魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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光に包まれて

♢クラッシュライト

 

 ずっと、憧れ続けた光があった。焦がれ続けた光があった。

 

 家の掟に縛られ、死んだように生きていた日々の中で、彼女の存在は、私にとってたった一つの光だった。でも、彼女もまた、私と同じように縛られた生活に苦しんでいたのだろう。

 

 ある日、彼女は家を飛び出した。私は、それを見て一切迷うことなくその後に続いた。まるで、光に群がる羽虫のように。

 

 彼女は、私のことを認識していなかった。でも、それは当然のことだ。光に照らされた部屋の中から、暗闇を覗くことはできない。だが、暗闇からは光は眩いほどによく見える。

 

 私は、常に彼女を追い求め続けた。彼女の認識していない場所から、着かず離れず。毎日のように。

 

 そんな日々の中で私に訪れた一番の幸運は、彼女と同じ特別な存在、『魔法少女』になれたことだった。

 

 フリーランスの魔法少女として活動する彼女と、一度だけ共に仕事をしたことがある。その時はまさに天にも昇る心地だったのだが、生憎私と彼女の魔法は相性が悪く。それ以来一緒に仕事をする機会は訪れなかった。しかし、その時間近で見た彼女の魔法は、私の心に大きな光を灯した。その光は、私自身を憧れの光へと近づけてくれた。

 

 このまま、彼女の足跡をたどっていけば、きっといつか私も憧れの光になれる。そんな、淡い希望を抱いたのがいけなかったのだろうか。

 

 私の光⋯⋯エーコ・EX・ランタンは、跡形もなく砕け散った。私の光を壊したのは、魔王パム。絶対に、許さない。いつか、この手で殺してやる。たった一つの光を失った私の心は、深い闇に飲み込まれた。

 

魔王パム。最強の魔法少女と呼ばれる存在。フリーランスの魔法少女でその名を知らない魔法少女はモグリだ。当然、私もその名前は知っていた。

 

 知っていたからこそ、私は出遅れた。万全を期して復讐を果たそうとした時に、私の耳に飛び込んできたのは信じられないニュース。魔王パムが、殺された。私以外の奴に。

 

 ⋯⋯許せない。許せない許せない許せない許せない!! 私からたった一つの光を奪っただけではなく、私以外の奴に殺されるとは、なんて下種で非道な奴なのだ。魔王パムが死んだという知らせを聞いてもなお、私の心の闇は大きくなり、憎悪の炎は激しく燃え上がった。

 

 そんな時だった。あの、上辺だけのマスゴミ野郎が私に声をかけてきたのは。

 

『あなたのその憎悪、もっと大きく燃え上がらせてみませんか? 私と、手を組みましょう』

 

 ノイズ交じりの薄気味悪い声。こいつが、あの魔王の治める魔王塾出身者であるということは知っている。それだけで、私にとっては憎むべき怨敵。敵意を込めて睨みつけるも、マスゴミ野郎⋯⋯TV唱は、飄々としたイラつく態度を崩さない。

 

『なぁに、簡単な話です。私は、人事部門をぶっ壊したい。あなたは、我らの師、魔王パムへの恨みを晴らしたい。お互いの望みを叶えるため、利用しあえばいいだけのことです』

 

 その言葉を聞き、私はTV唱の提案を飲むことに決めた。奴の壊したい組織が、私が魔王パムの次に憎んでいる魔法少女が長となっている組織だったことが決め手だった。かつて、光を閉じ込め、その輝きを失わせようとしていた人小路(ひとこうじ)家。そのお嬢様が現在の人事部門の長であることは、知っている。私もかつては、人小路家に仕える家系に育ったから。

 

 私の大切な光。それを壊した魔王パム。あいつの大事にしていたものは、すべて壊してやる。そして、そのついでに人小路。興味すらなくて名前も憶えていないが、恨みだけは抱いている。

 

 魔法少女クラッシュライトとして、魔王塾出身者を殺し、そしてかつて人小路家に仕えていた崎守(さきもり)光衛(みつえ)として、人事部門をぶっ壊す。この武闘大会は、そのための舞台。TV唱によって整えられた、クラッシュライトのための復讐劇。

 

 すべてが終われば、TV唱も殺す。全てを壊した先に何が待っているかなど、考えない。もはや、クラッシュライトの光は失われたのだから。

 

 

♢ゴージャス麗麗麗

 

『第三試合、いま決着~!! 勝者、フーフーリン選手!!』

 

「え~っと⋯⋯『キュイイン』。フーフーリン選手は、『風鈴の音で癒しを届けるよ』という魔法を使い、相手の戦意を削いだ上で風に揺られる柳の木の枝のような動きでの格闘術を魅せてくれました。魔法の使い方、身体の動かし方共に練度が高く、危なげない勝利だったと言えるでしょう」

 

『ちゃ、茶田千代さん!? なんか急に饒舌になりましたね。どうしたんです?』

 

「愛の力です」

 

 誰かに台本を渡されたかのように急に饒舌になった解説によって、第三試合は締めくくられた。控室では試合結果に対し他の面子がわいわいと騒いでいるが、ゴージャス麗麗麗はその中には加わらない。何故なら、次の第四試合は自分の出番だからだ。

 

「それでは、行ってまいりますわ」

 

「気張りぃよぉれれれ嬢。私たちぁここから応援しているからねぇ」

 

 超☆Ⅱ凱からの温かい言葉につい頬が緩む。まるでお婆ちゃんのような雰囲気のこの魔法少女のことを、ゴージャス麗麗麗はとても好ましく思っていた。でも、照れくさいので直接伝えたことはない。

 

 超☆Ⅱ凱だけではない。ゴージャス麗麗麗は、魔王塾出身者のことは皆同様に好ましく思っている。その度合いこそ違えど、同じ師の元集まった仲間たちだ。だからこそ、戦えば負けたくないし、勝った姿を皆に見せたいと強く思う。

 

「おっしゃあ! ですわ!!」

 

 気合の声と共に部屋を飛び出して言ったゴージャス麗麗麗を見守る三人の視線は同様に温かい。ただ、洒落亭流音だけはその瞳にややからかいを含んでいた。

 

「⋯⋯さあ、あんたらはどうみる、この試合。また賭けといこうじゃないかい」

 

「仲間の試合でも賭けるのかい。流音嬢は趣味が悪いねぇ。ま、私ぁ当然れれれ嬢に賭けるがね」

 

「うちも当然れれれっち! てかてか、対戦相手ってそもそも誰だっけ?」

 

「対戦相手はクラッシュライト。フリーランスの魔法少女らしいね。目立った実績はなし。実力は完全未知数⋯⋯ただ、なんか臭い。あたいの勘が、こいつは何かヤバいって感じ取ったよ。あたいはこいつに賭けるね」

 

「おや、随分と薄情だねぇ。れれれ嬢も、強いよぉ?」

 

 同じ魔王塾の卒業生にも関わらず、対戦相手のよく知らない魔法少女が勝つと予想した洒落亭流音に対し、超☆Ⅱ凱がやや不満げな表情をみせる。しかし、洒落亭流音の考えは揺らぐことはなかった。

 

「確かに、ゴージャス屋は強い。でも、あいつは真面目過ぎるのさ。魔法少女ってぇ生き物は、どこかぶっ飛んでるやつの方が強い。⋯⋯あんたらも、それは身に染みて知ってるだろう?」

 

 超☆Ⅱ凱も、シキオリ=オリーも、洒落亭流音のその言葉に反論することは無かった。先ほどよりもやや真剣な表情で、試合会場の様子が映し出されたテレビ画面を見つめる。洒落亭流音もまた、そんな二人と同様に、目を細めて試合開始を待つのであった。

 

 

『さあいよいよ始まります第四試合!! 舞台左手から入場するのは、“麗しき貴婦人”ゴージャス麗麗麗~!! 優雅にスカートを翻し、見事なカーテシーを披露しての登場だ~!!!』

 

「うわ~、凄く綺麗な人ですね。なんか⋯⋯すごく、すごく凄いです」

 

『右手から登場! 今大会の文字通りダークホース、クラッシュライト!! 闇を纏っての入場です!!』

 

「うわ、すごく黒い! 凄い真っ黒ですね~!」

 

 ゴージャス麗麗麗の対面から入場してくるのは、解説の語彙力がなくなるのもわかるほどに、真っ黒としか言いようのない魔法少女であった。魔法の影響なのか、全身が黒く、顔もよく見えない。この会場は天井が吹き抜けで太陽の光は隠されることなく照らしてくるというのに、その光をすべて吞み込むがごとき闇がそこにはあった。

 

 その異様な様子に若干気圧されるゴージャス麗麗麗であったが、すぐに気持ちを切り替えて、真正面から向き合う。そして、優雅な姿勢を保ったまま、右手を差し出し、握手を求めた。

 

「貴女がどこのだれであろうと、わたくしは全力で迎え撃ちますわ。血沸き肉躍る、よき戦いにいたしましょう」

 

 ゴージャス麗麗麗の差し出した手を見て、クラッシュライトもまた右手を前に出す。しかしその手は、握手の形ではない。拳銃を模した右手、その人差し指の先が、ゴージャス麗麗麗の心臓へ向けられる。

 

「⋯⋯え?」

 

 一瞬、光が走った。直後、胸に鋭い痛みを感じ、視線を落とすと、コスチュームの胸元から、じわりと赤い染みが滲みだしている。攻撃された。そのことに気づき顔をあげるゴージャス麗麗麗の前で、クラッシュライトは両手で輪っかを作り、その内側に光を集めていた。

 

「死ね、魔王の弟子!!」

 

 回避、間に合うか。いや、無理だ。光が、視界いっぱいに広がる。まぶしい、熱い。助けて。

 

「いやっ⋯⋯」

 

 断末魔の悲鳴を上げる暇もなく、ゴージャス麗麗麗の顔面が光線で吹き飛ばされる。顔を失った身体が、血を噴き出しながら音を立てて前に倒れる。その音が聞こえた直後、会場内は一瞬にして悲鳴と混乱に包まれるのであった。

 

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