がいるにも関わらず、我関せずとばかりに自分の世界に入っている二人。この世の地獄ともいえるカオスな状況が顕現していた。

 

 “世紀末大変態”。これほどピッタリな二つ名はないだろう。今大会参加者の中で一番の問題児がこの目の前の魔法少女、聖マリア0.01であることは疑いようのない事実であった。

 

 キューティー☆Eは、ふぅーっと息を吐き、精神を落ち着かせる。いまだ腕の中では久光織衣がQTEの仕様を理解できずに、動こうとしては強制的に止められているせいで、痙攣し続けている。まあ、理解したとて昔よりパワーアップした同時4か所QTEを突破するのは困難な話であろうが。まったく、自分の手足を無くしたせいで逆に手足をより強く認識できるようになったのは、皮肉なことだ。

 

「⋯⋯あー、すまない。差し入れの茶菓子を持ってきた。試合前の腹ごしらえとしてくれ。ところで、もう一人この控室に居るはずだが、誰か知らないか?」

 

 返事は返ってこない。どうやら、各々自分の世界に入り込んでいて、キューティー☆Eの声が聞こえていないようだ。⋯⋯仕方がない。一人ひとり近づいて話を聞くことにする。

 

「ムシャラ・ガムシャ。差し入れの茶菓子だ。⋯⋯まあ、お前は食事中だから必要はないと思うが、一応渡しておく。あと、この部屋にいるはずのおっく・ろっくを知らないか?」

 

「菓子は、別腹。よこせ」

 

 目の前に立って話しかけると、一瞬兜の顔を持ち上げてこちらを見たかと思えば、奪い取るようにして茶菓子を掴み、器用に鎧の隙間に差し込んで食べだした。そのまま他の参加者の歌詞も奪い取りそうな勢いだったので、慌てて避難する。こいつからおっく・ろっくのことを聞くのはやめておこう。

 

 キューティー☆Eは、中央の聖マリア0.01を無視して、壁に向かい張手を始めた張手山一発の元へと車いすを進めた。

 

「張手山一発。少しその手を止めて話を聞いてくれ」

 

「⋯⋯ん? あなた、誰ですの? あら、茶菓子の差し入れですの。それなら、ありがたく頂きますの」

 

「ああ、それもあるのだが。おっく・ろっくのことを聞きたくてな。彼女も、この控室にいるはずだろう? 今どこにいるか知らないか?」

 

「さあ? あたくし、他人のことに興味はありませんの。そこのぶら下がってる変態さんに聞いたらどうですの? では、あたくしはイメトレの続きをしますので、失礼しますの」

 

 張手山一発は、それで話は終わりとばかりに、再び壁に対し張手を始めてしまった。そのストイックな姿勢は個人的には好ましいが、この状況で一番まともそうなのが彼女なだけに、少し困ったことになった。

 

 キューティー☆Eは、はぁ⋯⋯とため息をつき、部屋の中央へと向かう。そして、そこでぶら下がっている聖マリア0.01(へんたい)に、渋々声をかけた。

 

「⋯⋯マリア。お前、おっく・ろっくがどこにいるか知っているか?」

 

「⋯⋯あら。その子宮に響く声は、キューティー☆E様ですわね。ごきげんよう。おっく・ろっく様でしたら、おそらく試合開始ぴったりで会場入りしますから、問題ありませんわ。あの方は、無駄な時間を過ごすのが嫌いですので。前戯の時間こそ、お互いの絆を高めるのに最適だというのに、もったいないですわよね」

 

 予想外にまともな返事が返ってきて、驚いた。しかも、目隠しをしているというのに、キューティー☆Eの名前を言い当ててみせた。⋯⋯しかし、口にボールを咥えているわりには、やけに通った声だ。どういう仕組みだろうか。

 

「あ、ああ。情報感謝する。ところで、貴殿のそれは、どうやって喋っているんだ?」

 

「上の口がふさがっていても、下の口は開いていますので。こういう状況でも喋れるように、特訓したんです」

 

「⋯⋯普通に喋ってくれないか?」

 

「無理ですわ♡」

 

 ⋯⋯もう、こいつと話すのはやめておこう。会話をするだけで疲れる。

 

 キューティー☆Eは、抱えていた久光織衣をぶら下がっているマリアの真下に投げ入れる。そして、おっく・ろっくがまだ到着していないことを伝えるために、車いすを動かし、部屋を後にする。気持ち、部屋に入る時よりも早めの回転で車輪を回す。

 

「おい、ちょっと待て!! お前、魔法解いてから行け!! こいつの真下とか嫌だ!!」

 

「あら、真下に織衣様がいるのですね。大事なところを見られていると思うと、興奮して濡れてきそうです♡」

 

「おい、肉くれ。オリエ」

 

「オリエッティ。ちょっとあたくしの四股踏みのフォーム見てくれませんの? ずれがないかどうか確認したいんですの」

 

「うわあああああ!! こいつらと一緒は嫌だぁぁぁ!! 助けてくれぇぇぇぇ!!!」

 

 キューティー☆Eは、久光織衣の叫び声を聞きながら、そっとドアを閉じる。さららのことであまりいい感情を抱いていなかった相手ではあったが、なんだか同情したくなり、手を合わせてその場を去ったのであった。

 




マリアさんのせいで年齢制限かからないか不安です
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