魔法少女育成計画shadow fight   作:赤葉忍

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おっく・ろっくは時めいて

♢TV唱

 

 最高だ。観客席の悲鳴を聞きながら、TV唱は一人興奮に酔いしれていた。

 

 初手の対戦相手は最初から決めていた。魔王塾出身者である程度知名度が高い奴。ゴージャス麗麗麗はその条件に当てはまっていた。しかし、どう殺すかに関しては完全にクラッシュライトにゆだねていた。まさか、こんな素晴らしい形でやってのけるとは期待以上だった。

 

「えっ。どういうこと? ほ、ホントに死んでるの⋯⋯?」

 

 隣に座る茶田千代は動揺した様子を見せている。何とも隙だらけ。戦闘の経験はないのだろう。もう少し注意深く観察していれば、TV唱がクラッシュライトがゴージャス麗麗麗を殺した瞬間に笑っていたのにも気づけたはずだろうに。

 

 手元のボタンを押すと、茶田千代の座る椅子の座面から鎖が伸び、茶田千代を拘束する。驚く茶田千代の顔面に拳を叩き込んでやれば、茶田千代は鼻血を出して気を失った。

 

 TV唱は、手についた鼻血をハンカチでふき取ると、司会席から舞台の上へと飛び降りる。まだ舞台に立っていたクラッシュライトが殺意を込めた目で睨みつけてくるが、無視して装置を起動、カメラとマイクのスイッチを入れ、巨大テレビに自分の姿を映し出した。

 

『会場の皆さん! どうか落ち着いてください!! これは事故などではありません!! 始めから予定されていたショー、それがようやく開幕しただけの話なのです!!』

 

 大音量で流されるTV唱の声に、会場の混乱はいったん落ち着きをみせたものの、どよめきはやまない。まるで、今目の前で起こった殺人が予定されていた事柄のようなTV唱の口ぶりに、勘のいい人物はここから逃げ出すルートを探し始めてもいる。

 

 しかし、そんな観客にさらなる絶望を与えるのが、司会であるTV唱の務め。まだ事態を把握していない馬鹿にも伝わるよう分かりやすく、TV唱は大げさな身振りを混ぜてトークを続ける。

 

『魔王の後継者を決める武闘大会というのは、あくまで今大会の表の姿。この大会の真の姿は、ここに立つクラッシュライト選手の復讐劇!! そして、この私、TV唱の野望を叶えるための舞台でもあるのです!!』

 

 TV唱は、ビシッと画面に向けて指を突き付ける。この映像が映し出されているのは、同時に2か所。一つは、この会場内。そしてもう一つは、人事部門の受付に設置されたテレビ。先ほどまでは受付の方にはあえて流していなかったが、ここから先はすべて放送する。この映像を見ているであろうあのいけ好かない魔法少女を、トップの座から引きずり下ろすために。

 

『この会場にいる皆さんは、全員人質です。この大会が終わるまで、決して会場の外に出ることはできません。もし、無理やり出ようとすれば⋯⋯その瞬間、皆さんの身体は爆発します』

 

 TV唱は、口でバァンと擬音を出しながら、手を開いて爆破のジェスチャーをする。勿論、この言葉は嘘ではない。この会場内に居るすべての観客は、TV唱の声と姿が映し出されたテレビの映像を見てしまっている。その時点で、TV唱の魔法の効果の対象だ。たとえ虚構でも、メディアに載せれば真実へと変わる。それが、TV唱の『報道の自由を振りかざすよ』という魔法の恐ろしさだ。

 

『あなた達がここから出るための条件は、2つあります。一つ目は、ここに立つクラッシュライト選手が、武闘大会を勝ち上がり、優勝すること!! 他の誰かが優勝した場合、その時点で皆さんは永遠にここから出ることはできません。しかし!! その場合でも、もう一つ脱出条件はあります。そのもう一つの条件は⋯⋯人事部門の現トップ。プフレの解任。そして、その後釜にこの私。TV唱を任命すること。どちらがより賢い選択か⋯⋯あなたなら、分かりますよね?』

 

 最後の言葉だけは、おそらくこの映像を見ているであろうプフレへ向けたメッセージ。自分は、ちゃんとエンターテイナーに徹することができているだろうか。余計な感情は漏れていないだろうか。⋯⋯大丈夫。このテレビに映し出された顔は、いつだって笑みという名の虚構で飾られている。誰にも本心を悟られることはない。

 

『まあ皆さん、安心してください。ここに居るクラッシュライト選手の目的は、あくまで我ら魔王塾出身者への復讐。皆さんを傷つけることはおそらくありませんし、私にもそのつもりはありません。皆さんは、クラッシュライト選手が勝つことを祈りつつ、試合を楽しめばよいのです!!』

 

「⋯⋯おい、いい加減その五月蠅い口を閉じろ。壊したくなる」

 

『おや、クラッシュライト選手からクレームが来てしまいました! これは失礼!! ではでは、私は司会席に戻ります。第五試合はもうすぐ始まりますので、楽しみにしていてくださいね~!!』

 

 TV唱は、手を振って締めの挨拶をすると、再び映像を舞台上を映し出すカメラに切り替え、司会席に戻る。そして、いまだ気絶している茶田千代に水をぶっかけて無理やり起こした。

 

「うわっ!? なんかびちょびちょなんだけれど!? てか鼻血出てるぅ~!?」

 

『ポンコツ解説さん。あなたにはまだまだその席に座ってもらいますよ』

 

「ひぃっ!? だ、誰か助けて~!!」

 

 茶田千代は助けを求め涙目になるが、当然助けなど来ない。外部への連絡手段は潰しているし、選手にも逃げ出さないための保険はかけている。

 

 一瞬、TV唱の視界にきらりと何かが光って見えた。それは、茶田千代が薬指にはめていた指輪。こんなダメな奴も結婚しているんだなぁとかそんなことを一瞬考え、すぐ思考の隅に追いやる。隣に座っているこいつは脅威になりようがない。邪魔をしてくるとすれば、人事部門の奴らか。それともさららやキューティー☆Eか。どちらにせよ、TV唱の用意したこの舞台は壊させない。

 

 第五試合には、おっく・ろっくが出るように調整した。時間を厳守するあの魔法少女なら、このような状況でも遅れることなく試合に出るはずだ。TV唱はまだどよめきのやまない観客席を眺めながら、次の試合開始を指折り数えて待ちわびるのであった。

 

 

♢おっく・ろっく

 

 時は金なり。まさに、至高の格言だ。おっく・ろっくにとっては時間というモノは他の何よりも優先されるモノであった。

 

 人間に与えられる才能・財産・運勢は平等ではない。しかし、時間だけは平等に与えられている。その平等に与えられた時間を、どう過ごすか。それが、人間が生きる上で最も大切なことだ。

 

 おっく・ろっくのこの価値観を決定づけたのは、とある映画を見たことがきっかけだった。吹き替え版はアイドルが声を当てたせいで国内での評価はボロクソだったが、内容は素晴らしいの一言に尽きた。

 

 時間が通貨であると同時に、寿命でもある世界。おっく・ろっくが理想とする世界はまさにそれだ。しかし、それが現実では実現不可能ということは十分承知しているので、せめておっく・ろっくだけでも、時間を何よりも上に置いた生活をしようと心がけている。

 

 だからこそ、おっく・ろっくはいつも待ち合わせには時間ぴったりに到着する。5分前行動など愚の骨頂だ。5分間あれば魔法少女ならば鍛錬の一つ二つ、簡単にこなせる。魔法少女にとって5秒すら永遠に等しい時間なのだ。一分一秒たりとも、無駄にはできない。

 

 今も、試合時間ぴったりに会場に着くよう調整し、ここまで来た。しかし⋯⋯何故か、受付の魔法少女が震えていて、なかなか会場に入れてくれない。これでは、時間に遅れてしまう。

 

「⋯⋯おい、早く入れてくれ。参加証はもう見せただろう。私は”時の管理人”おっく・ろっく。魔王塾卒業生で今大会の参加者だ」

 

「は、はい。分かりました。い、今、参加者証明用のブレスレットを⋯⋯」

 

 受付の魔法少女が、震える手でブレスレットをおっく・ろっくに渡そうとする。しかし、おっく・ろっくがそれを受け取る寸前、何かを決意した様子で、そのブレスレットをポケットにしまい込んだ。

 

「や、やっぱりこんなことよくない! いくら脅されているからって、私はこれ以上誰かが死ぬ手助けはしたくない!!」

 

「おい、何を言って⋯⋯」

 

 困惑するおっく・ろっくの耳に、カチッと何かが起動する音が聞こえた。その音が聞こえた瞬間、おっく・ろっくは無理やり目の前の魔法少女のポケットからブレスレットを奪い取る。同時に、おっく・ろっくの脳裏には、このブレスレットが爆発するまでの時間がはっきりと分かった。この間、およそ0.01秒。『正確に時間を計れるよ』という魔法を持つおっく・ろっくは、ブレスレットに触れた瞬間、ここから0.00001秒後にブレスレットが起爆するということを理解し、それに対処すべく、おっく・ろっくは時を止めた。

 

「⋯⋯あれ? 渡さなかったら爆発するって警告されていたのに、何もない?」

 

「このブレスレットは参加者の証明のためのものだろう? 貰っていくぞ。まったく、こんなことに大事な腕時計の一つを止めることになるとは⋯⋯」

 

 おっく・ろっくは、ため息をつきながらも先を急ぐ。その腕には大量の腕時計が取り付けられ、それ以外にもコスチュームの至るところに時計がぶら下げられている。そのすべてが同じ時を刻んでいたが、ブレスレットの絵柄が時計板に描画された腕時計の秒針だけは、少し前の時間でピタリと止まっていた。

 

 無駄な時間を過ごしてしまった。会場にぴったり到着するために、やや速足で道を進む。ルートは事前に知らされているから問題ない。控室に寄り道することもなく、入場ゲートへと向かうと、おそらくスタッフの魔法少女数名が、どたばたした様子で準備を進めていた。

 

『さあ、第五試合開始の時間になりました!! 左手から入場するのは、先ほど時間ぴったりに到着したと連絡がありました!! “時の管理人”おっく・ろっく!! 時間厳守での入場だぁ~~!!』

 

 さすがTV唱。事前予告していた時間ピッタリの入場アナウンスだ。おっく・ろっくは、等間隔で歩みを進め、ちょうどぴったり3秒で舞台中央へと到着する。

 

『それに対するは、アルデンテ・フォルテ選手!! ⋯⋯おっと? まだ舞台袖に到着していないようです。いったい何があったのでしょうか?』

 

 なんということだ。対戦相手が時間通りに来ていないらしい。この時点でおっく・ろっくの対戦相手に対する好感度は最低値だ。必ずボコボコに叩きのめしてやる。そう決意したおっく・ろっくの耳に、ド派手な爆発音が聞こえてきた。

 

『なんということでしょう!! 今入った情報によりますと、この会場からの脱出を試み、爆死してしまったようです!! だから、逃げられないって言ったじゃないですかぁ。これに懲りたら、他の参加者の皆さんはおとなしく舞台に上がりましょうね。では、この試合はおっく・ろっく選手の不戦勝ということにいたしましょう』

 

「おい! そうすると私がここに時間通りに来た意味がなくなるじゃないか!! 貴様、私に無駄な時間を過ごさせ⋯⋯」

 

 ふざけたことを口にしたTV唱に文句を言おうと、司会席の方を向いたおっく・ろっくの時間が、ピタリと止まる。その目は、TV唱の隣で泣きべそをかく魔法少女にくぎ付けになっていた。

 

 普段なら規則正しく一定の時を刻む心臓が、ドキンドキンと激しく脈打つ。涙でぐしょぐしょの顔から、その柔らかそうな胸元から、若草色の巻き毛から、目が離せない。

 

 このような現象に、おっく・ろっくは心当たりがあった。時間を愛し、時間を何よりも大切にする自分には永遠に無縁だと思っていたこの感情。だがしかし、間違いなく、今、おっく・ろっくは。

 

 TV唱の隣に座る魔法少女、お茶たちょ茶田千代に、一目惚れしてしまっていた。

 

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